喚ばれた剣聖ー50
砕け散った瓦礫の山と一緒に地面へと着地する。
結構な無理をさせてしまったと剣の状態を心配したが、特にヒビ割れたりしていることはなかった。人まずはその事に安堵する。
壊れないよう気にしすぎて剣を庇いすぎた。
その影響で剣鬼の剛剣に剣舞の柔剣が少し混じったんだろう。お陰で岩山の砕け具合も中途半端だ。
俺は瓦礫が降り注ぐ中ゆらりと立ち上がる。
それを見てロドはとても嬉しそうに笑った。
「・・・ふはっ! お前なんなんだ? 人族、それも天能を使うことなくここまでやってのける奴なんか知らねぇぞ。」
「ならお前の常識が狭いんだよ。俺なんて所詮中の下レベルの剣士だからな。」
「んなわけねぇだろ。もしそうだったら俺たち魔族はとっくに殲滅されてる。」
いや実際にそうなんだから仕方ないだろ。
てかやっぱり天能を知ってんのか。それならこいつも使える可能性があるな。
警戒度を上げて再び構えを取っていると、ロドは鼻を鳴らす。
「さ、準備は整った。」
「あ? なに、、、が!?」
そしてロドが、腕を組んだかと思えば首筋に嫌な感覚がビリッとはしる。その直感に従って大きく飛び退くとさっきまで立っていた場所に岩の棘が生えていた。
前までは相手が殴ったり踏みしめた所を起点に岩の棘が生えていたのに今回は唐突にこちらの地面から現れる。
飛び退って着地した瞬間にもピリッと嫌な感覚を感じて横に跳ぶ。そこからも棘が生えてきて、ある程度の理解が及んだ。
「・・・っち、魔力を浸透させてやがったな。」
相手は大味な攻撃を何度も繰り返しながら足元の地面に自分の魔力を徐々に浸透させたのだろう。支配下に置かれた地面はロドの望むように形を変えてこちらを襲ってくる。膨大な魔力によるゴリ押しだが、それを通せるほどの魔力量があるってわけか。
すぅっと息を吸い込んで足に力を込める。
剣閃一式 閃鳴縮地
轟くような音を響かせ、一足で相手へと迫る。
無数の棘が刺し貫こうとしてくるが、棘はスピードに追いついてこれない。
ロドも速さに驚き、即座に斜めの土壁を形成。
そのまま上に反らされると壁にぶつかるので剣を振り抜いて壁を切断。
ただそのスピードが落ちた瞬間に切断した下半分から腕が伸びてきて胸ぐらを掴まれた。
そしてゆらりと持ち上げられて地面へと叩きつけられる。
「ーーかはっ!」
「捕らえたぞ!」
肺から空気が抜けて息苦しい中、もう一方の腕に岩を纏わせがら振り上げられるのが見えた。
俺は即座に相手の腕と肘を押し曲げて拘束から逃れる。
その際に、剣をロドの向こう側に手放してしまった。
ロドはこちらに目を向けることなく地面から再び棘を生やそうと狙っている。今は剣を持ってないし砕くにしても硬く圧縮された土を殴れば骨折する可能性が高い。
「・・・落ち着け。」
ーーぬるり
土の盛り上がるタイミング、相手が狙いそうな位置に岩の先端と先端の開き具合などを瞬時に読み切り、酔っ払ったかのように揺れながら回避した。
止まるわけにはいかないので棘を踏み越えるが、態勢を整えていたロドから拳が放たれる。それを思わず両腕で防いでしまう。
ーーボキ
「ーーっつ! 骨折れたか!?」
そのまま殴り飛ばされ、滑りながらなんとか着地するがその後も下から棘が追撃してくる。なんとか回るように避けながら、距離を詰めようと狙う。
右腕に残る鈍痛から必死に意識をそらしながら走り続け、相手の隙を探し続けた。
ま、ただでやられたわけじゃないけどな。
「・・・器用なことしやがる。」
ロドは顔を顰めながら肩に刺さっていた岩の棘を引き抜いた。
殴られた瞬間に衝撃を減らそうと後ろに飛んだのだが、ついでに蹴り壊せそうな細さの棘を折って相手に向かって蹴り投げといたのさ!
「だが、逃げ回ってても勝てねぇぞ!」
パンッ
ロドは手を組み合わせて何か力を込めている。
多分魔法だろうが、よくこれだけ棘を生やしながら並列で発動させられるな。
てかやけに溜めが長いけど、何をしようと、、、
「土造 地竜 峨威亜出流我!」
「ーーっな!?」
聞き覚えのある嫌な名称が耳に入った瞬間にロドの足元に巨大な魔法陣が形成される。
そこから全身を赤褐色の外殻に身を包んだガイアデルガが現れた。
『で、でたー! わ、我らが土造魔法の最強造形生物、峨威亜出流我だー!』
「ーーぜぇ、ぜぇ、ぜぇ! 喰らえ!」
ロドはふらついて膝をつく。さすがに魔力が尽きてきたのか棘の生成も収まった。
だが、問題のガイアデルガもどきは牙の並ぶ大口を開けてこちらに迫ってくる。
走りながら、何とか回り込めた反対側で剣を拾い。大口を開けたガイアデルガに立ち向かう。
剣を横に回転しながら跳び上がって、噛みつかれのを回避。相手の上に乗れたのでそこをひた走る。
すると、外殻からころりと赤黒い石が転がってるのが見えた。
・・・これって。
ーーズドドドドドドドドッ!
本物と同様の爆発に巻き込まれ、煙に包まれていく。
『ついに律兎選手がまともに攻撃を食らったー! 常に余裕の立ち回りで圧巻の実力を示した彼も、、、ん? な、何だ、、、ば、爆煙が?』
燃える炎と黒い煙が渦巻き、その中心が露わになる。
爆発と煙を受け流し、その威力を倍増させながら唖然とした表情を浮かべるロドに狙いをつけた。
剣舞 縲縲円天!
「喰らいつけ! 峨威亜出流我!」
体に乗った状態のまま迫るガイアデルガもどきの大口を無視してカウンターを放つ。
これが最後の一撃だとお互いが理解し、全てを込めて吠える。
「「うぉおおおおおおおお!!」」
ーーッカ! ズガァアアアアァンッ!
爆煙と土煙に包まれ、辺り一帯の視界を閉ざした。
『ーーな、なんという攻防だろうか。』
皆が会場に必死に目を凝らす。
音は止み、息を呑んで煙が晴れるのを待った。
すると、、、
ーーガララッ
動かなくなり、ひび割れたガイアデルガもどきの口の中で閉じられるギリギリを腕と剣で支え、血を垂らしながら膝をつく律兎が現れた。
『こ、これは、、、!』
さらに煙が晴れ、ロドも姿を現す。
怪我ややけどもなく、驚いた表情のまま、固まっている。
そしてその足元には、砕かれた宝石の破片が散らばっていたのだった。
『しょ、勝者、、、律兎ーー!!』
ドッ!と爆ぜるような大歓声が会場を包みこむ。てっきり批判や動揺、恐怖による静寂が巻き怒るのではと予想していたのでこの歓声には素直に驚く。
俺はようやくの勝利宣言に、力が抜けてそのまま座り込んだ。
「ふぅ~~、流石にきついな。」
「あそこまでいければ勝てると思ってたんだがな。まさか覆されるとは思わなかったよ。・・・ほら。」
体調が回復したロドがこちらまで歩み寄って手を差し出してくる。ぶっちゃけもう少し座っていたいところだが、こんなに荒れた場所では休もうにも休めないので素直に手を取って立ち上がった。
立ち上がって少しふらついていると、ロドにぐいっと引き寄せられる。
・・・え、そういう趣味はないぞ?
「・・・今度はお互いに全力で戦おうぜ。」
そっと囁かれた言葉に眉をしかめて嫌な顔を浮かべる。どうやらまだ手札を隠している事を察せられた様で、バンと最後に背中を叩いた後、彼は笑いながら出口へと歩いていった。
俺はその背中を鼻で笑う。
「御免被るね。」
ーーー
会場を後にした俺はスイの医務室へと向かった。
てか思うんだけど、何で負けた方は傷が全快して勝った方はズタボロなの? おかしくない?
腕はまだズキズキと痛むし、足はガクガク。
わざとらしく腕を抱えながら歩いていると、ちょうど横から1回戦で敗退した雑魚ビビり弱者が現れた。
「ん? お前どこ行ってたんだ?」
「・・・あ、り、律兎?」
話しかけると何故かハイルは一度ビクッと震えて驚く。何を今更ビビってんの?
「す、少しお腹が痛くて、、、。」
「なんか変なものでも食った?」
まぁ腹痛はしょうがないか。我慢しようとしても辛いものは辛いしね。
そこで俺はふと気になったことを聞いた。
「あ、そうだハイル、お前足大丈夫か?」
「え? う、うん? 試合でひ、捻った足はまだ痛む、か、かな。」
俺はハイルの返答に「うんうん」と頷いて胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。
叩きつけられた衝撃でハイルは息を吐き出して、苦しそうにもがいている。
「ーーっかは!? な、なに、、、を!?」
「んー? 普段からあれほど速く走れるやつがあの程度で足をひねるわけないだろ。俺が聞いたのはお前につけさせた足の重りで痛くねぇかなって聞いただけだよ。」
軽くカマかけしただけで直ぐボロだしたなこいつ。てかあいつそういえば重りつけさせたまま試合出させてたな。もし、本来のスピードを出せてれば斬って刃が通らなかったら直ぐに後退できてたかもね。
「てか試合で負けたなら生転石で怪我は治ってるに決まってんだろ。」
「ーーっつ!」
相手は顔色を歪ませ、目に光を灯らせ睨みつけてくる。
・・・何してんの? きれいな色ですね。
「は!? じゃ、邪眼が効かない!?」
「・・・邪眼? 魔眼、イーヴィルアイ、凶眼、邪視の類か? いや、呪いか刻印を施した瞳術の可能性もあるか。・・・随分と古めかしい。その程度に対策を施していない裏の奴らなんてなかなかいないぞ?」
俺は厄羅の呪いで効かないだけだけどね。
実際に現代で魔眼とかの類はいわゆる先天性疾患に分類されている。一族に出やすいとか色々あるけど目は脳に直結してる器官でもあるから精神疾患を引き起こしやすく、負担も大きい。
それに制御も難しいので事故も多く、忌避されている事も多かった。
てか瞳術なんて昔の技法だしな。
まぁ、見るだけで事象を起こせるから強力ではあったし、それで実権を握っていた一族も確かにあったみたいだけど、そんなに強い能力に対抗策が作られないわけはない。
今は既に殆どの目に関する能力は代替できる術や現代技術もあるから、正直時代遅れなんだよな。
「現象が起きてないってことは物理干渉というより精神干渉か。幻覚、混乱、魅了、、、石化は周囲にも影響がでるから違うな。ま、効かないしどうでもいいけど。・・・んで、ハイルはどこやった?」
相手は冷や汗を流しながら必死に視線を周りに巡らせる。何か突破口を探しているのかも知れないが、逃がす気はない。
「試合見てたなら分かるんじゃないか? 逃がす気はない、早めに自白してくれれば俺も優しくできるぞ。」
「・・・い、言うと思うか?」
「そうか、なら手荒にいくしかないな。」
俺は懐を探って赤い布に巻かれた小指の第一関節位しかない木の枝を取り出す。相手に見せびらかすように目の前に持っていくと、謎の人物はゴクリと息を呑んだ。
「な、何だそれは?」
「呪木って知ってるか? 戦争や凄惨な事件現場に忽然と生える一本の木があってな。それは周囲の血を吸ってみるみると成長していく。・・・恨みや悲しみ、迫る死に対する恐怖とかを養分にな。」
枝の表面に爪で軽く傷をつける。
すると相手はその瞬間に顔を歪めた。俺は拘束を解くと、そのまま謎の人物は腹を押さえてうずくまる。
「ーーっつ! ーーーっ、ーーーっつつ!」
「あぁ、声は出せないぞ。呪木は食事を止められることを嫌うからな。」
俺は倒れ込んだ相手を尻目に呪木の赤い布を緩ませる。
呪木というのはどこにでも生える可能性があり、血溜まりから生えることもあれば、多くの人が死んで血を吸いすぎた木が呪木と化すこともある。
種類はあまりにも多岐に渡るから全部を把握はしてないけど。
これは『墨縛』と呼ばれていて傷をつけられた瞬間に周囲の人物に腹を締め切られるほどの幻痛を与えるタイプだ。
もちろん傷つけた俺もめちゃくちゃ痛いが、正直この程度の痛みなら昔から味わってきた。
緩めていた赤い布をキュッと絞ると痛みが途端に和らいでいく。
「別にハイルの居場所が知りたいだけだ。それくらい簡単だろ?」
「ーーふー、ふー、ひゅー!」
涙目で肩を抱き、震えながら必死にこちらへと視線を送る。それに対して俺は冷たい目を向けた。
「喋れないか? それとも喋る気はないか? ならもう一度やらないとになるな。」
「ーーっあ! ひ、いやだ!や、やめぅああーーー!」
うぁあああああああああぁ! お腹痛ってぇ!
絶叫を心の奥底に必死に押し込めて、相手の前にかがみ込む。相手は再び声を出せなくなり、苦悶の表情を浮かべていた。
また赤い布を緩めて締め、痛みを消す。
「・・・はやめの返答を頼むぞ?」
お互いにの為にね。
「ーーっはぁ!! も、もうやめて!反対通路側の備品置き場にいるから!」
叫ぶように必死に声を上げる相手の声を聞きながら嘘がないかを表情を見て確かめる。
あまりに必死な形相に嘘はなさそうだと思って立ち上がってホコリをパンパンと落とした。
「あとついでに依頼者とか目的とかも教えてもらえると助かるんだがな。」
「・・・そ、それは無理だ。お、教えられない。」
「へぇ~。」
俺はまた軽く呪木を持ち上げると、相手は震えてお腹を押さえながら後ずさる。
「違う! 本当に無理なんだ、俺達は彼らの事を話すことを魔法で禁じられている、だ、だから!」
うん、予想通りだね。
ハイルだって里を追い出される時に記憶を消されるくらいなのに、裏の仕事をした人物がその程度の口止めがされていないとは考えづらい。
「ま、取り敢えず姿くらいは見せろよ。まだ痛い目みたいなら付き合うけど。」
「わ、わかった。」
そう言うと謎の人物の皮膚がどろりと溶け落ちる。
あまりの気持ち悪さに引きながら見つめていると、黒い角に黒髪、赤い目が特徴のゴート族が現れ、豊かな胸の膨らみが、、、
「女じゃねぇか!」
「うわぁ!? な、何だ急に!?」
だって俺って言ってたじゃん! てか何で魔法を解くと裸なんだよ、もし今誰か来たら完全に人気のない通路で服をひん剥いた不審者、、、
「何の騒ぎだ!? ここをどこだと思っ、、、て、、、。」
ちなみにこの廊下で一番近い場所は医務室になる。
さっきまでの会話は呪木で叫び声を発せなかったのと静かに詰問していたため、誰も来なかったが今の大声でペリナが反応して出てきたようだ。
そして全裸の女性と俺を交互に見て目を丸くし、徐々に軽蔑した眼差しへと変わっていく。
「・・・貴様。」
「まて、誤解だ、話を聞いてくれないか?」
「試合はあれ程素晴らしかったのにな、、、。」
「話をしようって言ったよね!? 違うんだって、こいつは、、、!?」
ヌルン
不自然な音がしてそちらに視線を送るとゴート族の女性はドロリと溶解して建物の隙間へと逃げた。
突然溶けた相手にペリナは目を丸くしているが、俺は理不尽な展開に青筋を立てて叫ぶ。
「あいつ逃げやがった!」




