喚ばれた剣聖ー42
「し、しぬ! う、腕が! あ、足が! 吹っ飛んじゃいそうだよ!」
「何だまだ喋れるのか。もう少し負荷を上げてもよさそうだな。」
「た、助けて! す、スイさん!」
「・・・・・・・・・すーーー、はーーーー。」
「き、聞いてない!?」
残念だったな。
スイは今し方、常に魔力の薄い膜を張れるように特訓中で他に神経を割く余裕はないんだよ。
と、言う訳で未だに余裕そうなハイルにスピードが落ちた瞬間に電気が流れる機械を取り付け、再び走らせる。
重りの辛さに息を切らせながらも、どんどんと先に走っていった。
俺はその様子にため息をつきながら横を歩いていたミリアを声を掛ける。
「・・・おいミリア、何かあったか?」
「・・・え?」
少し間が空いた返事が返ってくる。
ミルルを喚んでから何処か考え込んでいるミリアに声を掛けるたのだが、本人は何処か上の空。
すると、ミリアはそれからまた首を傾げだした。
「・・・なんかモヤモヤするというか、、、よくわからないけど変な気分です。」
「パルパンクからちゃんとした休息を取れてないからな。疲れがたまったんじゃないか?」
「・・・そう、なのですかね?」
あまりしっくりきてないのか、まだ微妙な顔を浮かべている。
普通に心配だったので俺は手を差し出した。
「寝てていいぞ? 担いで行ってやる。」
「いえ、大丈夫ですよ、遅いかもしれませんけど歩きたいです。」
あまり無理をさせるわけには行かないと思ったのでいつもならミリアから言われることを先に提案しておく。
すると、ミリアは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら首を振った。それに俺は目を大きく見開いて狼狽する。
・・・あ、あのミリアが遠慮した!?
いつもだったら「ありがとうございます」と言って背負われていたはずなのに、、、。
どうしようかとオロオロし始めていると、ミリアはパンッ!と急に頬を張った。
「ごめんなさい! もう大丈夫です、行きましょう!」
気持ちを切り替え、ミリアは笑顔を見せる。
虚勢なのは丸わかりだが、彼女の気持ちを無駄にしたくない。これ以上追求するのも酷だと思うし。
そんな事を考えながら歩いていると、、、
ーーぼこっ
「ん?」
突然目の前の地面が盛り上がり、腕が生えてくる。
赤茶色で筋肉質な腕は救いを求めるかのようにプルプルとこちらに手を伸ばしてきた。
そんな突然生えてきた腕にミリアは腰を抜かして転んだ。
「・・・え、なに?」
ミリアが尻もちをついた音で異変があったのかとスイも振り向く。そして、生えている腕を見て目を点にする。
「・・・。」
明らかに不自然なそれを俺は何を思ったのか近づいて手首をガシリと掴んで引っ張り上げる。体のほとんどが埋まった人を引き抜くのは簡単ではないので思いっきり腕に力を込めて引き抜いた。
ーーぼごぉん!
「ーーぶっはぁ! 危ねぇ! 誰も助けてくれないかと思ったぜ。」
引っこ抜かれた白い紋様が刻まれた赤茶色の肌に緑髪を乱雑にかき上げた筋骨隆々の男は助かったとばかりに両膝に手を置きながら息を吐く。
そして、俺たちを見渡しギラリとしたいい笑顔を浮かべた。
「オメェさんが助けてくれたのか?」
「あ、あぁ、なんか生えててつい。」
「・・・う、嘘。」
俺が男に戸惑っていると、スイの掠れた声が耳に届く。それは認めたく無い現実を見てしまったかのようで、、、。
理由が分からず首を傾げていたが、それは次の男の発言によって理解できた。
「ガッハッハ! ありがてぇ、礼を言うぜ! 俺は魔王軍幹部 八ツ首が一人 『土の首 ログロド・ジャユ』だ! 命の恩人であるお前には気軽にロドって呼ぶ事を許してやる!」
・・・・・・・・・・・・はぁ!?
言われたことがすぐに理解できず、時間を置いて驚く。相手は自分が魔王軍幹部であることを驚かれたと思ったのか、腰に手を当てて胸を張りながら思いっきり笑っていた。
「驚く事も無理はねぇ、俺だって魔王軍の幹部が埋まってりゃあ驚くからな! 安心しろ、命の恩人なら人族だって俺の街でかんげ、、、あん? 人族?」
ひゅーーーー
俺たちの間を風が通る。
今、俺とミリアは変装をしておらず、見ただけで人族とバレる、というかバレた。
汗をだくだく流しながらお互いを見つめ合う。
重い沈黙が辺りを支配する。手は自然と剣に伸びて柄を握りしめた。ギュリカと同格、決して油断のできる相手ではない。
・・・あ、これ結構まずいやつだ。
ーーー
「・・・お前。」
来るか?
軽く息を吸い込んで腰を落とす。いつでも動けるように適度に力を抜いて相手を睨みつけていると、、、。
「行く場所あるのか?」
突然心配そうな声音で話しかけられた。
「は?え? い、行く場所?」
「おう、人族なら魔族領だと生きていくのにも苦労するだろ。もし、住むとことかねぇなら俺の街で紹介してやってもいいぞ?」
まさかの提案をされて思わず間抜けな声を漏らしてしまった。相手の背後で魔力を練り上げていたスイもついていけていないのか困惑している。
相手はしてやったりと豪快な笑みを浮かべた。
「なんだ、俺が人間って理由だけでお前を殺しに行くとでも思ったか? 例え人であっても命の恩人なら礼を尽くすのが我らジャユ族の礼儀だ!」
ーーズドンッ!!
ロドは言い切った後に地面を踏み砕く、そこから地面が盛り上がっていき、壊れ、崩れ、形をなしていく。
岩でできた巨大なトカゲが首をもたげて、ロドの背後に作られた。
スイは盛り上がり始めた時点で俺たちの横に戻ってきており、すぐさま出来上がった謎の物体に慄く。
「『土造 峨蛇峨蛇羅』こいつなら俺の街にすぐさま辿りつけるぜ。案内してやるよ。」
「なんだこれ、魔物か?」
「いいやちげぇな、魔力を込めて岩に生物の形を造らせただけだ。」
なるほど、さっきのスイと同じ様な原理か。
地面に打ち付けた足を起点に魔力を広げ、岩を支配下に置く。それを纏め上げて生物の形を造りだしたってことか。
「ま、んなことはいい。さっさと乗れよ、ここらへんにある街はあそこしかねぇからな。」
ロドはトカゲの背に乗り込み、トカゲの尻尾を差し向けてくる。ちょうどいいゴツゴツが階段のようになっていて丁寧な配慮がされていた。
魔力の使い方と言い、気遣いと言い、見た目とは違ってだいぶ繊細だな。
ただ、俺はそこで少し考えてしまう。彼はこう言うが、実際に街に連れて行ってもらってから袋叩きに遭う可能性は高い。ミスルル族の時と違って彼は高い実力の持ち主だと分かっているのにホイホイついていくのは危険じゃないか?
「どうした? 来ねぇのか?」
ロドは少しだけ不快げに顔をゆがませた。親切にしているのに躊躇されたからだろう。
念の為2人の顔を見渡す。
二人はコクリと頷いた。
「・・・行こう、ここで彼の機嫌を損ねるほうが良くない気がする。」
「私も賛成です。というか断ったら怖くないですか?」
まあね、見るからに武闘派だし断ったらこの場で戦闘でも始まりそうだ。
下手に相手の機嫌を損ねるならついて行ったほうがいいな。
仕方ないかと頭を掻いて俺達は岩のトカゲを登る。
「わりぃ、頼むわ。」
「おう! 安心しろよ、囲うようなしょんべんクセェ事なんざしねぇから。」
ロドはこっちの気にしてることに見当がついたのか軽快に笑った。
・・・そうだな、何時だって人との出会いや縁は博打だ。また今回の出会いに賭けてみるとしますか。
なんか忘れてる、、、?
ーーー
ドドドドドドドドドドッ!
「おぉー、速い、速いですよ律兎さん!」
「トカゲみたいに走ることで岩場の障害物を難なく越えられるのか。わざわざ角度調整してもらって悪いな。」
「ガハハハッ! 乗り心地が悪いと気持ち悪くなるからな! 何、こういう心配りも出来て一人前の魔法使いだ。」
「・・・私だってできる(ボソッ)。」
一人対抗心を燃やしているやつの口を押さえながら前を見て揺られておく。
せっかく相手がいい気分で話しているのに水を差すんじゃないの。
「でも速いですけど、律兎さんと同じくらいですね。」
「おぉー? 何だお前、結構足はえぇのか?」
「ま、まぁ、それなりに?」
ミリア、てめぇは余計なこと言うんじゃねぇ!
相手に情報を与えてどうすんだ!
俺の訴えるような視線にも気づかず、ミリアは流れるような景色を楽しんでいた。さっきまで少し暗い顔をしていたのが嘘のように今は笑っている。その姿に俺も軽く笑った。
「そういや、お前名前は何ていうんだ? 女が律兎って言ってるから律兎だとは思うけどよ。」
ロドに改めて名前を聞かれる。
確かに俺は自己紹介をしていない、正直ギュリカに目をつけられてるのに本名を答えたくはないけど後でバレたりしたら拗れそうだし、ここは素直に答えるか。
「俺は律兎 八九楽だ。一応見た目通り剣士だよ。」
「見た目通りで言えば剣士と言うより勇者だがな、、、。」
ロドの目が少し細められる。
例え人族であっても気にしないが勇者であれば話は別なのか。先ほどまでの気さくな雰囲気から少しの圧が漏れている。
「勇者じゃねぇよ。黒髪なのは生まれつきでな、物心ついたときには一人だったから、なんで黒髪かは知らないんだ。」
「ほぉ? もしかしたら勇者の遠い血縁かもな。近縁なら紋章が浮き出て女神の加護が生じるが、お前からは感じられねぇ、、、。悪かったな、さすがに勇者は見過ごせねぇんだ。彼奴等は狂っちまった化け物だからな。」
異世界からの転移者と言ってしまうと色々追求されてしまいそうなのでそこは孤児で昔の記憶があまりないって感じで誤魔化しておく。上手くいったかは知らないが、そこまで深掘りもされなかったので良しとしよう。
その眼差しは怒りに細められながら前を向く。過去の怒りを思い出すかのような表情を横目に見ながら、俺もフロートの姿を思い出す。
化け物か、確かにあいつはそう言われてもおかしくない実力と狂気を宿していた。
『狂っちまった化け物』ね、およそ勇者に向けられる言葉じゃない。彼らは敵対する魔族ということもあるが、実際の人族にとっても彼等は化け物に値するのだろう。
「・・・おっ、見えてきたぜ! 俺が統治する街、ドリム地下街だ!」
貝のように大口を開けて地下へと誘う巨大な入り口が見えてくる。崩れ落ちそうなそれを何本もの巨大な岩の柱が支えていた。
遠目からだと中が暗く見えるが、よく見ると人工的な明かりがちらほら見受けられる。光る鉱石のような石を天井から紐で吊るして光度を維持しているのか。
「結構列が出来てんだな。」
パルパンクと同じ様に入り口に列が出来ている。
違う点は荷物を入れている荷車が大きい事くらいかな。
「鉱山資源がよく採れる街だからな。鍛冶屋も多いし、安定した鉱石を買い付けられるって今も多くの魔族が街に来る。まだ街の奥では採掘が続いてんだぞ?」
確かにそれっぽい雰囲気は感じられる。
というか、鍛冶に採掘か、、、まさかドワーフとかいるのかな? すごい見てみたい。
「・・・というか待ってくれ、このまま行くのか?」
「あ? 当たり前だろ、何で降りるんだよ。」
絶対そうだと思ったよ。目立ちたくないけど、もう仕方ないよな、あきらめよ。
土蜥蜴は土埃を上げながら巨大な入り口の前にブレーキをかけながら立ち止まる。多くの並んでいた者たちに見上げられながらロドに抱え上げられてそのまま飛び降りた。
ーーズドンッ
衝撃を吸収させるとかそんなことを無視した無理矢理な着地で地面がひび割れる。
視線が殺到して酷く気まずい。俺とミリアは今回は全く変装していないのでそのままの姿をしていた。お陰で遠くからボソボソっと「え、人間?」「あれって八ツ首の、、、」「どうしてあの方と」とか色々聞こえてくる。
「ログロド様!」
すると、遠くの方からこちらに向かって走ってくるジャユ族の老けた男が走ってくる。片腕を失い、左髪を刈り上げた厳つい壮年の男性はロドの前までやって来て慌てていた。
「戦場で行方不明になったと聞いたときは肝が冷えました、、、! ご無事で何よりです。」
「おう、地面潜っていたら迷子になってな。帰ってくる途中で力尽きて地面から抜け出せなくなっちまってるところを助けてもらったんだ!」
あそこに埋まってたのはそんな理由かよ!?
怪我とかもしてなかったし戦いの後とは思わなかったけど、理由が迷子とは。
従者らしき壮年の男性も頭を抱えてため息をついていた。
「・・・ログロド様、彼等は? 人間ではないですか、、、。」
「あぁ、助けてもらってな。酒宴の用意を頼むぞ。」
そう言ってすれ違おうとするロドの前に慌てて従者の男は前に立つ。
後ろの俺たちに鋭い目を向けながらロドに言い募る。
「なりませんぞ! いくら恩人と言えども敵対している人間、魔王様だってお許しになりませんでしょう。」
「・・・ヒルゲロ。」
「そもそも、貴方様はジャユ族の族長。ふらりと戦いに出て何年も帰られないのは困ります。我らの街もまだまだ途上、今他の種族などを敵に回したりなど、、、!」
「ヒルゲロ!!」
周囲を威圧するかのような大声量で従者を黙らせる。
従者の男はその声を聞いてすぐに顔を青くして跪いた。
「ヒルゲロ、我らがジャユ族の掟を忘れたか?」
「め、滅相もございません! 我らが土の民、弱者は黙して平伏し、強者は全てを喰らう!」
「魔王軍や他の種族など知らん。突っかかってくるなら潰すのみ、そうだろう? それとも何だ、貴様は俺よりも弱い分際で意見すると?」
「いえ! 我らが王よ、度が過ぎた発言をお許しください!」
「よい、許す。」
検問や見張りをしていた全てのジャユ族がロドにひれ伏す。絶対強者、この地の王、俺たちはその片鱗をまざまざを見せつけられた。




