喚ばれた剣聖ー56
ゲートへと踏み入れた瞬間、視界がグニャリと歪んで景色が変わる。
森であることには変わりないが、木がとても高くなっており、足元に生える草は青々しく、魔力でも帯びているのか薄っすらと発光していた。
「わぁ、きれいですね。」
「昼間でも光ってるのがわかるなら夜は眩しそうだな。」
本来であれば上は葉が生い茂り、辺りを照らすのは間から漏れる木漏れ日のみになる。
もっと薄暗いはずだが、発光する植物や蔓の影響で昼間のように辺りは見やすかった。
「・・・すごい、魔力が満ちてると言うか生命力が活性化してる。」
「・・・。」
スイがしゃがみながら足元に生えてる草に手を伸ばして、観察しているとハイルは周囲をキョロキョロして落ち着きなさそうにしていた。
「どうしたよ?」
「・・・や、やっぱり僕はこの森を知らない。エルフ族の隠れ里への通り道なのに、、、。」
「そうか、なら目的地には近づいてきてるかもな。」
里から追い出されたハイルは記憶を消されているはずなので、むしろ覚えがない方がヒントになる。
まぁ、ここが本当は全く関係ない森に繋がっていて単純に知らない可能性もあるけどロドにそんな嘘を付くメリットもないしそこは信じても良いだろう。
・・・さてここからどうしようかな?
地図には真っ直ぐ進むように描かれているが、少し周囲に意識を向けると、どこか希薄で揺らいでいる。少しでも今自分がいる場所を見失えば遭難するだろうな。
まぁ里へ近づく外敵を排除するのに食虫植物モドキだけじゃ頼りないもんね。
「・・・へ? り、律兎さん!出口がありませんよ!」
叫びだしたミリアにつられて背後を振り返るとゲートは既に閉じていて何もないただの森の景色が広がっていた。
それに対して俺は面倒くさそうに頭を掻く。
「あー、別に驚くことじゃない。こういう風なゲートっていうのは基本的に一方通行なんだ。」
「そうなのですか?」
「ま、魔力によって入り口をこじ開けただけで固定されてないからすぐに戻っちゃうんだよ。ま、また魔力で開けることも可能だけど、水に穴を開けるくらい無謀な行為だからオススメはできないかな。」
「えぇ!? じゃあどうするのですか!」
ミリアの戸惑いより、ちゃんと詳しく補足してくれたハイルの知識の方に驚くな。
おそらく今いる場所は空間を隔絶された場所に存在するため、出るには同じように空間の歪みにあたる部分に高濃度の魔力で干渉する必要がある。
まぁ何で空間に歪みが存在するのかは空間の外層が一定に保たれていないからなんだけどそこは飛ばそう。
「外層には流れがある。流れがあるなら起点と終点が存在する。そこを探し出せば帰れるさ。」
「・・・見つかるの?」
「ん? あー、一応探し方が、、、その前にこっちを対処するか。」
ーーガキィンッ!
スイからの質問を答えようとしていると木々の奥から不可視の斬撃が飛んできたので剣を一瞬だけ抜いて弾いた。
長時間抜いてると瘴気が溢れて環境に良くないし、そこは配慮したほうが良さそうだ。
・・・あれ? もしかしてこの剣使い辛い?
浮かんだ問題点に眉を顰めていると、斬撃が追い撃ちされてくるので居合のように対応する。
ただこのままだとジリ貧なので時間差で飛んでくる攻撃の一手先を読んで間を作り、斬撃を飛ばし返した。
『ひゃあ!?』
向こう側から驚く声が聞こえてくる。
ちゃんと当たらないように狙いをつけたし当たってはないだろうけどビックリするよね。
「・・・誰だ? 姿を見せた方が利口だぞ。」
少し威圧するように奥に向かって問いかけたが、返事は返ってこない。
しかし、囲むように木々の上や影に気配が現れた。
・・・人じゃないな、気配が薄すぎる。
スイ達も初撃から襲われてることに気づいて構えだすが、どこから狙われているのか分かっていないようで全方位に意識を向けている。
すると、木々が不気味にざわめき周囲が暗くなっていく。
『『『クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス』』』
全方位から笑い声が木霊して不安を煽る。
まるでホラー映画のような演出に冷めた目をしていると、場所をとらえさせない声が聞こえてきた。
『・・・あそぼ?』
そのどこか嘲笑するような声音を含んだ問いかけにイラッときて青筋を立てた。
殺意マシマシな攻撃して来といて何言ってんだこいつ。
「あっそう、遊んでやろうか?」
そう言い放ってガイアデルガの牙剣、、、長いな『ガイア』でいいや。は、抜かず、右手にヤクラを顕現させた。
その真っ白な剣が現れた瞬間、周囲の嘲るような雰囲気がガラッと変わり、どよめきが広がっていく。
『な、何だその剣は、ま、まさかこちら側にあるのか?』
『え、どういこと?』
『でも剣だよ?』
戸惑う声と分かっていない声が錯綜し、ざわめきはドンドンと大きくなる。
「・・・律兎さん、何したのですか?」
「ん? 別に剣を出しただけだよ。」
「・・・それだけでここまで動揺するの?」
ちなみに何で相手側が慌てているのかスイ達も分かっていないので、こちらに説明を求めるように見つめてくる。
俺は肩をすくめてヤレヤレと首を振った。
「存在感の薄さといたずら好きな反応からしてどうせコイツラは精霊種だろ? んで精霊ってのは受肉してない限り肉体がないんだ。魔法とかでこちらに干渉はできるが物質としては干渉できない。どうせそこを利用して一方的にこっちを攻撃して逃げ惑うのを見たかったんだろうがそうは問屋が卸さないと、、、。」
「え、問屋って何です?」
「あ、すみません。」
そうだよね、ことわざなんて異世界の人達に伝わる訳ないよね。そこは俺が悪かったわごめん。
「・・・というか、前から思ってたけどそれ何? 急に取り出したり仕舞ったりしてて良くわからない。」
「あー、そういえば、話してなかったな。・・・簡単に言えば霊界の捕食者であった厄龍、厄羅から作られた剣で霊界に干渉できるんだよ。んで霊界に干渉できるってことは精神体である精霊に特効なんだよね。」
仮に精神体だろうが何だろうが厄羅は行き来できるのであまり変わらない。
コイツラは自分たちに何もできないだろうと煽ってきていたが、この剣の性質に気付いてビビり散らかしていた。
「・・・手に入れた経緯は聞かない方がいい?」
「話すと長くなるからなぁ。今は時間もないしあとにしよう。」
そろそろ相手も落ち着いてくるだろうしね。
少し待っているとようやくどよめきが小さくなってきた。それを横目に腕を組んで不機嫌さを前面に出す。
「出てきてくれないか? それとも引きずり出されたい?」
『ーーっひ!』
圧に負けて、半透明な薄緑の少女が現れる。
それを庇うように大人のゴツい精霊や子供の姿をした精霊がこぞって現れた。
『ーーご、ごめんなさい! ちょっとからかおうかなって思っただけなんです!』
「へぇ? その割には殺意高かったけど?」
『お、お前人間だろ!? 人間はうそつきばっかりだ! どうせここにも俺たちをさらいに来たんだろ!』
そう叫ぶ幼い少年の精霊に腕を組んだまま首を傾げた。
「なら剣を仕舞ったりしねぇだろ? 話を聞こうとしてるだけ良心的じゃないか。」
『そんなの知らん!』
ありゃ、話が通じませんか。
仕方ないのでチラッと剣を覗かせると精霊たちはビクッと震えて縮こまる。
・・・少し面白いな。
フッと鼻で笑っていると横からコツンと軽く叩かれる。何だとそちらを向くと、ミリアが責めるように頬を膨らませていた。
「威圧してどうするのですか。小さい子もいますし、会話にならないですよ。」
「待ってくれ、最初から攻撃飛んできたし会話が通じてないんだが?」
「怖い顔してるからですよ。もっと優しく笑いましょう、ほら、にーーっ。」
そう言って口の端を指で持ち上げて笑顔の手本を見せるミリアが超可愛い。こういうのをあざといっていうのかな?
ミリアは振り向いて精霊たちに申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、私達は本当に危害を加えに来たわけではありません。是非一緒に遊んだりしたいのですが、その前に一度お話を伺ってもいいですか?」
すごく丁寧に手を合わせ、ミリアが微笑みながら問い掛けると精霊達は戸惑ったように見つめ合い、おずおずと最初に飛び出してきた少女の精霊が出てきた。
『ええっと、私達もごめんなさい。最近は森を荒らす人達が入ってきて警戒してたの。』
あっれぇー? 俺と違って素直だぞ?やっぱり顔か?顔なのか?
他の者たちも敵意は鳴りを潜めて困った様な反応になっている。
左右にいるスイとハイルから無言の視線が飛んでくるが、知らんよ?先に攻撃してきたのはあっちだから。
『・・・綺麗な心。何が聞きたいの?』
「へ? 心?初めて言われました。」
あ、そうかそう言えば精霊に外見の美醜って関係なかったわ。良く魂の本質を見通すって噂だしね。
あと横のお前らなんでさっきより視線の圧が強くなってんだ? 俺の心が汚いってのか?喧嘩なら買うぞ。
「律兎さん、律兎さん! 心がきれいだそうですよ!」
「まぁ精霊だって長い年月を過ごす内に目が曇ることはあるだろ。」
「頑なに認めてくれない!」
お前の普段を見てたら信用できんわ。
だったら頼むから清い聖女みたいな言動と行動を心掛けてくれ。
『えっと何が聞きたいの?・・・でも、教えられないこともある。』
「あ、もちろんです。答えるのが難しければ大丈夫ですよ。聞きたいのは最近森を荒らしたという人物について教えていただきたいです。」
『え、それでいいの? てっきりエルフの里の場所かと、、、あ、、、。』
・・・あ、今この場所にエルフの隠れ里があるって言ったね。
相手は失言してしまったとばかりに口元を押さえながら顔を青く、、、半透明だからよくわからんわ。
他の精霊たちも何を言っているんだと慌てていた。
なんとも言えない空気が周囲を包む。
『・・・え、えっと、、、その、、、なんでも、、、ないよ?』
「今更無理じゃね?」
「ーーだからお前らはもう帰れない。」
ーーヒュオンッ!
やけに遠くからクリアな声が聞こえてきたと思えば既に放たれていた矢が近くまで迫っていた。
ーーはぁ!? 気配もつがえる音も何も聞こえなかったぞ!?
驚くほど遠方からの長距離射撃。
遠すぎて気配の察知が一歩遅れてしまう。
それでも自分に向けられた矢ならいくらでも対処ができた。しかし、矢は俺ではなくハイルに向かって放たれている。
弛緩した空気に油断していたのかハイルは迫ってくる矢に呆けた顔を浮かべていた。
ーーカキィンッ!
「・・・へ? あ、あれ、だ、大丈夫?」
しかし、その矢はハイルに到達する前に斬り落とされた。警戒していた段階からスイが、張っていた薄い魔力膜で矢の気配と位置を的確に捉え、矢を目前で斬り伏せる。
「・・・油断しない。」
「ご、ごめん、あ、ありがとう。」
スイは矢が向かってきた方向に剣を構えながら息を整えている。俺も油断していたし正直助かった。
ザリッ
「・・・囲まれたな。」
気配は精霊のように薄いがさすがに肉体がある分スイも当たりをつけることはできているようだ。
「フィーカが追い返されたと聞いた時から追っ手があると予想していた。それが人間と、喰魔とは思わなかったがな。」
前方の草をかき分けて細身のエルフ族の青年とおどおどした様子の少女が現れる。
それを睨みながら俺は口に手を当てた。
「・・・ようやくだな。」




