喚ばれた剣聖ー45
浅層にある白磁の建物。
まるで宝石店のような外装で、鍛冶屋だとはとても思えないが、奥行きが長く煙突から煙が立っているのを見ると加工場と売り場を併設させていることが分かる。
看板には『サアハ中央鍛冶』と書いてあった。
「高そうな建物ですね。」
「この街で一番の鍛冶商店ですから、外から来るお客様に貴族や王族なども多く見受けられますよ。」
そこに俺たちも入るの? 場違いじゃない?
改めて自分の姿を見下ろすとシャツはよれてるしコートもフォーマルじゃない。ミリアなんて灰色のローブだしね、不審者かな?
「ご安心ください、ログロド様のお客人に対して失礼を働くような方は在籍しておりませんので。」
ペリナは先ほどの件がまだ尾を引いているのか不服げに言い捨てる。
不機嫌な相手に触れないように俺とミリアは「さぁ行こう!」と中に入った。
「ようこそおいでくださいました、お客人の皆様、ペリナ様。」
事前に報告が入っていたのか、丁寧にお辞儀されてジェントル風の男性が迎えてくれる。
「どうぞご自由に店内をご覧ください。もし、何かお申し付けがありましたらお声をお掛けいただきますよう、よろしくお願いします。」
彼はそれだけ伝えて壁際の方へ下がった。
てっきり一つ一つ商品紹介されるのかと思ったが、まさかの自主性に任せるタイプとは。
ま、案内されても好きに見れないから助かるっちゃ助かるけどね。
目の前にあるショーケースには真っ赤な鉱石で作られた刃を持った片手剣が置いてあり、巨大な大剣、ハルバード、斧などは壁際に置かれている。
「これ、手にとっても良いのか?」
「勿論でございます、ただショーケースに入っている武器は高価になりますのでお取り扱いには注意していただきますようお願いします。」
「お、おう、取り敢えず仕舞われてないやつでいいや。」
高いと聞いてビビった俺は粗雑にではなく、ちゃんと傷ついたりしないように立てかけてあった剣を手に取る。持った感じは鋼の質感である剣を前へ向けたりして感触を探る。
「・・・なんか刀身がグイングインするけど。」
「鋼に柔軟性の高い柔鉄を使っております。鍔迫り合いには向きませんが、軌道が読みづらく防御の難しい一品ですね。」
な、なるほど? 使いやすいかどうかで言えば使いづらいだろうけどそれは使い手次第か。
その横にあった真っ白な剣は羽のように軽かった。
軽すぎて制御難しそうだな。うん、何でさっきからピーキーな武器しかないの?
「律兎さん、律兎さん! 見てください! この剣膨らみますよ!」
「ミリア様! 注意書きを見てください! それは魔力を込めると爆発する剣です! 今すぐ離してください!」
・・・おもしろ武器博物館かな?
慌てたペリナに剣を奪われるミリアを尻目に店員のジェントルに話しかける。
「なぁ、もう少し普通の剣はないのか?」
「えぇ、御座います。こちらですね。」
・・・あんのかよ、だったら最初からそっちに案内してくれればよかったくね?
壁にかけてある剣は色とりどりなのは変わらないが、手に取ると一般的な剣らしい重量感を感じられた。
見た目も鋼だが、少し緑っぽい色合いをしている。
「これは何か特殊な仕様とかあるのか?」
「こちらはレグレイトが練り込まれた合金で作られた剣になります。刃を片側に設け、耐久力の代わりに斬れ味を追求しております。」
刀よりも反りが深いな。
厚みも結構あるから受け流さなくても受けることもできそうだ。
うーん、俺って片刃の刀とかより両刃のロングソードみたいな方が扱いやすくて好きなんだよな。
なのでそれを説明して案内してもらう。
「お、落ち着いてください、絶対に魔力を込めないでくださいね。」
「え、込めたらどうなるのです?」
「つ、通常であれば炎が剣に纏わりつくぐらいですけど、、、み、ミリア様だと火柱が上がりそうで、、、。」
「へぇー、少しなら大丈夫ってことですか?」
「さっきから加減できてないじゃないかー!」
向こうの方で思わず素の口調が出てしまうほど慌てて止めているペリナを尻目に両刃の片手剣が並ぶ場所に案内してもらう。
普通の一般的な剣から色合いが豊富なのは変わらず、趣はどちらかというと武骨かな?
一つ手にとって見ると、この店が高級店であることが分かる。用途や個人に合うように重心の位置や持ちての具合、刃の厚みなど細かな説明が記載されていて、さらに個別の調整も行ってくれるのだろう。装飾は武骨であっても地味ではない、落ち着きがある装いになっているものが多く感じられた。まぁ中にはやけに派手なやつもあるけどそれは感性だし、顧客は色々だしね。
「軽く取り回し確認したいけど、どこか広い所ってある?」
「こちらに試験場があります。広い部屋になりますので何本かお持ちになられてもよろしいかと。」
お言葉に甘えて剣を数本選ぶと他の店員がやってきて剣を持ってくれた。
そして試験場に向かう途中で騒いでる2人を拾っておく。置いてこうかなって思ったけど、店員さんに「置いてかないで、、、。」って目で訴えられたので仕方なくね。
連れてこられた試験場は頑丈な壁に数多の傷がつけられていた。手でなぞりながら中央にある訓練用の打ち込み台?を興味深げにのぞく。硬い芯に周りを柔らかそうなゴムみたいな材質に包まれていた。
うん、全体硬かったら剣とか欠けちゃうもんね。
「なにするのです?」
「知らないできたのか、剣の振り具合を確かめるだけだよ。」
そう言って剣を受け取り、スラリと剣を引き抜いた。
「ふー、、、。」呼吸を深くし、意識を深く落としていく。
打ち込み台を捉え、一歩踏み出す。
ーーブッ
ブレるような音と共に接近、打ち込み台の強度は分からないが芯もあるし簡単に壊れるものじゃないだろ。
ーースゥ
横に振り抜いた剣は止まることなく通り抜けた。
・・・あ、やべ。
横に斬ったので落ちたりズレたりもさせてないが、通り抜けたという事は斬ってしまったということ。初めて見る素材だし強度が分からないから加減を見誤った様だ。
壊してしまったことに冷や汗をかきながら後ろを振り向く。
「あれ、思ったよりも、も、脆い?」
「お、お見事でございます。」
同じく汗をかきながら拍手をして持ち上げてくれるジェントルに引き攣った笑みを向ける。彼は即座に他の店員に打ち込み台を片付けるように指示を出す。
すると、ペリナが何を思ってた打ち込み台に近づいた。
「お待ちください。」
片付けようとした店員を止めて、ペリナが打ち込み台の上をつかんで持ち上げる。
綺麗に分かたれた断面を見て彼女は息を呑んだ。
「剣士の天敵とも言われる魔物プルルの皮で黒深鉄を包んだこれを、、、ここまで綺麗に?」
あまり追求するのはやめてください。もう少し頑丈かなって思ってたんだよ。
ーーガチャ
「おう、邪魔する、、、何かあったのか?」
そんな何とも言えない空気の中、試験場の扉が開かれてロドが入ってきた。
その姿を見てペリナはすぐに頭を下げて後ろへ下がり、他の店員たちも同じ様に下がる。
「律兎さんが剣の腕を自慢し、、、もがっ!」
「(お前後で説教な?)何にもねぇよ。むしろロドこそどうした? 今日は用があったんじゃないのか?」
故意に余計な事を言おうとしたミリアの口を塞ぎ、何もなかったかのように繕う。
ロドは首を傾げながらも追及はしてこなかった。
ただそのかわりに心底めんどうくさそうな目を向けてくる。
「・・・? どうした?」
「ワリィけどちと顔出してくれ、少し面倒なことになってよ。」
ロドはそれだけ伝えて先に部屋を出る。
俺とミリアはお互いに顔を見合わせて首を傾げてからロドの後をついて行った。
ーーー
来た道を戻り、再び中層へと戻って来る。
そのまま屋敷にでも戻るのかと思ったが、案内されたのはそこよりも手前にある頑丈そうな石造りの建物であった。
「ここは?」
「簡単に言えば監獄ってやつだな。」
嫌な単語を聞いて逃げようかなと数歩後ずさる。
あ、そういえば後ろにペリナさんいましたね。
「ミリア、やっぱり俺の考えが甘かったかも知れん。・・・どうやって逃げるか。」
「私が捕まると逃げられないので律兎さんが先に囮となって捕まり、その間に私が逃げます。その後にスイと迎えに来ますね。」
「待てやこら。」
そう言ってスッと下がろうとしたミリアの首根っこを掴む。
・・・捕まる時は一緒だお。
「いや、割りと間違ったことは言ってないと思いますよ!?」
「でも俺だけ捕まるのって、、、さみしいじゃん?」
「知りませんが!?」
コソコソ風に割と大音量で話しているとロドがため息をつきながら振り返った。
「別に今更お前達を捕らえようとかしねぇって、ただ会って確かめて欲しいことがあるだけだ。」
・・・会う? この魔族領で知り合いなんて居ないはずだが、、、。
入ってゴツゴツとした鎧を身に着けたジャユ族の兵士の間を通り、地下に降りるとそこには、、、
「あ、あぁ~~!? り、律兎さん! や、やっと来てくれましたか!」
「・・・ん? ハイル、お前何してんの?」
ハイルが膝を抱えて涙を浮かべながら捕まっていた。
先に行っとけって送っといたはずなんだけど何でこいつ牢屋に捕まってんの? 不法侵入でもした?
「・・・知り合いってのは本当だったみたいだな。」
嬉しそうなハイルと困惑している俺を見てロドは一つ納得したように頷き、そしてその目を細める。
「何でこいつ捕まってんだ?」
「・・・こいつがエルフ族だからだ。」
うん? なんか納得できないな。
もしエルフ族とジャユ族の仲が悪いならハイルだってこの街に来たいって言わないと思う。
ハイルはむしろ先に街に行ったりしたくらいだしね。
「そ、そう! 何で僕が捕まったの!? え、エルフ族はジャユ族に何もしてないはずだよ!」
「それをお前らが破ったからだ。」
ロドは冷たい目でハイルを見下ろす。
そして睨まれたハイルはすぐさま縮こまる。
ん? 待てよ、これって早速エルフ族の情報を得るチャンスじゃないか。
「詳しく聞けるか? 後こいつ側の意見も聞きたいから出してくれると助かる。」
「わかった、おい、こいつ出せ。」
「・・・はっ。」
命令された衛兵は少し逡巡するがロドには逆らえないのか言われた通り鍵を開けた。
ハイルは牢屋から出された瞬間に驚くほどの速さで俺の後ろに隠れる。
・・・いや、いいけどさ。
「場所を変えるぞ、ついて来い。」
ロドはそう言って階段を上がっていった。
いやー、面倒事を持ってくるのはミリアだけだと思ってたけど、今のところスイ以外全員だね。
ま、仕方ないかと俺達はロドについて行った。
ーーー
「狭い場所で悪いが適当に腰掛けてくれ。」
案内された石造りの部屋で向かい合わせに俺とロドが座る。その後ろにも椅子を出してもらってミリアとハイルが座った。ちなみにペリナはロドの後ろに。
「さて、場所を変えたのは捕まってた連中に聞かせたくないからか?」
「・・・察しがいいな、その通りだ。」
「え、ど、どういう事?」
ハイルはすぐ手前の方に囚われていたが、その奥の扉を越えた向こうには多くの気配を感じていた。
それがどんな種族なのかとかはわからないけどなんとなく口振りから予想はできている。
「説明ってしてくれたり?」
「ま、ここまで来ちまえば変わらねぇか。お前さんの予想通りエルフ族だよ。」
「な!?」
ハイルは目に見えて狼狽するが、俺は口に手を当てて思考をまとめる。
「何で争ってんだ?」
「そうだな、、、。」
ロドは一度ハイルを視界に収め、少しだけ眉をひそめる。エルフ族と争っているならば同種族の彼は俺たち、遠くの境付近で争う人間よりも身近な脅威の筈。情報を漏らしたくないというのも当然と言えた。
だが彼は一笑に付す。
「お前らエルフ達も知らない話だが、エルフの族長と俺は互いに不可侵の条約を結んでるんだ。お前らの実りを分けて貰う代わりにこちらの資源を提供するってな、、、。なのに最近になって森の実りを取りに行った連中が軒並みエルフの奴らから攻撃を受けた。そうなればこっちも黙っていられない。」
「実りを受け取っているのは食糧事情がよくないからか。」
「御名答、俺達も肉だけでは栄養が不足しちまう。だから近くにある森から実りを受け取るしかねぇんだ。ま、今はそれが危うくなっちまったし木を切り倒して畑でも作るかね?」
煽るようにハイルを視界に捉えながら説明してくれる。随分腹を割って話してくれるもんだな、後ろのペリナがハラハラしてこっちを見てるよ?
「律兎さん、寝ていいですか?」
「一応聞いとけ、寝たら頭を締め付けるからな。」
確かに小難しい話はしてるけどよくこのバチバチしてる状況で寝ようとできるな。てか、俺も帰って寝たいよ?でも、ハイルに協力するって約束したしね。
「そ、そんな、確かにエルフ族は森を壊そうとする人達を許さないけど、ある程度だったら干渉しないはずなのに。」
「一応聞いとくが、先にお前らが不義理した可能性はないのか?」
「き、貴様! 我らが奪ったとでもいいたいのか!!」
俺の言葉にペリナが激昂した。
そりゃ怒るのも分かるけどそこを有耶無耶にしてしまえばこっちもどうすればいいか決めかねるからなー。
ロドは怒りをあらわにするペリナを手で諌める。
「いや、誓って俺等は手を出してない。口での誓いしか出来ないのは信用に欠けるかも知れんがな。」
「なるほどね、信じるよ。ロドは俺たちのことを何回も信用してくれた。ここで俺達が信じないのはフェアじゃない。」
俺は気のいい笑みを見せてロドとお互いに笑い合う。
疑う理由もないんだよな。むしろここまで腹を割ってくれているロドがここで嘘つくメリットも、、、無くはないが信用したい。
「ま、つまりハイルを閉じ込めていたのはエルフの斥候である可能性が高いからか。んで、ハイルが俺たちの名前を出したから繋がりを確かめようと連れてきた、、、そんな感じであってる?」
「・・・そのとおりだが、本当にお前は話が早いな。ここまでトントンと話が進むとは思わなかったぞ。」
話の通じない奴らとうちの脳筋共の仲裁をよくしてたんでね。察しはいやでも良くなったんだよ。
「それで、ロドは俺たちに何を求めてるんだ?」
「ん? あぁ、俺はお前らがエルフの斥候なのか確かめたかっただけだ。ただエルフが他種族を利用するってのは考えられねぇから関係ないとは思ったがな、、、。俺は。」
「他の連中が信用してないと。」
「そうゆうことだ。無理に言うことを聞かせることもできるが、アイツラもよくやってくれてるからな。大切な仲間を無下にしたくはねぇ。」
いくら弱肉強食といえど、力だけで街はまとめられない。彼と共に街を保ち、作り上げてきた仲間がいる。その人達が俺達を信用できないのは当然だし、文句を言う気もない。
・・・ただ、疑いを晴らすのも難しいんだよなー。
どうしようか考えていると、ロドはにやりと笑みを浮かべた。
「そこでだ、俺達は弱肉強食。強ければそいつに意見するのは許されねぇんだ、例え他種族でもな。」
「・・・ん? まさか。」
ロドが何を言いたいのか察しがついた俺は汗を垂らしながら次の言葉を待つ。
腕を組んでロドは言い放った。
「明日、闘技場で『ドリム決闘戦』が行われる。それに出て、実力を示してもらいたい。」
この後俺はめんどい事になったと頭を抱えることになるのだった。




