喚ばれた剣聖ー55
「と、言う訳でまた地上です。」
「・・・ざっくり省略しましたね。」
一日だけ準備に時間を費やして、俺達は再び日の当たる大地へと戻ってきた。岩山であることは変わりないので見た目はあんまり変わらないが、一応地上は地上である。空気がおいしー。
結局また大して休むこともでいなかったなぁと思いながら4人で山を登る。
まぁ、首を突っ込んだのは俺だけどね。
でもこんなにいろいろ巻き込んだハイルに少し苛ついたので重しの重量を上げてやった。おかげでハイルは少し後ろで「うおおぉ。」とうめき声を漏らしながらついてきていた。
「これほど山歩きばかりしてると体力付きますね。」
「そうだね、君を背負ってるから俺が2倍ね。」
山を登ると言ったら平然と両手を広げてきた荷物を背負って足場の悪い岩山を登る。
なんと言っていいかわからない微妙な表情で見てくるスイを気にしないようしながら山頂付近に近づくとドンドンと空気が冷たくなってきた。
「ミリア、冷気は遮断できたりしない?」
「一応言っときますけど温度の遮断って相当難しいのですよ? そもそも私は温度が何なのかよくわかっていませんしね。例えば空気なら大気を指定したり、水なら水を、音なら振動を? 結構めんどくさいんですよ。」
・・・確かに難しいな。言われてみるとそういう熱力学は俺も全く詳しくないし、よくわからん。勉強不足だね。
てかこいつそんなめんどい選別をしてたのか。不器用だと思ったけど魔法に関しては天才的だよね。
「じゃあ寒さは我慢しろよな。」
「布団だしてくれます?」
「持ちづらいから無しで。」
スイは特に表情も変えずに歩き、ハイルはむしろ汗を欠きながらゼェゼェと息を荒げながらようやく山頂へと登りつめた。
朝日と共に地上を見下ろすと広大な森が広がる。
俺は眼下に広がる青々とした森にデジャブを感じながらため息をついた。
「・・・行くかー。」
「・・・おー。」
可愛い賛同を得られたので一気に山を降り始める。
深い森へと誘われるまま。
ーーー
「もういいよ森、飽きた。」
「・・・そう言っても消えたりしない。」
そうだけどね。でも少しくらい愚痴ってもいいでしょ。俺って何個の森を横断すればいいわけ?
心のなかで愚痴を続けながら湿気が多く肌に張り付く気温に嫌気を感じながら虫と草木を払いながら進んでいく。
やるせない気持ちになりながらも気分を変えようとロドにもらった地図を開いた。
「もうちょっと進めば不思議な植物が沢山生えている群生地にでれるって書いてあるけど、不思議な植物ってなんだろ?」
「あ、あれ? ここらへんに生えてそうなのって、、、」
心当たりがありそうなハイルが言い切る前に地面から少しの振動を感じて一歩下がる。そこから植物のつるのようなものが生えてこちらに向かって伸びてきた。
「なん、、、!」
ただそのつるは自分を無視してミリアに向かって伸びる。少し下がった位置にいたミリアは驚いて固まったまま、張っていた障壁ごとぐるぐるに囲まれた。
「わわわっ!? 何で私なので、、、何かくぱくぱしてて気持ち悪い!」
「ぐ、グデグデ草だね。巻きついた生物の魔力を食孔で吸い取って養分にする植物だよ。」
「あぁ、だから一番魔力の多いミリアに向かって行ったのか。」
「冷静に分析してないで助けて下さい!」
お約束だとミリアが巻き付かれてあられもない姿になるのかと思ったが、障壁に阻まれて蔓が球体になっているようにしか見えない。
ちょっと残念だなーと思っていると、スイが表面を斬り裂いてミリアを助け出した。
助け出されたミリアは半べそかきながらスイに抱きついた。
「びぇええええ!優しいのはスイだけですー!」
「・・・よしよし。」
優しく頭を撫でられてるミリアをハイルが少し羨ましそうに見てるのを無視しながら、スイに蔓を斬り裂かれて勢いの弱まった植物を眺める。
グデグデ草の由来は締め付けられた生物は力の入らない脱力状態のまま引きづられていくさまからつけられたんだって。
・・・うん、普通に怖いな。
引きながら観察していると色の違う茎がシュルリと首を上げて花弁をのぞかせる。
大きな花弁はぐるりと引き絞られてこちらに構えられていく。
「・・・まさか。」
ーーズドンッ!
射出された鋭い物体を既で躱す。
「あぶねっ!」
ーーズドドドドドドドドドッ!
一度避けた後も連続で放たれ続ける弾丸を俺とハイルは走って避ける。
てか何でこんなに威力高いんだよ、当たったら死ぬぞ!?
「こ、これは、花弁から種を射出して刺さった生物を養分にして分布を広げる寄生型で、、、!」
「そんな説明はいいから何とかしてくれない!? 生きた心地がしないんだけど!?」
ちなみにミリアとスイは障壁の中で銃弾の雨をしのいでいた。視線を向けた時にミリアに「べーッ」と舌を出されたので障壁に入れてくれなかったのは仕返しかな?
なら仕方ないね。
ーーぶにゅ
「ん?」
「あ。」
走っていると突然地面が柔らかくなって首を傾げる。
首を傾げているとグバッ!っと地面が迫り上がってハエトリソウのように閉まり出した。
あまりに一瞬の出来事に焦りながらハイルを抱えて元の場所に飛び退く。
・・・あぶねぇ、もし地面が糊みたいに付いてきたら逃げられなかったぞ。
ただ勿論、逃げた先も安全ではなく、蔓と弾丸が迫ってくる。その光景に俺も半べそをかきながらミリアの元へ戻って全員で退却した。
「はぁはぁはぁ、、、! なーにが、不思議な植物だ! ちゃんと詳細くらい書けっつうの!」
「魔族領にはこれほど獰猛な植物が自生しているのですね。」
「・・・私も、初めて見た。」
そりゃあ、貴女の地域じゃ植物は根腐れしますもの。
ああいう植物は環境下で効率良く養分がとれるように進化するものだからね。
「てかハイルも知ってたなら教えてくれよ。」
若干責めるような視線を向けると、ハイルは慌てて手を振った。
「い、いや、知らなかったよ! この環境なら生えてそうだなーって思っただけで、、、。と、というか僕、この森知らないし、、、。」
あ、初めてきたのかな?
それかもしかしたらこの森にエルフの隠れ里があって記憶を消されてる可能性もあるけど、、、ま、そこはどうでもいいか。
「取り敢えず、あの殺意が高い植物の群生地を抜けないとな。何か案とかある?」
「・・・ミリアの障壁で抜ける。」
「あー、それも考えたが、さっき見たいに蔓でぐるぐる巻きにされたら視界が確保できないし、無理やりの移動は無理だろ?」
「・・・そうですね、障壁を魔力で無理矢理広げるのは可能ですけど移動となれば私の位置は固定になってしまうので難しいですね。」
・・・ミリアは簡単そうにいうが魔力で無理矢理押し広げるのは泥の中で傘を開こうとするのと同じくらいの力押しな筈だ。
まぁ押し広げながら進むのでもいいけど他の植物や木々の境いを判断するのも大変だろうし、ミリアだけに負担をかけさせるのもな。
「うーん、俺とスイで刈り取りながら進むか? でもそうするとこの自然の防壁に穴を開けることになるしなー。一応隠れ里への通り道らしいし、後を追えるようにはしたくない。」
どうしようか悩んでいると、ハイルが小さく手を挙げた。
「た、たぶんだけどそれを持って歩けば大丈夫だと思う。」
ハイルはそう言って俺の腰辺りを指差す。
そこには頼み込んで速攻で仕上げてもらった漆黒の片手剣が佩いてあった。
「・・・これを?」
「う、うん、昨日受け取る時に見せてもらったけど、未だにガイアデルガの瘴気が漏れ出ていたよね。植物達は魔力や生命力に反応するけど瘴気の様な負の力は避ける、、、はず、、、。」
相変わらず最後は自信なさそうにオドオドしだしたけど、言いたいことは理解できた。
試しに片手に剣を持ってそっと鞘から少しだけ抜いてみると、、、
ーーズッ
重苦しい空気が広がり、肌がビリビリする。
横のミリアは特に何ともないみたいで首を傾げるだけだが、スイは露骨に眉を顰めて、気持ち悪そうにそっぽを向く。
「そ、その瘴気があれば植物達も手を出してはこないと思うよ。と、というより出したくない、僕も気持ち悪くなってきたし。」
前に座るハイルすら顔を青褪めさせて、涙目になる。
いやー、適当に良さそうな素材を渡しただけなのに瘴気付きという付属能力が付いたのは便利だよね。
満足して剣をしまい直して、立ち上がる。
どうすればいいのかもわかったし、ならとっとと進みますか。
再び植物の群生地に向かうと最初と同じように蔓がこちらに向かって伸びてくる。
掴まれる前に剣を抜き去り、ガイアデルガの瘴気を溢れ出させた。
すると、植物は一度ブルリと震えた後に引っ込んでいく。
「おおー、効果覿面。」
「わ、わざわざ毒のある生物に触れないのと同じ感じだね。」
毒蛙かな?
それにしても俺って大分運が良かったよね。恐らくガイアデルガと戦った際に一番厄介になるのはこの瘴気だろう。たまたま俺は効かない体質だから本来の実力で戦えたけど、もし他の人であれば瘴気の対策が出来なければ相手にすらない気がする。
さっきまで動いていた草をかき分けながら進むと、目の前に割れた巨岩が現れる。しゃがんで草と苔に覆われた岩の表面をなぞると謎の印が刻まれていた。
その印を確認してからロドにもらった地図を開く。
「・・・これか?」
「あー、確かにロドさんからもらった地図に描かれている印と一緒ですね。」
広げた地図と印を交互に見ていると、隣からミリアが覗き込んでくる。
急に綺麗な顔が現れるとドキッとするな。
「それで何をするのですか?」
「純潔の乙女の血を捧げろだって。」
「どんな儀式ですか!? と言うか明らかにそんな事書いてないじゃないですか!」
・・・っち、なんだよ見えてんのかよ。
実際には印に触れて魔力を込めると徐々に光り輝き、規定量まで到達すると道ができるんだって。
と、言うわけで頼んだよ、魔力タンク。
「まったく、誰がタンクですか! まぁ実際魔力は有り余ってますけど、、、!」
文句を言いながらもミリアはしゃがんで印に触れる。
印はドンドンと光を帯びていき、その光が見つめられないほど光った後、シュンっ、、、と消えた。
・・・え?
「・・・ミリアさん?」
「ちょ、ちょっと待ってください!? 私は言われた通りに魔力を注いだだけですよ!?」
「・・・注ぎすぎ?」
何も起きないで光が消えた岩を眺めていると、岩の割れ目の先の景色が少し歪んでいること気付いた。
軽く触ってみると透明な空間が波紋のように広がる。
「なるほど、ゲートか。」
「こ、これに入ればいいってこと?」
3人とも明らかに動揺してるが、俺は似たようなものを元の世界で何度も見ているので特に驚かなかった。
俺はイジらしい笑みを浮かべながら3人に振り返る。
「さ、ここから先は何が起こるか分からん。引き返すなら今だぞ?」
「・・・ん、大丈夫、植物があって既に帰れないから。」
「ぶっちゃけ帰れるなら帰りたいですけど、ここまで来たのに帰るのもめんどいです。ワンチャン歓迎されることを願っています。」
「ぼ、僕は、みんなを助けないといけないんだ。そ、それなのにこの程度怖がっていられない、、、!」
意気込みを聞きたかったのにまるで緊張感のない二人の返答で力が抜けた後、ハイルが震えながら決意を口にする。
温度差に風邪を引きそうになりながら俺達は歪むゲートへと足を踏み入れた。