喚ばれた剣聖ー30
本当だったら敵の真後ろに降り立って背後から奇襲をかけたかったが、エルフ族の青年が今にも切られそうだったので割り込むように姿を現す。
相手は手練れ、突然の事態にも驚きはしたがすぐさま対応してみせた。
・・・自分の実力で足りるだろうか?
思い出すのは狂った勇者との一幕。
全くというほど歯がたたず遊ばれただけで、できたのは時間稼ぎのみ。
その経験が剣に不安を与える。
「ミスルルの小娘が! 俺様に斬りかかりやがったな。」
「・・・偉そう、貴方なんて大した事ない。」
スイの言葉を受けた男は怒りで顔を真っ赤に染めて眦がつり上がっていく。
そこから漏れ出る圧も充分脅威と言えるほどだろう。
・・・でも、全然違う。
フロート・ベンギッシュにも、ギュリカ・ライロットにも律兎にだって及ばない。
あそこは次元が違う、そして私が目指すのはそこ。
それなら負けてなんかいられない。
「・・・後悔するなよ? お前を捕らえて薬漬けにしてぶっ壊してやる。」
「・・・やってみろ。」
ドンッ!
勢いよく飛び出してきた男は拳を振りかぶって前へと突き出す。それに対してスイは外側から剣を当てて流すように後方へと相手を導いた。
再び開く距離、その一瞬にスイは魔法のドームを形成。薄く、余程魔力感知に秀でてなければ気づけない希薄さ。案の定、男は気づかずに突進してきた。
黒く変色し、硬質化した拳が眼前に迫る。速さはさすがで気を抜けばとらえられてしまうだろう。
だが、スイはたどり着く前に体を回しながらしゃがみ込んで相手の拳をかわした。そこから上に斬り上げるように剣を振るう。
「ぐっ!」
その剣は相手の皮膚を切り裂き、鮮血を飛ばす。
流れはまだ止まらない、上から下、下から横、右から左へと、次々に相手を斬りつけた。
だが、、、
・・・決定打に、ならない!
相手は種族の特性である皮膚の硬質化をうまく使いスイの剣は浅く撫でるようになってしまう。
それを見抜かれ、相手は口元を吊り上げて笑った。
「どうした!! まるで撫でられてるかのようだぞ!」
「・・・っつ!」
バチィンッ!
腕を広げる動作で隙を作られてしまう。
相手は右手から拳を繰り出してそれに対応しようと剣を跳ね上げるが、その時にドームの魔力が揺れた。脇腹のあたりから生やされた左腕が下から突き上げられてきたのだ。
知覚はできても対応できず、魔力のみで受けてしまった。それだけで体は吹き飛び壁に叩きつけられる。
「ーーかはっ!」
血を吐き、肺が空気を求める。
揺れる視界の中で男がこちらに迫り両手を合わせて振り下ろされる瞬間。
体を水にして相手の足元を通り過ぎ、背後で形成。そのまま相手の背中を斬りつける。
ーーギャリィンッ!
「・・・なっ!?」
完全に虚をつけたと思ったのに防がれる。
実際に相手は気づいてなかったようで斬った後にこちらに視線向けてきた。
「ふん、お前の剣では俺を斬れないな。」
全身の硬質化に防がれ冷や汗が流れる。
相手の一撃を受けている以上、二撃目は受けられない。受けてしまえば動けなくなるだろう。
相手が裏拳を放ちながら振り返る。流しながら後退して距離を取ろうとするが、相手は笑みを浮かべながら距離を詰めてきた。
「終わりだ!!」
生やされた3本の腕から繰り出される豪腕。
迫りくる腕が走馬灯のような景色を見せた、、、。
それは律兎から剣を教わっていた早朝。
『お前、随分と魔法の使い方が上手いよな。』
『・・・そうなのかな? 村の中では上手い方だと思ってはいるけど。』
そう返すと律兎は笑みを浮かべながら口元を隠すように考える。
『水魔法か、虚を捉えて実とする。応用の幅が広すぎて困っちまうな。』
『・・・?? 剣に纏わせるとか?』
おそらくだが彼は別に戦いは好きではないと言っていたが戦い方を考えるのは好きなのだろう。楽しそうに笑いながら嫌らしく口角を上げた。
『いいや、もっといろいろできるな。想像力を広げてみろ、魔法なんて無限の可能性があるんだ。それでお前の剣を補うんだよ。』
その後少しの講釈を聞いてその日の特訓は終わった。
再び目の前の光景に戻る。
・・・そうだ、応用。今はミスルルの戦い方しかしていない。それも剣士と魔法使いを分けた戦い方。最近剣に集中しすぎて疎かになってしまっていた。
剣を跳ね上げ防ぐように剣を腹を前に出す。相手は勝ちを確信した笑みを浮かべていた。
ーーバチイィィインッ!
そして、その次の瞬間には男の巨体は後ろへと吹っ飛んだ。
「ーぐっ! は!?」
水魔法で、自分の姿だけをその場に残し本人は一歩だけ下がる。相手が空振った瞬間に生まれる隙と弛緩のタイミングで押し出すように剣と水を返したのだ。
困惑と硬直、それが解ける前に今度はこちらが前へと躍り出る。
そして剣を上段に構えて振り下ろした。
相手は防いだ実績のある硬質化を腕に集めて防御を取るが、、、
「・・・『水刃波』。」
スイは上段から振り下ろされる剣とは別に横合いから水の刃を滑らせる。引き絞り、圧と勢いが増したその水は刃となって男の体を両断した。
さっきは自分が目の前から消えたのでどこかしらから攻撃が来ると反射的に全身を固めたのだろう。だったら今度は狙う場所を明らかにして、完全な死角から攻撃を当てる。
「ば、ぁ!? ば、ばぎゃな!?」
フェイントを織り交ぜたその剣は構えを取っていない体をいとも容易く離れさせる。
男は血を吐きながら目を見開き、そのまま崩れ落ちて血溜まりをつくっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
肩で息をしながら整える。その際も相手から意識は外さない。胴体が離れても戻った前例があったのだ、油断はできない。
そう思ったがもはや動く気配はなく、闘いの終わりを確信した。
「・・・まずは、一つ。」
懐から感じ取った揺らぎと同じ鍵を取り出す。
それと腰に巻き付けていた鍵束を奪い取った。
顔を上げ、拘束台に捕まっている青年に近づいていく。
その顔は今にも泣きそうで、それでも嬉しそうで、スイは自然と笑みを浮かべた。
青年は魅入った様にスイの笑顔を見つめながら頬を染める。
スイは胸に手を当ててそっと息をついた。
・・・私にも助けられた。
その自信と実績は力となる。
ーーー
パルパンク上層の街。
完全に日が昇り、人々が活動を始めた時間。彼等は驚く光景を目にする。
「・・・。」
「ぐ! はぁっ、はぁっ、はぁっ、、、!」
街を守る兵士がほとんど倒れ伏し、唯一膝をついた状態で相手を睨みつけるのはブロクただ一人。
それに対して相手は息を切らすことも、服に汚れすら見受けられなかった。
・・・ここまでか、ここまで、、、差があるのか。
ブロクはちらりと後ろを確認する。
連れてきた兵士たちは全員骨を折られるか、気絶させられていた。決して殺すことも血を流させることもなく、無力化のみに留められている。
「うーん、そろそろ俺も向こうに行くかな。もう追ってこれないだろうしね。」
「ーーっ!! ふ、ふざけるな、まだ戦える!」
「戦えても意味なんかねぇよ、すぐ終わる。」
そう返され、ブロクは悔しそうに顔を歪める。それは残酷な真実で、仮に戦っても意味は成さない。
相手は笑いながらこちらに手を振って剣をしまった。
そして恭しく礼をする。
「それでは、おやすみなさい。・・・良い夢を。」
瞬きの間に姿を消す。
この日、この街は思い知ったのだ。圧倒的な強者、圧倒的な個と言う存在を。
自分達は弱い、、、と。
思い知らされたのだ、今の自分達では街を守れないと、、、。
「・・・生かされたなら、前を向かねば。」
ブロクはふらついた足で立ち上がる。
ゆるりと見上げた空には燦々と光る陽が昇っており、酷く眩しく感じたのだった。
ーーー
キイィィィィー
軋む音をさせる扉をそっと開けながらミリアは顔を出す。先ほどまで聞こえてた戦闘音は止み、もう大丈夫かなーって扉を開けたのだ。
「スィー、生きてますかー?(コソコソ)」
「・・・勝手に殺さない。」
中を見るとそこには完全に息絶えた男、、、というかこの人だれ? とスイの近くには髪が少し長めに伸ばされているエルフ族の青年が立っていた。
彼は私が入ってきてもスイを見るだけでこちらに視線すら向けていない。
・・・なんか熱がこもってません?
若干の入りづらさを感じながらも今はやることがあるので2人に近づいた。
「とりあえず2人ともそこに立ってください。」
「・・・ん。」
「え、ぼ、僕もですか?」
「そーですそーです、早く並んでください。」
両手を掲げて目を瞑る。淡い光が放たれて2人を包みこみ傷を癒していった。
「・・・ありがと。」
「え、え?え?え? き、傷が? これって神聖魔法ってやつじゃあ、、、。って人間!?」
エルフの青年は驚いたように「ひぃ!」と声を上げて後退る。そういえば今は変装してなかったなーと思い、今さら取り繕うのも面倒なんでポーズを取ってピースしといた。
「「・・・。」」
どうでしょう? 割とあざといのでは?
何故か2人とも反応を返してくれないので仕方なくポーズをやめて咳払いした。
「エルフ族で捕まってたって事は彼が森精仮面ですか? へぇー、可愛い顔してますね。」
「・・・ミリアの方が可愛いよ。」
「・・・・・え、急に口説かれてます?」
何故か急に褒められて照れる。
割と疲れてそうですし、頭でも打ったのですかね?
でも褒められて普通に嬉しいので良しとしましょう。
彼は顔を覗かれて赤くなり隠れてしまった。
「・・・どう、上手くいった?」
スイに聞かれて胸を張ってポケットをまさぐる。
「じゃじゃーん! 見てくださいこれ!」
ミリアが持っているのは揺らぎを感じる鍵。
スイは驚いた後に嬉しそうにミリアの手を握る。
「・・・さすが、やっぱり頼りになる。」
「でしょう、でしょう! もっと褒めてくれていいですよ!」
「・・・ごめん、これ以上は律兎から調子に乗らせないようにって言われてるから。」
「何でですか!?」
手練れでスイすら苦戦するような相手から鍵を取ってきたのですから、もう少し調子に乗らせてくれてもいいと思う。
まぁ、一人の手練れは人型の魔族が好きらしく、フードを被りながらそっと上目遣いでお願いしたら簡単に貸してくれただけなんですけどね。少しオドオドするのがポイントです。
というか実際に大蛙みたいな見た目をした魔族に頭撫でられるのは身の危険を感じました。いくら防御できるとは言えすごくヒヤヒヤしましたしね。
「・・・これで鍵は後3つ。」
「えーと、後は酒浸りのロッジウルフと橋渡りのネッケチ、それと送り騎士、アゲルデ・ロックバウト。」
指を折りながら残りの金持ちを数えていく。
彼らの情報は最下層では有名で適当に露店を開いている店主から簡単に手に入れられた。
その情報を元にどう言う風に集めていくか考え、皆で共有していたのだ。
「・・・次はネッケチのところへ向かおう。」
「はい、確か上の階でしたよね?」
あたりは既につけてあるので後は向かうだけ、そのうち律兎さんも合流する予定なので歩みを進めると。
「ま、待ってくれないか!」
後ろから張り上げられた声に振り返る。
森精仮面こと、青年は慌てた様子で近づいくるが、それを障壁で遮っといた。
・・・まぁ、まだ信用してませんし。
バチィンッと弾かれた彼は驚いた顔でキョロキョロした後、鼻を押さえて咳払いをする。
「・・・・・い、痛い。」
「え、えっと、少し強く張りすぎました。ごめんなさい。」
咳払いしていたのだが、鼻血を流して涙目になってしまった。さすがに罪悪感を感じるので急いで近づいてそっと魔法を使って治す。
彼はそれにも驚いている顔をしているが、自分としてはよくわからないので首を傾げておくだけにとどめておいた。
「・・・それで?」
「ーーはっ! ぼ、僕のことも連れてって欲しい! 僕は管理部屋の場所を知っているし、戦え、、、うのは難しいかもしれないけど、お、囮くらいなら頑張るから!」
必死な様子の彼に困惑しながらどうすべきか思案する。スイも少し戸惑っているようだが、いつも通りの冷静さで言葉を返した。
「・・・部屋の場所は私たちも知ってる。・・・それに見ず知らずの貴方に協力をお願いしても、私たちはあなたのことをまるで知らない。・・・正直、今でもギリギリなのに、これ以上不安要素を増やすのは避けたいかな。・・・この部屋はあの男がいてあなたが捕まっている部屋と割れてはいるけど、逆に他の人が入ってくる可能性は低いと思うよ。」
・・・たぶん、親切心からだと思いますけど無表情すぎて拒絶してるようにしか感じられませんね。実際、彼も途中から涙目になってますし。
「・・・っ! で、でも、僕は、一度関わったんだ! このまま苦しんでる人がいるのに逃げたくない!」
「・・・え? 一度逃げたって(ムグムグ)。」
最も相手が気にしてそうなところを突きそうになったスイの口を抑える。さすがに言いすぎですし、可哀想ですよ。
んー、でもどうしましょうか。囮になってくれるらしいですしそれならいいかもしれないですね。
スイにそっと近寄って説得を試みてみる。
「スイ、どうでしょうか? 彼に前に立ってもらい先導してもらいましょう。実際、時間もありませんし鍵は残り3つ。最悪囮にして鍵だけ奪うこともできるかもしれません。」
「・・・囮はミリアでじゅうぶ、、、」
「是非とも一緒に行きましょう! ちょうど人手が足りなくて困っていたのです!!」
何だか最近スイと律兎さんの考え方が似通って来た気がします。これは悪い予兆ですね、早く私を甘やかしてくれる様に教育し直さないといけません!
そう心に決めながら扉を開くと、自分の第六感が警鐘を鳴らす。直感のままに障壁を展開すると振り払われていた剣が大きな音を立てて防がれた。
バジジジジッ!
「・・・防がれるか。」
横合いから聞こえた声に顔を向けると剣を振り抜いたあとの格好で固まるアゲルデと目が合う。そこまでしてようやく自分が殺されかけていたことに気づいた。
「ーーミリア!」
ーーブォン!
スイが間に入り振り下ろした剣は宙を斬る。
走り出した時にはアゲルデは既に距離を開けていた。
「どうしてここが!」
「いや、ずいぶんと探させて貰った。なるほど、部屋を正攻法で解錠させようとはな。一度見られたのに部屋の前にいなかったから苦労したよ。」
それよりも先ずは彼に対処する必要がある。
本当であれば彼の鍵は最後で律兎さんに回収してもらう予定だったのに崩れてしまった。
ただ、ここでも自分の心が邪魔をする。
アゲルデに睨まれた瞬間に体は硬直、震えは止まらず、足腰に力が入らなくなってきてしまった。
スイはそんな私の姿を一瞥して小さく「・・・任せて」と呟く。
相手が片腕から繰り出す剣戟を流れるように躱しながら肉薄、上からの上段斬りを水になってかわしてアゲルデの左手側に体を作って剣を振るった。
・・・しかし、それすら見えてるかのように弾かれ、そのまま腹部にけりを入れられてしまう。
「ーーぎりッ!」
スイは蹴りを入れられても歯を食いしばって耐え、振り下ろしに切り替え。
アゲルデはその剣に冷静に対処してみせる。
「・・・粘るな、辛いだけだぞ。」
「・・・まだ死んでない!」
ガキィンッ!
再び距離を開けてお互いに踏み出す。
2人とも正面から向かうが不利なのはスイだ。相手はスイの動きを見切るが、スイは見切れていない。おそらく隻腕の剣士との戦闘経験が少ないからだろう。
自分の震える足に思いっきり拳を叩きつける。
・・・何をしている、守れ、守れ、守れ!! お前はそれしかできないだろ!
ミリアは必死に体に力を入れる。
アゲルデとスイがぶつかる瞬間、ほんの僅かにスイがこちらに視線を送った。
「ーーミリア!」
スイの叫びとともに体の硬直が解けて両腕を前に出す。そして必死に息を吸って叫ぶ!
「光展障壁!」
私の叫びを聞いた瞬間にスイは立ち止まって剣を下方に構える。相手の剣は急に現れた障壁に阻まれ、大きな隙ができた。
その隙を逃さず、スイが剣を突き上げる。届けと願うが、相手が剣を手放して転がった為に避けられてしまった。
ただ追撃は難しい、スイも全力の突きであったため隙が大きかったのだ。必死に次の手を考えていると、突如視界を覆う煙幕が放たれた。
何が何だかわからず混乱していると腹部を抱えられてアゲルデとは反対方向に走り出す青年がいた。
・・・そういえば、光展障壁の内側に入れちゃってましたね。
青年はスイと私を抱えながら必死に逃げる。
アゲルデは特に追ってくることはなかった。




