喚ばれた剣聖ー47
入場口に戻ると、まだペリナが待っていた。
俺はそれにめんどくさそうな目を向ける。
「残念ながら勝っちゃいました。てかあいつ経験値低いだろ? あれだけで焦りが生まれるとか同じ相手と形式試合する事が多いんじゃね。」
「・・・そこまでわかりますか。貴方の言うとおりですよ。彼は指導者や街の自衛官としてとても優秀です。が、戦闘経験で言うと少ないと言わざるおえませんね。・・・ただあそこまで一方的に負けるとは思いませんでしたが。」
いや一方的でもなかったろ。
前半はちゃんと花を持たせるために攻撃させてあげてたんだからさ。
あ、そこを含めて一方的って言ってるのかな?
「・・・かなり開きがありますね。これは私も油断できません。」
「え、お前も出んの?」
「・・・・・・・・対戦表ご覧になられました?」
あ、やべ、ちゃんと見てなかったわ。
改めて渡された粗悪な紙に書かれた対戦表を見るとちゃんとペリナと記載されていた。
「わるいわるい、えっと俺と同じ組なんだな。じゃあその内対戦するかもしれないってことね。」
「・・・理解してなかったのですね。」
・・・ごめんて。
でもペリナは変わらずに使用人の服だし参加するとは思わないじゃん。確かにちゃんと見てなかったし、道理でこちらを煽るような事を言ってた訳だ。
呆れた眼差しとは目を合わせないようにしながらそそくさとその場をあとにする。
・・・確か次はミリアだったかな~!
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「はあー、はあ、はあー! も、もう無理、き、棄権します!」
「あ、や、やっと終わりました?」
次のミリアの試合はまさに一方的な展開で(ミリアが)、強固な障壁を張ったミリアを相手選手は崩すことができず、魔力と体力が尽き果てて諦めることとなる。
ミリアは申し訳なさそうに相手にペコペコした後、疲れたようにこちらへ戻ってきた。
「お疲れ。」
「律兎さん、障壁の中で延々と殴られ続ける気持ち、わかりますか?」
「・・・・・見てて心苦しくはなりました(両方)。」
障壁を張って頭を抱えながら丸くなり、必死に殴られる音と相手の怒気に怯え続けるミリアと鬼気迫る表情で精根尽き果てるまで攻撃を続ける相手との光景はなんというか、、、惨かった。
見てる観客も引いてたし、てか俺も引いた。
「わ、悪かったよ。後で言うこと聞いてやるから、もう少し頑張ってくれ、、、な?」
「・・・絶対ですよ?」
流石に罪悪感があるので後で何か安いものくらい買ってあげよう。ロド、これが終わったらお金くれないかなー。
「あ、始まりますよ。」
歓声が沸き起こり、会場に視線を向ける。
ミリアが声を上げて指差す先を見るとそこではスイが会場の中央へと歩いていく最中であった。
ほうほう、相手はジャユ族ではなく硬い鱗を持つリザード族なのね。
「リザード族って最初に戦った以来戦闘を見るのは初めてだな。」
「ですです、私は隠れてたので最初も知りませんけど、軽くトラウマですね。」
襲われた魔族の代表だからね。
ミリアは俺が現れる前に魔族に追われていたはずだから、トラウマになっていても仕方ないか。
「た、ただ、ミスルル族とリザード族はあ、相性的に悪いよ。それにリザード族は残虐な一族とも言われてるから、、、。す、スイさん、大丈夫かな。」
前にある手摺から顔だけ出すようにひょこっとハイルが現れる。
相性? あー、もしかしたらリザードには水魔法が効きづらいとかあるかもしれないな、、、。
ーーー
会場の真ん中まで進み、相手を見下ろす。
相手は小さなミスルルの少女で、腰に剣を佩いてはいたが、恐らくいつも通りの格式張った剣術の使い手だろう。
リザード族の戦士 グルメカ・リザードはスイを鼻で笑う。
ミスルルの戦士とは過去に数回殺し合ったことがある。その誰もが水魔法でこちらの隙を狙い、流れるような剣技で隙を突いてきた。
だが、我らも水の一族。
水とともに生きた我らが流れを読むなど造作もない。奴らの剣技など通じぬ。
グルメカは大きな口を歪めながら、剣を引き抜く。
その剣は波打ち、水中戦を得意とする彼らが最も得意とする形状であった。
そしてその切っ先をスイに向かって突きつける。
「小娘、知っているか? 強者が全てのジャユ族が主催する決闘戦では相手を殺す以外のすべてが許されている。くくくっ、そうだな、貴様の衣服を剥いてこの観衆にさらしてやろう。」
「・・・そう。」
相手の嫌悪と怒りに歪んだ表情を見ようと煽るが、少女は変わらぬ無表情のまま呟くだけだった。
グルメカは意にも介さないその態度を不快に感じ、面白くなさそうに顔を顰める。
「強がっても無駄だ。貴様らミスルルは俺たちには勝てぬ。そもそも何を思って辺境の村から出てきたのか、引き籠もっていれば酷い目に合うことも、、、」
「・・・どうでもいいけど」
腕を組んで相手を見下していると、スイは興味なさそうに遮った。欠伸を漏らしながら手を前に出してこちらへ向かってプラプラしてくる。
「・・・戦わないの?」
「そうか、後悔するんじゃねぇぞ!」
グルメカは青筋を立ててスイに向かって走り出す。
そのまま走りながら、相手の死角になる尻尾を器用に操り、そっと腰に隠していたナイフを抜く。
ナイフには麻痺毒が塗られ、かすりでもしたら1日動くことはできないだろう。
正々堂々、騎士道など踏みにじるかのような小細工でそっとナイフを背面で隠していると、前から水の槍が飛んでくる。
水の槍はグルメカの表鱗に当たったが、それは撫でるように後ろへと流れる。
リザードの鱗は硬く、水を流しやすい。相手の水魔法を苦し紛れの反撃だと思ったグルメカは嫌らしく笑みをうかべた。
(今のは水槍激! 馬鹿が、我らに対して水魔法など効かん! 箱入りの小娘が!)
グルメカは体でナイフを隠すように剣を振り上げる。
振り下ろした剣は下へと受け流されるが、その際に相手から隙が生まれ、そこにナイフを刺し込む。
(もらった!)
勝利を確信しながら思わず笑みを漏らしていると相手はこちらの剣を逸らした流れのままぐるりと回った。
「・・・単純。」
突きこんだナイフの軌道を変えるように剣を当てられ、勢いのままナイフはグルメカの足を掠って地面に突き刺さる。
「ずあ!?」
掠ったところから痺れるような熱が即座に駆け上がっていき、立てなくなった。
特にナイフをかすらせた下半身は力を入れても痛みが走るだけで動かせない。
そんな彼を見下ろすようにスイは近づく。
「・・・随分と強い毒を持ってきたね。それを自分で食らってたら意味ないけど。」
「ーーっぐ! ーーーっあ!」
スイは真上に立って剣を握り直す。
「・・・殺す以外の全てが許されている。・・・貴方の体は麻痺で感覚はないと思うから、鱗でも剥がそっか?」
「ーーっつ!?」
何か嫌な感覚が下半身に走りながらも動くことも叫ぶこともできず、ただただ思うがままにされる。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「「・・・怖。」」
「い、いいなぁ、ぼ、僕も下になりたい。」
会場の真ん中で、麻痺して動けなくなったリザードのケツと尻尾の鱗を淡々と剥がすスイを見て、律兎とミリアは絶対に怒らせないようにしようと心に誓う。一人、ハイルは危ない方向に思考が飛び始めているのを、律兎は憐憫の眼差しで見つめる。
ーーー
「・・・ぉえ。」
「急に何してんだお前!?」
「い、いや、次僕の番かと思うと吐き気が、、、。」
スイも戻ってきて次に来る自分の番に緊張がMAXになっているハイルからそっと距離をとる。吐かれても嫌だからね。
「てかお前、番が次なら準備しろよ。不戦敗になるぞ?」
「・・・わ、ワンチャンあり?」
「なしに決まってんだろ。・・・あ、そうだ、もし勝ったらスイと2人で出掛けられるように仕向け、、、」
ーーシュバッ!
追い詰めすぎても吐かれたり逃げたりしそうだったので飴を与えてみようとしたら即座に会場へと向かった。スイは会話が聞こえなかったのか首を傾げているが、勝手に褒美にしたことは内緒にしておこう。バレなければどうということもないのだ。
「・・・? 何の話?」
「何でもねぇよ。てかさっきの試合、随分と上手く魔力を広げられてたな。」
会話を変えようと先ほどの試合に関してスイを褒める。彼女は話題の転換に不思議そうにしていたが、深く気にしないでコクリと一つ頷いた。
「でもまだ即座に薄く展開はできないから水魔法を放って、弾かれた魔法を霧散させた。」
「自分の魔力がこもった水をわざと散らせたのか、その中なら魔力を薄く張るより効率的に相手を捉えられる、、、。」
「・・・そういう事。」
・・・天才ってこういう事を言うんだろうなー。
大気中には水分が漂ってるし、それを魔法で応用して一時的な認識空間を作り上げる。勿論強い風が吹いたり衝撃で吹き飛ばされれば乱れるが、一瞬を理解するには十分だな。
「それで相手が隠し持ってたナイフに気づけたんだな。ミリアなんかずっとハラハラしてたぞ。」
「・・・ふふ、まぁ隠し持ってたナイフには水槍激を放ってから気付いたけどあそこまで下卑た笑みを浮かべられてれば何か隠し玉があることくらい予想できる。」
うん、結構露骨だったもん。
あそこまで悪辣な笑みをしておいて真正面から突撃とか裏があるようにしか思えなったよね。
『さぁ! 次の試合は禍蛇族の戦士、ユリミカとエルフ族の青年、ハイルー!』
ーーわぁ!
司会者の掛け声とともに会場から再び歓声が上がる。
入場口から下半身が蛇半身をしている双剣を持った女性が中央まで進んできた。
・・・あれ? ハイルどこだ?
呼び出されたのに中央に現れないので良く探すと、入場口から一歩入った場所で壁に張り付いていた。
追い詰められたネズミかな?
『初め!』
「う、うわぁーー!!」
開始の合図と同時に大声を上げて相手へと向かう。
まるで弾丸の様に飛び出して行き、思わぬ速度に相手はガードの構えを取る。
ただあいつが正面から斬りかかるわけないんだよなぁ。
そう思ったと同時に相手の眼前でブレるような足運びをした後、横をすり抜けた。
それに気づいて相手も振り返るが、そこにもハイルの姿はない。
相手の視界に捉えられる事を極端に嫌うあいつらしい戦法。
真後へと回ったハイルはナイフを両手に構えて突っ込む。
が、、、。
「・・・経験不足だよなぁ。」
ハイルを見失った時には既に相手は足元に尻尾を縮めて地面に突き刺していた。それを起点に体をグインと上に伸ばす。
間抜けな顔をしながらハイルは尻尾にナイフを刺すことに成功するが、真上から見下ろされて姿を捉えられてしまう。完全に足を止めてしまったハイルは真上から落ちてくる相手に対処できず普通に斬られて宝石が割れた。
「・・・呆気ない。」
「あいつ、予想外の動きをされたら動きを止めがちだな。」
予想通りと言えば予想通りだけど、あいつジャユ族と戦う前に負けたな。もう少しくらい善戦してほしかったけど一瞬の油断や隙が勝敗を分けるのが現実だし仕方ないか。
・・・後で説教はするけどね。
「さてと。」
気を取り直して対戦表を確認しておく。
次は自分の番だけどまたジャユ族だし多分消化試合になる気がする。なので他に気になる組み合わせがないかと探しているとスイの次の対戦相手の欄にはペリナの名前が書かれていた。
ペリナの第一試合も見ていたけど余りに一瞬で終わったんだよね。相手に近づいて殴って終わりと言った感じで見応えも正直無かった。
でも今回のペリナの相手はスイだ。
向こうもこちらの実力を知りたいだろうから全力で来るだろうしスイにとってもいい経験になる。てかぶっちゃけ面白そう。
少しの楽しみもできて再び会場へと向かって歩く。
戦いの刻はまた一つ近づいた。




