喚ばれた剣聖ー49
まさかの決闘戦が始まってから一番の激戦に会場は未だ興奮が収まっておず、口々に語り合う者やスイやペリナに心酔したかのような眼差しを向ける人々が多く見受けられた。
かく言う俺も今の勝負に魅入っていた。
息をつく間もない魔法や技術の応酬に、この短い期間にこれほどの成長を遂げたスイに。
・・・まさか片鱗を見せつけられるとは、成長速度が異次元すぎる。
真似してみろとは言ったけどここまで短期間なんて想定してるわけないだろ。
思わず乾いた笑みを漏らした後、俺は観客席を立って入場口まで急ぐ。
ちょうどスイが戻ってきたタイミングで目が合った瞬間に彼女の身体が大きく揺れた。
「あっぶ!」
頭から崩れそうになるスイを慌てて支える。
スイは胸の中でスースーと寝息を立て始めた。
・・・無理もない。一瞬の判断にすべての神経を集中して息も、瞬きもせずに体を動かしていた。体もそうだが、特に脳には強い負荷がかかった筈。
仕方ないなと膝の裏に手を入れて抱え上げる。
後でちゃんと労ってやらないとな。
「よく頑張ったよ。」
もしかしたら本当に成るのかもしれないな、困難や理不尽を斬りつけるための至剣へと。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
スイを医務室に連れて行き、観客席に戻っていると向こうから慌てたミリアが走ってくる。
「り、律兎さん! スイは大丈夫ですか!?」
「ん? おぉ、だいぶダメージは大きそうだけど後遺症が残ったりはしなさそうだ。」
「よかっ、、、え、それって大丈夫ではないですよね。」
「結構酷くはある。」
「それ早く言ってくださいよ!」
そう言ってミリアは医務室へと向かう。
ちなみに生転石で傷が全て治ったペリナさんが既にスイに付いていてくれているから大丈夫だと思うけど、確かに医療系の魔法が使えるミリアも同伴しといた方がいいか。
実際に負荷が大きかったのか熱でてるしね。
そう言って走り出したミリアが医務室と反対側の通路へと曲がろうとしたので慌てて戻って首根っこを掴む。
「ーーぐぇ!」
「お前どこ行くんだよ。」
呆れたようにため息を吐きながら反対方向を指さして医務室の場所を教えると、ミリアは「えへへ」と誤魔化しながらそっちに向き直る。その際に一つだけ伝えておくことがあったのを思い出した。
「あぁ、そういえば次のお前の対戦相手はたぶんロドだから棄権してもいいぞ。」
「・・・・・え、あ、あの空欄ってログロドさんだったのですか?」
うん? まだ気づいてなかったの?
そりゃそうでしょ、あの謎のシード枠に住人が一つも気にする素振りがなくて、本人の戦闘好き。絶対俺たちの実力を自分で確かめたいって思ってるはずだ。
俺とスイがいるのと正反対なのは決勝で戦いたかったとかじゃないか?
「・・・・・律兎さん、もしかして私がログロドさんの攻撃にどれだけ耐えられるのか確かめようとしてました?」
「・・・・・してました。」
攻めるような視線で睨まれたので正直に思惑を吐露した。だって気になるじゃん、ミリアがどこまで耐えられるのかと、相手の手札。
「全く、私は丸くなってひたすら殴られることしか出来ないのですよ!? 見てて心痛くならないのですか!?」
「・・・うん、ぶっちゃけ惨かった。」
なのに2回も勝ち抜いてるのは何なの?
ミリアと戦ったジャユ族の戦士は2人とも心が折れて、吐きそうに突っ伏しながら棄権させられていた。観客達は選手にもミリアにも同情するという謎の空気感が漂っていたからね。
「まぁ棄権していいならしますけど、スイも心配ですから。」
「あぁ、ある程度はジャユ族の戦い方とかも知れたしね。」
スイがペリナとの戦いで全力を出してくれたお陰で相手も全力を出さざるおえなくなった。相手の手札はある程度予想ができてきたし、ミリアの障壁がどこまで相手の魔法に対して有効かも知ることが出来た。これはいずれ相対するかもしれない時に役立つと思う。(今もしてるけどね。)
「なら後は律兎さんが実力を示すだけですね。そうすれば力が至上である彼らとの対話が楽になりますから。」
「あぁ。」
ま、残りの理由としては実力を示さないとハイルが危ういからね。てかあいつどこ行ったよ?
スイとペリナの戦いの後くらいから行方眩ませたんだよな。別に問題があるかといえばないけど、あいつだったらスイを心配してミリアよりも早くに医務室に向かいそうなんだけどな。
そんな事を考えながら会場へと戻ろうとすると、チョンと肩を突かれた。
「ん?」
振り返るとミリアが何故か少し慌てている。
お前が呼んどいてなんだと聞こうと思ったが、こちらが口に出すよりも早くにミリアが話し始めた。
「律兎さん、ぶっちゃけ実力を見せるとか相手の体裁を保つとかどうでもいいのであまり無茶はしないでくださいね。」
「お、おう? 別にする気はねぇけど。」
「でも、、、」
彼女は少し照れたように笑う。
その裏表のない笑顔に目が離せなくなった。
「負けないでくださいね。勝って、美味しいご飯を奢ってください。」
「・・・結局飯かよ。」
相変わらずだなとこっちも笑みがこぼれる。
負けないで、、、か。
別に負ける気はなかったけど、応援される事なんて久しく無かったなと思い心の奥が温かくなる。
さてと、約束しちまったし、負けられねぇな。
ーーー
『さぁ、棄権に次ぐ棄権で、少し盛り上がりに欠けてしまったがこれが最後の試合だー! まずはこちら、常に余裕の立ち回りで相手を完封してのけた人族の剣士、律兎ーー!!』
歓声と共に会場の真ん中へと歩を進める。
決して気負うこともなく欠伸を漏らしながら眠そうに相手の登場を待った。
すると、、、
ーーズドン!
目の前に土埃を上げながらロドが着地する。不敵な笑みを浮かべながら俺よりも頭二つ飛び抜けた長身の大男が腕を組んで立ち塞がった。
『相対するは我が種族が王! 八ツ首に選ばれ、この街を統治する負け知らずな漢! その圧倒的な力を見せてくれー! ログロド・ジャユ様ー!』
怒号のような歓声が響き、ロドは片手を振って応える。そしてその鋭い目でこちらに笑みを向けた。
「さ、ようやくだな。途中にずいぶんと盛り上がっちまったお陰でその後が尻すぼみでよぉ。ここで巻き返さねぇとな。」
俺はその言葉に眠たげに返す。
「俺もさっきまでは色々考えてたけどさ。なんかぶっちゃけどうでもよくなってきてな。」
「ああ?」
俺が興味なさそうにしていることに鼻白んだのか少しロドから威圧的な雰囲気が感じられる。そしてそんなロドに対して俺はいつもの気怠げでありながら自信を持った笑みで返した。
「でも、負けられねぇみたいなんでお前に勝つとするわ。」
「・・・ッカ! そうかよ、ならお互いに楽しもうか。」
ロドはそう言って構えを取る。
構えは徒手空拳、ジャユ族は得物を使うより素手と魔法で戦うのが主流らしい。
俺はそれに対していつもの鉄剣を構えた。
『初め!』
ーーバッ!
合図と共に二人とも前へと走り出す。
ぶつかり合う直前にロドは拳を振りかぶって地面に向かって拳を振るう。
振るわれた地面を起点に鋭いトゲが現れてこちらを襲うが、当たりそうな棘だけを割り砕き、それを足場にして飛び上がる。
ロドの背後を取って回るように剣を振るうが、その剣はロドが一瞬で作り上げた土の柱で妨げられた。
バゴォン!
妨げた土の柱が真ん中から砕かれて顔の位置へとロドの拳が迫ってくる。あまりに速い拳に驚くが、剣の腹で火花を散らしながら逸らして、懐へとぬらりと入り込む。
「すぅーーーー、はっ!」
脱力からの斬り上げ。
空気を裂く音を響かせながら迫る刃を防ぐために生成された棘を切り裂きながらロドへと迫る。
「ーーおっと!」
相手が笑みを浮かべると同時に足元の地面が盛り上がり、バランスを崩して剣は宙空に振るわれた。そして体勢の崩れた俺に追撃を加える一撃が落とされる。
「土造 二鐓撃槌。」
空気を押しつぶす大槌と地面の間に剣を置いて、一瞬の間を作り、その間に転がって範囲内から脱出。剣は見事にへし折られた。
「あーあ、愛着あったんだけどな。」
「なら支えにすんじゃねぇよ!」
ご尤もで、えぇ。
魔法の展開が驚くほどに早い。
少しでも油断してしまえば棘に刺し貫かれるだろう。
でも、それだけだ。
まだロドから特出した力を引き出せていない。
手を抜いているのか様子見しているのか知らないが、狙うなら今か、、、?
ボックスをポケットから取り出して、剣を取り出す。
碧色の細い刀身に華美にならない装飾。軽量で取り回しはしやすいが刀身が少し短い事が難点かもしれない。
「何だ、まともな剣持ってんじゃねぇか。」
「借り物だよ。壊せないから手加減頼むわ。」
スイから借りた剣を構える。
ロドはダンッと地面を鳴らして魔法を発動。
「土造 峨蛇峨蛇羅 二蛇の我造り!」
ーーズガガガガガガッ
「・・・はい?」
峨蛇峨蛇羅まではまたあの蜥蜴かと思っていたら土が盛り上がって2体の岩トカゲが出現した。
2体とか聞いてねぇけど!?
腕を振り上げてきた一体の攻撃を避けて滑るように下がりながら剣を構える。足に力を込めて一息に飛び出す。
『剣閃一式 瞬閃一刀』!
振り下ろされた腕とは違う腕の付け根を狙って剣を振るう。岩を弾けさせながら一体の腕が吹き飛ばされた。
『剣閃一式』
七剣が常人には使えない至技の他に扱いやすく簡略化し、教示できるようにした剣閃の技。
他にも剣舞一式とか剣鬼一式とかあるけど、それは状況次第で使い分けている。
ま、普通は一つの式を極めるから使い分けないけどね(ドヤァ)。
「逃がすかよ! 土造 二鐓撃槌 二蛇の我造り!」
両脇に出現する岩の大槌。
威力が乗った大槌が迫りくるのに冷や汗を流しながら、体を捻って息を吸い込む。
「剣舞一式! 渓転空嵐!」
回りながら流れを作って両脇の大槌をぶつけ合わせる。自壊した岩の破片が降る中、地面へと着地してロドへと向かうが目の前を岩トカゲが立ち塞がった。
・・・うん、こいつ活躍したことないよね。
ただ問題があるとすればロドがフリーになるので魔法を練られたり次の手を考える時間を与えてしまう。ならまとめて後ろまで壊すか!
「さぁ行くぜ、百迅無双!」
ーーボッ!
空気を裂きながら前へと踏み出し、百の剣閃を浴びせかける。こちらに向かって大口を開けていたトカゲは木っ端微塵となり後ろのロドにも剣閃が迫りゆく。
「土造 土壌反蓋。」
が、気づかない間に広がっていた頭上の魔法陣から山のような大地が落ちてくる。
俺は舌打ちしながら、技の途中で止まることのできない体を無理やり捻って上の山へと飛び上がった。
百迅無双の最後の一撃を放った構えのままに腕に力を込めて全身の血流を加速させる。
剣舞?剣閃? いや、威力が足らないし俺の腕じゃこの山をどうにかできない。
チラッと片手に持った剣に視線を送る。
・・・耐えられるか? いや、持たせる。
戦場に降り立ち、ただただ力を、死力を振り絞ってその一刀に注ぐ最恐の至剣。
『受け流す? 技? 速さ? そんな小細工知ったこっちゃねぇ、俺はただ振り下ろすだけだ、テメェの命を込めた一撃をな。』
最恐の鬼が放つただの一撃。
「至剣 『一刀両断』。」
その瞬間、隕石がぶつかり合ったかのような轟音が辺り一帯に響き渡るのだった。




