喚ばれた剣聖ー52
次の日
何故かペリナに朝早くに起こされ、朝食と準備を済ませ、ロドの銅像がある広場に待たされていた。
「・・・何でデートみたいな待ち合わせをさせられてんだ? 一緒の屋敷にいるんだし同時でいいと思うが、、、。」
いつも通りの格好で欠伸を漏らしながら待っているが、ちょくちょく視線を向けられていることに気づく。
昨日の試合はジャユ族の定期試合ということもあり、全住人が見に来たわけじゃないようだが、それでもロドに勝ったという事実は直ぐに広まったようだ。
「自意識過剰じゃなければいいけど、うん、なんか気まずい。」
早く来ないかなーと思っていると、向こう側からこちらに小走りで近づいてくる気配を感じた。ようやく来たかとそちらに顔を向ける。
「すみません! 遅くなりました、スイに何故か捕まってしまいまして。」
「どう言う事? まぁ別に時間を決めてたわけでもないけ、、、ど、、、。」
急いだからか軽く頬を上気させながら、白い綺麗な髪をかきあげる。
てっきりいつものローブで来るのかと思ったが、ラウンドネックの少しふわっとした長袖にロングスカートといった、いつもの肌を一切見せないローブと違って随分と軽装な装いをしていた。
・・・ぶっちゃけかわ、、、うん。
ミリアは視線に気づいたのか、服を見せるように軽く回った。
「ペリナさんが見繕ってくれました。ジャユ族らしくない服ですけど昔の族長さんで珍しい服を集めていた人がいたみたいですね。人族の街ではたまに見る感じですけど。」
「・・・お前、誘拐されたいの?」
「どうして攫われる前提なのですか! というか私、気づいたのですが、人族では割と直ぐに面倒なことに巻き込まれますけど魔族領だと美醜の意識も種族によって様々じゃないですか? つまり私も大手を振って歩けるってわけです!」
「昨日絡まれた事は既に忘れたのね、、、。」
まあでもミリアは元々顔が整いすぎているせいで絡まれたり、面倒な目に合うことが多かったらしい。
そんな彼女からすればフードを外してオシャレもできて、堂々と歩けるというのは新鮮なのかもしれないな。
「・・・・・それより律兎さん、あ、あのどうですか?」
「ん? あぁ似合ってるぞ、軽く見惚れたぐらいだ。」
ミリアの表情と態度から何を求めているのか察した俺は直ぐに感想を言った。別にこの程度の褒め言葉なんて彼女からすれば何回も言われたことがあるだろうし今更気にもしないとは思うけどね。
そう思ったが、ミリアは嬉しそうに笑った。
「え〜へ〜へ〜、素直に褒められましたね。」
「はっはっはー、どこまで卑屈だと思われてんだ?」
どうでも良さそうに乾いた笑いを漏らす。
あれ? 普段から褒めてるよね? 心のなかで思ってるだけで声に出してなかったかもしれない。
「それで何処に行きますか? 私はご飯が食べられればどこでも、、、。」
「ブレなさ過ぎだろ。てか朝飯食ったばかりじゃん。」
「ご飯は何時でも食べれます!」
ここの飯は基本的に肉ばっかりだから重くてもたれそうなのにコイツよく余裕だよな。食えなくはないけどさすがに時間は開けたい。
飲食店を避けたいが為に先に自分の用事を済ませようかとボックスをスクロールしていく。
「んじゃ先に俺の用事を済ませていいか?」
「はい、ちなみにどこですか?」
「昨日の鍛冶屋だな。だってほら、、、。」
言いながら折れた鉄剣を見せるように持ち上げる。
中程が砕けてしまったので流石に使い物にならないし新しいのが欲しい。
「では行きましょうか!」
「よし、自信満々に反対側に向かうのやめような? お前迷子になるから絶対に一人で行動するなよ?」
いつから迷子属性がついたのか知らないが、腕を掴んで浅層に向かう。
またあの騒音魔導連結車に乗ると思うと憂鬱だが、移動は速いし使わない手はないよね。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
つい先日ぶりのサアハ中央鍛冶へと訪れる。
相変わらず綺麗な外装の建物の扉を開いて中に入ると前と同じ店員さんが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました、律兎様、ミリア様。昨日の試合、拝見させていただきました。息もつかぬ攻防、あれ程心が奮い立った試合は見たことがありません。」
感極まったようにお辞儀してくる店員に引きつった笑みを浮かべていると。彼は一つ咳払いをして襟を正した。
「失礼、強者に対して弱者から話しかけるなど礼儀がなっておりませんでした。是非とも店内をご覧ください。」
「一つも気にしてないけどね。・・・えーと、武器を一から作って貰えたりするか?」
「勿論でございます。何か素材等はありますか? こちらからも素材は提供できますので、無くても構いませんが、、、。」
「一応あるな。」
俺は一度周囲を見渡して他のお客さんがいないかを確認しておく。そして素材提供用のテーブルへと案内してもらって一つの素材を取り出そう、、、として止まる。
・・・これって普通に取り出して平気かな?
突然止まった俺を2人は不思議そうに見つめる。
「んーーーー、ミリア、念の為障壁張っといてもらえる?」
「何取り出す気ですか、、、。どの程度の?」
「毒とか遮断できるくらい。」
「仕方ありませんね。」と呟いてからミリアは店員さんにだけ障壁を張った。そういえば俺とミリアは効かなかったね。ちゃんと張られた事を確認してボックスをスクロール、その中のある素材をタップして取り出した。
「これなんだけど、、、。」
「こ、これは!?」
薄黒い瘴気を未だに漏らしながら、確かな存在感を見る者に与える一本の牙。
ま、普通にガイアデルガの牙だよね。
「ま、まさか地竜、ガイアデルガの牙? そ、そんな、この地の絶対捕食者に君臨する最恐の一角の牙をどうして、、、。」
「たまたま拾えてな、良ければこれを加工して剣を作ってもらいたい。」
そう言うと、彼は悩ましそうに黙り込む。
どうしたのか不思議に思って首を傾げ、ついでにミリアの様子を確認する。彼女はもう話に飽きたのか向こうに行って適当に武器を眺めていた。
いや早くない?
「素材の希少度で言えば一級品です。ですが加工は難しいと言えますね。硬いのは勿論、常に漏れ出る瘴気で職人が体調を崩してしまいます。」
「あ、マジで? じゃあ難しいか。」
「いえ!とんでも御座いません、我らが命を賭けて、この牙を立派な剣に作り上げてみせます!」
いや命は賭けないでくれるかな、死なれても困るんだけど。
火が灯ったかのように瞳を揺らしながら拳を握りしめている。彼らの職人魂を刺激してしまったのか、後ろに控えていた他の店員達も決して声を上げたりはしないが興奮したようにこちらを見ていた。
そのあまりの熱量に引きながら素材を渡して後ずさる。受け取った店員の何人かは既に体調が悪そうだったが、プライドが許さないのか気合で踏ん張って後に続いた。
「ログロド様を降した律兎様の剣、直ぐに取り掛からせて頂きます。完成しましたらログロド様の御屋敷に送らせて頂けばよろしいでしょうか?」
「う、うん、そんな感じでお願い。」
目を血走らせながら手のサイズとか持ち方の癖に重心位置などの確認をされた後、店はすぐさま閉店する。
飢えた獣に安易に肉を見せびらかせてはいけないと軽く反省したのだった。
ーーー
素材も渡したので俺の用は終わり、手持ち無沙汰になった。早い時間に屋敷を出ているのでまだお昼には遠い。
「何するか。」
「そーですね、確か食材とか補充したいと言ってましたよね? 何か買いに行ってもいいかもしれません。」
「・・・よく覚えてるな。確か露店とかも浅層に多いみたいだし買いに行くか。」
その場で悩むことも無く次の予定が決まったので露店がある場所へ向かう。普通なら荷物になる物は最後に買うものだが、俺にはボックスがあるので問題はない。
「あ! 律兎さん、あそこに串肉がありますよ! 食べましょう!」
「お昼もあんだから加減しろよ。」
やれやれと露店に近づいて串肉をもらう。
ちゃんと宣言通りにペリナが口利きしてくれたのか、俺が顔を見せると喜んで串を渡してくれた。
「ととっ、油が垂れるな。」
「わー、肉汁が溢れてますねぇ。まるで宝石みたいにキラキラしてます。」
垂れても大丈夫なように下に厚紙を敷いた状態で手渡され、丸々としたプルプルの肉から油が滴り落ちる。
水のような見た目で齧り付くと溢れるかと思ったが、じゅわっと口の中で広がるだけで垂れたりはしなかった。
「なんか、トロットロの豚足食べてるみたい。」
「あぶらーって感じですね。」
二本目は絶対に食えないなと思いながら平らげ、喉が渇いたので近くにあった砲丸みたいな外見をした飲料らしきものをもらう。上の方がキュポンっと取れてそこにツタみたいな木っぽいストローを刺して飲む。
「「味薄っす。」」
「はっはっは! この街では濃いほうだよ、酒にしか力を入れない種族だからね。」
つい本音を漏らしてしまったが、店主は特に気にしないで豪快に笑った。
そういえば歩いている最中に何店も酒を売ってる店を見かけたけど普通の飲料を売ってる店は見かけてないい気がする。
「あ、でもだんだん癖になりますね。」
「スッキリしてて飲みやすいは飲みやすいよな。」
確かに味が濃かったしこのくらいの甘さが丁度いいのかな。
飲み物を飲みながら歩いていると、ショーウィンドウの向こうに鮮やかな宝石があしらわれた装飾品が目に入る。
「へぇ~、こういう風なアクセサリーも多いんだな。」
「鍛冶、加工の街ですからね。むしろ他の街よりも多いと思いますよ。」
隣で腰を曲げて覗き込むようにミリアもアクセサリーを眺める。ただどちらかと言うと見惚れてるっていうよりも綺麗だなーと感じてそうなだけかな。
「・・・あまり興味ないか?」
「え? そんな事はありませんよ。ただ昔よく貰ったことがありましたし、今は着飾ることもないので見るだけで満足ですかね。」
あー、貢がれることが多かったのかな?
昔から褒められたり何かもらったり多そうだよなこいつ。
ミリアは少し眺めた後に伸びをしてくるりと振り返った。
「んーーー! やっぱり今はご飯ですね。次何食べますか!?」
「ぶれないなぁ、、、向こうに美味そうなサンドイッチあったぞ。」
「本当ですか! 早くいきましょう!」
「そうだな、少し先行っててくれトイレ行ってくる。」
「そうですか?」とだけ言ってミリアはそちらに向かって歩いていく。
俺はその背中を見ながら、さて、と息をついた。
・・・あれ? 食材は?
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「・・・・・・・・・・・うぷ。」
「お前あれだけ食べてよく昼も食えたよな。」
結局あの後も露店を全部制覇するんじゃないかという勢いで食べ尽くし、ペリナが予約しといてくれたステーキ店でお昼を食べたところ、フラフラになりながら壁に手をついていた。
「い、胃袋は大丈夫ですけどさすがに油が。」
「マジで野菜系少ないよな。これがエルフ族の実りが取れないことの影響かね。」
・・・ん? てかこいつ胃袋はまだ平気なの? 化け物じゃん。
確かに油物が多すぎてきつかったのはそうだけど、食った量が量だろ。何処にその料理がしまわれていったんだよ。
「さすがに少し休憩しますか。」
「もっと前に休めたけどね。」
腹八分目という言葉を知らなそうなミリアを連れて適当なベンチに座る。
水を買ってミリアに手渡して置いた。
「ありがとうございます。」
「魔法で治せないのか?」
「治せますよ、今なら落ち着いたのでいけると思います。」
一言二言呟くと、淡い光が灯って胸のあたりに染み込むように消えていく。すると、青かった顔色がみるみる良くなっていき、ミリアは「ふぅ」と息を吐いた。
「そういうのは勝手に治らないんだな。」
「胃もたれは正常な体の反応ですからね。今は過剰な要素を正常に戻した感じです。」
うん、その過剰な要素は何処に消えたの?
浄化と同じように謎の判別機能で消し去った感じなのかな。
そういえば朝から休まず動いてたし、少し疲れた。
欠伸を漏らしながら眠たげに半目でぼーっと歩く人々を見つめる。
大半がジャユ族だが、獣人や角が生えている魔族に首が長ったり腕が多かったりなど様々。
「・・・異世界、だよなぁ。」
元の世界にも体の一部が変異してしまっている人間もいたが、ここまでの多様性は無かったし、表に姿を見せることもなかった。
落ち着いて外を見ると、改めて異世界にいることを実感する。
「・・・私もこの様な光景は初めてみました。人族領で魔族は滅多に見かけませんからね。」
「つまりお互い異世界に飛ばされたようなものか。」
軽く笑いながら背もたれに全体重を預けるようにだらしなく座る。俺は喚び出され、ミリアは逃げ出してきた、境遇が似ているといえば似てるのかもしれない。
「・・・ひとりだったら心細くて泣いてたかもしれませんね。」
横目でミリアを見ると、彼女はクスリと笑う。
怖い魔族もいれば親切な魔族もいるし、そこは人も変わらないと思うけど、アウェーであることには変わりない。
別の場所に馴染むのに、ひとりでいるか、信頼できる知人がいるかどうかは心の持ち様も大きく違うだろう。
「俺も他人だけどな。」
「えぇー、ここまでくれば友達くらいには関係性上がってません?」
・・・友達? 俺達って友達なのかな?なんか友達って表現はあまりしっくりこないな。
知人ほど遠くもないし、家族ほど近くもない、俺達ってどういう関係なんだろうね。
「律兎さんからすればいい迷惑かも知れませんけど、今思えば喚ばれて来てくれたのが律兎さんで良かったです。」
「・・・へぇ? 金髪碧眼の優しい勇者様が良かったって言われたけどなぁ。」
「あれ? 結構根に持ってます?」
そりゃそうだろ。
お前とのファーストコンタクト結構悪かったからな?
見た目が清楚過ぎてギャップで風邪引きそうだったもん。
「冷たく突き放そうとしながらも、お人好しな性根が隠せなくて、面倒事が嫌いなくせに誰かの為に面倒事を背負い込む、そんな律兎さんが私は好きですよ。」
好きと言われて思わず目を見開く。
横目で見ても彼女はこちらを見ておらず、優しそうに微笑んでいるだけだった。
多分今言われた好きに恋愛的な要素は無さそうだ。
「あ、そうだ、ミリア、はいこれ。」
俺はポケットにしまっていた主張がそこまで激しくない赤色の宝石が小さくついた細いブレスレットを手渡す。
ミリアは手渡されたブレスレットを見て目を見開いた。
「・・・これは?」
「流石に食べ物だけだとな、、、。ま、いらなかったら売り飛ばしてもいいぞ。」
ミリアは手渡されたブレスレットをキュッと握って大事に抱える。
「・・・そんな事しませんよ。ふふっ、ありがとうございます。」
嬉しそうに笑うミリアを見てると気恥ずかしくなって思わず目を逸らす。柄じゃないことをするもんじゃねぇなと頬をかいて正面を向いた。
「優しいですね。」
「うるせぇよ。」
間に降りる沈黙。
でも決して嫌だと感じることはなかったのだった。




