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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー29



オークション当日。



早朝、まだ日が少し昇っただけの薄暗い街の下。

そこにはすでに大勢の魔族がごった返していた。


珍しいものや魔族領では禁忌品として制限された代物等、それらを手に入れようと皆が大金を持って押し寄せる。


そして、大きな金が動く場所は警備が厳しい。


買い付けに来た商人や富豪の護衛たちに商会の者たち、さらには街の兵士が今下層に降りようと柱に向かっていた。



「全く、こんな早朝から向かう必要なんかあるんすか? オークションは昼以降だって聞きましたしどうもやる気が起きないっすよ。」



あくびを漏らしながらキチンは辺りを見渡していた。



「・・・あぁ。」



その前を歩くブロクは酷くこわばった顔をして前を歩く。彼もこの命令には不満があったはずだし、愚痴でも漏らすと思ったのだが、彼は何処か緊張していた。



「警備長、昨日からどうしたんすか? なんか様子がおかしいっすよ?」



そんな彼を心配して声を掛けるが、返事を返される前に彼は立ち止まった。それに合わせて付き従う者たちも立ち止まり前を見る。



・・・そこには、



「どうも皆さん、朝早くからお勤めご苦労さまです。・・・じゃ、昼まで休ませてやるよ。」



コートをたなびかせ、刃引きされた剣を肩に担ぐ黒髪の人間が立っていた。

全員がその事実に目を見開き、警戒を引き上げる。


彼はその様子にも不敵の笑みを浮かべていた。



「・・・人間、ここは俺達の街だ。貴様の好きにはさせんぞ!!」



ブロクは剣を引き抜き、切先を相手に向けた。

その動じていない様子に兵士たちは驚くが、彼の発破に覚悟を決めた様子で各々が武器を構える。


目の前に立った人間の男もゆらりとした動作で構えを取る、その殺気は今まであったどの魔物や犯罪者よりも冷たかった。



「行くぞ。」




ーーー




「・・・そろそろ始まったかな。」



スイは以前侵入した場所から再び水滴となって会場に入り込んだ。近くからは以前とは比べられない程の気配を感じるが、とても忙しくしているようで小さな違和感には気づかない。その隙に空き部屋へと入り込むことへ成功する。



・・・ミリアとともに。



「うぅ、どうして私まで。」


「・・・仕方ない、確率を上げるにはこれが一番だから。」


「それはそうですけどー!」



おそらく今は律兎が上で兵士たちを混乱させているはずだ、これ以上援軍が来ることはないはず。

今回は目的の場所が分かっているので迷わず一直線に管理部屋へと向かった。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



「ここが管理部屋ですか?」


「・・・そう。」



相変わらず物々しく封じられた扉の前に2人で立つ。


見張りを予想していたが、見張りは立っていなかった。余程結界に自信があるのだろう。

ミリアはその扉と結界を興味深げにしげしげと見つめている。


そしてこちらへトトトッと走ってきてこそっとしゃべりかけた。



「全然結界とかわからなのですけど。鍵だけじゃないのですか?」


「・・・ミリアはもう少し感覚を掴んだほうがいい。・・・魔力が大きすぎて見づらいだけだと思うけど。」



ミリアはコテッと小首を傾げた。

魔力はとてつもないし、複雑な治癒や浄化を扱えるミリアが結界を感知出来ないとは思えない。

ただ、ミリアは魔力が大きすぎて研ぎ澄ませたり揺らぎを感じるのが難しいのだろう。


まぁ、ミリアの仕事はここではないので気にすることなく扉にそっと手を添えた。


扉に触れて結界の魔力を感じる。



・・・揺らぎ、結界の維持に関与してるのは2人。気配は2人とも上の階。



数分間の間、集中し続けスイは一度手を離した。



「おぉ、どうでした?」


「・・・おそらくこの結界の構築に関わっているのは2人だけ。ただ、もう1人の魔力は落ち着いてたから休んでるみたい。」


「なるほどー、交代で休みながら結界を維持してる感じですか。」


「・・・たぶん。ミリア、手握って。」


「はいです。」



差し出された手をミリアがそっと包み込むように握る。そこから魔力が渡り、スイの体の中を循環。

魔力を薄くドームのように形成して鍵の形状と魔力の波長を読み取り、同じ波長を持つものをそこから感じ取った。



「・・・うん、全員見つけた。」


「おぉ、さすがですね! では行ってらっしゃい。」



ミリアは気の抜けたような笑みでにへらと笑いながら手を振ってくる。



スイはそれを無表情で見つめ続けた。



「・・・えーと、い、行ってらっしゃーい。」



無表情で見つめ続ける。



「い、行きませんよ? 何回も力説しましたよ、よね?」



無表情で見つめ続ける。



「い、いや、あの、、、だって、、、。」



無表情で見つめ続ける。




「・・・ごめんなさい、付いていきます。」


「・・・ん、素直でよろしい、行こ。」




結局スイの無言の圧に負けてミリアは渋々スイについて行くのだった。





ーーー




何処にあるかも分からない暗い部屋。

その部屋には嫌な血の匂いと陰鬱とした空気が満ちていた。



ーーバシャッ



ドアが開けられ一人の男が入ってくる。

持っていたバケツをひっくり返し、中身を椅子に拘束された青年にぶちまけた。



「う、うぅ、、、。」


「よぉ、いい目覚めか?」



薄く明かりがつけられた部屋にはペンチなどの工具類が並べられている。修繕部屋というわけではないだろう。どう使うかなんて簡単に想像がつく。


その部屋の真ん中で森精仮面の青年『ハイル』は既に乾いた血と埃にまみれていた。


元の短く肩くらいの長さで揃えられた銀髪はくすみ、長い前髪に隠された翡翠色の目にはくまと赤みで膨れ上がっている。



「俺様はてめぇをこうやっていたぶれるのを待ってたんだぜ。」



目の前に立つのは筋骨隆々なギータを追いかけていた男性。下卑たいやらしい笑みを浮かべて近くのカゴからペンチのようなものを取り出す。


それを見てハイルは歯をガタガタ震わせて青褪める。



「い、嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ! や、やめてください!」


「ぐはひはははは! やめるわけねぇだろ。」



男はそう笑いながら拘束されているハイルの爪をペンチに挟む。



ーーベリィ



「っつあああぁああ!! 痛い! 痛い痛い痛い!」


「ぐははははは! 痛いなぁ、痛いなぁ! たくよぉ、とっとと吐いちまえばこんな目には合わねぇのになぁ? とりまもう1枚いっとくか。」


「や、やだ! ぐぁああああ!!?」



ハイルはもう1枚爪を剥がされ、痛みに絶叫する。

汗と涙がとめどなく溢れ、服にシミを作り血が広がった。



「で? どうだ、いい加減言う気になったか?」


「だ、だから、何回も言ってるだろう!? 里の場所は僕も分からないんだ! 隠匿魔法がかけられていて一度森をでてしまうと迎えがない限り、分からないんだ!」


「それを思い出すのがてめぇの仕事だよ!」



ーーバキィ!



そのまま顔面を殴られ歯が数本飛んでいく。

激痛で目を見開き、口が切れたのか血の涎が垂れた。



「ひゅー、ひゅーっ!」


「おっと、やりすぎたかな。」



男はカゴからポーションを取り出してハイルに浴びせる。

赤い液体がかけられると血は止まり爪も徐々に生え変わって傷がふさがっていく。


殴られて骨の折れた顔もポーションの治癒力でもとに戻った。しかし、それでも彼の青ざめた顔は元に戻ることはない。



「本当にこの回復ポーションとやらは便利だよな。どれだけ相手を壊しかけても治せんだからよ。ま、最後だけは壊さねぇように気を付けないとだがなぁ。」



酷く歪んだ笑みを浮かべながら男は次に切れ味の悪そうなナイフを取り出した。


ハイルはそれを見て必死に首を振り続ける。



「や、やめてください、、、。」


「はっ! やめてか、てめぇだってわかってた筈だぜ? はみ出し商会の違法奴隷を逃がそうなんてリスクのある事をして、捕まったらどうなっちまうかくらい。」



それを聞いて彼は震えて俯く。

ハイルだって心の底からはもちろん分かっていた。裏商会の奴隷を逃がそうとする行為。それが彼等に目をつけられて反感を買うことくらい。


そして捕まってしまえば、どうなってしまうのか、、、。



「にしても本当に最初からピーピーうるせぇやつだよな。痛いのが嫌なら最初から街になんかでてこなければよかったんだ。変な冒険心と誰かを助けられるなんざ英雄像を持つから痛い目見るんだよ。」



男は目元を隠したハイルの長い前髪を掴んで顔を無理やり上に上げさせる。



・・・彼の言う通りだ。痛いのなんて大嫌い。指先を紙で切ってもふとした瞬間に意識が向く程痛いし染みる。もっと大きな怪我だと三日三晩はズキズキして熱を持って体調を崩したりだってするんだ。そんなの嫌に決まってる。



そんな事、、、分かってるんだ、、、。



「でも! 泣いてる人がいた! 僕に手を伸ばす子がいた! 痛いのなんて死んでも嫌だ、怖くて逃げたくてたまらない! それでも、怖くても! 助けたいって思ったんだ!」



心からの叫び、涙を流し震えながらも喉を震わして覚悟を言葉に出す。それは既に折れそうな心を保つための一言だった。



「・・・そうかよ、残念だったな。助けられなかったお前はそいつらの仲間入りだってことだ。弱い自分を呪うんだな。」



男の一言にハイルは涙を流す。もうこれから自分の意志でなにかをできることはないだろう。


何も意味なんてなかった。


男が持ち出したナイフを腕に当ててくる。

徐々に滲んでくる血と痛みを必死に堪える。

そのまま次に襲ってくるであろう痛みに恐怖して目をつむり必死に力を入れていると、、、



「・・・無駄じゃない、一度逃げてもまた立ち向かえるなら、貴方は強い人だよ。」



上から澄んだ声が聞こえるとともに一滴の雫が落ちてきて目の前で静止した。

それは突如として体積を増大して渦巻くように自分を囲む。



「な、なんだ!?」



動揺して男は水から顔を覆うように後退ると水の中から現れた青い髪を持つ美しい少女は流れるように踏み出して剣を振るう。


だが、男の方も慣れているのか見づらいながらも何らかの手段で固められた腕を前にして剣を防いだ。



「ーーぐっ! てめぇ、誰だ?」


「・・・さすがに手練れの金持ちって言われてるだけはある。・・・簡単にはいかない。」



ギィンッ!とおおよそ腕と剣では鳴ることのないような音を響かせてお互いに距離をとる。目の前に立った女性は無表情ながらも庇うように剣を構えた。



「・・・た、助けてくれるの?」


「・・・ついで。・・・って言われてたけど気が変わった。・・・私にも誰かを助けられるかどうか試してみる。」



目は鋭く、意志を持って前を向く。



・・・僕はその後ろ姿をただただ憧憬のように見入いった。



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