喚ばれた剣聖ー37
ミルルと会って数時間後、、、。
今はスイを背負って崖下を歩いていた。
いつもならミリアを背負うが、スイの体調が未だに本調子に戻らない。ガイアデルガを倒したから呪いは解呪されたが薬の効果は1日続くようでまだしばらくはまともに動けないとのこと。
まぁ、あのまま呪いを放置していたらまずかったし、仕方ないか。
ただ、そろそろミリアが音を上げそうだなと思い、ちらっと後ろを振り返る。
「・・・。」
「・・・? ミリア、大丈夫か?」
ミリアは何故か落ち込んでいるような雰囲気で大人しかった。いつもこのくらい歩くと音を上げ始めていたはずなのでさすがに心配になり声を掛ける。
本人はハッとした様子で慌て、笑顔を浮かべた。
「大丈夫です! そ、それよりも転移陣のある場所まであとどのくらいですかね?」
どのくらいなんだろうね? 俺も知らないのでそのままぐりんっとハイルを見る。
「え? え、えーと、後もう少しかな?」
「いやなんで疑問系なんだよ。目印たどってるんじゃないのか?」
「そ、そうなんだけど、ここらへんやけに岩とか壁が崩れてて、じ、地震でもあったのかな?」
言われてみるとやけに細かな破片や砕けたような岩が多く見受けられる。
暗いし、ランタンの明かりも頼りないのに足場も悪いとか最悪だな。
「ま、まだ先だよ。一回休憩挟んでもいいかもしれない。」
確かにずっと暗闇を歩いてて時間の感覚とかわからないけど一度寝てもいいかもしれない。睡眠とればスイも薬抜けそうだし、ちょうど良いか。
「そーだな、休むとするか。ミリアもそれでいいだろ?」
「何で決めつけなのです? 大いに賛成ですけど。」
ならいいじゃん。
少し顔色を窺っているといつも通りの笑みで小首を傾げられた。少し違和感を感じたけど気の所為みたい。
いつも通りの野営の準備をこなしてテントに布団を敷いておく。最初に休むのはミリアとスイ、その次に俺とハイルだ。ようやく2対2の構図になったなー。
ボックスを開いてテキトーに買っておいたパンにベーコンと原材料のわからないチーズを挟んで各々に手渡しておいた。
「ーー(もぐもぐもぐ)、なんかパサパサでチーズの匂いが強いです。」
「え、こ、こんなものじゃない?」
「元の世界のパン食わせすぎたかー。舌が肥えちゃったね。」
確かに元の世界のパンと比べるとパサパサで硬い。ベーコンは塩っぱいし、チーズは臭みが強いな。
ただ贅沢は言えないので大人しく栄養の足りないサンドイッチを食べる。パンの作り方は知ってるし、後でスイに作ってもらお。
「そ、そういえば、さっきの人って誰だったの? きゅ、急に現れたし、、、。」
モソモソのサンドイッチを食べているとハイルが気になっていたことを聞いてくる。俺もまだ説明してないし、そりゃ気になるよな。
「うーん、どっから話せばいいのか、、、。取り敢えずあいつは元の世界の、、、」
「ちょ、ちょっと待ってその元の世界って何?」
説明をしようとすると、途中でハイルから待ったがかかった。言われてみれば成り行きで一緒になっただけだし、ハイルには俺がなんなのか一切説明していない。ここまで一緒になったのに何の説明もなしは流石に酷いと思ったので面倒だが、、、本当に面倒だが、また説明をすることにした。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「ーーゆ、勇者?」
「・・・・・何で毎回そうなるの? 違うって否定するのもめんどくさくなってきたわ。」
「では勇者ってことにしましょう。さぁ、勇者よ魔王を倒しに行ってきてください。」
「おっけ、お前盾な?」
「せめて僧侶にしてください!」
いや、僧侶って職業、この世界にあるの?
いつも通りの軽口といつも通りの誤解を訂正して、ハイルに1から説明しました。
それなりに時間かけて話し終わり、ようやく今の現状に戻って来る。
「な、なるほど? そ、それじゃあ、さっきの女の人が、り、律兎さんのど、同郷ってこと?」
「まぁそうだな。」
同郷ってか同僚。
そこまで聞いて、ハイルは口元に手を当てて顔を困惑に歪めた。
「て、てっきり幻覚かと思ってた。き、急に出てきて消えちゃうし、都合のいい夢かと。」
「あ、それですそれです、私も気になってました。えっと、ミルルさんはどうやってここに現れたのですか?」
ミリアも気になるのか前のめりに聞きに来る。まぁ、誰にも話してなかったし、気になるのは当然だと思う。てか、俺も効果を今しがた知ったばかりだから上手く話せるかはわからないけどね。
「いや、俺も何でかはよくはわかってないんだが、恐らくこの指輪が関係していると思う。」
右手を前に出して2人に見えるように指輪を見せた。
今は宝石の光は失われ、ただの色のついた石にしか見えない。
「手に入れた経緯は、、、なんか気づいたら指についてた。」
「いや、めんどくさくなってますよね?」
流石に誤魔化せなかったのでちゃんと変な存在とあったことも説明しておく。
・・・ただ、そいつがミリアについて言っていたことだけは伏せておいた。あまり変な憶測をさせるものじゃないし、余計な混乱を招くおそれがある。
あとはなんとなく現地民であるこいつらが少しでも見聞きしたことがあれば御の字だと思ったが、、、。
「き、聞いたことない、かな? し、神話でも常に発光してるとかは知らないなー。」
「姿を隠すために光らせてたのなら分かりませんね。そもそも神話とかで見聞きした情報と現実は差異が大きいですから。本人が直接名乗ってくれない限り特定は難しいと思いますよ。」
ミリアから凄い的確な指摘を受けて納得する。
確かに過去の神話や歴史というものは時代とともに変化する可能性もあるし、独特な解釈と考察が入るものだ。嘘と真実が混在してどれが正しいかなんて見てみないと判りはしない。
「んー、わかんないならわかんないでいっか。別にそこまで気にする必要はないだろ。」
「もっと気になる気はしますけど、今は指輪の事を考えてみますか。」
ミリアとハイルがわからないならここで話し合ってても正体はわからないだろう。なら今は別のことを考えたほうがいいな。
「貰ったときからずっと光ってたし、召喚して光が消えたなら内蔵エネルギーを消費し続けてこの世界に顕現してんのかな?」
「た、たぶんそうだと思うよ。問題はそのエネルギーが何で再充填にどのくらいかかるのかわからないって事だね。」
1年とかならもはや宝の持ち腐れだからね。
召喚に使用されてるエネルギーなら魔力だとは思うけど、、、。
「ミリア、何か魔力を込められたりしないか?」
そう言いながら指輪を外して手渡す。
ミリアはそれを受け取って、少し考え込んだ後に目を瞑る。
ーーズンッ!
「ーーっぶ!! か、加減をして! 魔力圧が高すぎるよ!?」
「ミリアさーん!? 指輪を壊す気ですかー!?」
「あわわわわわ!」
相変わらずの規格外な魔力を一気に込めようとして辺りに重い重圧がかかる。
ミリアの後ろで船を漕いでいたスイは地面に突っ伏しちゃったもん。大丈夫?ゴンッて落としたけど。
手放された指輪の様子は特に変わらず石も光っていない。壊れなかったことに安心するが、使われていたエネルギーは魔力じゃなかったみたいだな。
「ま、魔力じゃなかったみたいだね。これも解決できそうにないかも。」
「ですね、ならあとはミルルさんが現れた理由ですけど、これはなんとなく予想できるのでは?」
そう言ってミリアとハイルは俺の方を見る。うん、それに関しては心当たりがあるね。
「ガイアデルガの悪足掻きを食らう時に一番状況に適した技を持つのがあいつだ。俺はそれを思い出そうと必死にあいつの姿を思い浮かべた、たぶんそれが要因だと思う。」
だって、そしたら目の前に本人が現れたからね。
最初はあまりに強く念じすぎて見せた幻覚だと思ったよ。
・・・てか、あの召喚って急に呼び出されるのかな? よかったよ、あいつが剣を持ってるタイミングで。
「の、望んだ人物を召喚できるんだ、、、。す、すごい力だね。」
万が一の保険としては充分すぎる性能だよね。
自分が思い浮かべられる強者を助っ人として呼べるなら心労が減っていい。
「・・・でもあまり呼ばないけどな。」
「え、何でですか? 強い人が助けてくれるのはありがたいじゃないですか。」
確かに俺もそう思う、でも、、、
「あいつらも暇じゃないからなー。いないと下手したら世界が滅ぶ局面の可能性もあるし無闇には呼べない。」
あと単純に呼んだら馬鹿にされそう。今回は来てくれたのが新人時代に教え子だったミルルだからフォローしてくれたけど、他の奴らだったら笑ってきそうなんだよ。てか、マジで思い浮かべたのがミルルで良かった、もし師匠こと剣老だったらと思うと肝が冷える。
軽く身震いしていると、お湯が沸いたので皆にコンポタを入れてあげた。パン硬かったし一緒に出してあげればよかったかなー。
「でも検証はするけどね。頼りってより保険にしとくとしても効果は確かめておきたい。取り敢えずは再充填待ちだな。」
そう結論づけてこの話を終わりにする。
起きたらまた崖底を歩くのだから早めに休もうとミリアをテントに送り込む。
ハイルと男同士の見張りを雑談しながら過ごす。
・・・ちなみにミリアさんは起きてきませんでした。
ーーー
キャンプチェアで仮眠を取り、大体3時間くらいたったところで目を覚ます。
固まった体を伸ばしながら変わらない暗闇をキョロキョロ見渡して何かいないか確認した。
・・・そういえばガイアデルガと遭遇した辺りから全く他の魔物に遭遇してないな。
相当な威圧感を持つ存在だったし他の魔物は逃げたのかもしれない。
それはそれで楽だなーと律兎は感じているが、この周辺には眷属と化していた魔物しかいない。その存在達は自分たちを支配していた絶対強者を倒した彼等から逃げるように離れていたのだ。
律兎はそんな事を知る由もないのでただただ楽でいいなーと思っている。
ーージジジイィィィィ、、、。
背後からテントのチャックが開けられる音がして振り返ると髪をボサボサにしたスイが眠気眼をこすりながら起きてきた。
普段から常にきっちり着こなして隙を見せないスイのその姿は珍しくて少し観察する。・・・ミリア? いつもボサボサだよあいつは。
「・・・? おはよ?」
「おう、おはよう。元気になったか?」
笑いながら聞くと、スイは困惑しながら下を見て自分の状態を確認する。
着崩した自分を見て徐々に顔を赤くし、バっとテントに体を隠して顔だけを覗かせた。うん、そこまで元気なら薬は抜けたみたいだね。
「・・・どういう状況?」
「皆起きたらまた説明するよ。」
それだけ伝えて、皆が起きてくるのを待つ。
なんか一番ほのぼのするんだけど、、、。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
皆が起きて準備が整い次第、また出発する。
道中にスイにあった出来事を説明しておく、なんかハイルに説明する時はめんどいなーって思ってたけどスイに説明するのは全く苦痛じゃないわ。何でだろうね?小動物みたいだからかな。
「・・・そんな事があったんだ。」
「あ、別に呪われたのはお前のせいじゃないから気にするなよ?」
話し終わると少し申し訳なさそうにしていたのでちゃんと弁解をしておく。
スイは少し驚いたあとに微笑む。
「・・・ふふ、先に言われた。ありがとう、気にしない様にする。」
もう終わったことだからね。
今更ぶり返しても仕方ないし、実際に悪くない。上手くいったのだからそれでいいだろ。
すると、先導していたハイルが突然立ち止まってギギギっとこちらを振り返ってきた。
その様子に嫌な予感をひしひしと感じる。
彼はある崩れた岩が積まれてる一角を指差した。
「つ、潰れてる。」
指さされた先には割れた木の破片とランタンの破片が飛び散っていた。




