喚ばれた剣聖ー46
「と、言う訳でドリム決闘戦に出ることになりました。」
「・・・何で?」
あの後、少しの問答があってようやく開放される。
上を見ると丁度、明光奇石の光が弱まり始めるタイミングだったので屋敷まで戻ってくることにした。
それでまぁ、強い酒で二日酔いになっていたスイもさすがに起きてるかなー?と思い様子を見に来たわけ。
もうすっかり元気なったみたいで、いつもの服装を身に着け、身だしなみも完璧な状態のスイに出迎えられる。
そしてスイは半べそかいているハイルを見て困惑し、何があったか聞かれたのでいちから説明してあげたのだ。
・・・そして当然の疑問をぶつけられたわけ。
「ほら、街の要人を納得させるには実力を示したほうが手っ取り早いからさ。」
「・・・別にエルフ族と森の実りで対立してるなら、エルフ族は近くの森にいる。そうでなければわざわざ対立することもない筈。なら情報も手に入ったし街を出てもいい。」
「あー、それは俺も思ったけど、せっかくなら街でゆっくりもしたいしな。これでそれなりの実力を示せれば街を観光するのに大手を振って歩けるようになるぞ。」
「今はログロドさんとペリナさんが付いてきて下さってるから絡まれてないだけですしね。」
実際に俺たちが街を歩いてる時にチラチラと遠巻きから値踏みするような視線を感じていた。
人族と言う事を隠していないし、見た目も強くなさそうだから嘲るような視線も少なくはない。別に気になるかといえば無視できるけど大手を振って街を観光するならある程度実力を見せてもいいと思ったのだ。
それにハイルの話だとまだ時間はある、そこまで切羽詰まってるわけでもないし色々と準備も整えておきたい。
「・・・でもロドは魔王軍幹部の八ツ首、あまりこっちの手札を教えても良くないんじゃ。」
その点に関しては同意するけど、一つ勘違いを訂正するなら魔王軍には追われてるだけでわざわざ敵対する気はない。
ロドは魔王軍で戦う可能性はあるけど敵って断定はしたくないんだよな。気のいい奴に感じるし。
それに、、、
「・・・ここで逃げるのは裏切りというか面子を潰すことになっちまう。そうなればロドは完全にこっちに味方はできなくなるからな。少しでもいい印象は残しておきたいだろ。あと、この決闘戦は何も悪いことばかりじゃない。」
「・・・?」
スイはメリットを感じられないのか首を傾げる。
俺は全員を見渡して椅子の背もたれに深く腰掛けた。
「先ず1つ目にこの戦いで印象に残ればジャユ族に対して優位に立てる。そして2つ目、ロドはエルフ族と不可侵の約束を交わしたと言っていた。ならエルフと会う手段も知ってる筈だ。それを聞き出すことも可能かもしれない。」
「えぇ? それ教えてもらえる確証あります? ジャユ族にとってその秘密を売ってしまえば今手を出されてるとしてもエルフ族との確執が決定的になってしまいます。争いの火が増すのでは?」
「・・・お前、頭打ったか?」
「何で私だけ褒めてくれないのですか!」
普段の行い。
ちゃんと的確な所をついてくるミリアに驚きながら、もう一つの理由を説明する。てか、俺からしてみればこれが一番身になると思う。
「後はお前達のレベルアップだな。」
「・・・レベルアップ?」
3人は分からない単語があったからか首を傾げる。
そう、俺が考えることは至極単純だ。
「お前ら3人にも決闘戦に出てもらうから。」
「「えぇ!?」」
スイは顎に手を当てて理由を考えているが、他2名は出場しなくていいと思っていたのか驚きに目を見開いた。
「先ずスイは戦闘の基本は良く出来てる。後は場数を踏んで対応力を鍛えていったほうがいいと思うんだ。なら今回の大会は命の保証はされてる。俺や化け物連中以外との戦闘はいい経験になるはずだ。」
「・・・確かに、納得。」
うん、なんとなくわかってたけどスイって強くなることに関してはストイックだよな。毎朝早朝の訓練は欠かさないし、どうすれば良くなるのか俺にこまめに聞いたりもしてくる。実際鍵持ちも一人倒したみたいだしみるみる実力を伸ばして行けてるね。
・・・さて、後の2人は、、、
「む、無理だよ! ジャユ族って魔族の中でも戦闘種族って言われるほどの戦闘のプロなんだ! ぼ、僕なんかが相手になるわけないよ!」
予想通りと言えば予想通りだけど明らかにマイナス方向に思考が吹っ切れてる。でも正直な話、今のこいつじゃ実力がたりない。ギュリカやフロートを倒せるようになれなんて言う気はないけどせめて逃げられる位にはなってもらいたい。
少し厳し目に行くか。
「お前なぁ、もし予知夢の内容が起こるとしてそれにジャユ族が関与してないって言えるのか? ならこの決闘戦は相手の実力もしれて今の現状を把握するのに役立つだろ。・・・下手に負けるようならエルフ族を助けるなんて夢のまた夢だからな。」
冷たく指を差しながら告げると、彼はビクッと震えて下を向く。厳しい意見かもしれないが、今ジャユ族がエルフ族と敵対しているのは事実だ。それが2ヶ月後の実りの日に決定的になる、、、なんて可能性だって十分考えられる。そこまで悠長にしてられない。
さて、卑屈になるか前を向くか、彼の選択を待っているとハイルはこちらに真っ直ぐな目を向けてきた。
「わ、わかった、ぼ、僕も出るよ。も、もし肝心な時にた、戦えなかったら絶対に後悔する。な、なら、で、できることをやらなきゃ。」
「おう、その意気だ。間違っても逃げるなよ?」
「ぜ、善処します。」
そこは逃げないって断言して欲しかったなー。
ま、ちゃんと前を向いて出場宣言をしただけでもこいつにとったら大きな前進か。
ウンウンと感心していると、チョイチョイと肩を突かれて振り向く。
「律兎さん、律兎さん、ちなみに私が出る理由は?」
「・・・・・みんな頑張ってるのにお前だけ観戦してるのはムカつくから。」
「私だけ八つ当たりじゃないですか! 私防御しかできないのですよ!? どうやって相手を倒せって言うのですか!?」
「そこは気合で。」
うん、ぶっちゃけミリアが出る必要だけはないよ。
でもみんな頑張ってるんだから体張ってもいいと思う。多分、障壁張ってサンドバックになるだけだと思うけどね、、、。
この後もずっと必死に喚いてくるミリアをなだめながら何とか出場させることに持っていった。俺がここまで強情なのもちゃんと理由はあるけど、それをミリアに説明したらさらに爆発されそうなので、心のなかに秘めておくのだった。
ーーー
『それでは皆様! 大変長らくおまたせしました! これよりドリム決闘戦を開催致します!』
「「「「「うぉおおおおおおーーー!!」」」」」
次の日の昼頃。
司会の高鳴る合図とともに観客として見に来た多くの魔族たちが歓声を上げていた。
それを俺達は闘技場の端のほうで遠巻きに眺める。
「すごい人数だな。他の種族も結構いるし、有名なイベントなのか?」
「・・・これは定期的に行われるジャユ族の序列を競う大会。もっと特別な大会は不定期だからそこまで大イベントってわけじゃない。」
「な、なのにこの人数が見に来るの?」
顔を青ざめさせて逃げ腰になっているハイルを横目で見ながら観客の熱狂ぶりと人数を確認しておく。
これは住人や観光客にとっては最高の娯楽であり、街からすれば定期的に人を集める役割に適してる。
「・・・賭けとかやってないかな。」
「あー、やってるかもしれませんね。私達は大穴でしょうし賭けられれば大儲けできそうです。」
確かに。
賭けるとしたらジャユ族の戦士、上位陣で固まってるだろうから俺とかは大穴になるだろう。スイは戦闘種族だし、やっぱ一番は俺かミリアかな?
そんな事を考えていると第一試合が始まった。
試合は2ブロックに分かれたトーナメントで、そこで勝ち上がった上位陣が準決勝と決勝戦をやるらしい。
今は北の部、第一試合
大剣を担いだ厳ついジャユ族と手が6本生え、もこもこした獣人?(ベースわからんけど)が槍を構えて睨み合っていた。
『初め!』
先に踏み出したのはモコモコした獣人。
計3本持った槍の一つを低く構え、もう一本左側に持った方を肩ほどの位置で構えていた。
「なるほど、一本は万が一に備えての予備か。あの構え方だと走りづらそうだけど、そこは獣人の膂力ってやつか。」
突き上げられた槍をジャユ族の男は体を捻りながら躱し、手にかけていた剣でもう一本の槍に打ちつける。
最後の一本にどう対処するのかなと思っていたらガキィンと金属がぶつかる音が響く。
「あーやけに動きが鈍いと思ったら腹に仕込んでたのか。」
「・・・高威力の攻撃食らったら終わりじゃ、、、?」
「てか魔法使われた時点で詰みだよ。」
防がれたことに動揺したのか獣人は距離を取ってしまう。その隙にジャユ族は魔法を唱え始めた。
あ、君が使うのね。
練られていく魔力の高まりを感じた獣人は再び特攻。
ジャユ族は攻撃が届く寸前で魔法を完成させる。
ズガァン
足元に展開された魔法陣からは鉱物でできた棘が飛び出す。それは攻撃しようと特攻した獣人には致命的な攻撃となり、向けられた槍からは防御にもなる。
刺し貫かれた獣人は血を吐いて動けなくなった。
・・・え、あれ死、、、?
ーーパキィン!
もしかして死んだんじゃ?と思っていると腕に着けた宝石が砕け、怪我治癒されていく。
「なにあれ?」
「・・・装着者の生命力が極端に低下した時に石の生命力を利用して傷を癒す、、、名前は、、、あれ、なんだっけ?」
「せ、生転石だね、多くの生物の血と命の尽きる瞬間に燃える灯火を宿して転じる石の名前だよ。」
へぇー、ロドが命の保証はしてあるって言ってたけどあれのことか。
何か気付いたら説明してくれる人が2人になってる。ハイルは素材系に関しての知識は豊富みたいですごく助かるし、スイは常識人枠だね。
「にしてもあっさり終わったな。ま、トーナメントの一回戦なんてこんなものか。」
「魔法の発動スピードがペリナさんと段違いですね。さすが族長の使用人ともなると高い実力が求められているのですか。」
・・・うん、まぁ監視役だからだと思うけど。
「さてと、おれも準備するかなー。」
「えーと、私とハイルさんが同じブロックで反対が律兎さんとスイですよね。」
そう、分けるのは向こう側でやってくれたのでどう言う意図があるのかないのか知らないけど、上手く2対2で分けられていた。
なのでもし、ハイルやミリアと戦うなら決勝になるが、そこまで上がってこれるかなー。てか、俺が敗退するかも知れんし。
「てか、ハイルとミリアのところに名前がない奴がいるけどこれ何?」
「・・・さぁ?」
・・・うん、なんとなーく予想できてるけど、ハイルとミリアも気づいてないみたいだし、放置しときますかね。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
それからあと二組、試合が終わると自分の番が回ってくる。事前に下に降りて選手入場口に向かうとペリナが立っていた。
「お、何応援してくれんの?」
「そうですね、お相手のジャユ族の戦士を応援いたします。」
そりゃそうだけどさ、ならなんで来たんだよ。
あれか、煽りに来たのか。暇ですね。
「貴方の相手は私が選んだジャユ族の精鋭です。無様を晒さないでくださいね。」
「あれ、今対戦表操作したって言った?」
「・・・・・あ。」
予想通りっちゃ予想通りだし別にいいけど、もう少し隠そうよ。
ペリナは思わず言ってしまったと口に手を当てて冷や汗をかいている。俺はそれに対してあきれた半目を向けた。
「まぁ、いいけどよ。期待添えられるように頑張りますわ。」
俺は特に気にした様子もなく手を振って会場に踏み出した。
『さぁ! 次の試合は我らが族長、ログロド様より推薦を賜った人族の剣士、律兎ー!』
会場から湧き上がる歓声には「調子に乗るな」とか「ボコボコにされちゃえ!」などの野次も聞こえた。さすがアウェー、いい気分だ。
『前線からもほど遠いこの街で人族の戦いが見られるとは何たる僥倖か! 対する我がジャユ族からは鉱殻騎士 トロクラ・ジャユ! 騎士団で長く部下を育て上げ、街を守るために常に尽力している実力をぜひとも見せてくれー!』
いや、それ別に強い要素ないやん。てっきりでかい功績とか持ち出されると思ったのに。
変わらない無表情でいるとトロクラと呼ばれた男は兜を外し、大槌を担いだままこちらに軽く会釈する。
「すまないな、君からすればとても気分の良いものではないだろう。」
「そう思うなら手でも振って止ましてくれ。」
俺が皮肉を込めてやれやれと返すと、相手の男は気さくに笑う。
今まで見たジャユ族よりも細身で爽やかなイケメン風の彼はさぞかし人気が高いだろうね。俺なんてチンピラ面としか言われたことないのに!
謎の怒りがふつふつと湧いてきた。
「安心してくれ、手短に終わらせるよ。」
「そりゃあぜひとも頼むわ。」
トロクラは大槌を引いて力を溜めるように構える。
俺はそれに対していつもの刃引きされた訓練用の剣を構えた。
・・・結局剣、買ってないんだよね。
「・・・・・お前、その剣はどういう事だ。」
「忘れた。」
「・・・・・・・・・・・・・そうか。」
端的に買うことを忘れた事を伝えただけなのだが、相手は青筋を立てて無言でミシミシと柄に力が加わっていくのが聞き取れた。いや、煽りじゃないんよ。本当に忘れただけでさ。
『初め!』
ズガァン!
飛び出してきたトロクラは大槌を振りかぶる。
胴体がガラ空きだが、彼の表情や筋肉の動きから大槌に振り回されているわけではなく込める力に余裕が感じられた。てことは、無闇に懐に入れば軌道を変えて攻撃してこれるな、見た目に沿わず脳筋かよ。
風を押しつぶしながら振り下ろされた槌を半歩下がってかわす。槌は地面直前で止まり、そのまま握力に物を言わせて振り上げられた。
「あぶね、、、ん?」
振り上げられた槌の向こうから小さく小声で何かつぶやく声が聞こえる。
・・・詠唱か、割と短いし動きながら使えるとは慣れてる。
「土造 阿邪徒。」
相手の足元から外で見た鋼鉄の甲冑を着込んだ兵士みたいなのが現れる。もともと肌が見えない甲冑だったが、魔法で現れったって事は中身はなさそう。
魔法で現れた甲冑の騎士は手からくっついたように伸びた剣で足元を狙ってくる。
それを軽く飛んで躱しながらまた少し距離を開けた。
そして軽く飛んだ瞬間に真上から影が落ちる。
上を取られたことを察して剣を横に当てるように軌道をそらす。
「良く避けるな!」
「当たりたくないしね。」
相手の一撃の隙間を縫うようにして阿邪徒が腕振って牽制してくる。常に追撃されて隙が見当たらない。
『おー! 阿邪徒とトロクラ様のさすがのコンビネーション! これには律兎も手も足も出ないかー!?』
そりゃ魔法生物だったら連携は取れるだろ。
むしろ取れてなかったらお粗末過ぎて鼻で笑うわ。そんなどうでもいいことを考えながら相手の攻撃を避け続けると、トロクラは当たらない違和感と焦燥にかられて動きが単調になり始める。
・・・そろそろかな。
阿邪徒が隙の大きくなったトロクラをフォローするように前に出た瞬間に、兜の目の隙間に剣を突き刺して足場とし、そのまま大きく飛び上がる。
剣を強めに踏み込んだので反動で阿邪徒の首は吹っ飛び俺はそれを掴んで大きく振りかぶった。
「へいパス!」
「ぶべ!」
思いっきりぶん投げた兜はトロクラの顔面にクリーンヒット。完璧に骨が折れた音をさせて、トロクラはそのまま地面に転がった。
ーーシーン。
会場を静寂が包み込む。
「おい、勝ったぞ?」
『ーーっ! しょ、勝者、人族の剣士、律兎ー!』
俺の呼びかけに我を取り戻した司会が勝利を宣言する。観客たちの動揺と悲鳴、少し聞こえる歓声を背に受けながらステージを後にした。




