喚ばれた剣聖ー27
さて、了解も得られたことだし次の話に行くか。
「スイ、お前が上の階で聞いた話を教えてくれるか?」
スイを見つめながら聞くと彼女はコクリと頷いてくれる。
「・・・少し奥まったところにある一室。中から2人の話し声が聞こえて聞き耳を立ててた。」
「奥まった部屋だと偉い人がふんぞり返ってそうだな。」
「・・・私もそう思う。確か会話を抜粋すると
(商品が逃げたらしいな、月獣族は高値がつくはずだろう?)
(連れ戻す算段はあります。そもそも弟を捕らえているのでいずれ戻ってきますよ。)
(それもそうか。にしても今回はえらく博打に出たのではないか?)
(・・・月獣族よりも珍しい物が居たので。ただ逃げ足が速く捕まえるのには難儀してます。)
(そのためにわざと逃がしたのか。)
(えぇ、弟の方は病気ですし、もうあまり長くもないでしょう。弟思いな兄であれば戻って来るはず、、、仮に戻ってこなければ毛でも剥いで売りますよ。)
(だが、管理部屋の場所が漏れる可能性もあるだろう。)
(漏れても構いませんよ。精々が商品のほんの一握りですし、中の生物は結界と命をつないであります。もし壊されれば中の生物もろとも命が尽きるでしょうね。くくく、助けに入った者の驚くさまが目に浮かびますよ。)
(・・・ふん、いい性格をしているな。)
(まともな神経を持っていたらやっていけませんからね。それにこちらも手練れは用意しています。余程の化け物でなければ相手できるはずですよ。)
(ふっ、そうか、それは頼もしい。ではそろそろ御暇させていただこう。)
(おや? もうお帰りで?)
(あぁ、気になる事は聞けた。)
・・・ここまで聞いて、出てきそうだっから逃げた。そしたら笛の音が聞こえたからミリアの場所まで戻ったんだけど、律兎がいなかったから戻って探しに行った。」
「結構長い話だし全然抜粋してなくない?」
あまりに長い話を淡々と伝えきったスイの記憶力に一番驚くんだけど。よく覚えてるなと伝えるとスイはグッと指を上げた。
「ま、待ってよ! もう長くないってどういうことだよ!?」
ギータはスイに詰め寄るように近づく。
ミリアがそれを遮るようにギータを抱き寄せた。
「待ってください、そもそも症状を聞かせていただいてもいいですか?」
「あぁ、そういえばそうだな、じゃあ俺が伝えるぞ?」
「え? なんでお前がカキラの病状を?」
そりゃ簡単に言えば管理部屋に入り込んで見てきただけだが?ちなみにスイは入れませんでした。
それを単に伝えるとギータは今度こそ俺に掴みかかる。服の端だけどね。
「カキラは!? カキラは無事なのか!?」
「あぁ、生きてはいた。ただ、大分衰弱してる、このままだと長くはないだろうな。」
「そ、そんな!」
ギータは膝をついて泣きそうになっている。俺はそれに対して頭を掻いて鼻を鳴らした。
「・・・何諦めてんだ? まだ生きてるなら可能性はあるだろ。それにあいつはまだ生きようとしてたぞ?」
檻に入れられてた彼は動けず目をうっすらと開けていた程度だが、俺が後で助けると伝えると微笑んでいた。まだ折れてない、ならまだ間に合う。
「う、うん、そう、、、だよな、まだおわってなんか、、、ない!」
ギータが奮い立った所で今度はミリアに尋ねる。
ミリアはカキラが無事だと聞いてホッと胸を撫で下ろしていた。・・・多分最悪な展開ではなくて安心したんだろう。
「全身の毛が所々円形に抜け落ちてた。そんでそこから見える素肌が青痣みたいになってた感じだね。」
「・・・なるほど、体毛が抜け落ちて青痣が見えると、、、。考えられるのは内裂病ですかね。」
「なにそれ?」
「決め打ちは危険なので詳しく見ないと何とも言えませんけど人族にもある危険な病気ですよ。皮膚の内側の血管が次々と内部出血していきいずれ全身の血管が破裂します。今は外面だけに済んでいると思いますが少し動くだけで痛みが走りますし、このまま何もしないといずれ内臓に直結する血管が破裂し、、、死に至ります。」
詳細を聞いて辺りに沈黙がおりる。
確かに彼は身体を動かすことが辛そうで顔をしかめて涙を流していた。それがどれほど辛い事なのか、なったことのない俺では想像できないが、死にたくなるほどの苦痛だろう。
なおのこと怒りが募る。あのクズどもはそんな子どもを放置しているのだからな。
「感染するのか?」
「しますけど血液感染ですね、こちらに傷とかなければ大丈夫です。でも、注意はしないといけませんよ。まぁ、私と律兎さんなら触っても問題無いと思いますけどね。」
「だな、カキラが無事な理由もそう言うことか。下手に殴ったりして血でも吐かせようものなら感染リスクがある。」
「おそらく、ただ話を聞く限り食事補助もされていません。衰弱はひどいと思いますよ。」
リミットはギリギリ、本当に明日か最低でも明後日が限度だな。それまでにミリアと会わせるか薬を飲ます必要がある。薬は持ってないしミリアと会わせるのが最善か。
「・・・ミリア、治せるか?」
「はい、内裂病であれば問題ありません。」
流石だな、治療と防御に関しては俺も信頼してる。
何か、知識が豊富なスイと治療防御のミリアが揃ってるのはいいバランスだよな。行き当たりばったりな割にはうまくいってるものだ。
・・・そうだな、さっきはなんで独断専行なんかしたのだろう。今は一緒に行動を共にする仲間だ、お互いを信用して背中を預けるべきなんだ。
「最後は俺か、カキラの話と管理部屋の話はしたし後は森精仮面か?」
「それ結局誰ですか?」
「さあなぁ、俺も知らない。スイの話と合わせると狙われてたっぽいな。それでつられて捕まった。」
俺もいたのに相手の思惑通りに事が運んでいるのは不快だが、ぶっちゃけあいつのこと知らないし助ける理由もないんだよな〜。
「・・・月獣族より珍しくて、木製の仮面。森精、、、? 森の精ならエルフ族かな?」
さっすが俺達のブレイン! なんかよくわかんないけど正解に近づいてそう! てかエルフって珍しいの?
異世界では定番種族だと思ってたんだけど。
「エルフ族って森の隠者ですよね? 自然との共生を第一に考え、滅多に森から出ないと聞きますけど。」
「・・・うん、外で見かけることは殆ど無い。だからこそその希少性と彼らの技術や知識を奪おうとする連中は多い。・・・ただ、実力も高いから軍も手出しはできないはず。」
あー、なるほどなー。だからこそ森から出てきて一応犯罪者なあいつはいいカモってことね。
そりゃあ狙われる訳だ。
「・・・彼は助けるの?」
「いや、ついででいいだろ。第一はカキラだ、そんで連中に大打撃を与えて俺達を追う気力をなくす。そんな感じで行こう。」
「・・・わかった。」
「よし、そうと決まれば先ず明日は兵士と商会の繋がりから調べよう。」
今は隠れ家もあるしゆっくり休めそうだ。
連中が本気で追えば見つかるだろうけど目的を達したならそこまで力を込めては来ないと思う。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
暖かく適温の部屋に布団を被せて休息を取ろうとしたがあることに気づいた。
「・・・ベットが、2つ?」
「・・・本来は飲食しかやってないし火耐性があるお客さんはめったに来ないから部屋もないって。」
「そもそもこの部屋以外たぶんあっついですよ?」
俺はどうして簡易ベッドをボックスに入れとかなかったのか後悔して目を覆う。
下層の宿屋も見張りで交代してたがぶっちゃけこの灼熱の宿にはそんな本格的な警戒はいらないと思う。
今までは宿屋で見張りするときは部屋の外にいたけど、ここは廊下が暑すぎてさすがに出る気にはならなかった。
どうしよ、俺も寝たいんだけど。
「 ? 兄ちゃん何を気にしてんだ?」
「なんでしょうね〜? ほらギータくんは私と寝ましょうね〜。」
「ミリアさんすぐ抱きついてきて暑いからやだ。」
サラリと拒否されて傷つくミリアさん。てことはギータはスイか、まぁスイは抱きついたりしなさそうだしね。
そう思ってスイを見ると手を広げる寸前の姿勢で固まっていた。
・・・うん、まぁ、どんまい。
「・・・仕方ありませんね、では律兎さんで妥協してあげます。」
「まて、なんで一緒に寝ることが確定してんだよ? あと妥協って言い方はムカつく。」
「でも私ベットは譲りませんよ?」
コイツマジで俺には優しくねぇな!
別にコイツに床で寝ろって言う気はないけど本人に言われるとムカつく!
「・・・どうでもいいけど、私は寝るね。」
スイはそう言ってあくびを漏らしてそそくさともう一つのベットに入り込み、ギータもその布団に潜った。
俺とミリアが睨み合って言い合っているうちにどんどんと状況が固まっていく。なぜかお互いにムキになって譲ろうとする気はなくなっていた。
「ならもういいです! 律兎さんは入り口側でお願いしますね!」
ミリアはそう言ってそそくさと布団に入り込んだ。
このまま床で寝るとなんだか負けた気がする。
なぜかムキになっていた俺はそのまま布団に潜り込んでしまってすぐに後悔した。
隣から香るいい匂いには神経を向けないようにしながら天井の染みを数える。
ミリアも入ってきた瞬間はぴくっと震えたが今はこちらに背を向けていた。
それから少し立つとギータの寝息が聞こえてくる。
俺も寝ようかと瞳を閉じると、隣から微かに聞こえる声量に抑えられた声をかけられた。
「・・・律兎さん、起きてますか?」
「なんだ? いつもなら早く寝てるくせに今日は寝ないのかよ?」
「ちなみに隣に異性がいるのに寝れると思います?」
「・・・思わねぇな〜。」
「でしょう?」
本当にそうだよな、何を意固地になってたんだろ? こんなんじゃ休めないよ。
「ふふ、ちゃんと障壁を消して弾かなかった私を褒めてくれてもいいのですよ?」
「弾く気だったの?」
「まぁ、手を出してくるような人だとは思ってませんので。」
それは信用されてるのかヘタレと思われてるのかどっちなんだ? いや、どっちもか。
「何でもいいけど早く寝ろよ。明日は明日でバタバタするからな。」
「結局いつものんびりできませんね。街にいるよりも野宿のほうが平和な気がしません?」
「割と同意。」
本当に軽い世間話のような話を続ける。
ただ向こうでは二人が寝てるので声量はごくわずか、意識しないと聞き逃してしまいそうだ。
「ふ、ふふふ、律兎さんは今をどう思ってますか?」
「なに? 人生相談?」
「いいから教えてくださいよ。」
「そーだな、誰かさんに呼び出されて逃げて戦ってまた逃げて、ずっとバタバタしてて忙しいよ。」
軽く嫌味を込めながら半目で天井を見つめる。
すると、横でゴソゴソ音がしてミリアは寝返りを打ってこちらを向く。暗くてあまり見えないが整った顔が楽しそうに笑っていた。
「私もすごく大変だなーって思ってますね。死にそうな目にも何回か遭いましたし、戦いなんて苦手なのに巻き込まれてますしね。・・・でも私、今が一番楽しいです。」
目を見開いて横目でミリアを見る。
彼女はイタズラが成功したみたいにクスクスと笑っていた。
「ずーっと、何もしていませんでしたから。孤児になる前はずっと家に居て、孤児になって教会にお世話になったら家事とか料理とかもしてましたけど誰かと言い合ったり冒険したり、外で野宿なんてしたこともありません。その教会にもいれなくなって律兎さんと会った街に来ました。・・・そう言えば私、そこで冒険者になろうと思ってたのですよ?」
「・・・へぇ、似合わねぇな。」
「実際に合ってませんでした。薬草採取は得意でもそんなの最初だけ、、、。白魔法使いは万能職と呼ばれているのに防御しかできないなんて役立たずですからね。」
別に盾役は必要だし、ミリアの治療はすごく助かる。
確かに攻撃はできても引っ張りだこだと思ってたんだけど。
顔色からそう思ったのが読まれたのかミリアは「はぁ~」と息を漏らした。
「盾役は盾役で立派な役職ですからね、仕事が被っちゃいますから。白魔法使いに求めるのは陽動や撹乱、バフに遊撃です。」
「そりゃ向いてないな、お前戦うの怖いだろ?」
「はい、剣を向けられたら障壁を貼る以外できませんよ〜。」
それはもう少しなんとかしてくれないかなって俺も思ってるんだけど、、、まぁ、今言うことじゃないか。
「それにどうも遠慮しちゃって。・・・律兎さん、今の私をどう思ってます?」
「ポンコツ残念美人。」
「え、酷くないですか? ま、まぁ、否定もできないのでしませんけど。私ってあの街では猫を被るというかすごく大人しくしてたんです。ずっと誰かの仲間に入れてもらいたくてニコニコして、話を合わせて愛想笑い。パーティーに入れてもらっても私のせいで男女仲に亀裂入ったりして本当に大変でした。」
「それはお前のせいじゃないだろ。」
「ふふ、ありがとうございます。だからこそ今は楽しいです。冒険もできて、スイという友達もできました。律兎さんは遠慮もなければ口も悪いですしね〜、おかげで私も自然体でいれます。」
・・・ん? なんか今サラリと罵倒された?
まぁ、口が悪いとは思ってるけど今更だし治す気もない。もうチンピラ根性が染み付いちゃって治る気がしないんだよね。
「それにご飯もいっぱい食べれて幸せです。知ってます? 教会って1日1食なのですよ?」
「えぇ!? お前が?」
思わず声を上げてしまい、ミリアに口を押さえられた。やべっ、と感じて隣をちらりと見るとギータが変わらず寝息を立てていてホッと息を漏らす。
「声大きいですよ。」
「い、いやだって、、、え? お、お前が一食? あの何回お替りしてもまだ満足してなそうなお前が?」
「・・・驚きすぎじゃないですか?」
仕方ないだろ、もうそういうイメージが俺に根強くついちゃってるし、、、。てか、あんなに食うやつがたった一食でよく生きてこれたな。
そんな風にふざけていたが、ミリアは少し顔を暗くして、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「・・・・・律兎さん、律兎さんは楽しいですか?」
その言葉はこの世界に召喚してしまった罪悪感、迷惑をかけてしまっているという心苦しさから来ているのだろう。
俺はその言葉に対して笑みを浮かべる。
「・・・楽しいよ。」
「本当ですか?」
「あぁ、ぶっちゃけ昔を思い出すんだ。何もかも上手くいかなくて、精一杯、必死に生きてた頃をな。」
「・・・・・それいい思い出です?」
「最高の仲間たちがいたからな。何度も迷惑かけられたし掛けたものだよ。でも何のしがらみもなく全員で好き勝手してた頃が一番充実してたもんだ。」
元の世界の同僚たちの顔を思い浮かべる。
何もかも見透かしてそうな剣帝に、基本大雑把な剣王、細かすぎる剣老に常に暴れたがりな剣鬼、そして何でも後回しにしがちな剣舞にせっかちな剣閃、嫌な思い出も多くあるが、何だかんだ楽しかったものだ。
「まぁ、最近はそれぞれ立場ができちまって会うことも少なかったんだがな。」
「そうなのですね。」
ミリアはそんな俺の話を興味深げに聞いていた。
基本的に自分語りなんかしないからなー。
「・・・あの、律兎さん。またこういう風に話したりしてもいいですか?」
「え、また同衾するってこと?」
「なんでですか、普通に2人で話したいってことです。」
「別に構わないけどよ。」
「ふふ、ありがとうございます。」
ミリアはそう言ってまた寝返りを打って向こうを向いてしまった。その様子からは悩みが解消された安心感と楽しいって言ってくれた嬉しさを感じる。
俺も会話に満足し、今ならよく眠れそうだと瞼を閉じるのだった。
・・・そういや、あいつら今何してるかな。
ーーー
数多くの軍事車両が出入りする巨大なゲート、その端から基地へと入り、舗装された広大な土地を突っ切って中央の巨大なビルへと向かう。
「いやはや、流石に国を跨ぐと時間がかかってしまうものだな。」
そう言って彼女 『剣閃』 白薙 ルミアは腕につけた時計を見た。
周囲で作業をしていた者たちは広大で何もない大地から歩いて入ってきた彼女に驚くが、その金髪をポニーテールに結んで、巫女衣装のようなものを着た様相を確認するといつもの通常作業に戻る。
ルミアは中央入口まで整えられた道を渡り、自動ドアにカードをかざして中に入る。中には軍服を着た様々な人達が忙しなく動いていた。
それを尻目に受付として座っている女性に話しかける。
「すまぬ、ミルル殿に会いたいのだがどちらに行けばよいか?」
「え、あー、ルミア様ですか。あの、毎度申し上げてますが来るときは事前に連絡をお願いします。それにアポがなければすぐに会えませんよ。」
「む? そうか、では勝手に探すとするか。」
「いえ、ですから駄目ですって、今大佐は、、、もういない!?」
受付の女性が一つ瞬きをする間にはルミアは姿を消す。その建物はワンフロアがドームくらいの広さなのに階数も100Fと大きい。
そこを虱潰しに探すとなれば果てしない時間がかかるはずだが、ルミアには何一つとして問題がなかった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
約82Fの一室に手をかざす。
『生体認証を開始、、、照合が完了しました。』
機械音がなって扉が開く。
中にズケズケと入って行くと社長室のような机にところ狭しと並べられた書類から顔を上げる知り合いがいた。
「久しいなミルル殿、息災か?」
「そ〜見えるなら〜、あなたの目は節穴ですね〜。まったく〜、アポ位取ってほしいんですけど〜?」
椅子に座った少女 『剣舞』 ミルル・リーラクラリナットは入ってきた元同僚に呆れた視線を向ける。
その視線を受けてルミアは胸を張った。
「かかかっ! そんなもの取ってたら時間がかかるだろう! そんな事をする前に直接見つけるほうが速いと思ったのだ!」
「・・・まあ〜、今回は〜、来客中じゃなかったので〜、ギリギリ許してあげますよ〜。」
ミルルはそう言って机に置かれたタブレットを持ち上げて席を立つ。来客用の椅子に座り直して前をルミアに進める前に彼女は席に座っていた。
普通に失礼だがミルルは気にすることなくタブレットをいじっていた。
「この殆どが電子情報に置き換えられた時代に紙媒体の山に埋もれているのはミルル殿くらいだろうな。」
「電子情報、インターネットは漁り終わりましたからね〜。今は〜、過疎化した集落に送った捜索願いや〜、新聞や異変情報を漁ってます〜。」
「まだ先輩を探しておられるのか? 剣帝殿も言っていたが先輩は早々くたばるような方ではない、そのうち帰ってくると思うぞ?」
淡々と告げるルミアにミルルは眠たげな片目を向けた。第三者からすれば怒ってるようにすら感じるその視線も長い付き合いのルミアからすれば何も感じない。
「・・・私もそうは思ってますよ〜。でもあの人〜、今は大分制限されてますし〜。」
少し目を伏したミルルの言葉にミリアは今日初めて気まずげに視線を泳がせた。
「あぁ、そういえばそうであったな。お陰で私達の中でも己が『弱い』部類等と勘違いしてしまう始末。」
「あは〜、ま〜その話は終わったことですし〜、掘り返す気はありませんけど〜。」
ミルルはようやくタブレットから目を離して背もたれに体重を預ける。普段怠け癖のある彼女がここまで熱心に行方不明者の捜索を行うなど珍しかった。
「また剣帝殿に聞いてみたらどうだ?」
「ん〜、あの人よくわからないんですよね〜。『ここにいないなら異世界にでも行ったんじゃない?』とか言われましたし〜。」
「異世界とは突拍子もないな、確か存在する可能性は高いとされたが渡航の手段が確立されず夢物語と言われておるはずだが。」
「・・・でもまぁ〜、あの人が動いた痕跡が〜、ここまでないならそうかもって思っちゃいますね〜。」
「かか、先輩はよくも悪くも目立つからな。」
「そんな意思なくてもね〜。」
2人は今行方不明となっている人を思い出しながら笑う。本人は自分が一番普通でまともだと思っているが、彼女ら視点では一番厄介事を拾ってくる印象が強かった。それが本人の意志でないところがなお面白い。
ただ、最近はそういう違和感が見つからない。
もしかしたら異世界に行ってしまったという戯言すら事実なのではと思ってしまうほどだ。
「・・・それでも捜すのは止めないのか?」
「・・・これは私のわがままですからね〜。まぁ業務に支障はきたしていませんよ〜、今も休憩中ですし〜。」
「む? そうなのか? ならアポは要らないでないか。」
「・・・休憩に来客対応は含まれてないです〜。」
本気で首を傾げてる非常識な元同僚に呆れた視線を向けてため息を漏らす。
頼んでおいた甘いカフェオレと緑茶がそれぞれの前に置かれて一息ついた。
「うむ、やはり緑茶はうまい。」
「えぇ~? 苦くないですか〜?」
「ミルル殿の飲み物は甘すぎだ、体に悪いぞ?」
「承知の上です〜、というか相変わらずな格好してますね〜、出身は私と同じじゃないですか〜?」
「かかかっ! 気に入っているからな!」
そう言って立ち上がり、服と腰に差した刀を見せるようにくるりと回る。和服に金髪だが無性に似合っていた。
ミルルはそれに頬杖をついて「はいはい〜。」と空返事をする。
「それより〜、せっかちなあなたらしくないですね〜? いい加減要件を話してくれません〜?」
彼女はそう言われて「あっ」と声を漏らす。
完全に失念していたようだ。
そこまで重要な話じゃないのかな?とミルルは思ったのだが、、、
「あぁ、そうであった終焉コード『D12』が発令された。」
「・・・えぇ~? 重要案件じゃないですか〜、それならメッセージしてくださいよ〜。」
「あぁ、頼まれたので走ってきた。メッセージするより走ったほうが速い。」
「なわけ〜。」
「ぶっちゃけ顔を見たかっただけだな。」
彼女はそう言って快活に笑う。
終焉コードとは世界保持機関が設定した世界の終わりを示す異常事態のことだ。止められなければ世界は滅び、人などの生物は絶滅する。
そんな事態に動揺していない彼女らはまさに異常と言えた。
「もうすでに誰か行ってるのですか〜?」
「うむ、既に剣鬼殿と剣王殿が現着している。」
「なら〜、もう少し仕事片付けてから行きますからね〜。」
「・・・ミルル殿も相変わらずだな。」
その場で伸びをして席を立つ。
ミルルは窓にそっと手を添えて青い空を眺めた。
青い空は終わりそうな世界を感じさせない。
その空を寂しそうに眺めていた。
「・・・全く、何処か行くなら教えて下さいっていつも言ってるのに。」
その彼女の呟きは誰にも聞かれることはなく消えていった。




