喚ばれた剣聖ー65
ルミアが気絶させて連れてきた刺客たちは全員地下へと閉じ込められ、スイとハイルは里医者であるというフニューと呼ばれるエルフの元へと運ばれた。
ミリアも二人が心配だとその二人について行く。
一人残された俺は目を瞑りながら正座し、エルフの権力者達が集められた集会に同席していた。
「里への侵入者はそこの人間の仲間に決まっている!」「喰魔が現れたということは厄災の前兆だ!」「・・・やはり一度逃がした里長に責任が」「でも以前の喰魔は処刑されたが厄災は起こったではないか。」「それよりも侵入者への対策の方が優先だ!彼らは止めてくれたのだぞ!?」
正直今一番の争点は結界が破られた対策だと思うがどうも議題がそれている。
喰魔とか厄災の話は今しても仕方ないだろうに、、、ただ話を聞いていると俺たちに対して肯定的な意見も聞き取れる。実際今回の侵入に対して一番に反応できたのはスイとハイルだけだ、里のエルフ達は意の一番に俺が最も脅威だと判断して多くの戦力を里に残した。おかげで送った何名かはゴート族の刺客によって返り討ち、ルミアによって何とか侵入されずに済んだって感じだな。
・・・俺を警戒するのは正しいが手を出さなければ無抵抗の俺にあそこまで戦力を割いたのは愚かとしか言いようがない。
『・・・皆様、静粛に。』
ユリジャの隣に控えていたリクリカが静かでありながら凛とした声で意見がまとまらず荒れていた話し合いを遮る。
すると、先ほどまで怒声を飛ばし合っていたエルフ達は一斉に声を潜ませ、里長へと意識を向けた。
「皆の意見も理解はできる。しかし、今は現状の実績を鑑みて話をしよう。確かに律兎くんは人間で、ハイルは喰魔だけどこの里を守る一手を打ってくれたのは彼等だ。今は一度、彼等を信用して侵入者に対する話し合いをしようか。」
「・・・。」
納得してなさそうな者もいるが、俺達にはこの里へ侵入してきた連中から里を守ったという実績がある。
もし敵であるなら無視すればいいだけの話なので少しは信用を得られたと思う。
だからこそエルフ達は里長の意見に対して反論もせずに押し黙っているのだろしね。
「・・・まず侵入してきたのは総じてゴート族だった。彼等は基本的に『幻影の谷』から出てこないはずだけど今回侵入されたのは全部で18人、まとまりが悪い彼等がここまで協力して侵入してきたとしたら誰かに何かを命じられている可能性が高い。」
「独断という可能性は?」
「もちろん考えられるけど彼等と争う理由は本当に一つもないんだよね。彼等は森に興味はない、興味あるのは金銀財宝だけのはずだ。そんな彼等がこの森を襲う理由があるとしたら誰かが高い報酬をチラつかせてると思う。」
ゴート族の特性とかはしらないけど纏まり悪いんだ。
まぁ、俺が会ったことあるのはドリム地下街の一人だけだしよく知らないけどね。
「そこで彼が少し意見があるらしいよ。」
ユリジャはそう言って俺に視線を送った。他のエルフ達もそれに倣ってこちらへと視線を向けてくる。
俺は目を開けて座る面々を見渡した。
「・・・今回の件は大分前から画策された計画の一端だと思う。ジャユ族とエルフ族の不和、今回の侵入に予知、もしかしたらこれらはつながっているのかもしれない。」
そう言うとエルフ達は露骨に目を見開いた。
怪訝な表情を浮かべる者、考え込む者、怒りに顔を赤く染める者など反応は様々。
「根拠は?」
一人の切れ長の赤い目でこちらを見るエルフが静かに問うてくる。俺はそれに対して口を開く。
「まず一つ、俺達は此処に来る前にドリム地下街にいた。その時にジャユ族の族長であるログロドと話す機会があったんだがあいつはエルフ達と争う理由に急に襲い掛かってきたと言っていた。」
ロドから聞いた話を端的に伝えると、エルフ達は認識の違いに目を見開いて驚く。
「だがあんたらの主張としては向こうが森を荒らすような行動をしてきた、、、であってるよな?」
ユリジャに確認するように視線を送ると彼は一つ頷く。それを確かめられた俺は再び前へと視線を戻す。
「他者に化けられるゴート族、そんなの他種族間で争いを引き起こす引き金を簡単に作れるだろ。露骨な襲撃はそれが原因だ。そしてそれが起こり始めたのはハイルが近づき始めたからだろうな。」
俺の何気なく呟いた一言にエルフ達の数名は面白いほど反応を示す。
「やはり喰魔が近づいたから、、、!」
予想通りの反応に気にすること無く話を続ける。
「いや、敵はプラズ商会だ。多分一回潜入した時にでも何か仕掛けられたんだろう。それでこっちの動向を把握してドリム地下街に向かい始めた瞬間に事を起こしたんだと思う。」
アムルは何処かハイルに入れ込んでいるように見えた。あいつのためにわざわざ追っ手を出したりギータを逃がしたりしたくらいだしな。
魔術的なマーキングでもされたんだろ。
「はっ、結局あいつが連れてきたことではないか!」
「まぁな、でも時間の問題だったと思うぞ。あいつらは用意周到で何処か執念深い印象がある。ハイルが来なくともいずれ辿り着かれたと思うな。」
うん、流石にこのきっかけは俺が引き起こしたとも言えるしそこまで強く反論はできないかな。
「でも敵がわかるなら対策すべきだろ。いつまでも追われるのだるいしめんどいじゃん。」
「貴様らが連れてきたんだろ!」
「まぁまぁ、いずれ訪れていたかもしれないゴート族の襲撃を僕らは避けることができたか分からなかったんだ。逆に考えればゴート族や敵の素性をある程度知っていて、僕達へ圧倒的な実力差を見せつけてくれた彼が味方になってくれるって考えればお釣りが来るとは思わないかい?」
ユリジャはそう言ってフォローをしてくる。
別に味方をするなんて言ってないけどアムルには個人的に出し抜かれた借りがある。味方するのもありかもね。
そんな事を考えているとエルフの一人が立ち上がった。
「何を言っているのですか!? もし裏切られれば内側に入りこまれた我らの抵抗はほぼ不可能になるのですよ!?」
「・・・それこそ今更な話だ。もはや踏み込まれてる以上、味方として取り込むべきなのだよ。」
反発されるのは当然だと思っているとまさかの方向からフォローが入る。
最初に俺に質問してきた切れ長の目をしたエルフは諭すように荒ぶったエルフを諌める。
「へぇ、まさかジュルグが味方してくれるとはね。」
「・・・異な事を、私は常にエルフ族のことを考えている。今はそれが最善だと判断しただけのことだ。」
ジュルグと呼ばれたエルフはそう言って目を閉じた。
ユリジャに対しても堂々とした言い方からして昔馴染みなのかな?
彼が同意すると荒立っていた者たちも押し黙る。
ユリジャと彼が同じ判断を下したのなら反論は難しいのかもしれない。
「・・・それで? 他の因果性はなんだ。」
「ん? あー、喰魔の厄災が何を指し示すのかはしらないけどもしこれが予知夢の里が滅びると繋がるとするなら人為的な攻撃の可能性が高いと思うんだよね。なら他のエルフを逃がすことをできると思う。」
「貴様は予知夢の内容は知らんだろう。」
「まぁな、だから詳細を聞きたいんだけど、、、。てか歌詠みって子はいつ戻って、、、」
ーーバァンッ!!
「本当にどうして私を放ったらかしにして話を進めてるんだーー! 誰も呼びに来てくれないし、なんか帰り道で黒い人に襲われかけたけど瞬きしたら気絶させられて連れて行かれたし、帰ってきたら里が騒がしいし、完全に置いてけぼりなんだけど!?」
「あ、シルルカ、おかえり。」
「ただいま!!」
開け放たれた扉から髪を三つ編みにし、少し吊り上がった目に怒気を浮かばせた少女が入ってくる。
・・・確かシルルカってユリジャがフィーカに呼びに行くように頼んでいた娘だったよな?
「いろいろ話はへ、や、の、そ、と、で!聞かせてもらったわ。初めまして、私はシルルカ・フォレスティア、里で歌詠みと呼ばれているわ。」
「お、おう、俺は律兎・八九楽、今はハイルと旅をしてる。」
「ハイル!? は、ハイルが帰ってきたの!?」
堂々とした自己紹介に戸惑いながらこちらも挨拶を返すと、彼女はハイルの名前に強く反応し部屋の中を見渡している。その目は忌避というより何処か期待するかのように爛々としていた。
「今はフニューの所で休ませているよ。」
「・・・えー、じゃあ後で会ってくる。」
ユリジャがそう伝えると彼女は露骨に肩を落として座った。その反応に「おや?」と思ったが、面白いことになりそうだと思い軽く笑みだけ浮かべておいた。
彼女は改めて座ると一つ咳払いをしてまっすぐにこちらへと視線を向ける。
「さて、予知夢の内容だったわね。里に巨大な黒い穴が開けられ、そこから黒い何かがゾロゾロと迫り上がってくる感じだったかな。でも言われてみると里で倒れてた住民とかはみなかったわ。」
・・・へぇー、そうなんだ。じゃあもしかしたら避難とかはできているのかもしれないね。もちろん他の要因も考えられるけどそこはタラレバの話だろう。
「よし、なら対抗策を考えるべきだな。詳しい話や作戦は後で話し合うとしてまずは地下のゴート族から話を聞き出すとしますか。」
「そうだね、まずはそこから話を進めようか。」
俺と、ユリジャはそう言って立ち上がる。
他のエルフ達は戸惑いながらどうするべきか話始めた。
「では各自、各々里の防衛の準備や精霊たちへの説明などよろしく頼むよ。リクリカとシルルカはついてきてくれるかい?」
ユリジャはそう言い捨てて部屋を出る。
呼ばれた2人は彼へついていき、俺もその後に続いたのだった。
ーーー
広間からでて地下へと向かう途中。
「・・・やはり内通者がいるべきと考えたほうがよさそうだ。」
ユリジャはそう呟きながら立ち止まる。
彼の発言にシルルカは驚き、俺は目を細めた。
「フィーカは少し思い込みが激しいところがあったけどあそこまで視野が狭いわけじゃない。唆した何者かと、ゴート族の数人を隠していた精霊の協力者がいる。」
確認するようにこちらへと視線を向ける彼に俺は頷きを返した。
「・・・おそらくだが精霊と契約したエルフが隠蔽しているはずだ。精霊の力もなしに結界内で姿を隠すことは難しいはずだしそこは考えていいだろ。」
「うん、後はそれが誰かだね。シルルカはよくフィーカと一緒にいたはずだし何か心当たりはあったりしない?」
そう聞かれてシルルカは顎に指を当てて考え始める。
「うーん、フィーカは私の護衛だし任務以外はほとんど一緒にいたけどそんな様子はなかったかな? 任務を一緒にやってた誰かとか?」
シルルカは唆した相手に心当たりはないようで申し訳なさそうにしている。
こっちもまるで見当がついてないしそれは仕方ないと思う。
「まぁ僕もフィーカは任務か怪我を治してるかシルルカと一緒にいるくらいしか知らないしね。警戒しながらもしもを想定するしかないか。」
ユリジャはそう結論づけてまた地下へと歩き出した。
心当たりのない俺達は少し残る不安に揺られながら、今度こそ地下へと向かったのだった。




