喚ばれた剣聖ー66
地下にところ狭しと閉じ込められた彼等から得られた情報は、結局のところゼロに近い。
情報の漏洩は徹底的に避けているのか捕まえた全員に口封じの呪いが刻まれていた。
なので今はエルフの魔法使い達が解呪に回っている。
・・・ふう、解決できるのはまだ先になるだろうな。
そんななか俺は解呪されるまで暇だしスイとハイルの様子でも見ようとフニューと呼ばれた医者の家へと向かっていた。
ちなみに暇そうでハイルに会いたそうなシルルカも連れてきたよ。
チラリと後ろを向くとガッチガチに緊張したシルルカがガタガタ震えている。
「・・・なんで震えてんの?」
「ひ、久しぶりに会う幼馴染にどんな顔して会えばいいかわからない、、、。」
・・・いや普通に会って話すればよくね?
まぁ昔仲良かった友達と久しぶりにあった時にどうやって話しかければいいか分からないのはたしかに分かる。
でも下手に考えすぎると逆に坩堝にハマるよ?他人事だし何でもいいけどさ。
そんな感じで話しながら歩いていると、教えられたツリーハウスの前に黄昏たように風に当たるミリアがいた。彼女は目を細めて物憂げにため息をついている。
「・・・ピザ。」
「コーラ、、、ってどうして今疑われたのですか!?」
「いやお前って悩むことあるの?」
「とんでもなく失礼!」
普段から食べ物のことしか考えてないと思ってます。
どうせ今も今日の夕飯のこととか考えてたんじゃないの?
「んで? 何を考えてたんだ?」
「あ、いえ、私達って実質軟禁状態ですよね? 美味しいご飯とか貰えるのかなって、、、。」
・・・当たったぁ。
こいつあんなに真面目な表情してたのにそんなどうでもいいこと考えてたの? 一瞬でも悩みがあるのかと心配した俺の気持ちを返してほしい。
あきれたようにため息をついた後、少し肩肘をついて問いかける。
「・・・ふたりの様子はどうだ?」
「んー、特に何も問題ないですよ。2人共少し休んだら目を覚ましましたし普通に会話もできます。でもスイは負けた事がショックだったみたいで落ち込んでますね。」
ミリアは本当に気にした様子もなくそう言って伸びをした。少し前までは心配だったけど2人が思ったよりも元気そうで安心したんだろう。今は眠そうにあくびを漏らしてるし、、、気抜きすぎじゃね?
「まぁいいや、俺は中はいるけど行かないの?」
「もう少し風に当たってから行きますよ〜。」
そう言ってミリアはフリフリと手を振ってぼんやりと日が沈み始めた景色を眺める。
何処かいつもと様子が違う気がするけどサトリでもないので深く詮索すること無く俺は家屋へお邪魔させてもらった。
ーーー
ーーガラガラ
「おぃ〜す、げん、、、き、、、?」
扉を開けて中を見た瞬間に、ドヨンとした空気が伝わる。発生源である場所に視線を向けると、暗い影を落としながら布団に突っ伏しているスイがいた。
なんか声をかけるのもためらわれてチラリと横に視線を滑らせるとハイルが小刻みに震えながら「うおおぉぉぉぉ、、、。」と苦しそうに声を漏らしている。
「死にそうだな。」
「い、いい言い方悪、、、い、いいいい!なんか、体を動かす度にビキッと来る、、、!」
そんなハイルの様子を軽く見て俺は目を見開いた。
「・・・お前、ルミアから何か教わったか?」
「え? な、何も教わってない、、、と思う、、、けど、、、! あ、で、でも何かこ、心構え、み、みたいな事は、、、い、言われた、、、かも!?」
言われて俺は顎に手を当てる。
ハイルの筋肉痛のような痛みは筋肉に普段よりも過剰な使い方をしたことによる反動だろう。
前から早く動くことに慣れているハイルがあそこまでダメージを負うなんて剣閃一式かそれに近しいことでもしないと難しいと思うし先ず間違いないと思う。
「・・・てかそんなに辛いならミリアに治してもらえよ。」
「う、うん、ぼ、ぼくもそう思っ、、、たんだけど。ミリアさんに『これは体の正常な反応なので無理に治すのもあまり良くないです。・・・というか、無茶しすぎなので反省してください。』って、、、言われた。」
・・・あぁ、だからミリア少し様子がおかしかったのかな? どことなくいつもの軽い雰囲気に少しトゲがあったもんね。
まぁそこまでハイルを気にしても仕方ないしそっとしておこうと思ったが、忘れ物があったことに気づき振り返って後ろに隠れていたシルルカの肩に手を置く。
「あ、そうハイルこれお見舞い。」
「物みたいに渡さないでほしいわ! も、もう少し待って、まだ心の準備が!」
いや心の準備も何ももう目の前だろうが。
むしろこのままずっと俺の背中に張り付いてる気か?
鬱陶しくて仕方ないわ。
「・・・あ、し、シルルカ!? ひ、久しぶり、、、っっ! ご、ごめんね、こんな有様で、、、。」
「ーー! だ、大丈夫よ!・・・って私じゃなくて貴方のほうが大丈夫!? ほら、あ、あまり動かないで、、、。」
背後から前に回されてあたふたしていたが笑いながらも苦しそうなハイルを見てすぐに心配していた。
この様子なら心配ないかなと俺はスイに向き直って横にある椅子に座った。
「・・・どうだ調子は?」
「・・・最悪、ハイルにも迷惑掛けたし律兎の期待にも応えられなかった。」
悔しそうに顔を歪めながらスイに俺は軽く目を見開いた。
「充分だよ、2人共ちゃんと足止めしてくれたしな。」
ぶっちゃけ胸騒ぎがしてルミアを呼んでいたから問題がなかったとも言えるけどそれは言う必要はない。ま、スイはよくやってくれたとは思う。でも結果、スイは敗れハイルやルミアに助けられた。その事実は彼女に深いダメージを与えた筈だ。
「・・・。」
暗い顔を浮かべていたスイに俺は下を見ながら少し笑った。
「ま、確かに結果は惨敗だな。一つの油断で戦況がひっくり返ることは俺もよく知ってる。・・・でも生きてここにいるなら次までに対策しろよ? 同じ結果は許さないからな。」
笑いながらそう言うとスイは大きく目を見開いてこちらに顔を向ける。
「・・・まだ任せてくれるの?」
「当たり前だ、むしろ尖りまくりな俺達唯一のオールラウンダーなんだからな。頼むからまだまだフォローしてもらうぞ。」
するとスイは少し目を閉じた後、ゆっくりと力強く目を開いた。
「・・・うん、わかった。もう絶対に負けたりなんてしない。」
その曇りのない真っ直ぐな目を見て俺は一つ頷く。
・・・敗北は必ず大きな代償を連れてくる。でも運良くそれを逃れられたんだ、命があるなら次がある。このまま塞ぎ込んでしまうよりその対策について考えてもらえたほうが遥かに有意義な筈だ。
ーーズキッ
「・・・立ち上がれるなら何度でも立ち上がるべきなんだ。」
生きてる間に死にたくなるほど自分の無力感に襲われることなんて絶対にある。一回転んで立ち上がるには酷い苦痛と吐き気を感じるものだ。
過去を思い出して俯いた俺にスイは首を傾げる。
「・・・?」
「ん、悪い、少し考え事してた。ま、幻覚とかに対抗する手段は幾らでも思い浮かぶしな、後で教えるよ。」
「・・・うん、ありがとう。」
俺が暗くなってどうすると笑みを浮かべ直して、腕を組む。すると、家屋の扉が開いてやけに長い長髪を適当に後ろで結んだエルフが入ってきた。
「んーーー? おー、増えてんね〜。お互いにイチャイチャしてて元気そうだ。」
ゆるい雰囲気を漂わせた彼女はそう言って手をヒラヒラさせながら奥の机に向かう。
確か彼女がフニューと呼ばれた唯一の里医者だったな。
彼女の適当な発言にシルルカは勢いよく反応する。
「い、イチャイチャなんてしてないから! フニュー!相変わらず適当なことを言わない!」
「はいはーい、相変わらずシルルカお嬢様はやかましいですね〜。」
「なんですって!?」
煽られたシルルカはプンプン怒りながらフニューの机に向かって文句を言っている。
彼女はめんどくさそうに適当に謝りながらシルルカをあやしていた。
「さてと、ミリアも気にしてたし食うものとか聞いてくるか。」
「・・・何か作る?」
「お願いしたいけど病み上がりだしな。もう少し休んでろよ。」
俺はそう言って立ち上がり、扉へと向かう。
何も貰えなかったら適当になんか作るかーと考えながら部屋を後にした。
ーーー
ーーコツ、コツ、コツ
暗い根の張る地下に作られた地下牢に足音を響かせながら一人の人物が降りてくる。
その者は檻に囚われている者たちを冷たく見下ろした。
「・・・情けない。まさか一人も住民に紛れることができないとは、、、。」
その者がそう呟くと囚われている者は慌てながら檻に詰め寄る。
「も、申し訳ありません! 直前までは誘導部隊がうまく引きつけていたのですが急に意識を奪われて、、、!」
「黙りなさい、声が大きい。貴様らと会っていることがバレたらどうする気だ。」
殺気を感じさせる細い目で睨みながら冷たく吐き捨てる。捕まっている者たちはその怒気に触れて静かに押し黙った。
「・・・さて、どうしたものかな。貴様らにかけた呪術もいずれは解かれてしまうだろう。早急に口を封じなければな。」
その言葉に激しく動揺したゴート族達は慌てて言い募る。
「ま、待ってください!まだここから出してもらえれば紛れられます!また一つ機会をください!」
「この人数ですし一人くらいいなくなっても気づかれません!」
「お願いです!まだ死にたくありません!」
口々に懇願する彼らを無視してその者は頭を巡らせる。
・・・愚かな、捕まえた者の人数を把握してないわけもないだろうし化ける者たちとなればそれに対しての対策なんてすぐに練られる。そんなことにすら気づけないとは、、、救いようがない。
その者は一つため息をついて、何か思いついたかのように手を叩いた。
「あぁ、では役に立ってもらいますか。」
その言葉を聞いてゴート族の者たちが安堵の表情を浮かべたが次の瞬間には全員の顔が赤く染まりトマトを潰したかのようにはねた。
ーーバチュチュンッ
暗い地下牢は濃密な血の匂いを広がせながら赤く染まる。その真ん中でその者は大きく口を歪ませながら物言わぬ肉体になった一つに指を差し込んで何事か呟いた。
「■■■■、まだまだあのお方の役に立ってもらいましょう。あぁ、羨ましくて身震いします。」
血がその一つの死体に集まり異形へと化していく。
その異変に眠らされた見張りは気づかずドンドンと変化していく異形を見つめながらその者は恍惚に笑っていた。
・・・その光景を知覚する理不尽に気づくこと無く。




