喚ばれた剣聖ー28
結局一睡もできずに朝を迎える。
なんで俺はセルフでデバフを背負っているのだろう?
「・・・くかー。」
「そんで、コイツは危機感を何処に捨ててきたんだ?」
隣でぐっすり眠るミリアをうらやましく感じながら部屋を出た。モワッとした熱気は感じるが店主が火を逃がしといてくれたので暑さは落ち着いている。
「・・・おはよ。」
部屋を出るとスイが身支度を終えたのか廊下で挨拶をされる。俺は眠気眼を擦りながら気合を入れるように両頬を張った。
「よし、行くか。」
ーーー
最下層から下層、表層に行くには柱を登る必要がある。滑車で上に登れるらしいが、まぁ検問は厳しいみたい。
今は5本ある柱の第3柱に向かっていた。
「と言っても兵士と商会の関係ってどうやって調べます?」
「んー、張り込みしてる時間も無いしなー。」
昨日は簡単に調べようと言ったが方法は思いついてはいなかった。素直に聞いて教えてくれるわけないし、むしろ捕まる可能性のほうが高い。
うーん、どうしようかと迷っているとふと、迷案が浮かび「あぁ」と声を漏らした。
「・・・いや、普通に聞きに行くか。」
立ち止まって後ろを振り返る。
目があった3人が全員首を傾げるのを確認して笑みを浮かべた。
「そうだな、やるなら徹底的に行くとしますか。」
「「「・・・怖い。」」」
・・・ひどい。
わざと悪っぽい笑みをしたけどそんなに後ずさるほどかな。
ーーー
「・・・はぁ~。」
「どうしました、警備長?」
パルパンク東門 警備長 ブロク
大鬼族の男はため息をつきながら詰所の椅子にドサッと腰掛けた。それを隣に座っていたトサカの生えたコルコッコ族の青年 キチンが声を掛ける。
「どうしたもこうしたもあるか、なぜ我々がプラズ商会の護衛などと、、、! 街長は何を考えている!?」
「あー、その件っすか、確かにプラズ商会は奴隷管理も規制ギリギリ、しかも入手手段も隠してるっていいますからね。」
「それの調査は禁止、さらに奴隷の管理体制の指摘すら駄目ときた。我々を何だと思っている!」
ーードンッ!
ブロクが叩いた机の上にあった書類などが少し宙を浮く。それほど彼の怒りは溜まっていた。
「最下層の話っすから市民の方々に広がらないのが救いっすね。察しの良い人なら街長が繋がってるんじゃないかと思うっすよ。」
「・・・・・事実だがな。」
そのブロクの指摘にキチンは乾いた笑みを漏らした。
「流石にあれ程露骨だとうちら兵士には丸わかりっすよね。・・・ただ、この街の法を決めているのは街長、俺たちは従うしかないっす。」
そう、魔族領というのはその街で決められた法を主に遵守する。そもそも魔族というのは種族が違ければ価値観も倫理観も違う。大雑把なこれは駄目、これはいいよと言うことだけを魔王により決められているだけだ。
だがこの街の法は限りなく平穏であり、上下や裏表は少なかった。しかし、街長も代が変わり気付くと今の様な明暗がはっきりとした街になってしまったのだ。
ブログは頭を掻いて立ち上がる。
「・・・少しでてくる。」
「えぇ? もうすぐ交代の時間っすよ?」
「わぁーってる、少しだけだよ。」
後にはキチン一人が残された。
彼は呆れたため息を漏らす。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「・・・俺は、何のための兵なんだ?」
一人になりたくて人気のない裏路地で木箱に座り、手のひらを見る。小さい頃から兵に憧れ、一心不乱に剣を振るったタコが虚しく映った。
手を握りしめて立ち上がる。もう時間かと思い、大通りを見るとそこには一人の青年が立っていた。
いつから? 一体いつの間にここにいた?
黒い髪に、黒い目の青年はあまり見かけたことのない装いを纏い、こちらを見る。
顔は笑みを浮かべているが背筋に薄ら寒いものを感じた。
「お前は、確かシューバードを撃退した、、、。」
身に覚えのある風貌に記憶が蘇ってくるが、ある違和感を感じた。
・・・ないのだ、あのときはあったはずの角が。
ブロクは目を見開いて腰に差した剣を構える。
「貴様、人間か!? くそ、どうしてこんなところに!」
ここは人間領と隣接する境界からかなり離れている。
辺境の街であるここに人が現れることなど今までなかった。
・・・人間との戦闘経験はない。だが、敵であることは確実なはず。
剣を上に振り上げ振り下ろす。
大鬼族特有の膂力がかけ合わされた一撃、細身の人間程度に防がれる筈が、、、!
ガギィ、、、ギィ、、、ギ!
「な!?」
「・・・目の前で大振りに振り上げるなんざ隙だらけだぞ。」
剣を振り下ろすよりも前に相手はこちらへと肉薄、まだスピードと力が乗り切る前に逆手に持った剣で受け止められてしまった。
・・・ぐっ! だ、だが、このまま押しつぶしてしまえば!
そう思い更に力を入れるが、相手はびくともしない。
こちらは必死なのに相手は汗一つかいていなかった。その不気味さが酷く恐ろしい。
わかってしまう、、、。俺はここで死ぬ。
こいつに俺は勝てない。そう心の底から理解させられた。
ギャリィンッ!
相手は剣を傾け、こちらの剣は滑るように地面へとめり込む。無駄に力の込められた剣は地面に埋まり、空振った力は体を硬直させる。
その固まってできた隙をついて腹に蹴りを入れられた。
「ごはっ! ゲホッ! オァア、、、。」
一気に吐き出された空気を必死に吸おうと息をし続ける。相手はこちらを見下ろしながらゆっくり近づいてきた。
・・・殺される。
そう諦めた思いで相手を見上げると、剣を振り下ろされる直前だった。
ーーヒュンッ!
空気を斬り裂く音に目を瞑るが、痛みは襲ってこなかった。うっすらを目を開けると剣の矛先は当たる直前でピタリと止まっている。
そして相手はニヤリとした笑みを浮かべた後に剣を引き戻した。
「・・・・・どういうつもりだ?」
相手を睨みながら聞くと相手は楽しそうに手を広げる。
「別に? お前を殺す理由は一つもないし、斬るわけないだろ。」
「俺は敵だぞ?」
「お前が俺に何かしたか? 詰所での一件は仕事だろうしあれくらいで殺してなんかいたら世の中混沌としすぎだろ。」
呆れたような青年は壁に寄りかかる。先程までの不気味さは鳴りを潜め、今は気安げな雰囲気を感じさせた。
人間、それも圧倒的な格上。なのに生かされている、、、。いったい何を考えているんだ?
「何が、、、目的だ?」
「ん? いやー、君たち兵士とプラズ商会の関係を知りたくてね。実は今、そこから逃げ出した奴隷をひとり匿っててさー、その子がまだ弟が捕まってるって言ってて、助けてあげたいんだよ。」
その言葉に酷く混乱する。
先ず奴隷を匿っている時点でこの街では犯罪だが、さらにその弟を助けたい、、、? 昨日プラズ商会の管理部屋を視察したがそこに人間はいなかった。つまり彼は魔族を助けたいと言っているのだろうか?
驚きに固まっていた俺から彼は視線をそらし、ため息をついた。
「・・・そんなに驚くことか? まだ年端もいかない子供が死にかけてる。助けてくれって泣いて乞われた。そこに同情心が生まれたって不思議じゃないだろ。」
「それ、、、だけ、か?」
「何か悪いか? 何時だって体を動かすのは脳じゃなくて心だろ。心が助けたいって思ったならその通りに動くだけだよ、俺は。」
まるで滝に打たれたかのような思いだった。
再び自分の手を見る。これはの手誰を守りたかった? 助けたかった? 小さい頃下層で見たイジメ、死にかけていた子供、見て見ぬふりしかできなかった自分、、、。
そうだ、俺は子供たちの未来を守りたい一心で兵士になったのであろう。
眼前に立つ人間。
彼がなぜここにいて、なにがしたいのかはわかったが信用はできない。だが、変わるならここかもしれない、、、今が転機だという確信を彼は俺に与えた。
「その通りだな人間、その通りだ、、、。俺は警備長、この街を守る、子供を、民を守る! それが仕事だ!」
力を込めて相手に答える。
忘れていた初心を思い出した、ならもう迷わない。
後は、立ち向かうだけだ。
ーーー
「お、おう。」
思わぬ熱気を感じる返答に思わず戸惑う。
別にこいつを説得しようだなんて思ってなかったんだけど。
だからこそ会って力を見せつけたんだし、そうじゃなかったからあの軽い戦闘に何の意味があったのか分からないしね。
「えっと、じゃあ兵士とプラズ商会の関係性聞いてもいい?」
若干引き攣った笑みを浮かべながら改まってもう一度聞いてみる。さっきよりもなんか好感度上がってそうだし、、、いや、なんで好感度上がってそうなんだよ。
「・・・関係か、簡単に言えば逆らえない相手ってところだ。俺達はこの街パルパンクの最高権力者である街長の命によって動く、その街長とプラズ商会の商会長は何かしらのつながりがあるらしい。」
「らしいって確証はないのか?」
「実はプラズ商会の商会長の事を誰も見たことがない。恐ろしい程、用心深く狡猾な相手だ。」
えぇ? 姿を知らない商会長ってなんだよ。それじゃあ交渉事に不利じゃない? あぁ、一部の人にだけ関係値を持ってるのか。
「なら何で商会長と街長が会ってると思うんだ?」
「流石にあれだけ通っていればな。それに街長は護衛として兵士を連れて行くことも多かった。だが、その兵士たちは軒並み人質を取られたり賄賂を受け取ったりで発覚には時間がかかったものだ。」
ブロクはそう言って腕を組み、ウンウンと頷く。
・・・商会長と違ってこっちは随分と杜撰だな。護衛ならお得意様の商会から引っ張って来ればいいし、わざわざリスクを冒して自分の街の兵士を連れて行く必要なんかない。そんなの不信感を抱かれるに決まってるし、金で抱えたものは簡単に裏切る。
ま、深く考えても分からないし、分からないことを考えても仕方がない。次の話を聞こう。
「まぁ俺達の目的は少年の保護とついでにプラズ商会に大打撃を与えることだからそれはいいや。」
「プラズ商会に打撃を与える!? あそこには5体の手練れ、『金持ち』と呼ばれる者達が守っているのだぞ!?」
「丁寧な説明ありがとよ。」
にしても金持ちとは景気の良い名前ですな。
今は俺もそこそこの小金持ちらしいし仲間に入れてくれないかなー。内部破壊って楽しそう。
手練れってことはあのおっさんも入ってそうだね。
そこからどうしようかと色々思考を回すが、敵の多さと鍵を持っていると思われる金持ちが誰なのかわからない。
「・・・・・めんどくせぇ、全員殺すか?」
恐ろしいほど冷たい声音でぼそっと呟く。
時間もないし、手間や小細工ができるほど情報も得られていない。ならそれが一番手っ取り早く確実に感じた。
・・・ただ
目を伏せて力なく首を振るってある忠告を思い出した。
『君の力だ、君の技をどう使おうが君の勝手だし、私怨に使ったとしてもそれが間違っているなんて思わない。ただね、一つ僕が言えることは振るった力には必ず責任が伴うということ。怨みなどの妄執はなかなか振り落とせないし、しつこい。・・・いいかい? 僕らは何十、何百、何千という人間を殺せる。それは、何十、何百、何千の怨嗟とその肉親や大切な人達からの怨みを買うということだ。たとえそれが悪人や犯罪者であっても関係ない、その人達にとっては彼らがヒーローで守りたいものだからね。彼らの敵である僕達はその何十、何百、何千、何万の敵に狙われるんだよ。だからこそ殺すときは絶対の意思を持つんだ、例えどんなに敵を作ってでも、殺すってね。』
・・・あんなセリフを淡々と言ってのけたあの人は絶対腹黒だよな。
でも俺だって自分の力について何度も考えてはきた。
殺すことなんて誰だってできる。小さな子供だって高いところから石を落とせば大人を殺せるだろうし、気づかれないでナイフを刺せばいい。
人を殺せる力なんて大したものじゃない、誰だってできることだ。なら、この力を何に使うのか、それを常に考え、見失っては絶対にならない。
一度頭に浮かんだ冷酷な考えを振り払った。
「・・・だめだな、俺だけじゃないんだ。それに、自分がいくら汚れてても、きれいに見せたいもんだからな。」
腕を組んで両手を上に延ばす。
なんかごちゃごちゃ考えたけど少し整理がついてきた。別にいいだろ、あいつらだって俺に立ちふさがるなら殺し殺される。障害となるなら壊すだけだ。
「それに今は一人じゃないしな。」
振り返ってブロクに笑いかける。彼はぽかんと気の抜けたような顔をしていた。
「悪いが、お前らにも付き合ってもらうぞ?」
血みどろの戦いなんか馬鹿らしい、やるなら徹底的に暴れてやるとしますか。




