喚ばれた剣聖ー61
「こ、これはフルネルカって言う名前の花で球根を乾燥させてすり潰すと鎮静作用がある薬が作れるんだ。で、でも似てる毒草も多くて過剰摂取は危険だからあまり知られてないけどね。」
「・・・へぇ、そうなんだ。・・・あまり植物の生えてる地に立ち寄ったことがないから球根を食べようと思ったことないけど。」
里へ入らせてもらえないことは予想していたがまさかスイさんも一緒に待ってくれるとは思っていなかった。
この森は精霊達が管理していて珍しい薬草とかも多いから観察と採取でもしてようかなって思ってたのに、、、。
・・・全く集中できないいい、、、。
自生してる植物を探そうとしてもついつい視線がスイさんに吸い込まれる。
植物を見ようとすると一緒に座り込んで話を聞いてくれるし、メモしようかと手帳を取り出すと興味あるのか覗き込んでくる、、、その時に当たる肩がぁ!!
意識してることを必死に隠そうと、、、必死に!
植物の観察に徹するが、チラッと横を見てしまって綺麗な青い瞳と視線がぶつかった。
「あ、で、でもさっきも言った通り似ている毒草が多いから気をつけないとだめだよ!」
「・・・ん、その時はハイルに聞くから大丈夫。」
無表情で揺れる花を見ながら淡々と言われて思わず悶える。サラリと頼りたいって言われて嬉しくないわけないでしょ!
「・・・でも安心した。ハイルが大丈夫そうで。」
言いながら優しく微笑むようにこちらを見るスイさんの目を見られず僕は思わず目を逸らした。
・・・でも何を心配してたのだろう?
「う、うん? 別に元気だけど、、、。」
「・・・うん、ならよかった。」
何も言わずに嬉しそうにスイさんは花に向き直る。
・・・もしかしたら里で門前払いされたことを気にしてくれてたのかな?
元々入らせてくれないことは想定してたからあまり辛くはなかったけど、やっぱり傷つく事は傷ついた。
でもその気持ちもスイさんが一緒に待ってくれるって言われた瞬間に吹き飛んだけどね。
それにしても気にしないように口に出さないのも優しいなぁ。
「す、スイさんは大丈夫? つ、疲れてたりしない?」
「・・・鍛えてるから。狩りもしてたしこのくらいは余裕。」
スイさんはグッと親指を上げた。
その破壊力にダメージを負っていると、ふわっと花のような香りが漂ってくる。
『初々しくて可愛いねぇ〜。2人はそういう関係なの?』
「どわぁ!!」
風に乗りながら漂う薄っすらとした少女が逆さになりながら近くにいた。
彼女は驚かせることに成功したからか子供のようにうれしそうに笑っている。
「ふぃ、フィクリシア様!?」
『やっほ~、久し振りだねハイルくん。52年ぶりかな?』
「あ、あははは、、、。」
気まずく頬をかきながらどう反応を返せばいいのか戸惑う。
他の精霊達は僕に近寄ってこないよう、気配すら感じさせないのにこの方だけは気さくに話しかけてくる。
「・・・ハイルって何歳なの?」
「え? う、うーん、時間の感覚も曖昧だったからよく分からないかな。」
長い間地下に閉じ込められてたから時間の感覚も曖昧だったんだよね。
別に重く考えずに言ったことだったがスイさんはムッとしていた。
「そ、そこまで辛かったわけじゃないよ。ちゃんとご飯ももらえてたし暇つぶしに沢山の本も貰えたから。」
改めて考えてみると確かに閉じ込められはしたけどちゃんと気にしてくれていたのだとは思う。
他の人と会うことは滅多になかったけど、シルルカがちょくちょく忍び込んできてたしね。
・・・そう言えばあの子元気かな。
「・・・近づいていいの?」
『え? 私?んー、大丈夫なんじゃない?入り込む余地ないしー。』
入り込む余地ってなに?
何を言っているのか分からず首を傾げているとスイさんが遠くを見ていることに気づく。
どうしたのかと聞こうと思っていたら隣にいたフィクリシア様が慌てだした。
『ーーえ!? け、結界が切り開かれた!?』
「ー!! だ、誰か入り込んできたってこと!?」
この空間を管理してる彼女が動揺しているということは何か異常が起きたということだ。
まずい、早く何とかしないと、、、!
でも未知の相手に、思わず一歩が踏み出せない。
思わず尻込みしてしまっていると、トンッと軽く跳ねるような軽快な音を残してスイさんは姿を消した。
まさか一人で、、、!?
そう分かった瞬間に足は自然と前に踏み出される。
力になれなくても止まっててはいけないと誰かに背中を押された気がした。
追いかけないと、追いつけるはずだから!
ーーー
割られるように開けられた空間の歪みから赤茶色の肌が目立つジャユ族の三人が降り立つ。
彼らは鬱蒼とした森に眉をしかめながら辺りを観察した。
「まだエルフの里じゃないのかよ。あれ程面倒くさい植物共をようやく抜けてきたってのに、、、。」
「そう言うな、この空間を見つけられた事自体が大きな前進だ。・・・ふっ、いい報告ができそうだ。」
「本当に里を見つけられたら私達大金持ちだね!」
軽く弾んだ雰囲気で3人は森の奥へと向かおうとする。
そこを不可視の刃が襲った。
ーーブワァ!
『ーーな!? 消えた!?』
不可視の刃は3人に見事に命中したはずだが、斬られた筈の3人は黒い塵を散らしながら姿を消す。
刃を飛ばした風の精霊は手応え無く霧散した3人を見て激しく動揺する。
その隙をついて移動していた足元の黒い塵が、精霊に巻き付いた。
『ーーガッ! ぐぐっ、、、!!』
「単純、短絡、安直♪ 精霊はなが~い時を自然と過ごしてるから疑うことを知らなくていいよね〜♪」
最初にいたはずの3人は黒い塵になって一つにまとまる。そこから背の高い細めの男が生えてきた。
角の生えた長い黒髪に光の灯らない瞳、いやらしく歪まれた笑みは本人の残虐性を彷彿とさせる。
『偽、、、物、、、!?』
『フルカリア!』
捕らえられた仲間を助けようと炎と水の精霊が姿を現す。炎の精霊が手の中心に高温の火球を作り上げて投げつける。
ーーズガァンッ!
着弾した火球は周りにも飛び散り燃え広がりそうになるがそれを水の精霊が即座に消火。辺りは煙に包まれる。
『・・・当たった、か?』
『逃げられた気配はしないけ、、、ど、、、!?』
煙の中心を同じように注視していた水の精霊が体を黒い塵に貫かれながら木に縫い付けられる。
苦しそうにうめきながらどうにか抜け出そうと力を込めているが周りに塵が集まって拘束を強めていく。
塵を放った黒い男は晴れた煙の中から笑みを浮かべ続ける。
「・・・ケヒッ!戦いも慣れてないね〜。炎は選択ミスだよ。それに火力が高い分、燃え広がらないようにサポートがなければ思うように使えないと見た。」
男の左手に黒い塵が回りながら集まっていき、周囲の木々を斬りつける。
『な、なにを!?』
「『黒塵 粉塵発火』。」
男が手を握りしめた途端に斬りつけられた木々の傷口から黒い炎が噴き出す。
炎の精霊は火を消そうとすぐに手を向けるが黒い火は変わること無く燃え続ける。
『何故操れない!?』
「ん〜? お前炎なのに分からないのか?」
相手は楽しそうにニタニタ笑いながら黒い塵を再び出してそこに黒炎を引火させた。火はどんどんと燃え広がっていき、神秘的な森は地獄のような光景へと塗り替えられていく。
『や、やめろ!!』
「ケヒヒヒヒヒッ! やめろって言ってやめるいい子ちゃんはこんなところにはいねぇよ! さあ!燃やし尽くしてエルフ共を引きずり出してやる!」
男がさらに塵を広げ、黒炎を周囲へと拡大していく、、、。
ーーパシャ
瞬間、木から広がっていた黒炎に水球が包み込むように展開された。
「?」
水はすぐさま黒く染まったが、黒炎は広がること無くその場にとどまる。
そこに水滴と化したスイが姿を作りながら着地。脇に抱えた黒髪の魔族を落としながら低い姿勢で剣を構えた。
『ーーき、君は』
「・・・落ち着いて、貴方が操れないのならこれは炎じゃない。」
スイはチラリと水で包んだ黒炎の様子を観察して目の前の男に向き直る。
鋭く冷たい殺意を添えて。
「ケヒッ、ミスルルの小娘か? 何だってこんなところに、、、。エルフ族が雇った、訳ねぇよなぁ。」
「・・・答えると思う?」
「思わねえ、、、なぁ!」
男は笑いながら腕を振るう。
鞭のようにしなりをつけながら振るわれた腕の先からは黒い塵が伸びてくる。
塵は広がりながらヤスリで擦ったような跡を木々に残す。
スイは塵から逃れるように反対側へと走りつつ、水槍激を飛ばした。水の槍はあっさりと塵によって防がれたがそこを起点に薄い水が広がっていく。
・・・これで相手の動きが。
次の手を細かく察知しながら前へと突っ込むと、展開した薄い魔力の水が黒く濁っていることに気づいた。
「・・・なるほどなぁ。上手いこと考えやがる。」
ーー! バレた!
その場に無理やり止まりながら後ろへと跳ぶ。
するとさっきまでいた場所を黒い塵が刺し貫く。
「・・・やり辛い。」
「お前もな。」
互いが互いに得意の一手を潰し合える。
距離を取って出方を窺う、下手な隙を見せれば簡単に命を失う間合いの読み合い。
スイは薄い魔力膜を、男は黒い塵をドーム状に展開し、拮抗しながら睨み合う。
その睨み合いに何を勘違いしたのか炎の精霊が近づいてくる。本来なら相手にしてられないが、何故か相手はこちらに警戒するだけで手を出したりはしてこない。
『な、なぁ、あの黒い炎ってなんなんだ? それにそこの魔族は、、、?』
炎の精霊に言われて視線を外さずに口を開く。
「・・・目の前の男は囮。空間に亀裂を入れて塵と同化しながら侵入した奴が4人いた。3人はその場に放置して近くにいた精霊に任せたけど、そいつは近かったから持ってきた。」
そう、侵入者は今目の前で対峙している男の他に4人いた。
他の連中は幻覚や催眠系の魔法の使い手だったが感知能力には長けていなかったので薄い魔力膜を張ってそこに侵入した魔法の痕跡を頼りに回避して昏倒させたのだ。
「・・・黒い炎は炎に見せかけたただの塵。塵に熱を持たせ、さも燃え広がるように見せながら面積を大きくしてただけ。」
『なんでそんなことを?』
「ケヒッ! ここまで説明されてまだ気づかねぇのかよ!精霊ってやつは本当に争いごとに向いてねぇなぁ!」
両手を広げながら煽るように大きく笑う。
ただその目だけは慎重にこちらの動きを警戒していた。
「・・・ゴート族は惑わしの魔族。相手を惑わし命を絡め取る。・・・炎の精霊が操れない特殊な炎を使えるって思わせて動揺を誘おうとしたんだと思う。」
「ケヒャヒャ、お前は察しが良すぎるな。それに適当に選んだ連中とは言えこうも簡単に制圧されるとは思わなかったぜ。」
男はそう言って倒れ伏す同族をちらりと見たあと、落胆のため息をつく。しかし、それすらどうでもいい事かのように余裕の笑みを崩さない。
「あまり時間もかけられねぇしとっとと決着つけようか? ミスルルの小娘。」
「・・・小娘じゃない、スイ。」
素直に名乗った相手に男は目を丸くして驚いた後、快活に笑う。
「律儀だねぇ。常に騙し合う俺たちとは大違いだ。・・・クロガリ・ゴースティン、覚えなくてもいいぜぇ。」
クロガリは名乗った後、目を細めて腰に差していた2本の短刀を取り出して構える。
黒く、陰湿な殺気がこちらへと巻き付くように伸びてくる。
「ーーさぁ、命を賭けた殺し合いだぁ!!」




