喚ばれた剣聖ー35
ガイアデルガはゆっくりと首を持ち上げて、こちらへと飛翔する。蛇のような図体で何で飛べるんだと思うが、八本足のような触手?を広げ羽のようにしていた。
ただその目は一度こちらを見たが、すぐに真後ろへと逸らされる。
・・・眼中にないってか?
片手に厄羅を顕現。
スイを目指して飛ぶガイアデルガに向かって剣を振るった。
ーーサンッ!
内側だけを裂く剣で中を切っても変わらずガイアデルガは飛び続ける。ただ、嫌な感覚であったことは変わらないのか、その場に留まり、首をもたげていた。
・・・やっぱり、内側を両断した程度じゃあダメージにもならないか。
高い再生能力でもあるのだろう。
再生能力の高い生物は元の世界でもたくさんいたし、なんなら表側にも数体露見していた程だ。別に珍しくもない。
観察に徹していると横合いから脚で払われる。それだけで凄い衝撃を受ける。そしてそのまま弾かれるように壁に叩きつけられた。その時に壁を足場にして飛び出す。
ーーズドンッ!
棒で殴るように線ではなくて面の攻撃を意識して剣で叩く。その衝撃で僅かに、ほんの僅かにできたヒビに剣を滑らすように通して隙間を広げた。
「『間撃 外殻剥落』」
長い間、硬い外骨格を持つ妖怪と対峙してきた武家の一族が生み出した技。
外殻を剥がして、剥き出しとなった赤黒い身を叩くように殴りつける。線ではなく面の攻撃を意識してぶっ叩いた。
【ギュアアアアアッ!】
そこまでしてようやくガイアデルガは俺を視界に捉えた。鋭く細められた目によってかけられた圧で萎縮しそうな身体を口を切って意識を戻す。
再び迫った大口を横に走って躱し、叩こうと剣を振りかぶると、噴出孔の様な場所から赤黒い岩が転がり落とされる。
・・・なんだ?
徐々に赤熱していく岩に嫌な予感を感じて大きく飛び退った。
ーーズドドドドドッ!
大量の煙を撒き散らしながら連鎖的に爆発する岩。
爆炎を掻い潜って抜けると、下から大口が迫っていた。それに対して剣を振りかぶるが、次の瞬間には煙にまみれて消える。
「・・・は?」
何処に行ったか困惑していると上から絶大な気配を感じて振り向く。すると、既に振り抜かれた尻尾が迫ってきていた。
それを剣に当てて逸らすが、それが精一杯。
耐えきれなくて弾かれてしまい、距離を開けられてしまう。
「ーーっ! でかい図体して小賢しいな!」
硬い外殻に巨大な肉体、機動力もあって飛翔もできて、更に爆弾に幻覚とか要素詰め込みすぎだろ!
再び構えを取って相手を鋭く睨みつけると、ガイアデルガの様子が変わる。
目の色が赤から紫へと変わり、大口を開けたと思うとそこに紫の光が収束していく。
「・・・まさか? いやいや、竜といえば定番ではあるけどさ!」
直撃を避けるため回り込むように側面へと向かって走り出すと、ガイアデルガは追いかけるように首を回し、放たれた光線は紫色の軌跡を残しながら迫りくる。
首だけで後ろを確認すると、光線が当たった場所は紫色に染まり、そこには鋭い鉱石が生成されていた。
手数の多さに焦りを感じながら逃げ続ける。
もし後ろへと逃げれば俺とガイアデルガの間は鉱石に阻まれるだろう。そうなればスイに意識が向いてしまうかもしれない。
・・・なら前だ。
勢いを付けて距離を詰めていく。
すると、ガイアデルガは光線を吐くのをやめた。目を一際輝かせると、次の瞬間に光線によって生成された鉱石がすべて散り砕かれる。
「・・・あ?」
キラキラと少しの光を灯している鉱石が空中を舞って綺麗に映える。
よく目を凝らすと一番初めに地面に落ちた破片が、地面を紫に染めた。
ゾクッ!
急激な悪寒に思いっきり後ずさって距離を取る。
口と鼻に袖を当てて吸い込まないように呼吸を整えた。
軽く服を見ると破片が触れた場所は溶けるように染み込み、その場所を硬い鉱石に変化させていた。
もし、これを吸い込めば体の内部や喉が鉱石となり、息ができなくなって臓器も動かなくなるだろう。
しかも今は紫に輝いてうっすらと見えるてもこの薄暗さは致命的すぎる。
体にひねりを加えて力をためる。
落ちてきたときと同じ様に思いっきり剣を振るい、粉を吹き飛ばす。
この技は強力ではあるが反動が大きすぎる。固まった体は大きな隙となるし、連発はできない。
粉が晴れると奥に口に光を集めているガイアデルガが写る。光の溜め具合から既に放たれる直前であると予想できた。
ーーカッ!
直撃した光線が大きな鉱石となってその場に跡を残す。ガイアデルガはそれを見つめ、動くものがないかを注意深く観察していた。
ーーボッ!
俺は土埃から飛び出して懐へと入り込んだ。
汗は滝のように流れ、息は荒くなっている。
・・・くそ、幻渡りを使わされた。
幻渡りは多大な集中力が必要な技だ。緊急回避としては便利だが、一度使うごとに大きく体力を損なう。
ガイアデルガは避けようと体をよじるが巨体が災いして動きが拙い。
今がチャンスだと、息を吸い込んである技を思い浮かべた。
鋭い速さで踏み込み、目にも止まらない無数の剣閃を浴びせる瞬間の技。
ーー剣閃が至剣、『百迅無双』!
すれ違いざまに百の剣戟を浴びせる。俺だと実際には70くらいしか振れていないが、威力は高い。
【ギュアォオオオオ!】
外殻が割れ、ガイアデルガは血を撒き散らしながら痛みに叫声を上げる。
確かな手応えを感じるが、怪我したところも治そうと蠢いている。
止まらずもう一度くらわせてやろうと思うが今度は瞳を青く輝かせていた。
・・・まじか、まだ別の力があるのかよ!?
恐らくだが赤い瞳の時は爆弾と煙、紫は光線と鉱石、青はまだ未知だ。
硬い外殻はヒビ割れ、地面へと落ちる。中からは薄い鱗をまとった、先ほどよりも一回り細くなったガイアデルガが現れた。
そして次の瞬間には背後へと移動されて、鋭い脚を回りながら振るわれる。
避けるが攻撃は恐ろしく速い。高速で振るわれた鞭のような脚は遠くの岸壁にも傷をつけた。
風圧だけであの硬い岸壁に傷をつけるのかよ、、、。
細く、速くなっても衰えない破壊力にもはや怒りすら覚えるが、攻撃の範囲が小さくなったお陰で避けやすくはなった。
「こっちは、速い攻撃なんざ何回も味わってんだよ! てめぇの攻撃なんか止まって見えるわ!」
剣閃に比べればこの程度の速さ比較にならない。
スピードは確かに上がったが、対応はしやすくなった。
ただ地面を泳ぐような力は常時発動型なのか上からも下からも攻撃が襲ってくる。
・・・落ち着け、よく思い出せ、まだ手の内があるのはお前だけじゃない。
一度落ち着くように呼吸を吐いて、間を作ろうと全ての攻撃を弾く。
剣を中段に構え、踵を浮かせて腰を落とした。
そして相手の動きに意識を集中させる。
・・・右からの脚による攻撃、その後には尻尾の振り下ろしが来る。
動きを見切ってすべての攻撃を避けていく、流すでも受けるでもなく失われた手応えにガイアデルガの動きも違和感を感じ始めたようだ。
その隙をついて数歩近づき、上段から振り下ろす。
ーーザンッ!
顔面を切り裂き、ガイアデルガの目付近を深く傷つけた。
【ギュアロロロ!?】
これで視界を奪う。
「ーーっふ!」
短く呼吸を吐いて二本の脚を斬り飛ばした。
流石にダメージが看過できないのかガイアデルガは距離を空ける。
だが逃さねぇ!
追いかけるように走り出し、百迅無双の構えを取る。
だがそれだけじゃあ鱗は切れても深いダメージは与えられないだろう。
・・・だから中身を斬り刻む!
「『夢幻万双』。」
ーーザンッ!
傍目から見たらただのすれ違い。
だがその実態は百迅無双と幻渡りを掛け合わせた凶悪な技。
ガイアデルガは動きを止めて崩れ落ちる。
ーーズズゥン、、、。
「ーーっう!? あ、相変わらず反動がやべえな。」
足は棒のようだし、ガクガクと震える。
息は切れ、視界は定まらず立っていることすらままならなかった。
「り、律兎さん!」
上から聞き慣れた声が聞こえて顔を上げるとハイルがミリアを抱えて降りてきていた。
思わず笑みを浮かべて迎える。
「す、凄い、本当にガイアデルガを、、、。」
ハイルは驚いたように崩れ落ちたガイアデルガを見つめる。ミリアは心配するようにこちらをペタペタと触ってきていた。
・・・くすぐったいんでやめてくれませんかね?
「・・・っほ、あまり怪我はしてませんね。」
確かに、言われてみたら今までで一番怪我してないか?
今回は一撃一撃が致命的だったし、当たるわけにはいかなかったからね。
ただ、体はボロボロだし、軽い裂傷は幾つかある。
もう疲れ切っているからすぐにでも休みたかった。
「ん? そういえばスイは?」
俺がそう聞くと、2人して「はっ!」としたような顔をする。
・・・まさか、他の魔物も居る場所に置いてきたのか?
「す、すぐ連れてきます!」
急いですぐに跳んで行くハイルを呆れたように見ていると、ミリアが興味深げにガイアデルガを眺めていた。
「す、凄い怖いですね。まるで紫の瞳なんてまだ生きてるかのような、、、。」
・・・紫の、、、瞳?
すぐさま振り返ってミリアの前に躍り出る。
ガイアデルガは血を撒き散らしながら首をこちらに向けて光を収束した。
・・・まずい、もう集中力が!
体はボロボロで目も既にチカチカしている。そんな状況で剣を握りしめても力が入らない、、、!
そうだ、思い出せ、思い出せ思い出せ思い出せ!
あいつの剣は力は必要ないはずだ、強く思い浮かべろ!
光が収束して輝きを増していくのに焦りを感じていると、ふと指に熱が集まっていくのを感じた。
一瞬焼ける様な熱さにふと視線を向けてしまうと、指輪が青く輝く。
「ーーは?」
間の抜けた声と同時に光線が放たれた、その光は俺とミリアを包みこんでゆく、、、。
ーーカッ!!!
「・・・こっわ〜、いきなり何なんです〜? 私じゃなかったら死んでたんじゃないですかぁ〜?」
次の瞬間には紫色の鉱石に焼かれ、体の半身を鉱石と化したガイアデルガが今度こそ瞳から光を失った。
突然の展開についていけずに煙の中前に立つ、よく見知った背中に視線が離せない。
小柄な体躯に金髪ツインテール。
片手に持った湾曲したサーベルと軍服はこの光景に異様に映っていた。
「くっら〜、ここ何処なんです、、、か、、、。」
振り返った彼女はこちらを視界にとらえて片目を見開く。
「・・・・・先生?」
「み、ミルル?」
遥か地下でのまさかの再会に時間が止まったような衝撃を受けたのだった。




