喚ばれた剣聖ー36
「せ、先生? え、ど、どういうこと?」
「・・・・・それはこっちのセリフなんだが。」
まるで幽霊でも見たかのような反応にこちらも困惑する。
「え、えっと、だ、誰ですか?」
まさか元の世界に戻ったのか?と一瞬考えたが、ミリアにギュッと服を握られて、ここが異世界だと思い直される。
呼び出されたのは向こうか?
そんなミルルはミリアを視界に収めて一度咳払いした。
「・・・こほん。え、えっと〜、せんせぇ〜? いろいろと説明してもらえますか〜?」
急におっとりとした口調へと変わり、柔和な笑みを浮かべだす。しかし、その目だけは光をともさず細められていた。
俺は口の端を引き攣らせながらも少しずつ説明していくのだった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「・・・なるほど〜、異世界転移ですか〜。」
「お、おう、信じてくれるか?」
「頭おかしくなりました〜?」
そう言われるとは思ってたけど直球すぎねぇ!?
説明を要求されたので事細かにミリアの出会いから説明してやった。それなのに話を聞いていく内にどんどんと哀れな者を見るような目になっていき、今では不審者をみるかのようだ。
信用されずに悲しくなっていると、ミルルは俺の背後へと視線を移す。目は細められ、柔和な笑みも今は鳴りを潜める。
まるで犯罪者を見るかのような冷たい目で見られ、ミリアは怯えたように俺の背後へと隠れる。
俺は思ったよりも冗談では済まされない圧に思わず手で庇うようにミルルの視線を遮った。
「・・・言ったろ、これは事故みたいなものだ。狙っての誘拐じゃないし、俺はコイツを責めてない。」
「・・・そうは言っても〜、これは魔術を使った誘拐事件ですよね〜。魔典法にも違反してますし、下手したら即処罰対象ですよ〜?」
・・・ミルルの言っていることは間違っていない。
元の世界には魔法や魔術に関して、世界魔術協会が作り上げた法が存在し、犯罪等に魔法が使用された場合、重い厳罰が科せられることになっていた。
ただ、この世界にその法は存在しない。存在しなければ取り締まる機関もないので罪に問われる筋合いなどない。
少し非難的な視線を返していると、ミルルは肩を竦めて睨むのをやめた。
「・・・冗談ですよ〜。先生が庇うなら、犯罪者じゃないでしょうし〜。」
「・・・・・その割には随分と殺気が強かったな?」
「確認ですよ〜。ん〜、普段は取り締まる側の先生が〜、堂々と法を破って味方してるなら〜、本当に世界が違いそうですね〜。」
たちの悪い確認の仕方だなと呆れていると、彼女は悪戯が成功したかのように楽しそうに笑う。
「まぁ少し〜? 色々と心配させた癖に〜、いちゃつかれて〜、ムカついたってのもありますけど〜。」
あー、確かにミルルからすれば突然行方不明になって見つからず、更には七剣の仕事の負担も増えただろうからムカついても仕方ない。
そう考えると申し訳なくなるが、召喚から逃げるすべもなかったのでそこは許してほしかった。
ーーズサッ
すると、背後に降り立つ気配を感じる。
そちらに視線を向けると気まずそうなハイルと肩を貸されたスイが立っていた。
ただスイに関してはまだ目が少し虚ろで意識がはっきりはしていなさそう。まだ薬の効力が抜けていないようだ。
「・・・お前、様子を窺ってたな?」
「だ、だって怖かったんだもん。と、というか誰?」
そういえば紹介してなかったなと思い、全員に紹介するようにミルルの横に並び立つ。
「えーと、俺の元同僚で七剣が一人、剣舞ミルル・リーラクラットさんだ。」
「ミルル・リーラクラットです〜。国家独立防衛軍の軍人ですね~。」
ミルルは紹介に対して朗らかに続く。
しかし、紹介を聞いたミリアとハイルは戸惑ったような表情を浮かべていた。
「・・・どうした?」
「え、えっと、なんて言ってるの?」
・・・? 別に変なことは何も言ってないと思うのだが、ハイルは何か引っかかったのか?
そう思うとクイクイとミルルから袖を引かれた。
「ところで〜、彼らはなんて言ってるのですか〜? というか〜、律兎さんはいつもの言語で話しかけてて〜、向こうは独自の言語で返してるの意味わかりませんけど〜。」
そう言われてハッとなる。
そういえば俺は召喚陣に翻訳の効果でもあったらしく、相手の言語は俺の望む言語で聞こえ、俺の言語は相手に伝わっていた。
ただ、今回のミルルはその召喚陣を通していない。なら翻訳されていないというのは理解できる話だ。
つい視線が右手についた指輪に吸い寄せられる。
・・・これはなんなんだ?
普段は特に輝いたりすることはなくただの変色する宝石が通った指輪だったのに、今は宝石の部分が青く輝いていた。
ミルルが呼び出されたのはこれきっかけだと思うが、原理も何も理解できない。あの眩しい奴は結局何者だったんだろう。
・・・ん? さっきより輝きが減ってる。
少し光が収まっているかな?と、首を傾げた。
「・・・ん〜、向こうの言語はだいたい覚えましたけど、どれにも似通ってないですね~。」
彼女は国から独立した軍隊に所属している以上、各国に赴くことが多い。そのため、数多くの言語を習得していた。・・・まぁそれでも異世界はまた別だろうね。
「ま〜、何でもいいですけど〜、私〜、いつ帰れるんですかね〜?」
ミルルはそういいながらキョロキョロとあたりを見渡す。ごめんね、急に呼び出して光線受けて、辺り一面洞窟で異世界とか言われても困るよね。
「でも私としては〜? 先生と一緒にいられるならどこでも良いですけどね〜?」
そう言って「にひひっ」って笑うミルルは可愛いが、彼女は各国家の保安と世界の危機を監視と対処する軍隊で重要な役職に就いている。そんな彼女をこっちの世界に連れてきてしまうのは相当まずい、、、。
・・・おれ? 俺はいいんだよ、もともと世界中をフラフラしてただけだもん。
「長い付き合いだから楽ってのは分かるけど、お前今、責任ある立場じゃん。流石にここに居るのはだめだろ。」
「・・・はぁ~〜〜、相変わらずお変わりないですね〜。」
何故か長いため息をつかれて呆れられてしまった。
別に間違ったことも変なことも言ってないはずなんだが、、、。
「それにしても〜。」
ミルルはトトトっとこちらに駆け寄って顔を覗き込んでくる。何かついてるか?と首を傾げていると、彼女は割と真面目な表情でこちらを指さす。
「・・・・・なんか元気ありませんね〜?」
そう指摘されて思わずギクリと顔を強張らせた。
誰にも悟らせないように気をつけてたし、状況も相まって気にされないと思っていたが、さすがに長い付き合いの彼女にはお見通しらしい。
「・・・・・竜と戦って疲れただけだ。」
「あっは〜、あの程度と戦って疲れるわけないじゃないですか〜。」
「それはお前らだけだろ。」
つい嫌なところを突かれて冷たく返してしまう。
それにハッとするが、ミルルは特に気にしていないように笑いながら得心いったのか腕を組んだ。
「なるほど〜、負けが込みましたね〜?」
「・・・誘導尋問は卑怯だろ。」
敵わないなと苦笑すると、ミルルは楽しそうに笑う。
正直、ギュリカは撃退はできても倒せてはおらず、フロートに至っては負けよりの引き分けだ。そこに今回のアムルの敗北と、ガイアデルガに対して最後の詰めを見誤ったのが結構響いていた。
「・・・先生、私達だって相性がありますし〜、うまく行かないことだってしょっちゅうですよ〜。でも、何とかなっているのは〜、頼りになる人達がフォローしてくれるからですね〜。」
そう言って誰かを思い出すようにミルルは目を閉じる。恐らく七剣達だと思うが、そこに俺は入っているのだろうか?
「勿論入ってますよ〜? 私や先生は隠密や感知に長けてて〜、剣閃と剣鬼は破壊力と機動力、剣老と剣王は指揮に応用力と得意なことも頼りたいところも別々ですからね〜。」
「へぇー、ちなみに剣帝は?」
「あの人は頼ると駄目になる気がするので論外です〜。」
・・・あまりな言い草に噴き出しそうになった。
確かにあの人に頼れば殆どの事柄を解決できてしまう。いざって時は便利だけど頼り過ぎちゃうとすべて任してしまいそうになるのだ。
「それに先生が言ったんですよ〜? 常にゆとりを持てって〜。焦ったり〜、急いだり〜、挽回しようだなんて〜、ぜーーんぶゆっくり考えるくらいが丁度いいって〜。」
ん? そんなこと言ったかな?
でも言われてみれば昔のコイツはもっとテキパキと真面目な奴だった気がする。こんな間の抜けたような喋り方してなかったな。
「いつもどーりでいいんですよ〜。一人で抱え込もうとするから〜、考えすぎちゃうんです〜。」
・・・抱え込んでるか。
あまり自分では意識してなかったが、言われてみると少し考えすぎてたのかもしれない。
向こうでは仮に失敗しても尻拭いしてくれる誰かがいた。しかし、こっちでは自分が死ねば多くの人が不幸になる展開が多く、知らず知らずの内に肩に力が入ってしまっていたのかもしれない。
自分のもやもやに気づき、見つめ直せて肩の荷が楽になる。あまり深く考えるなんて、自分らしくないと思い出せた。
「・・・そーだな、少し考えすぎてたかもしれん。」
「そーです、そーです、剣鬼のクソ馬鹿を見習ったほうが良いですよ〜。」
そうやって懐かしい元同僚と話していると、彼女の体が薄くなっていくことに気づく。その変化にミルルも気づいたのか冷静に手を開いたりしながら確認していた。
「・・・ん〜、召喚陣を介してないので〜、不安定な限定召喚なんですかね〜? まぁこの分なら〜、一旦は帰れそうです〜。」
手元の指輪を見ると、先ほどよりも光が弱まっており、軽く明滅していた。
・・・女神程の力はない、、、か? いや、簡易召喚が出来てる時点で高位な存在という事は理解できる。
まぁいっか、どのくらいの頻度で召喚できるのかはしらないけど、もし元の世界の同僚を呼べるとしたらそれほど心強いことはない。よく信頼してる後ろ盾というのは安心感があるからな。
「ま、いろいろ助かったよ、ありがとな。」
少し悩み相談が出来たこともそうだが、もし召喚されたのがミルルじゃなかったら光線が直撃していて割と危なかったと思う。他の七剣でも避けたり凌いだりはできても跳ね返すことはできないからな。後ろにミリアもいたし、避けるっていう選択肢はなかったしね。
そう思って素直に感謝を伝えると、最後に彼女は嬉しそうに笑った。
「私も会えてうれしかったですよ、先生。」
彼女は最後にそう言い残してフッと消えた。
相変わらず真面目な喋り方と間延びした喋り方が混在してるなー、と思っていると自分が自然と笑みを浮かべていたことに気づく。
・・・借りができちまったな。
ーーー
「「・・・。」」
スイはまだ目が覚めきっていないのか、まだ目を閉じたり開いたりしている。私とハイルは突然現れた律兎さんの同僚?とやらに困惑していた。
油断して死んだと思い込んだガイアデルガに近づいてしまい、気づいた瞬間には眩い光に包まれる。そして、光が晴れると体の半分が鉱石になったガイアデルガが息絶えていた。
それだけで頭の中を困惑が占めていたが、目の前に立つ可愛い系の少女が剣を抜いておっとりと喋り始めた事に更に困惑を強める。ただ、言語は一つも理解できなかった。律兎さんは当然のように会話しているが、何を話しているか分からない。律兎さんの言葉は分かるので何となくで予想する事は出来ても会話は難しいだろう。
途中、とても冷たい目で睨まれ、あまりに怖くて律兎さんの袖を掴んで隠れてしまう。
律兎さんの言葉だけから察するに、どうやらこっちの世界に突然召喚した私を責めているようだ。
確かに私がしたことは人は選べないとしても召喚陣を介した誘拐になる。
こっちの世界にはその法がないとしても責められるのは仕方ない。そう思ったが律兎さんがフォローしたのと、彼女も本気で責める気はなかったのか、威圧的な雰囲気はすぐに霧散した。
その後に律兎さんから紹介されたが、向こうもこちらの言語が通じないことにどうしようか困ったらしい。
ミルル・リーラクラットさんと言うことは分かったが、それ以外はよく分からなかった。
すると、2人で会話を始めて蚊帳の外になってしまう。
言語はわからないし、久しぶりの再会になるはずだろうから水をさせないので黙り込んでしまっていたが、、、。
・・・なんか、モヤモヤする。
何故そう思ったのか分からず首を傾げるが、最初は暗めだった律兎さんも話していく内に楽しそうに笑っているのを見ると、少し胸の奥底がチクリと痛んだ。
私では律兎さんをフォローすることも、助けることもできてない。彼の昔を知る彼女の方が何を気にしているのか予想しやすいのかもしれないが、それでも、何もできていない自分が歯痒かった。
どうしてこんなに考えてしまっているのか、何で切なく感じるのかもよくわからないが、少しこの空間に居づらく感じる自分は嫌だった。
すると、徐々にミルルさんの体が薄くなっていくことに気づく。そういえばどうして彼女は突然現れただろう?何か律兎さんの指輪が光っていた気はするが、その正体は教えてもらっていない。
最後に彼女は柔和な笑みを浮かべて私達にもひらひらと手を振って姿を消した。
「ほ、ほんとに突然現れて突然消えたね。」
「・・・はい。」
戸惑った様子でハイルさんが話しかけてくるが、つい感情の整理に集中していて返事が遅くなってしまった。
「だ、大丈夫? た、たたたたた体調悪い?」
少し不満げな声音が混ざってしまい、ハイルさんを狼狽させてしまった。
すごい罪悪感を感じて慌てて謝る。
「す、すみません! 大丈夫です。」
「そ、そっか、それならよかった。が、ガイアデルガのしょ、瘴気がまだ満ちてるから、、、。」
言われてみると、まだ少しどんよりとした魔力を感じる。残滓が残るほど濃い瘴気を纏っていたようだ。
私は常に薄い障壁をまとっているので瘴気が届くことはない。でも、もしかしたら少し影響があったのかな? だから調子が悪いのかもしれない。
そう納得することにして気持ちを切り替える。
こんな自分の感情なんかで空気を悪くできない。
心の奥底に感情を押し込めていつも通りに振る舞えるように息を吐く。
今は、ここを出ることが先決なのだから。




