喚ばれた剣聖ー41
ーーバギィッ! バキバキバキ!
「うわぁーー! 怖い! 死んじゃいます!」
「・・・どうしてあれだけ怪しい木に近づいたの?」
「びっくりだよなぁ、岩の真ん中にでっけぇ丸々とした樹の実がなってる木なんて傍目から見ても疑似餌にしか見えなかったのに。」
「そ、そんな感想言ってないで、助けてあげよ!?」
真っ赤に熟れた樹の実を頭に生やした岩の皮膚を持つチョウチンアンコウに障壁をガジガジ齧られてるミリアを遠くで見守る。
ハイルが何とかしようと近づくが相手の見た目にビビってこっちに戻ってきたりまた向かったりしていた。
「ハイルー、もっと速く動けねぇの? スピードはパワーだぞー?」
「そ、そんな事言われても! 岩なんて斬った事ないよっ!?」
情けないなぁ、ルミアならあんなデカい図体の魔物なんて木っ端微塵にできるぞ。
てか思うんだけどミリアとルミアって名前似てるな。
「・・・スイは行ける?」
「・・・ん、たぶん平気。」
ーーぱしゃ
隣で水になって地面を走るように魔物へと近づく。
魔物はミリアを食べようと夢中になっていてスイの接近には気づいていない。
そのまま真下に潜ったと思ったら途端に上まで跳ね上がり魔物の眼前へと躍り出た。
・・・あり? 奇襲するんじゃないの?
高く舞い上がったスイは剣を振りかぶって魔物のちょうど眉間あたりを剣で叩く。
ーーカァアアアアアァン!
硬質な物体同士がぶつかった音を響かせると、魔物はそのまま崩れ落ちる。
スイはくるりと回りながら着地し、ミリアをお姫様抱っこでキャッチした。
何あれ、かっこよすぎない?
・・・にしてもどういう事だ? 俺が硬い鎧を着込んでる相手に対して内部に衝撃を送った後の倒れ方に似てるが、、、。
トコトコと歩いてくるスイは前まで来るとミリアを降ろして胸を張る。
「・・・どう? 上手くできた。」
「凄いがどうやったんだ?」
「・・・ん、律兎とギュリカの戦いを参考にして内部に衝撃を与えてみた。ただ、私だと剣技だけで相手の内部を揺するのは難しい。・・・だからズルした。」
「・・・あー、なるほど。体内の水分を直接揺すったのか。」
一つこうじゃないかという考えが浮かんだので聞いてみるとスイはコクコクと頷いた。
・・・言うのは簡単だが、実行するのは至難の業だぞ?
体内の水分だけを直接揺する。
俺は相手の水分もそうだが、肉や筋繊維、骨に至って直接衝撃を送って揺すっているんだ。
ただ、スイはそれを難しいと言って体内の水分だけを揺すり、相手を気絶させた。それには体内に流れる水分を知覚する必要があるのだ。
・・・相当感知能力に長けてるな。それに接地点から広がるように魔力を展開して流れを読み解く繊細さは俺よりも遥かに高い。
「いやもうカッコよすぎて惚れそうでした。」
「・・・俺も女だったら惚れてるかも。」
「ぼ、ぼくは、、、!」
「「お前(貴方)はいい。」」
お前は既に手遅れだろ。
倒れた魔物に近づき観察する。
結構な大きさだが、食えるのかな? もし食料になればしばらくは保ちそうだが。
「これって食える?」
「・・・ごめん、初めて見たからわからないかも。」
「つ、ツリーアーコウの脂身は特殊な消化器官のない魔族には毒だから、う、上手く毒抜きしないと、た、食べられないよ。」
・・・なんだ、食えないのかよ。
アンコウなら残す所は無いって言われる程なのになー。実に毒があるなら仕方ない、殺してはいないみたいだしほっとくか。
「ハイル、取り敢えずお前は先に街に行って様子だけ見てきて1時間以内で。」
「え、えぇ!? そ、そんな近くないよ!?」
「いいから行って来い、間に合わなかったらもう一回な。はいせーの、、、」
「うわぁー!!」
合図とともにハイルを走らせて先に街の視察をさせておく。ぶっちゃけハイルを鍛えるとか行ったけど速く走るくらいしかないんだよ。後は体力とスピードに耐えられる体づくりをしていくしかない。次は重りでも着けさせるかな。
俺達はゆっくりと歩きながら街へ向かう。
何があるかわからないし無駄に体力を使う必要はないだろ。
「あれ? 律兎さん、指輪の光もとに戻ったのでは?」
ミリアはそう言って俺の指輪を指差す。
言われて改めて見てみると確かに光が戻っている気がした。
「・・・それが、召喚の指輪? うっすらと光を帯びてて綺麗。」
スイはあの時まだ意識が曖昧だったようでミルルを喚び出した時の事を覚えていないらしい。
そういえば効果は説明したけど見せてはいなかったな。
・・・さて、どうするかな。
これなら喚び出せるかも知れないけど、万が一があると嫌だしなー。でもこの指輪の効果に確信は持っていたい。じゃないと保険にしておくのも不安だから、、、。
「よし、やっぱ安牌はミルルかな? ルミアでもいいけどあいつすぐ早とちりするし、グラムさんは申し訳なさすぎる。」
ちなみに他は論外。
ま、実績もあるしミルルが一番だな。
そう思って腕を前に出して、彼女の姿を思い浮かべた。
・・・なんか非常時でもないのに必死に女の子の姿を思い浮かべてるのって病んでね?
指輪の光が徐々に強くなり、熱を帯びていく、
そして一際強い光が辺りを包みこんだ。
ーーカッ!
「どうだ? 上手くいっーーピギャアア!?」
光が収まる瞬間に目にも留まらぬ速さで目潰しされました。激痛と涙で目が開かずその場で悶絶す、、、何で目潰しされたんだよ!?
「・・・まったく〜、と、時と〜、場合を〜、選んでくださいよ〜。」
涙で滲んだ視界が徐々に回復してくるといつもの姿をしたミルルが見えてくる。何が不満だったのか分からなかったが、若干着崩された服を見ておおよその見当はついた。
「あー、訓練中だった?」
「・・・終わった直後ですね〜、言ってる意味わかりますか〜?」
「大変申し訳ございませんでした!」
男どもと違って女性だからな、訓練後の汗をかいたままの状態でいるのは忌避感があるだろうしそういうことだろう。
ミルルは全くといった様子でため息をついた。
「・・・よかったですよ〜、喚ばれる前に前兆があって〜。てかそこまで再現する必要あります〜?」
・・・再現ってなに? あぶねぇー、こんな所で命を落とすところだったわ。
冷や汗をダラダラ流しながらもう少しタイミングとかを気にする必要があるなと深く思い直した。
喚び出されたミルルはヒラヒラと手を振りながらスイとミリアに挨拶するが、相変わらず言葉は通じてないのでミリアは会釈して、スイは同じ様に手を振り返している。
あ、そうだ。
「あ、そうそう、スイ、俺がお前に目指してみろって見せた技はコイツの持ち技だよ。」
「・・・え、そうなの?」
「ん〜? 私の技ですか〜?」
突然自分が到達した技を見せたと言われ、ミルルは口に人差し指を当てる。
もしかしたら自分が到達した技を勝手に教えられて嫌な気分になったのかな?
そう思ったがミルルはスイに近寄ってジロジロと観察を始めた。急に詰め寄られ、観察されたスイは困惑した表情を浮かべながら立ち尽くす。
「・・・う~ん、剣帝じゃないので〜、見ただけじゃわかりませんね〜。大丈夫ですか〜? 合わないと体にかかる負荷が大きいですよ〜。」
「そこら辺はちゃんと見極めてるよ。あ、あと最近もう一人ルミアの技に近づけそうな奴がいたから勝手に教えようかなって思ってる。」
「・・・・・え、あれを? 下手したら体バラバラになって死にますよ?」
大丈夫、大丈夫、ちゃんと体作らせてから教えるから。
そんな風に元の世界であれば技の漏洩とかいうブチギレられそうな事を勝手にしていることをサラリと伝えておく。まぁ、七剣の技は至った技であって秘伝でも無いのだが、一般人には真似できないし、それなりの剣士であっても真似したら体への負荷が大きすぎて普通に大怪我するからな。
そこが分かっていて、更に危険度の高いルミアの技を教えようとしてると言われてミルルは思わず真顔で素に戻ったのだ。
白狼とルミアの技は破壊力がエグいけどそのぶん体壊しやすいんだよね。白狼の技なんて心臓破裂して簡単に死ねるから。
「ま〜、先生が見てるなら〜、平気だと思いますけどね〜。というか他の七剣の技を模倣できるのなんて先生くらいですし〜。」
「別にお前らだってやろうと思えばできるだろ?」
「・・・できるか〜。至技をなんだと思ってやがるんですか〜?」
おっと、口調が割とガチで責めてますね。
まー、流石に今のは冗談だ。誰でも真似できるようなら七剣なんて称号いらないし、特別扱いもされるわけない。誰にも到達できなかった領域に至った者の事を七剣と呼ぶのだから。
・・・何で俺は真似できるのかって? 知らんね。
「あ、そうだ〜、忘れる前に伝えておきますけど〜、剣帝が今度は自分を喚ぶようにだって〜。」
「え、やだけど?」
「私に言わないでください〜。」
うわぁ~、まじかよ。
あの人って何か雲の上の人過ぎて緊張するんだよな。こういう理解不能な現象(異世界転移等)とかに遭遇したときにその知識は凄い助かるけど、別の知識も過剰に詰め込まれるから普通に疲れる。
「・・・しゃーないか、実際に助かることは助かるしな。ついでに魔王とか倒してきてくれたりしないかな?」
「さぁ~? 倒せるとは思いますけど、過干渉はしないんじゃないですかね〜? というか魔王なんているんですね〜、敵なのですか〜?」
・・・あれ、そういえば確かに敵なのかな?
元々正当防衛とは言え最初に仕掛けたのはこっちだし、幹部を倒したのも俺だし、、、。向こうには敵として認識されてはいるだろうけどぶっちゃけ俺たち側に戦う理由はない気がする。
「まぁ、いんじゃね? 悪そうな名前だし。」
「魔王よりたち悪そうですね〜、というかここってどこです? 人が住んでる街とかないんですか〜?」
「あー、ここは魔族領だからな。魔族の村とか集落が多いんだよ。」
「へー、そうなんですね〜、魔族とか見てみたいです〜。」
「え、ここにいるぞ?」
そう言ってスイを指し示す。
スイはよくわからないながらも無表情で胸を張る。
ミルルは戸惑いながら「えぇ?」と声を漏らした。
「全然普通の人にしか見えませんけど〜?」
「ほら、髪色が青じゃん。」
「・・・だからなんです〜?」
うん、普通はそういう反応だよね。
元の世界だったら奇抜な髪色で見たことある気もするしな。スイとか人型の魔族は髪色とかでしか判断できないよね。
ちなみに触手が見えたら逃げるよ、絶対な!
「あ、てか人権とかあるの?」
「律兎さん、、、それは酷いですよ。」
「・・・酷い。」
何が!? ただ気になったから聞いただけですけど!?
「・・・でも基準としては意思疎通が取れることが大前提。ギリギリ意思疎通が取れるテンタコー族は保障されてる。・・・保障と言っても魔王様基準だけど。」
「危害加えるならだめだろ。」
「・・・多すぎて、困る。」
あ、逆に?
もう世紀末じゃん魔族領。
そりゃあ人族とも喧嘩するわな。種族の内のつながりが強すぎて他種族との折り合いが悪いとかはありそう。
「でもそれは人も同じでは? 国同士の諍いとかも多いですし、、、。」
本当だ、つまりもう世紀末ってことか、、、。荒廃してないけど、そろそろ髪型変えたほうがいいかもな。
どんどんと話題が逸れて行くのを放置していると、崖の上から気配を感じてチラリと確認しておく。
姿は見づらいが薄っすらと空気が揺れているのがわかった。
光学迷彩、同化や擬態でもなくて透明化か、視覚が発達してなければ気付きづらくはあるな。音も一切していない。
「わかってますよね〜?」
前を向くと変わらない笑顔で構えを取ることも肩に力を入れてもいない自然体でいるミルルが写る。
その一言を契機に景色が揺れて細長い蜘蛛のような白銀の魔物が姿を表し、口から勢いよく粘着質の強そうな物質を飛ばしてきた。
スイも遅れながらに気づいたようだが、もはや攻撃はされた後、防ぐのは間に合わないだろう。
半歩前に出たミルルが構えや予備動作をもなく剣の横に手をかざすように前に出すとシュルっと実に静かに剣が抜かれている。
直前まで迫った飛来物を横に振るった剣で当たるか当たらないかほんと数ミクロン程のスレスレで通し、生まれた風や流れと魔力を利用しながら曲線を描くようにぐるりと回る。
ミルルは相手を見ることなく狙いを定めて、攻撃を返した。
ーーボッ!
相手から放たれたときはバシュッって感じの音だったのに返された捕らえるための物質はまるで砲弾のような音をさせて着弾。
当たった半身を吹き飛ばしてそのまま後方へと飛んでいった。
「おー、相変わらず器用だな。でも、だいぶゆっくりじゃね?」
「教えてるんですよね〜? なら見せてあげようかと〜。」
優しいけど参考になるかな?
割と俺でも見切るのギリギリだったけどどうなんだろ? と思って振り向くとぱちぱちと手を叩く何も状況がわかっていないミリアと目を見開いて驚きを露わにしてるスイがいる。
「・・・凄い、継ぎ目が全く無かった。一瞬の魔力を乗せるタイミングに空気の流れを意識した軌道。・・・でも感知はどうやって?」
「スイ、よーく意識を集中させろ。お前なら感知できる筈だ。」
「・・・ん。」
魔力を肌で感じるために目を閉じて集中する。
どうなるかと見守っていたが、少しするとスイはゆっくり目を開いた。
「・・・・・うそ、こんなに?」
「まじで感じ取れたのかよ。」
「お〜、マジですか〜? これを読み取れるとは〜、だいぶ感覚が鋭いですよ〜。」
答え合わせをするとミルルは25mプールに一滴の墨を垂らしたかのような程、希薄な濃度の魔力を展開させていた。そこまで薄ければ他者は感知することが困難であり、維持に多大な集中力が必要なのだが、代わりに魔力の消費量はごく僅かで済むのだ。
「・・・この薄さで魔力の揺らぎを感じ取れるの?」
「この薄さで魔力の揺らぎを感じ取れるの?だって。」
「あ〜、慣れると余裕ですよ〜。」
んな訳あるか。
維持と揺らぎの感知はもはや長年やりすぎて慣れたらしい。慣れるまでは何回も吐いたり寝込んだりしたみたいだが、今では息をするようにできるって。そこまでの領域に至るのは難しいだろうが、頑張ってねスイくん。
そんなこんなしていると、またミルルの体が薄くなっていく、どうやら時間が来たようだ。
「大体10分位が限度ですね〜。」
「だな、色々理解できた。もしかしたら急に喚び出しちゃうかもしれないけど、平気か?」
「そこら辺も剣帝が話したいらしいですよ〜。なので次はあの人を呼んでくださいね〜(念押し)。」
「・・・おう。」
少し顔を歪めながら渋々了承すると、彼女は何かを思いついたかのように意地悪な笑みを浮かべ始めた。
「そ~ですね〜、随分と可愛い娘と一緒みたいですし〜、少し〜、リードさせてもらいますかね〜?」
「あ? なに、、、を、、、?」
ーーちゅ
胸倉を掴まれて急に引っ張られたと思ったら頬に軽くキスをされた。突然の出来事に照れると言うより戸惑いながらミルルを見返す。
すると、彼女は顔を真っ赤にさせ、手で顔を仰ぎながら手を振った。
「で〜は〜〜!」
ーーシュンッ
「・・・何だったんだ? 一体。」
よく分からないが、多分あいつのお国柄の挨拶みたいなものか? こんな事今までされたことはなかったけど、久し振りでなかなか会えないから母国の挨拶的なものをしてしまったのか、、、。(見当違い)
気にしないで(クズ)、旅を再開しようと振り返るとミリアは少し顔を強張らせ、スイは顔を赤くしていた。
「・・・そういう関係?」
「ちげぇよ、多分挨拶みたいなもんだろ。」
「そ、そうなのですね。」
何か困惑したようなミリアに首を傾げながらも歩き出す。時間はないことはないが、期限はあるので急がないとな、、、。
ちなみにハイルは2時間後に合流しました。
重りを付けて泣きながらもう一回行きましたとさ。




