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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー39


スイに先導してもらって間欠泉の真ん中に立つ。

ゴポゴポという泡が徐々に大きく勢いを増していく中、ミリアが落ち着くように息を吸った後、魔力を練り上げ始める。



「『聖なる光よ、我は求める。我が心蝕む闇夜の影、踏み出すは刃舞う茨の道なり、なれば求める、かの全ての事柄を、あまねく拒絶する絶対なる盾を!『万象 隔絶障壁』!」



詠唱のあとに展開された円形の障壁はいつもの透明な感じではなく少し黒っぽかった。



・・・うん、こんな感じなんだ。見辛い。



「何で少し黒いの?」


「隔絶障壁は外界と完全な隔絶をする障壁ですのでこの中にいると外からは見えませんし、中の声も外には漏れない筈です。・・・問題としては空気も遮断しちゃうのでずっとこれにこもってると息が苦しくなるのですよね。あ、何で黒いのかは知りません。」



知らないのかよ。


外から見えないってことはマジックミラーみたいになってるのか。完全な遮断、空間も狭いし人数も四人と多い。酸素残量にも気を付ける必要があるか?


まぁ、間欠泉で吹っ飛んでいく予定だしそこはあまりそこは気にしなくていいか。問題はどちらかと言うと強度か? その点に関してはミリアの防御の腕だけは信用しているし、託すとしよう。



「・・・な、なんか緊張してきた、吐きそう。」


「頼むから吐くなよ? ゲロまみれで跳ね飛ばされるとか最悪だからな。」



ぶっちゃけジェットコースターの昇ってる途中みたいなドキドキ感は俺もある。



・・・そう言えばGとか大丈夫なのかな? ミリアはいつも通り中心で固定されるみたいだけど俺たちってどうな、、、



ーーボコボコボコッ、、、、ドッパァアアアアアアアンッ!!



噴出された大量の温泉によって薄黒い障壁の球は勢いよく、上へ上へと押し出されていく。

景色は変わらず真っ暗だが、上に僅かな明かりが見えてくる。



「揺れる揺れる揺れる。圧はないけどめっちゃ揺れるなこれ。」


「うわわわわわ!? た、立ってられなくない!? 何でそんな冷静なの!?」


「酔ってきました。」


「・・・大丈夫?」



外気圧すら遮断しているのか揺れることはあっても障壁の壁に押し付けられることはなかった。

ちなみにミリアさんは中心でぐるぐるぐるぐる回っている。なんかすごいシュール。


俺は体幹には自信があるのでふらつくこと無く立ち尽くす。


壁は何回も噴き出された温泉が通ったからか削り取られ綺麗な通り道になっているので登っていく最中に障害物があることもなかった。



「わ、わわわっ! うわっ!?」


「・・・!」



一度壁に擦った瞬間にハイルはバランスを崩して倒れる。球形の障壁の中にいる俺たちは必然的に真ん中に集まることになるのでそこに立っていたスイにハイルは突っ込んだ。


二人して転んで組んず解れつ、俺は体幹が良すぎてそんな事にならないんだけど、何そのラッキーぶん殴るぞ?



「ご、ごごごごごごごごごごめん! す、すぐ退、、、わぁ!?」


「・・・だ、大丈夫だから! あまり動かないで!」



・・・何この状況。



俺は見てられず白けた目でくるくる回っていたミリアを見ると同じく白けた目をしていたミリアと目が合った。



「・・・律兎さん、私が吐けば現状は一変できます。」


「それとともにお前の印象は地に落ちるけどな。」



まぁ事故みたいなものだし許してやろうよ。でも俺が言ったのは話せるようになっとけって話だけであってそれ以上いけとは言ってないからな?


そんな悶着が起こっている間にドンドンと上の光は強くなり続け、その眩しさに思わず目を細めると、、、



ーーバアアアアアァッ!



暗い地下から陽の光に包まれる久しぶりの地上へと飛び出した。


天高く舞い上がり、下を見ると幅がもはや何kmかすら分からないほどの断崖絶壁に滝が流れ落ちている。その圧巻の光景と大中小様々な浮島から湧き出す温泉が流れ落ち、多くの虹を作り出していた。


すげえな、これだよこれ、これこそまさしく異世界って感じの景色だよ。


感動したのも束の間、浮上の勢いが落ち着いてきて遂に落下がはじまる。


俺はすぐさまハイルとスイを抱えてミリアの方へ跳ぶ。ハイルを背中にスイを左腕、ミリアの腕を掴んで離れないように引き寄せた。



「よし、ミリア障壁を解け。」


「はい、わかりました。いきますよーー!」



障壁が解除された瞬間に一気に浮遊感が襲ってくる。

風圧と落下の速度が少しずつ上がってくる恐怖に耐えながら目を凝らし、手頃な縁の深い浮島を見つけた。



「ハイル! 右手前の浮島の縁に向かって撃て!」


「う、うん!」



抱えられたハイルは必死に両腕を上げてフックガンを構える。ガチガチに震えてプルプルしながら、意を決したように引き金を引いた。


フックは円を描きながら飛翔し、浮島の内側に当たって流され、上手く縁へと引っかかった。



「しっかり握れよ!」


「うわあぁああああああああぁぁぁぁぁーー!」



俺達は振り子のように振られて前へと投げ出される。

フックとワイヤーを切り離し、小さな浮島の先にあったもう少し大きめの浮島へと着水した。



ーードパァアアアン!



固まったままだと危ないので全員を手放して大きな水しぶきを上げながら水中を転がる。前後左右が分からないくらいぐるぐると回り、薄っすらと見えた底を蹴って浮上した。



「ぶはぁっ! あっちぃな!」



大体温度は40度前後くらいか?

服が水を吸って泳ぎづらすぎる。下手にバタバタしないで力を抜くようにして浮き、他の三人を探す様に辺りを見渡した。



「あいつらは?」



ーーザパアァ、、、



「・・・ぷはっ。」



浮いていると真横からスイが顔を出す。

彼女はそのまま指を空中に描くと、水音ともに2つの水球が浮かんできた。


丸い水球から頭だけだした2人は白い目を剥いて気絶している、、、。



「あいつらどうした?」


「・・・パニックになって溺れてたから回収した。」



あぁ、確かに深い水に落とされると息ができずパニックになりやすい。そういう時こそ落ち着かないとと心の底では分かっていても、いざとなると冷静では居られないものだ。


スイがいて助かったな。水中特化のミスルル族である彼女のフォローはありがたい。



「・・・どうする?」


「取り敢えず二人が起きるまでは待たないとな。縁の方なら浅いだろうからそこで休もう。」


「・・・わかった。」



二人でゆっくりと縁まで泳いでいき、寄りかかる。

下を眺めると温泉の溜まった巨大な川が地下へと落ちていく。あまりの高度と、流れの速さに高所恐怖症でなくても鳥肌が立った。



「このまま浸かってたらのぼせるな。その前に降りねえと。」


「・・・これだけ水があるなら魔法で全員を運び出せる。」



相変わらず優秀すぎるな。


横に座るように温泉につかるスイは眠そうな目のまま、髪が肌に張り付いてうっとうしいのかかきあげたりしていた。漂う湯気に薄っすらと赤みがかかる頬がとても色気を醸し、、、ゴホンゴホン。



「服ごと浸かる温泉は不快だな。」


「・・・それは仕方ない。でも温度は思ったよりもちょうど良くて疲れた体に染みる。」



ちょっと眠そうにスイはぷかぷか浮かぶように遊んでいる。確かに崖下で長い事戦ったり歩いたりしてたので疲れはたまっていた。ただここでまったりしてしまうと動けなくなるので気持ちを切り替える。



「こいつら起こせない?」


「・・・顔にギリギリまで冷やした冷水かけてみよっか。」



スイはそう言うと二人の前にピンポン球位の小さな水球を作って顔に当てた。



「つめたっ!?」


「な、なに!?」



ふたりは目覚めて逆さなことに驚いて自分の状況を確認する。それであたふたしたあと縁の下をのぞいてしまい、大人しくなった。



「・・・ふたりとも、動ける?」


「大丈夫ですよー、むしろ早く降りないと頭に血が上って破裂しそうです。」



ずっと逆さだもんね。綺麗な白い髪が逆さに垂れ下がって若干怖い。あとこんなに温かいのに顔が赤いんじゃなくて青くなっていて笑う。


あと、ハイルお前どこ見てんの?すげぇ露骨にスイから視線逸らしてんじゃん。視線のやり場に困るのは分かるけど意識しすぎだろ。



「・・・じゃ、地上に向かお。」



再びミリアを背負って近場の浮島をぴょんぴょん飛び渡って、届かない場所はスイに水の橋を作ってもらいながら少しづつ進んでいった。



「足を踏み外したら真っ逆さまって思うとドキドキするな。」


「ど、ドキドキというかバクバクするよ! 下見ちゃだめだ、下見ちゃだめだ、下見ちゃどめど、、、。」



どめどってなに? 方言かな?



自分で自分を抱えるようにガタガタしながら後ろをついてくるハイルをからかいながら島を渡り歩く。たいがいどの島も温泉が湧き出ているので歩きづらいったらないが、水面を固定してもらうとだいぶ集中力が削られるみたいだしそれは避けるようにしている。



「ん?」



そんな中、ふと下を見ると何か蠢くものが見えた気がした。

よく見ようと縁に寄って下を覗くと、温泉が溜まって流れが緩い所でイソギンチャクみたいなものがゆらゆらしている。



「何あれ?」


「・・・テンタコー族の素。」


「素って何!?」



テンタコー族ってパルパンクで会った人型の魔物じゃなかった? もはや合ってるの背中の触手だけなんだけど。



「も、素というより生まれたばかりの幼体かな。テンタコー族は暖かくて湿度の高いところを好むからここの温泉は繁殖地として適してるんだよ。」


「ちなみに落ちたらどうなります?」


「・・・男性は絡め取られて絞殺される。・・・女性は、、、酷い目に合う。」


「なんかテンタコー族だけやけに悪意高くね!?」



街であったときはただ背中に触手が生えてる普通の魔族にしか見えなかったのにどんどんと怖い話が追加されていく。本当にあの宿に泊まらなくてよかったわ。



「・・・成体になると意思疎通が取れるようになるけど、巣に連れて行かれたら最後、姿を見かけなくなる。」


「と、というよりあれだけ幼体がいるなら成体も何処かにいそ、、、。」



ーーニュルリ



フラグが立ったかのように、前の温泉から人に擬態しながら多数の触手が生えた女性の姿をしたテンタコー族が現れた。


ヌメッとした笑みを浮かべたあとに皮膚から粘液を分泌させながらゆっくりと近づいてくる。



「「「・・・。」」」


「あれ? ハイルは?」


「・・・もう逃げたよ。」



ハイルはテンタコー族が現れた瞬間に速攻で姿をくらませ、気付くと2つ前ほどの浮島まで走っていた。


テンタコー族は一度立ち止まって体を震わせると更に倍の触手を生やして、こちらに向かって勢いよく射出。



「うわぁ!?」


「・・・逃げよう。」


「こんなのばっかです!」



ダッシュで浮島を飛び出してハイルの後を追う。

騒いで逃げれば逃げるほど他のテンタコー族が現れて触手を素早く伸ばしてくる。


それを掻い潜りながら全員が必死に地上へと走り続けた。一体いつになったらゆっくりできるのだろう、、、。




ーーー




「はぁ、はぁ、はぁっ! なんかガイアデルガより怖かったんだが!?」


「・・・危機を感じた。」


「あ、危なかったね。」


「お前は速攻で逃げたけどな。」



何とか全員で崖の上、地上に逃げ延びた。

重圧もなく軽い体、見渡せる明るい大地、その全てが懐かしく感じ、軽い感動を覚える。


ミリアも俺たちと同じく、逃げ疲れて突っ伏すと思ったが、彼女は一人大地に仁王立ちして両腕を上に上げた。



「だ、い、ち、だーーー!!」



満面の笑みでびしょ濡れのまま本当に嬉しそうに叫ぶ。ミリアは俺たちと違い、視界以外に周囲の地形を認識する能力が低い。その分ストレスも多かっただろうし開放感は半端ないだろう。


嬉しそうにくるくる回るミリアを俺たちは力なく座りながら微笑ましく見守る。


今は温泉の川から少し離れた地面が岩剥き出しの場所に座り込んでいた。



「とりあえず乾かすか。」


「・・・ん、任せて。」



え、どうすんの? と思っていたらスイがこちらに手を向ける。すると、水を吸って重くなった服から絞られるかのように水が中空に集まっていく。



「脱水できるとかすごい便利じゃん。」


「い、いや、相当難しい筈だよ。加減を間違えると服の繊維を傷つけちゃうし、水だけを抜き取るなんて神業レベルだと思う。」



・・・前々から器用だとは思ってたけどそんなレベルなんだ。


軽く引きながら、ちゃんと脱水されて軽くなった服を確かめるようにポンポンと服を叩く。

スイは次にハイルを乾かしてミリアを捕まえる。



「あ、そうだ、ハイルこれやるよ。」



俺はそう言ってボックスからフックガンの先端に付けるフックの替えを手渡す。あのフックガンは魔法で磁力を発生させ、ワイヤーとフックをくっつけ任意のタイミングで外したりできる(さっき都合よく外れたのはそれが要因だね)。つまり消耗品になるので替えは必須だった。



「ま、待って、僕これもらっていいの?」


「後もう一個あるからな。」



補充も出来ないしフックの替えが減るのは痛いが、使わなければ持ち腐れる。それならあげてもいいかなって思っただけの話だ。



「あ、ありがとう、、、。」


「・・・・・売ってもいいけど入手経路は喋るなよ?」


「売らないけど!?」



それなりの握力と腕の筋肉が必要だから使える人も限られる。でも利便性はあるからそれなりに値段はつくと思うよ? 多分この世界にはまだない技術で作られてるから。



「そんでハイル、お前はこれからどうすんだ?」


「え、こ、これから?」



そもそもこいつとは成り行きで一緒になっただけだし、何でエルフの里から出てきてパルパンクにいたのかも知らない。聞いていい事かも分からないから聞かなかったけど、ようやく崖から這い上がってこれたんだ。これからどうするのかは聞いておいた方がいいだろう、一緒に来るのか、何処か目的があるのか、それともパルパンクに戻るのか、、、。


彼は少し考えた後におずおずとこちらを見てくる。



「・・・ぼ、僕は、、、。僕は、やらないといけないことがあるんだ。じゃ、じゃないと、さ、里が、、、なくなってしまうかもしれないんだ。」


「つまりお前はそれを何とかするためにパルパンクに?」


「あ、いや、そ、それは成り行きなんだけど、、、。」



あ、そうなの?

てっきり何か目的があってあの街で正義の味方ごっこしてるのかと思ったんだが。



「・・・で、でも、正直、僕だけじゃ、無理なんだ。何とかしようとは思ってた。だ、だけど、あ、あの街で、誰かが助けてくれないかって、心の底では願っちゃってて。」


「あぁ。」


「こ、こんな事を言うのは筋が通らないとは思ってる。で、でも、僕はやっぱり里を助けたい。だから、も、もし、よかったら、僕を、里を一緒に助けてくれないかな? それで、全部が解決したら君たちと一緒に旅に出てみたいんだ。」



息を呑むように顔を緊張で青くし、必死に願うように目を見てくる。

俺はそれに対して変わらず平然と返した。



「おし、んじゃそんな感じで行くかー。お前らもそれでいいか?」


「・・・ん、任せる。」


「構いませんけど、、、。うえぇ、また戦うのかなぁ?」



反対意見も出ないで速攻で方針が決まったことに彼は驚きポカンとした表情を浮かべる。

そしてその後取り乱したように慌てだした。



「え、え、え!? ま、待ってよ! そ、そんなに簡単に決めていいの!?」


「いいのいいの、ぶっちゃけ俺たちってやる事も目的もないからさ。」


「・・・エルフの里、行ってみたい。」


「おいしい食べ物あります?」



気にするとこそこかよ。

一大事ってのはよくわからないが、やることも無いしそろそろ男の仲間が欲しいって思ってたんだよな。

まぁ俺もエルフの里って気になるからな、せっかくこの異世界に来たんだ。行き当たりばったりを楽しんでいかなくちゃ。



「・・・い、いいの?」


「いいって、一緒に行こう。仲間が困ってんなら助けられるかどうか分からなくても、お節介を焼きたくなるもんだからな。」



歯が浮くようなセリフを吐きながらハイルに手を差し出す。

俺は今まで何度も助けられてきた。

人生は希望と絶望の渡り歩き、だからこそ人生という短い時間の中で見られる希望は絶望よりも多い方が良いに決まっている。


そう思うなら、与えてみたいだろ。与えられるなら、見せられる限りの希望ってやつを。


差し出された手をハイルは眺め、目から涙をこぼす。

彼は震えながらそっとその手を握った。



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