表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/69

喚ばれた剣聖ー3



暗い森に生えている木々の枝を飛び移りながら夜の森を移動していく。

森を走って(跳んで?)いると、獣の唸り声のようなものも聞こえるがテント近くでは聞こえなかったので、そこら辺は自分の察知能力を信じて俺は追跡者に向かっていた。



んで、向かいながら考える。



(このまま突っ込むのは馬鹿だよな〜。)



相手はこちらに近づいてきているが最短距離を進んでいるわけではないので居場所がバレているわけではないだろう。


なので別に真正面から突っ込んで戦う理由などは無い。


俺はふと真下にいた野生の狼(首やけに長いな)?に狙いを定めて飛び降りる。

そのまま落下速度を利用しながら獣の首を両断(悪いね)し、そのまま横にある木の影に隠れた。



すると、追跡者のうちの1人が狼の死骸を見て立ち止まる。

コウモリ羽が耳の代わりに生えている男性、装備は軽装でまさしく斥候っぽい。


男性は地面に広がった血を指で掬って舐め、顔をしかめた。



「姿は見てないか、だがまだ暖かい様子を見るに今さっき殺されたばかりだな、、、。」



血を舐めて、相手が生きていた直前の光景を見たのか?

なるほどー、こう言う特殊な能力を使ってくる奴には気をつけないと不味いね。


そんな男は顎に手を当てた後、違和感を感じたようだ。



「待てよ、、、どうして死骸は放置されているのだ? 追われていたわけでもないのに放置する理由うが、、、あ、、?」



あぶな。

気付かれそうだったので周囲に意識を向ける前に真横から首を一突き。

男は声を上げることもできずに絶命した。


死んだことを確認した後、再び森の木々へ飛ぶ。



・・・後2人、とっとと殺すか。




ーー




次の斥候はさっきの蝙蝠男と同じ装備をつけていたが六本の腕を使って器用に木の幹を渡って迫っていた。

結構な速さがあるけど蝙蝠男の方が速いんだな、若干なんか焦ってるし。


あぁ、手柄ってやつかな?



「ま、そんなの持ち帰らせないけどね。」



焦りからスピードを上げて進んでいた蜘蛛女の進行方向を予測し、その場にボックスから取り出したピアノ線を配置。そのまま突っ込んでくれたので蜘蛛女はバラバラになって地面に赤い花を咲かせた。


この暗い森では黒く塗りつぶしたピアノ線はさぞ見辛かったろう。



「・・・次。」



ーー



最後の1人には普通にこちらの位置がバレた。

なんでも蜘蛛女と蝙蝠男、2人と視界を共有していたみたいで、俺の位置を割り出しながら進んで居たらしい。


どうりで遅かったわけだね。


最後は目が5つある男性、顔には青筋を浮かべ、仲間が殺されたことに憤りを感じているようだ。だが、仲間があっさり俺に殺されたことで警戒して近づいてこない。



「・・・どうした? 来ないのか?」


「その誘いには乗らんぞ人間、何を仕掛けている?」



別に何も仕掛けてないけどね。


俺は悠然と敵に歩みを向けると、男は驚いて後退ってしまい背後にいた首が2本ある大熊に喰いつかれた。



「・・・な!? ガフッ・・・や、やめ、、、!」



・・・全く、俺だけに感覚を向けすぎるからそうなんだよ。


そのまま森にひきづり込まれて行く男性を尻目に俺はテントへと戻ることにした。やる事は終わったしね。


ただ一瞬食い漁った熊がこちらを追跡しようとしてきたので全力の殺気をだして追い返しといた。


流石に起きて熊の死体があったらミリアが怖がるだろうしなー。




ーー




次の日



「・・・おはようございます。」


「おはよー。」



俺は何事もなかったように平然と朝コーヒーを決めていた。


何もなかった、、、それで良いじゃない。


ミリアは起きたばっかで目を擦りながら椅子に腰掛ける。

なので俺はその前にコーヒーを置くと彼女はそのまま飲み始めた。


・・・うん、馴染みすぎじゃない? もう遠慮とかあまり感じないのだが?


彼女はボサボサになった髪を整えることもせずにのびている。俺も特に気にせずに食パンを取り出してホットサンドを作ることにした。


落ち着いてるようで何より、、、



「・・・って、今逃亡中じゃないですか!?」



2人でまったりホットサンドを食べていたら急にハッとして大きな声を上げた。森中に響くその声はもし追いかけられていたら一発で気付かれただろう。


ミリアはそれに気づき、ハッと口を隠してしゃがむ。


別に隠れても敵はいないのに、、、。



「その通りだけど慌てても仕方ないからな。周辺に追っ手が来てる感覚もしないしそんなに心配しなくて良い。」


「・・・分かるのですか?」


「なんとなくね。後は勘。」



ま、空間把握能力には結構自信があるから確信持ってる。

今は特に俺たちに向かって接近してくる影はないな(獣を含めて)



「一回状況確認でもするか。とりあえずここはどこ?」



まず大切な確認。

だって洞窟から出てすぐに森に逃げ込んだからね。

東側とは聞いているけど周りにある街とかも把握したい。

ミリアは少し考えるそぶりを見せた後話し出す。



「えーと、ここがタイトット大陸、東側のラーゼル皇国という話はしましたよね?」


「そうだね。」


「ここはラーゼル皇国と隣接する大森林で『ヴァジュラの森』と呼ばれています。確か大昔に白竜『ファルザフィート』と縄張り争いしていた神獣ヴァジュラが眠るとされているタイトット大陸最大の森です。」



この世界、神獣とかいるんだ。

ヴァジュラって言えば元の世界でも聞いたことがあるけど、同じなのかな?


てか、今最大の森にいるのかよ。じゃあ街ないじゃん。

危ねぇー、がむしゃらに走ってたら遭難するところだったな。



「・・・この森を抜けた先は魔大陸になります。多くの魔族や魔物が生息する大陸で、・・・人が住むにはあまりに過酷だと言われています。」


「理由って知ってたりする?」


「魔物や危険な魔族が多いのも勿論なのですが何より過酷な環境が人にとっては厳しいみたいです。」



環境かー、よりによって一番対策が難しいやつがきたな。

と言うかそもそも魔族にとっては住みやすいの?

そう言えば魔族が攻め込んできている理由とか知らないな、もしかしたら生存圏の話かもしれない。


・・・それって勇者とかで解決できる話なのかなー。まぁ、俺には関係ないけど。



「つまり今いる場所はタイトット大陸の端の方なんだな。そんで大陸に戻るにはあの街を通る必要が出てくると、、、。」


「・・・はい。」



ミリアは顔を暗くした。

戻りたくはないはな、あんな光景を見た後じゃ尚更。


まぁ、選択肢はもう一つあるか。



「じゃあ魔大陸に行ってみるか?」



俺がそう提案すると彼女は大きく目を見開き、コーヒーを落としそうになっていた。それほど俺の提案は予想外だったのだろう。



「魔大陸は危険な場所ですよ?」


「そうだけどこのまま戻っても危険ではある。今はなんとか回避できてるけど魔王軍ともう一度鉢合わせたら生き残れるかわからない。」



と言うか魔王軍ってどのくらいの規模で侵攻してきてるのだろう?

もし結構な規模だったらラーゼル皇国ってやらは危ないんじゃないかな。


未知の場所に対する恐怖心は確かにあるが、連中はタイトット大陸に向かって侵攻しているならわざわざ2人を相手に戻ってきたりはしないと思う。


戻っても進んでも辛い状況なのは変わらないが、魔王軍とやらを追い続けることになるよりはマシな気がする。



「・・・でも、森を渡るのですか? ヴァジュラの森は先ほども言った通りタイトット大陸最大の森です。さらに問題なのは広さだけではありません。今は森の浅い場所ではありますが、奥に行けば光は少なく、足場はさらに悪くなるでしょうし、生き物の強さも跳ね上がると聞きます。」



・・・やっぱ無理か? てか、そういや装備も足りない気がしてきた。

ある程度現地調達も必要になるだろうしきついかもしれん。


ミリアはため息を吐きながら頭を振る。



「そもそもヴァジュラの森はその危険度から魔王軍だって避けて通るのですよ? そこをたった2人で進むのは危険すぎます。・・・やっぱり一度街に帰りましょう。」



・・・なんかこいつ震えてね? もしかして森に入りたくないのかな? いや気持ちはわかるけどさ。



チラリと暗闇が口を開ける森に視線を送る。

確かに過酷だろうな、でもこれ以上魔王軍からヘイトを買いたくない。そう言う事をやるのは勇者様であって俺じゃない。



「・・・よし、森を進むか。」


「えぇ!? 無理ですよ!無理無理! それに魔大陸に行ったこともないから地理も敵の強さも分かりませんよ!?」


「なんとかなるだろ。」


「・・・・・一度私を人里に置いてくると言うのはどうです?」



彼女は引き攣りかけてる(てか引き攣ってる)笑顔でおずおずと提案する。

いや俺だけが追われてるわけじゃないだろうから無駄じゃない?


なのでミリアの苦しい笑顔に俺は精一杯の笑顔で返した。



「そもそも戻ると魔王軍がいるから戻りたくないって話だし無理に決まってるだろ? それと君には責任があるとは思わないかい? まさか喚びだしといこんな未開の地に1人放り出すのは無責任じゃないかな〜?」



俺が告げると彼女はとても苦しそうに歯噛みしている。

責任感が強くて助かったよ、「そんなの知りません、ではさよなら。」とか言われてたら困っちゃったからね。


でもこの話は彼女にとってあまりに旨みがないな。

俺は喚び出されたけど何も出来てないからね。



「んー、そうだな。じゃあ俺を元の世界に返す算段でもついたらお前のお願いをなんでもひとつ聞いてやるよ。」



そう俺は笑みを浮かべて提案した。

ミリアは俺の提案に訝しんだような目を向ける。



「なんか胡散臭くありません?」


「・・・わかったよ。じゃあ少し待ってろ。」



流石にあんな提案が通るほどちょろくなかったね。

仕方ないので俺はボックスから一枚の紙を取り出した。



「はいどうぞ。」


「なんですか、これ?」



彼女は渡された正方形の青い紙を見て首を傾げる。

青い紙には赤い線で円形の魔術印が描かれていた。

そこを指差しながら説明する。



「魔術師達が口約束する際に用いる契約印だな。どうしても守ってもらいたい約束がある時使用する。」


「すごく怖い響きですね。破ったらどうなるのです?」


「呪われる。」


「すっごく怖かった!」



ミリアは椅子から飛び退いて遠くの岩に隠れてしまう。

別にまだ効果発揮してないからただの紙なんだけどね。



「まぁ、使い方としては両者の指を乗せて約束を交わす。・・・ただそれだけの道具だよ。破ったら針千本飲むくらいの激痛が襲うくらいで、、、。」


「それが怖いじゃないですか!?」


「ほら指乗せて〜。」


「え、どうしてそんなに適当なんですか? おかしいのは私なんですか!?」



1人遠くで慌てふためいているミリアに呆れた視線とため息を送る。



「・・・破らなければ良い話だろ。それとも約束できない?」



笑いながら煽るように言うと、ミリアは一度キョトンとした後に頬を膨らませる。



「そのような事はありません。私は今まで一度も約束を破ったことがありませんから。」



ミリアはプルプル震えながらも椅子に座った。

俺が先に円の真ん中に指を添えると、おっかなびっくり細く綺麗な指が置かれる。



「口約束、、、と言うより口頭契約の順序はまず自分の名前で誓いを立てて、約束する。ただそれだけ、簡単だろ?」


「口約束でも簡単にするものではないと言う戒めを感じますね。」



魔術の世界では言質を取られる事は何よりも恐れられる。

言葉というのは力を持ち、武器にも盾にも薬にもなるのだ。



「・・・あれ? そう言えば私は何を約束するのですか?」


「んー、俺が元の世界に帰れるまで面倒を見るとかそんな感じじゃない?」


「わかりました。」



わかったんだ。

真剣な表情で向き合う姿を見るに真面目なんだよなコイツ。

所々ダメなところも見えるけど。



「んじゃ行くぞー。『律兎の名と共に誓う。』」

「は、はい。『ミリアの名と共に誓う。』」



まずは俺から



「元の世界へと帰れる算段がついたら一つ、ミリアの願いを可能な限り叶えることを約束する。」



ミリアが続く



「律兎さんが異世界に帰れるまで最後まで責任を持って協力します。」



あ、協力って言い直された。

まぁ、異世界事情が一切わからないから手伝ってもらわないと帰れる自信がないから助かるけどさ。


その瞬間に青い紙に火がつき、一瞬で灰になって空気に溶けていった。



「・・・これで終わりですか?」


「うん、これが完了の証。あ、ちなみに体の何処かに契約印がついたりはしないから安心してくれ。」



・・・一応、念のため伝えとくね?


ミリアは空気に散った灰を眺めた後、こちらにジト目を送る。


え、なんで?



「・・・なんか律兎さんの約束、最初に話した時と違いませんでした?」


「いやいや、気のせいだろ。」



・・・っふ。


俺はバレないようにほくそ笑んだ。

これが口頭契約の一番厄介なところよ(笑)

相手が先に発言した後に自分が発言できるので、後付けで約束を少し誤魔化したりができる。

今回は俺が初めに発言したけどミリアは流れが分からなかったのでうやむやに契約したしね。


クックック、今時こんな悪徳な契約法使ってくるやつなんていないけど知らない人間は引っかかりやすくて良いな。

おかげさまでミリアは俺から離れられなくなった。つまり俺がどんな危険地帯に突っ込もうと逃げられない。


・・・確か防御と回復には自信はあるって言ってたな。タンク兼ヒーラーとか貴重だから助かる。今度確認しよ、囮にして。



「ま、可能な限りとは言ったけど何処までが可能かは俺に決められないからそこは安心してくれ。」


「どういう事?」


「ようは、ミリアが願いで魔王倒してこいって言ったら俺は魔王を倒すまで頑張らないといけないってわけ。できるかできないかじゃなくてやらないとならないって事。」



つまり拒否権なんてないわけなんだよね。だってそういう約束だからさ。

契約っていうのはそういうもん。


・・・別に破れるんだけどね。めちゃくちゃ痛いだけで死にはしないから。



「なるほど、可能な限りというところに自分の匙は入らないわけですね。」


「そういう事、だから本当にできることだけってなるわな。」



だってそれを付け加えなかったら俺が出来ないこと言われて叶えようとして、無理だったら激痛だからね。出来るだけ緩くしようとするのは当然でしょ。



「んー、なんか釈然としませんね。」


「ま、もっと簡単に考えれば良いよ。・・・ところでそろそろ用意してくれない? 移動したいんだけど。」



俺がそういうとミリアは自分の姿を確認する。

ボサボサの髪に乱れた服。

そんな状態で人前に出てたことに気づいたのか徐々に顔を赤くしていった。



「・・・す、すみません。お見苦しいものを。」


「おう、とっとと身支度してこい。」


「そこはそんなことないよとか言ってくれません?」


「気の利いた発言は何処ぞの金髪イケメン勇者様に期待するんだな。ほら片付けるからどいたどいた。」



ミリアは頬を膨らませながら岩場の影に移動した。

別にここで用意しても良かったんだけど、信頼度が足りなかったかな?


そんなどうでも良いことを考えながら椅子やテーブル、テントを片付け、ボックスにしまってゆく。簡単で良いね、キャンプは用意する時は楽しいけど片付けは一番だるいから。



5分ぐらいで片付け終わったので湖を眺めて時間を潰していると、岩の影からミリアが出てくる。

しっかりとローブを着こなし、髪は綺麗に整えてあった。



・・・見た目は聖女っぽいな。



そう言えばこいつって何してた人なんだろ?

白ローブの下に静謐な白の修道着を着ているからシスターとかかな?

少し気になるけど道のりは長いし移動しながら聞けばいっか。



「よし、行くか。」


「はい。」



そして歩き出そうとすると、ミリアは両手を差し出してこちらを見上げている。



・・・え? なに?



流石に困惑した表情を浮かべているとミリアは首を傾げた。



「・・・? 私、森歩き慣れてないので連れてって下さい。」


「・・・・・まさか抱えろって?」


「もちろんです。」



やっぱ置いてこうかなこいつ、、、。




ーー




結局、俺は人1人を抱えながら森の奥へと疾駆する。

予定ではミリアに合わせてゆっくり歩こうと思っていたのだが、歩けないというので仕方なく抱えて走る。

これなら確かに俺のスピードで走れるから助かる、、、わけねぇだろ、腕疲れるわ。


でもまぁ、合理的に考えると正しいから何も言えない。

俺はこのくらいの重さなら1日くらい走り続けられるし、別に疲れてもいない。

ミリアのスピードに合わせてたら森を抜けるのに数ヶ月かかったかもしれないからちょうど良いのか。



・・・タクシーみたいに足に使われてるのはちょっと腹立つけどな!



「・・・わぁーー、森の景色が流れて行くの初めて見ました。」



腕の中で感動しているこいつを一瞬落とそうか迷ったので気持ちを切り替える。いいさ、いずれ頑張ってもらうから。


森をこの速度で移動できる手段は俺がいた元の世界でもなかったのでこの速度で森を突っ切って行くのは初めての経験だろう。でも舌噛みそうだから静かにしててくれないかな?


ただ全力で走れてるかと言ったらそういうわけでもなく、今は腕に抱える荷物ミリアを揺らさないように多くの神経を使って走っていた。

衝撃や地面の凹凸を感じさせないように腕の位置を微調整し、全く揺れないように気を配る。

そのおかげで乗り心地は最高だろう。

全く揺れずに風を感じられ、ミリアは気持ちよさそうだ。



「あまり喋ると舌噛むぞ。」


「・・・全然揺れないので噛めそうにないのですが。少し体勢は疲れますけど安定感がすごいですね。下手な馬車より乗り心地が良いってどういうことですか。」



気遣ってんだよ。

流石に全力で走ればgもかかるし、枝とか飛んできたら危ないしね。避けられる自信はあるけど。



・・・チラリと視線を下に送る。


下には整った綺麗な顔立ちで楽しそうに景色を眺める美少女様。

傍目から見たらお姫様抱っこで爽やかに森を走る様は愛の逃避行に見えるかもしれないのに、現状はただのアッシー君。

悲しいったらないね。



「どうしました?」



顔を眺めていたことに気づかれたのか、不思議そうな顔をされる。

彼女は少ししたら何かに気づいたようにハッとした。



「すみません、私があまりに美少女で見つめたくなるのは分かりますけど、私の好みは金髪碧眼な、、、わゎっ! 嘘です冗談ですので力を緩めないでください!!」



ちょっとムカついたので腕の力を緩めるとミリアは慌てて俺の首にしがみついた。

結構な力で締め付けられているので息苦しい。



「首絞めんな、落ちるぞ(俺が)」


「あ、すみません。」



お互いに腕の力を戻して先程までの体勢に戻る。



「随分と自分に自信があるんだな。」


「んー、まぁ整ってる方だとは思っていますよ。こう言うのはしっかり自覚しとかないと酷い目にあいますからね。・・・何回路地裏に連れ込まれそうになったか、、、。」



そう言って彼女は遠い目で覇気無く笑う。

大変そうで何よりですね。ちなみに俺はそういう事件にあった事ないな。なんでだろ?



「被害に遭った事は無いですけどね。魔法も使えますのである程度の自衛はできますから。・・・防御だけですけど。」


「充分だろ。あいてを傷付けるとそれはそれでめんどいし。」



相手が勝手に諦めてくれる方が楽だろうね。

にしても街の治安ってあまり良く無いのかな?

こいつの話しか聞いてないから分からないけど、この世界の文明レベルはどのくらいなのだろう。


持ち前の異世界知識だと中世なことが多いけど、中世だと犯罪を立証するのって難しそうだよなー。

なんでも良いけど。



「・・・・・それにしても一切魔物に遭遇しませんね。」



気持ちのいい森を走ってるとポツリとした呟きが聞こえる。

ミリアは少し不安そう。本来魔物だらけの森で一体も見つからなかったら嵐の前の静けさみたいに感じちゃうのかもしれん。



「正解としては、めっちゃいるけど俺が躱しながら走ってるだな。」



そう言うと間の抜けた声が聞こえる。



「こんな森の中で、走りながら魔物の位置が分かるのですか?」


「わかるよ。」


「・・・・・なんで?」


「企業秘密。」



小さい頃から森を歩くことが多かったからだけどね。

暗闇から突如として現れる熊とかに恐怖してたらいつの間にか、草の倒れ具合とか木が擦られた跡、それと匂いで大体の位置がわかるようになった。


慣れって怖いね。


なのにミリアはまだ不安そう。

仕方ない、なら証明して見せようか。



「信用できないなら会わせてあげるとするか!!」


「え? あ、大丈夫です。心の底から信用してますので、、、だから変な方向に向かわないでください!!」



ミリアの悲鳴をガン無視して一際強い気配を感じられる場所に走り出す。

下を走るとすぐに見つかるので木の幹を足場に枝へと飛び移る。

そのまま枝を掻き分けながら進んでゆく。



「嫌です!無理です!怖いところ行きたくありません!!誰か助けてーーー!!!」


「ちなみに大声出すと魔物に気づかれるよ。」


「・・・・・はい。」



口に手を当ててすぐ静かになった。すごい切り替えの速さだなね、カタカタ震えてるけど。


引っ掻き傷のような痕がある木を飛び移り、何かが引き摺られた後の痕跡を横目に確認しながら一直線に進んでいくと、その生物は姿を現した。


巨大な体躯を持った8本足の大熊。

赤黒く濁った瞳を持つ獰猛な顔立ちでツノが三本生えている。

その雰囲気は森の主の様で、周囲に凶悪な威圧感を放っていた。

だがそんな大熊も今は休んでいるのか丸くなっている。


別に気づかれる気は無いので気配を完全に消し去り、枝の上に立ち止まる。まぁ、俺の気配が消えてても下で気絶しそうになってる人のせいで気づかれそうなんだけどね。


じっとしてても仕方ないので俺は木々を飛び移り、静かに魔物の背後に着地した。

腕の中のミリアに胸を思いっきりつねられて結構痛い。


魔物は違和感を感じたのか首を上げてこちらを見ようとしてきたので俺はそのままこの場を後にした。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



「殺す気ですか!? すっごく怖かったんですよ!? 後ろに降り立った時は命の危機を感じましたからね!?」



とりあえず逃げ去っていたら、走ってる途中涙目で睨み上げられ「・・・降ろしてください。」と要求された。なので比較的安全そうな場所でおろしたら説教が始まった。

刺激的な体験できて良かったじゃん、、、。



「つい出来心で。」


「不安そうにしてた私も悪いですけど、本当に怖かったのでもうやめて下さいね。・・・何ですかあの怪物は。」



確かにね。適当に気配強そうな場所に向かったけどあんなヤバそうなのがいるとは思わなかったな。

今度からはもう少し考えて案内してあげよ。



「・・・何か変なこと考えてません?」


「なぜバレた?」


「本当にお願いなので反省して下さい!! 昨日くらい浅い場所ならまだ逃げれますけど、こんな森の奥地じゃ私逃げれないんですよ!?」



はっはっはっ。安心しろ、逃す気はねぇから。

てか、契約したの忘れたの?


まだ怒りが収まらないのかブツブツとお小言をもらう羽目になる。もうそろそろ暗くなるから解放してもらいたいな。



・・・あ、そうだ。



「わかった、俺が悪かったから許してくれない? チョコあげるから。」


「・・・? なんですそれ?」


「甘いお菓子。」


「甘いお菓子!!」



途端に目を輝かせて、嬉しそうに笑っている。

どうやら甘いお菓子という誘惑に怒りが吹っ飛んだようだ。



「く、ください!!」


「はいはい、じゃあ野営地見つけたらな。」


「わかりました!!」




・・・ちょっろ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ