喚ばれた剣聖ー26
俺とスイは商会を抜け出し待たせているミリアとの合流地点へ向かう。相変わらず時間が分からない暗さだが日陰者になってしまった俺たちにはちょうどいいんじゃないか?
そんな事を考えながら歩いていると、、、
「きゃあああー!!」
裏路地からミリアの甲高い悲鳴が聞こえた。
俺とスイは目を見合わせて急いで声のした場所へ向かう、、、!
そこには!!
「や、やめてください!」
「な、なんだよこのねえちゃん、見えない壁があって近づけない、くそ! 身奇麗だから絶対金持ってるのに!」
「よくわかんないけどこれ多分魔法ってやつだよ! 使うの大変だって言ってたからもうすぐなくなるんじゃない?」
「おぉ、お前天才だな!」
裏路地を覗くと小さな汚れた子供に障壁を蹴られてるミリアがいた。・・・こいつなにしてんの?
ミリアは屈んで怯え、抱えられたギータが威嚇していた。到着した俺とスイはその光景に「えぇ?」と何とも言えない複雑な感情が浮かんだ。
「やめろよお前ら! どっかいけ!」
「ーーはっ! おいおい、女に抱きしめられてる獣人がなんか言ってるぞ。」
「ぷぷー、おこちゃまはそのまま抱っこされてなー!」
「ーーギリッ! お前ら言わせておけば! てかミリアさん離してよ!」
「えぇ!? 怖いじゃないですか!?」
・・・なんであいつらも言い合ってんの?
ミリアがあまりに情けないが、仕方ないかと近づいて障壁を蹴っているガキ二人の首根っこを掴んで持ち上げる。
「「うわぁ!?」」
「・・・おいガキども、相手は見て選、、、いや、見聞きは正しいけど俺の連れなんでな、とっとと帰れ。」
そう無表情で2人に言い聞かせると2人は震えてコクコクと頷いた。確かに顔色だしてないけどそんなに怖い? まぁ少し威圧してるし仕方ないか。
首根っこを話すと2人はそそくさとこの場から去っていった。
「律兎さぁん! 遅かったじゃないですか!」
「・・・・・お前、聖職者なら子供を説き伏せられたりしないの?」
「無理ですよ、だって怖いものは怖いじゃないですか。怖いって印象を持ったものに話しかけられます?」
「・・・なんか一理ありそう。」
・・・まぁ、力を持ってれば怖くはないが怖いものに立ち向かう勇気というのは誰しもが持てるものじゃない。でもあの子達多分子供だよ? 悲鳴を上げるほどビビることはないんじゃないかな。
若干説き伏せられそうになったが場が落ち着いたので壁に背を当てて腕を組む。
「とりあえず何があったんだ?」
「そうですね、それは、、、って律兎さん!? む、胸のところ怪我してますよ!?」
説明をしようとミリアが見上げると血を流していることに気づいたらしい。この程度かすり傷だしそこまで心配することじゃないけど、、、。
「ん? まぁさっき少しな、それより、、、」
「だめですよ、傷はほっといたら悪化してしまいます。一度応急処置しましょう。」
そう言って迫るように近づいてくる。
思わぬ圧にたじろぎ、戸惑いながら頷く。
「お、おう。」
「・・・なら場所を移そう。さっきいいところがあった。」
スイはそう言ってどこか指さす。
こんな場所に当てなんかあるのか疑問だが、拒否する理由もないので付いていくことにした。
ーーー
「らっしゃせ〜! 暗闇の中の灯火、獄炎亭へようこそ!」
「灯火にしては燃えすぎじゃね?」
スイについてって指さされた先はほとんど先を照らさない街灯(なんか柱の先に石がついてる奴)を遥かに超える熱量で石造りの建物が燃えている獄炎亭と書かれてた建物。心当たりのあり過ぎるその景色に既視感を感じながら、スイがジュワ~っと音を立てる手すりを握って扉を開けた。
「お! 普通の魔族とは珍しいですね! 是非ともごゆっくり!!」
「ゆっくりできるかなー、まぁ身を潜めるにはうってつけだけど。」
「・・・でしょ?」
誇らしげなスイがフフンと鼻を鳴らす。・・・かわいいなー、癒される。ちなみにもう一人はというと、、、
「し、死ぬ。」
「ハッハッハッハッ! クラクラするぅ、、、。」
暑くてだれてるミリアさんと舌を出しながらぐったりするギータ。スイが冷ましてくれているがうだる様な暑さを感じてダウン気味。・・・気持ちは分かる。
「・・・律兎、あれだして。」
「あぁそうだな。」
懐から紋章の描かれた石を取り出してみせた。
すると彼は目を見開いて驚く。
「お、お客さん! 私達の村に立ち寄ったことがあるのですか!? そ、それにその石は族長から認められた証、、、!」
「用があってね、その時に少し関わっただけだよ。」
なんでもない顔をしながら石をしまい、近づこうとする焔壷族の男性を手で制す。殺す気か。
「少しでもらえる代物じゃないはずですが、、、。お客さん、村の賓客とあらばもてなさないわけには行きませぬな! なんなりとお申し付けてください! どうします!? 炎骨キノコの溶岩焼きでも!?」
「ちなみに気になるから詳細教えて。」
「・・・炎骨キノコは柄の部分が骨で傘が火で出来てるキノコ。・・・溶岩焼きって言ってるけど多分保温。」
「よし、ミリア喜べ、飯だぞ。」
「火耐性はないので遠慮します。」
そっか、さすがにミリアと言えど食えないか。じゃあ人間の食べ物じゃないし遠慮しよう。
「お腹空いてないから飯はいいや。それよりも部屋とか空いてないか? 実は俺たち少し面倒事に巻き込まれててな、匿ってもらいたい。」
今の現状を正直に伝える。
こういうのは誠実さが大切だから。もし、ただ部屋を貸してくれなんて言ったら訪ねてきた商会員に普通に伝えるだろうしね。
正直怪訝な顔をされるとは思っていたのだが、彼は胸を叩いて快諾してくれる。
「わかりました! きっと訳があるのでしょう、2階が空いてますのでゆっくりしてください! あ、暑いと思いますけど平気ですか?」
「・・・ミリア、また魔力貰っていい?」
「いいですよ、快適な環境を得るには必要ですから。」
隠れ家も見つかったので俺達は2階の1部屋にお邪魔させてもらった。
ーーー
部屋は薪で火を灯されていたのだが火は全て消してもらってできるだけ部屋が熱くならないように店主に火を退かしてもらった。
まだ暑くはあったがそこはスイに冷やしてもらう。おかげで適温となった部屋はとても快適になった。
・・・家具は石だけどね。
「ほらほら、早く脱いでください。包帯巻きますよ。」
「いや、そのくらい自分で出来るけど、、、。」
「駄目ですよ、自分だと緩んじゃいますから。・・・もしかして、恥ずかしいのですか?」
そう言って笑いながら口に手を当てるミリア。
めっちゃムカつく、、、。別に上裸に恥じらいは特にないけど何かミリアに介抱してもらうのは少し屈辱。
ただ、好意であることに変わりはないのでおとなしく上を脱いで包帯を巻いてもらった。
「ありがとう。」
「いえいえ、律兎さんには魔法が効きませんからね。この位はしてあげますよ。」
何か目を閉じて微笑みながら救急箱を閉じるのは聖母みたい。所々腹黒さは感じるがこいつも聖職者だな。
手当ても終わって改まった所で各々得た情報の報告を始める。
「では私から話しますか。私は上から見張っていただけなのですが、、、。不自然な点が多く見受けられました。」
「不自然?」
「はい、律兎さん。以前話した髪色の話は覚えてますか?」
ミリアの話初めに聞きたいことが聞けそうだと真剣に耳を傾ける。
「あぁ、人族と魔族の見分け方の一つだな。」
「はい、実はオークション会場に人族が入っていったのが見えました。」
「・・・黒い鎧の男だろ?」
そう言うとミリアは机に身を乗り出して驚く。
「会ったのですか!? じゃあもしかしてその傷は、、、!」
「あぁ、そいつにつけられた。」
そう告げるとミリアだけでなくスイも驚く。
彼女とギータは人族という単語にそもそも驚いていたが、スイは俺が傷つけられたことで更に驚いたようだ。
「・・・そうですか、実は律兎さんが会った人物に心当たりがあります。」
「え、有名人?」
「はい、彼はラーゼル皇国に存在する四代騎士団の一つ、黒狼騎士団の元団長です。」
ミリアの答えに目を見開く。
その騎士団とやらは知らないけど国に所属する騎士団の団長なら大層な実力者だろう。
ただ、元って言ったことは辞めたのか。理由は知らないが、片腕で未だに動きが両手だった頃の名残を感じたし負傷とかかな?
「名前はアゲルデ・ロックバウト、異名は斬り込み公爵。誰よりも先に敵陣に斬り込み、道を拓く姿からそう呼ばれているみたいです。」
別にカッコよくはないなぁ。まぁ、異名なんて誰かが勝手に付けるものだし自分で名乗ったわけでもないだろう。にしても公爵ってことは貴族なのか。
「なんでそんな奴がプラズ商会に?」
「流石にそこまでは、、、。でも、彼はある戦いで命を落としたと聞いています。まさか、生きてここにいるとは。」
ミリアはそう言って少し顔を下げる。その悲しそうな面持ちから知り合いなのかもしれないと思ったが、もしそうだったら彼女も貴族だったのだろうか?
「それで笛を鳴らしたのか?」
「あ、いえ、それとは別です。実は他に大勢の兵士が中に入っていったのですよ。」
「ん? 兵士って言うとパルパンクの?」
「はい、私達が詰所であった人もいましたよ? 理由はわかりませんが酷く硬い顔をしていました。」
・・・わざわざ兵士を中に入れたのか? 裏商会と呼ばれ商品を隠していた連中がなぜ?
「・・・それは、おかしいな。」
「でしょう? さすがに違和感を感じたので笛を吹かせてもらいました。」
「・・・よく起きてたね。」
「スイ!? そこは褒めるところですよ!?」
普段スイと見張りしてるとき、ミリアは障壁を張ってさっさと寝ているらしい。そりゃそんな反応も出るわ、自業自得だろ。
「道理で人の気配が増えたわけだ。おかげで出ていくのに苦労した。」
「・・・よく見つからない場所を選べる。」
「得意なんでな。」
すると、ギータが震えた声で顔を上げた。
「もしかして、僕を追って?」
不安そうに聞かれたが俺はそれに対して首を振った。
「それならわざわざ兵士を呼び込む必要はないだろ。・・・ただ、連中と兵士の関係は気になるな。そこだけは調べるとしよう。」
一度区切りをつけて首を揉む。
またまだ話は長そうだし簡単な軽食と飲み物をだして喉を湿らせた。
ちなみに軽食はスイがつくってくれたサンドイッチで元世界のやつじゃないよ? もう在庫も少ないしね。
さぁ、夜はまだまだ長い。




