喚ばれた剣聖ー32
長い、長い落下の途中。
そこは阿鼻叫喚とかしていた。
「うわぁーーー!! どうします、どうしましょう!? 私の障壁ってこの高度耐えられますかね!?」
「いや知らねぇよ!? スイ、今こそ水になって衝撃を分散させるべきでは!?」
「・・・水滴にはなれるけど落下の直前で体を形成するのは至難の業。・・・短い旅だった。」
「待て!? 諦めんなよ、まだ早過ぎねぇか!?」
「わぁーーーー!! 死にたくないーーー!!」
四者四様に叫びながら落ちていると、目の前に飛び出た岩が見える。
取り敢えず剣を構えてズパンッ!と切り取って岩が落下に加わった。
「・・・律兎さん、障害物が増えました。」
「仕方なくない!?」
あのまま衝突するよりはマシだろ!?
本気でどうしようか考えていると、ミリアが真ん中で手を合わせて魔力を高めだす。
「待て、どうする気だ?」
「光展障壁に最大魔力込めてみようかと。」
「それって中の人達固定されるの?」
「いいえ、発動者だけですね。」
「ぐちゃぐちゃになるじゃねぇか!!」
左右の岸壁に挟まるくらい障壁を大きくすれば減速はできるか?
いや、いくらミリアの魔力が無駄に多いといっても壁と壁の間は相当広い。そこで減速しながら障壁が壊れないように維持するのは難しいだろう。
なら、、、
「ミリア、そのまま球体の障壁を維持しながら大きくしてくれ。スイ、水を出してもらいたいんだがそれに粘性の性質を与えることってできるか?」
「・・・え? ・・・んー、魚捕りと同じ要領かな。
うん、スライムみたいな感じにはできると思う。でも他には気を使えなくなるから息はできなくなるよ。」
え、むしろ普通の水なら息できるの? そう言われればバボック山で噴火から逃げる時に包まれてた水は息ができてた気がする。
うん、スイって万能すぎるな。性質変化って結構イメージが難しいって教わってたんだけど、白魔法使いより万能なんじゃね?
「よし、じゃあスイは水を障壁内一杯に満たしてくれ、そんでミリアは逆にぶつかる前に障壁を解いて欲しい。」
「息ができないのにタイミングを見計らえって言ってます!? 無茶振りが過ぎませんか!?」
「このまま落ちて死ぬよりマシだろ! ミリア、俺だけ先に出る。後は頼んだぞ!」
「ええぇ!?」
後ろの障壁を足場にして一人落下の速度を上げて飛び出す。チラリと後ろを確認するとスイができるだけ見辛くならないように透明度の高い水で障壁を埋め尽くしていた。あれならある程度のの衝撃は緩和できるはずだ。
・・・なんか中の二人が凄い苦しそうだけど。
前を向いて手に厄羅を顕現。
今必要なのは斬れ味でも透過でもなくて壊れない頑丈さだ。
腕を引いて全力で力を込める。
剣はミシミシと悲鳴を上げるが壊れることはない。
息を吸い、心臓に負荷をかけて血の巡りを上げる。血管が浮き出て体が熱を持ち、視界が赤く染まっていく。
・・・まだ足りない。
更に力を込めると血管が切れて血が噴き出る。鼻と耳から血を流しながら徐々に近づいてきた地面に狙いをつけた。
あとはタイミング、コンマ単位でもミスれば大事故につながるだろう。
「ウォオオオオオオオオオ!」
獣のような唸り声を上げながら既のところで解放。
ミサイルが着弾したかの様な轟音を響かせ地面を大きく陥没させる。大きな衝撃同士の衝突で反発するかのように弾かれる。ふっ飛ばされ、後ろのぐにぐにした水に包まれた。
ーードパァアアアン!
しかし、その水さえもあまりの衝撃に分散。
全員が散り散りになって地面へと転がった。
「ーーぐぇ! どっ、ぶへ!」
真っ暗で何も見えないがおそらく岩らしきものにぶつかって止まる。手を軽く握ったり、息をゆっくりしてみたりで生き残った事を確認した。
・・・からだベトベトするな。
取り敢えず明かりかと思い、ボックスからランタンを取り出す。見えないので手探りで明かりをつけ、辺りを見回した。
「・・・広いな。」
崖下は勿論平地などではなく、削られた岩や高い段差、遠くからは水の流れる音も聞こえた。
「おーい! 生きてるかー?」
パキキ、パキ、バキキキキイ
呼び掛けに応じて隣の隆起した地面の一部が割れ、岩を背負いながらでっかい蟹がでてきた。
大きな音をたてながら徐々に全容を現し巨大な鋏を上に持ち上げる。
「お前に生存確認はしてねぇけど。」
振り下ろされた鋏は簡単に大地を割り砕く。
半端な回避では巻き込まれるので大きく飛び退いて、厄羅を握りしめ前方へと突っ込んだ。
横薙ぎに振られる鋏を飛んで躱し、足場にして眼前へと躍り出る(どれが目?)。
体を捻りながら回るように厄羅を振るう。
外殻を斬らずに中身だけ斬り裂くと蟹は元の形のまま絶命した。
「あれ、マジであいつらどこだ?」
薄暗い中気配を探る。
少し上の方から3人の気配を感じ、ぴょんぴょん跳びながら登っていく。
大体13m程登った所に三人が倒れていた。
「おーい、生きてるか?」
「い、生きてますけど、何でそんな普通に動けるのですか、、、?」
「え、なんかおかしい?」
「・・・体が重い。重りつけられてる気分。」
言われてみると確かに体が重い気がする。
ただ重りを付けたり、重力負荷訓練等してたのであまり俺には問題にならなかった。
「てか、重力負荷訓練みたいなものか、相当落ちたし。」
上を見上げても全く空は見えない。光が届かないほどの地下だ。負荷も相当なものだろう。
・・・いや、それだけじゃないな。纏わりつくような気味の悪い魔力を感じる。
「ミリア、魔法は使えるか?」
「つ、使えます〜。」
「なら、障壁じゃなくて結界を張ってくれ。内臓にも負荷がかかってると思うからあまり動くなよ。」
そんな無茶なって顔をしながらミリアはそっと手を合わせる。吐きそうな青い顔をしながらぶつぶつと呟いた後に魔法を発動させた。
「ーーせ、聖衛結界。」
淡い光を灯しながら囲むような結界が完成する。
さっきまで感じていた負荷や気味の悪い魔力は感じなくなり、大分動きやすくなった。
楽に動けるようになったからか一人一人ゆっくりと起き上がる(なんかゾンビみたい)。
「・・・生きてる、奇跡。」
「まぁ、生きてますけどここからどうやって出るのですか? 死ぬまででられないのかなぁ。」
「む、無傷なんてあり得るの?」
生きてることが奇跡だと感動しているスイとあくまでネガティブ思考なミリア。
あと、、、いや、お前誰だよ。仮面つけてなかったら知的なエルフに見えるわ。
「・・・結界が光ってるから光源は大丈夫だな。さすがに無茶したし、一度休むか。」
ボックスからレジャーシートとクッションを取り出してそれぞれに手渡す。一人明らかにポンポンと道具がでてくることに驚いていたが説明は省略した。
「だいぶ落とされちまった、まさか自爆してくるとはな、、、。ちなみにあれ何?」
「・・・自絶壊魂、自分の魂を魔力として昇華し、それを燃料にして辺り一帯を焦土と化す魔法です。話でしか聞いたことありませんけど、戦争の最中、最後の足掻きとしてよく使用されたことがあったみたいです。」
「されたって事は今は使われてないのか?」
「倫理観の問題もありますけど、周囲への被害も大きいのです。普通の火薬などを用いた自爆ではなく、魔力の放出になるので周辺の魔力因子すら消し去ってしまうみたいですよ?」
魔力因子ってなんだっけ? 確か魔力を生成して魔法として使うのに必要なものだったかな。
なんか異世界っぽくない言い方だけどそこら辺は翻訳の影響かもしれない。
上を見て遠すぎる空を探す。
しばらくはこの光景だろうなとため息をついた。
「今日中は無理だな。早くて1週間、下手したら一ヶ月はかかるか?」
「え!? そ、それじゃあカキラ君はどうなるのですか!?」
ここで人の心配ができるミリアの優しさを感じる。
確かにカキラの病状は悪い。予想でも今日か明日がリミットだろう。
ただその点に関してはもう手は打ってあった。
「いや、カキラはおそらく大丈夫だ。」
「・・・え? どういう事ですか?」
電気のランタンを真ん中に置いて光量の調節をしながらやっておいたことを説明する。
「頼んでおいたんだ。もし、通常通りにオークションが開催されたらカキラを買い取ってくれってな。買っちまえば所有権はそいつに移る。そいつには治療薬を買えるお金も渡しといたしな。」
ま、誰に頼んでおいたかといえばブロクだ。
一度素材屋に売って得たお金をすべて渡しておき、彼にギータを預け、更にカキラが売りに出されたら競り勝ってくれと伝えておいた。
それと、内裂病はそれなりに有名な病気らしく、ゴーストンから薬を先に買い取り、ギータに持たせておく。
問題は競りで予想外の値段がつくことだが、カキラは病気持ちだ。それも移りづらい血液感染とはいえ感染症持ち。いくら珍しい種族と言えど馬鹿な値段はつかないと思う。
最悪足りなかったらタロウット商会に借りるように頼んでおいた。本来なら身元不明だし借りるのは不可能だけど、そこは保証書の出番。返すつもりだけど返せなかったらオババに任せよ。
「・・・ほ。なら、うまく解決できたって事ですか。」
「どこがだ。」
ホッとしたようなミリアの言葉につい否定的な言葉をだしてしまった。
正直、今回の一件は何もうまくいっていない。唯一うまくいったことと言えばかけておいた保険だけにすぎない。
カキラを助けることもできていなければ商会にダメージも恐怖を与えられてない、アムルに関しては全てしてやられたものだ。
力はつけてきたつもりだ、それでもまだ救えないものがある。すべてを救えないなんて分かっているつもりではあるが、力をつければ慢心してしまう。
・・・全て助けられるなどと。
「・・・カキラもあの部屋にいた他の人達も、誰も助けられてない。やったことと言えば商会の幹部を数人殺しただけだ。だが、それもあいつの中じゃ、多分たいしたダメージじゃないだろう。」
俺が一つの保険を張っていたようにアムルはもっと保険を張り巡らせていたはずだ。
おそらくあいつにとって幹部や商会員は駒のひとつなんだろう。駒を大事に扱うのは駒からの信用を得て裏切りをなくすため。
俺は、奴の奥の手を引き出すこともできていなかった。
ふと、後悔の沼に嵌ってしまいそうだと、切り替えるために顔を上げる。
すると、他の皆も暗い顔色を浮かべていた。
「・・・悪い、空気悪くしたな。まずは俺たちのことを考えないとか。」
今の状況も悪いのに空気も悪くしてしまった。
これから切り替えてこの崖を登りきる必要があるんだ。後悔はあとにして先ずは生き残ることを優先しよう。
「あ、そ、それなら一つ思いつくことがあるよ。」
どうしようか考えていると森精仮面の仮面無し、がおずおずと手を挙げる。
てか、いい加減名前が分からないのめんどくさいな。
「それは是非とも聞きたいけど、取り敢えず名前聞いていいか? 森精仮面とか長くて鬱陶しいし。」
「そ、そう? か、かっこいいと思うんだけどな、、、。名前はハイル、種族はエルフ族だよ。」
へー、まぁ見た目からエルフだとは思ってたけどね。だって漫画とかで見る見た目と一緒だし。
それを森精仮面とか言う意味わからない単語だけで当ててみせたスイは流石だよ。
「そうか、俺は律兎 八九楽。種族は見た目通りフェッシュシール族だ、よろしく。」
「いや、何で馴染みがない方で自己紹介したのですか? それに厳密には出身が違いますし律兎さんは違うと思いますよ。というかよく覚えてましたね?」
なんか変に長い名前っていやに覚えられたりしない?
サヘラントロプス・チャデンシスみたいな感じで。
ミリアから良いツッコミを貰えたところで次にバトンタッチ。
「あ、はい、ミリアです。えーと、種族は人族ですね。それ以上でも以下でもないです。」
「自己紹介下手?」
「他に言うことなくないですか?」
使える魔法とか役職とかさ。
まぁ、初対面だしそんなに情報を出す必要はないけどね。
「・・・スイ、ミスルル族。」
「・・・・・・・・・・え、終わり!?」
「・・・嘘は言ってない。」
それはそうだけど淡白過ぎませんかね!?
ほら相手も少し傷付いてそうだよ。
顔色を伺っているとハイルは「あはは」と乾いた笑みを浮かべていた。
わかるー、知らない人達がわちゃわちゃしてる所って入りづらいよね。ほんとごめん。
「そ、それにしてもよく人族の神代の頃の呼び名知ってるね。ぼ、僕も里の古い文献から初めて見たくらいなのに。」
「・・・私も初めて聞いた。」
・・・。
無言でミリアを見つめると彼女はもげるんじゃないかってくらい高速で首を振っていた。
まぁ、魔族には浸透してない話で、たまたま人族の書棚にも似たような本があっただけかもしれない。こいつの素性は結構前から謎だし今更か。
「話逸れたな、えーと、それでハイル。何かいい案でもあるのか?」
「う、うん、えっとね。こ、この峡谷には昔、神から追われた大魔族が逃げ込んだって言う逸話があってね。彼等もこの崖下だけじゃ生きていけないから、神にバレないように地上に行く手段を確立させたって言われてるんだ。」
俺はその話を聞いて微妙な顔を浮かべる。
「悪いけど、今はおとぎ話のあるかも分からない手段を試すきはないぞ?」
流石に食料が無限にあるわけでもないのにこの広大な峡谷の底であるかもわからない脱出口を捜すわけには行かない。それだったら、まだ壁を登る手段を考えたほうがマシだと思う(魔法あるしね)。
「い、いや! おとぎ話じゃないんだ。実際に僕は何度かその入り口を使ってる。」
そう思って否定しようとしたが予想外の返答が来て目を見開く。つまり彼はこの峡谷の底に何度か来たことがあるという訳か。
「も、森の隠し扉とここが繋がってて、これたのはたまたまなんだけど、峡谷のそこに転移陣があるのも知ってる。」
「それが本当なら大助かりだな。場所は近いのか?」
そう聞くと、彼は少し目線を泳がせた。
「・・・こ、ここから1日くらい?」
「それなりに遠いな。・・・いや、他の手段だともっと時間かかるだろうし早い方か。」
それにこの暗がりと高低差、重力負荷も作用する分、行軍速度はさらに遅くなるだろう。スイはまだしもミリアは体力がない。この環境は過酷だろう。
ま、正直崖を登るよりかは現実的だ。
あんな高いところから落ちたんだ、登るにしても高すぎるし手段も思いつかない。
・・・実績があるなら行ってみるか。
そう思い直して立ち上がる。
「なら、その転移陣とやらを探してみるか。ハイル、道案内は頼めるか?」
「う、うん、任せてよ、、、。」
すっごい震えながらおずおずと手を挙げる。
どことなく頼りないが、今は他に選択肢もないし、頼らせてもらいますか。




