喚ばれた剣聖ー23
次の日3人は先ず、地竜レンタルの値段を確認しに街に入った時に渡った橋の反対側まで歩く。そこには地竜やなんかでっけぇ亀とアルマジロみたいな生物がいた。
名前なんだっけ? なんか一回スイが言ってた気がする。
多くの種族がごった返す中、スイが流れるように進んで帰ってくる。戻ってきて指を3本立てた。
「・・・3万ミル。」
「ひとり?」
「・・・ううん、3人で。」
やべぇ、安いのか高いのか全くわかんない。
でも宿屋が30だし高いのかな?
ミリアの方を向くと彼女もわからないのか首を傾げる。やはり人間領と魔族領では通貨が違うらしい。
「・・・あとなんでこんなに混雑してるのか聞いてきた。私たちは今西の方に移動しているけどここより北西で新しい迷宮が見つかったみたい。それでそこで商売しようと谷を渡る行商と金稼ぎが集まってるって。」
「はぁ~~、とことんついてないな。」
「でも逆に考えれば魔王軍と遭遇してもこの群衆に紛れれば見つかる可能性は低そうです。私たちは仮にも狙われる立場ですしね。」
そういえばそうでしたね。
ミストレルにいるときは平和だったし忘れてたけど幹部を殺、、、せてはないか。まぁ完全に敵対はしてるし、遭遇したら命を狙われるだろう。
「じゃあとりあえず素材でも売ってくるか。こういうときってどこに売るんだ?」
「・・・素材商とか雑貨屋。直接買い取りしてくれる加工屋もあるけど素材を売るなら素材商かな?」
なら話は早いし素材商にでも行くか。
来た道を戻り、栄えている中央へ向かう。
露店が多く出ており店主達が呼び込みをして皆が楽しそうに買い物をしている。俺たちも買い物したいけどとりあえずは金だ、でも視線はついつい周囲に向けられキョロキョロしてしまう。お登り感すごい。
進むと素材商の看板が見つかり中に入る。
素材商なんて商売になるのかと思うが多くの素材が集まり加工業が盛んなこの街では珍しい素材が手に入ると賑わっているみたい。
虹色の葉っぱや鋭く長い爪が立ち並ぶ店内を見送りながら買い取りカウンターに向かい、数分並ぶと自分たちの番が回ってきた。
多数の目を持ち六本足の女性店員が笑顔で対応してくれる。
「ようこそ! タロウット素材商へ! では買取の素材を見せてもらえますでしょうか?」
「はーい。」
オババから貰った鞄に手を突っ込みボックスを操作。
出しづらいがボックスなんて見せたら絶対騒ぎになる。たくさん入ってコンパクトなんて商人からしたら喉から手が出るほど欲しい代物だしね。
「えーと、これとこれとこれと、、、。」
「えっ、え、え、え、え、え?」
それほど大きくもないカバンから続々と素材が出てくる。解体はミストレルでしてもらったのでまとめてもらったのを出すだけ。肉系は後でスイに料理してもらいます。
「ま、待ってください! い、一度かごを持ってきます!」
「ん、おう。」
カウンターにところ狭しと積まれていく素材の山。
後ろの素材を持ち込んだ客や店内のお客さんから自然と視線が集まっている。
え、なんで? 収納カバンは有名って聞いたけど?
なんで視線を集めているのかわからずスイを見ると彼女は顔を押さえていた。
「・・・まさか纏めて出すとは。ちゃんと解体してくれたミイルに何の素材があるのかも聞いておけばよかった。」
「え、だってめんどいじゃん。」
「律兎さんってめんどくさがって厄介事を拾ってくるタイプですよね。」
女性店員が他の店員を集めてカウンターの素材を選別してせっせと奥に持ち込んでいく。
ちょくちょく素材を手にとって「ひっ!」って声を上げるのはなんなんだ?
「白鎖パイソンの皮にフラグシープの角、、、め、滅多に姿を見せない希少魔物の素材がこんなにも、、、!」
「せ、先輩! これトラプトルの牙ですよ!」
ーーザワザワザワ
・・・頼むから素材を読み上げるのは辞めてくれ。
周囲の視線がこちらに集まり、なんだなんだと声が上がる。目当ての素材でもあるのか名前を聞くと「え!?」と声を上げる者もいた。
すると、我慢ができなくなった客の一人がこちらに詰め寄る。
「な、なぁ! その素材俺に売ってくれないか!? い、今なら正規の値段の2倍出す!」
「あ! てめぇ、抜け駆けするじゃねぇ! お、俺に売ってくれ! 俺は2倍の値に加えてうちの商品を分けてやるから!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ!」
詰め寄られ揉みくちゃになり始め、どうしようかと悩んでいると店員さんが大声を上げた。
「皆さん、彼はタロウット素材商のお客さんですよ! お買い付けは私達が値をつけたあとに正規の手段で購入をお願いします! 横取りするなら通報させてもらいますからね!」
この街では素材の買取をお願いしたあとに別の商人に買われてしまったり奪われたりが横行しているらしく横取りは重罪として裁かれるらしい。
さすがに通報はされたくないのかお客達は静かに距離を取った。
「お騒がせして申し訳ございません。少々お時間をいただきます、奥の部屋でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
だったら最初から案内してくれよ。
てか、わざと読み上げたな? お客たちにレアな商品が売り込まれたとゴタゴタに紛れながら宣伝された気がする。
俺たちは静かな応接室に案内され、お茶をいただいた。すでに若干気疲れしていたのでありがたい。あと、2人は呆れた視線を向けてくるのをやめてくれません?反省してるので。
しばらくとすると扉がノックされ半透明の執事風の壮年男性が、、、生きてんの?
「お待たせして申し訳ございません、私タロウット素材商、パルパンク支部のゴーストンと申します。」
「どうも、律兎、ミリア、スイ。」
「適当過ぎません?」
並んで座る自分と2人を指差して自己紹介。
これ以上時間とっても仕方ないし巻きでいこう。
「この度は多くの素材を持ち込んでいただきありがとうございます。全て買取でよろしいでしょうか? それとも鑑定のみにいたしますか?」
「全部買い取りで頼む。」
「承知いたしました。では内訳を記載しお持ちいたします。」
ゴーストンは後方に控える店員に合図して内訳を取りに行かせる。
彼はこちらを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「・・・失礼、お客様の情報を詮索するべきではないのですが、皆様は傭兵様でしょうか?」
「いや、ただの旅人だよ。まとまった金が欲しかったんで、目についた素材商に売りに来ただけだ。」
「左様ですか、もし傭兵様でしたら是非と商会で雇わせていただきたかったものです。」
ゴーストンは残念そうに肩の力を抜く。
やはりミスルル族のスイと一緒にいる俺たちは傭兵と勘違いされやすいようだ。
「ですが、幸運でしたね。タロウット商会は素材商の中でも大きな商会です。小さかったり、あくどい商会に売り込むと酷く損をするところでしたよ。」
「・・・それを自分でいうか。まぁでも確かにあんたの言った通りなら運がいい、もし二束三文で買い取られようものなら商会の信用に影響しそうだもんな。」
ゴーストンと俺はお互いに笑い合う。
今彼は商会の売り込みをしているのだろう。高価で貴重な素材を持ち込める俺たちは彼等にとって良いお得意様になってくれる可能性が高い。
他に見向きしないように自分たちの商会の大きさを宣伝するのはこれからもよろしくという裏が感じ取れる。
逆に俺は適正価格を知らないが、それを相手は知らない。二束三文で買い取られても気づかないのだが、もし安く買い取ろうものなら、、、と脅しをかけておく。
そうすれば向こうは適正価格か色を乗せて売ってくれる気がする。・・・商人じゃないから知らないけどね。
「えぇ、もちろんです。是非とも皆様が満足する金額を提示いたしましょう。」
彼の声とともに後ろの扉が開く。
店員さんが持つトレーには一枚の紙と袋が置かれている。それをそっとテーブルの上に置き、店員さんは後ろに下がった。
「こちらが内訳になります、ご確認お願いします。」
渡された紙を眺める。多くの素材の名前とその隣に一個あたりの値段が記載され大変見やすい、、、が、適正かは俺にはわからないので一番下の集計をみた。
そこには50万ミルと、、、、、。
「え、高いの?」
「・・・私も頻繁に外に出てるわけじゃないからよくわからないけど50万は大金。素材は加工されてないから一個あたりの単価は安くなるのが相場。・・・ここまで値が着くとは思わなかった。」
彼に聞こえないようにそっと隣のスイに耳打ちする。あ、ミリアには聞かないよ?たぶん意味ないから。
「満足いただけましたでしょうか?」
さて、これは試されているのだろうか? ここで下手に満足したといって本当はそこまで値がついてなかったら下に見られる可能性もある。ただ、ちゃんと高かったら普通に失礼だ。
「まぁ、相場を考えればこのくらいか。」
なので若干誤魔化すような受け応えをしておく。
彼は俺の返事に良い笑みを浮かべた。
「それは良かったです。では、こちらの価格で買い取らせていただきますね。傷がついているものも傷が少ないものと同じ値をつけましたので価格としては損がないとは思いますが納得いただけるかはわかりませんでしたから。」
「お、おう。」
そ、そういえばそうだね。傷物とそうじゃないので値段が変わるのは当然か。
「それとこちらもよければお収めください。」
ゴーストンはそう言って一つのカードをこちらに差し出す。高価な厚紙に謎の外殻でプラスチックぽくなっている黒いカードには商会の名前とゴーストンの名前が書いてあった。
「これは?」
「紹介状になります。我々タロウット商会は広く魔族領に展開していますので、もし別の街で見かけたらお立ち寄りください。特別な商品をお見せしたり、良き買い取りをさせていただきますよ。あと、商会傘下の加工屋で安く商品をお買い上げいただくことも可能です。」
完全な商会の売り込みだな。
でも確かに助かる。今回みたいな騒ぎも嫌だし、売り込みがしやすいのも得だな。
しかも加工品も安く買えるとなればもらわない手はない。
「あぁ、また見かけたら是非とも利用させてもらうよ。」
「ありがとうございます、ぜひ今後ともご贔屓に、、、。」
立ち上がって握手をし、笑顔を浮かべる。
その後は署名をして硬貨を確認した後に部屋を後にした。ちなみに袋には綺麗な金貨っぽいのが50枚、結構嵩張るがボックスに入れれば困らないな。
・・・てか1枚1万か、後で詳しくスイに教えてもらうとするか。
ーーー
「これで宿代には困らなそうだな。さて、飯にしようぜ!」
「はい! ご飯にしましょう!」
「・・・確かにお腹すいた。」
素材商から外に出るとちょうど昼くらいの時間帯になる。通りはさらに賑わい喧騒が大きく、人酔いしそうだ。
俺たちは飯を探して適当に歩き、お昼を買ってベンチに座った。
袋を開けると中にはホカホカの肉まんっぽいのが入っている。熱々を持ち出し中を割ると湯気が立ち、詰まったタネが顔を出した。
それを一口かじると濃い肉汁と香りが口の中に広がり目を見開く。味の濃さもちょうどいい。
「うっま! なんの肉かは分からないけどうまい!」
「私も分からないけど美味しいです!」
俺とミリアはすぐに食べきり次の出店に向かった。そこで無駄に極彩色な魚の串焼きと赤黒い色をした野菜スティックを買ってかじる。
「おぉ、これもうまいな!」
「でも野菜スティックは塩だけじゃ物足りないですね。律兎さん、マヨネーズもらえます?」
「いいけどつけすぎるなよ? 太るから。」
「・・・(モグモグ)。」
楽しみながら食事を取り3人とも満足する。
一番食べたのはミリアでスイは俺たちの半分くらい。胃袋の差が明確に出たね。
「ふー、美味しかったですね。」
「・・・ん、満足。」
今は食休みで3人ともベンチに座ってドリンクを飲んでいた。謎の緑色のドリンクだが爽やかで美味しい。
「この後はどうします? 地竜借りますか?」
「・・・借りると旅に出ないといけない。」
「急ぐ必要はないからな。軍資金もできたし後二日ぐらいゆっくりしてもいいだろ。」
そう提案し、小袋から2万ミル取り出して2人に渡す。
ミリアは嬉しそうにスイはいいの?と少し遠慮げ。
「助けられてるからな。後の残りは旅の資金として取っとくがそれは好きに使っていいよ。」
「ありがとうございます!」
「・・・ありがとう。」
ミリアの笑顔は相変わらずだし、スイも無表情ながら微かに笑っているのが可愛らしい。
どうも運が良いな俺も。
微笑ましく見守っていると、ミリアが「・・・あ。」と声を漏らしてスイに何事か耳打ち。スイも頷き、2人ともこちらに向き直った。
「律兎さん、今から時間空いてますよね? 少し私とスイで買い物に行ってきてもいいですか?」
「・・・ちょっと、入り用。たぶん、律兎は付いて来づらいから。」
それだけ聞いてある程度察した俺は二人に頷く。
2人は立ち上がって買い物に出かけた。
一人残された俺は軽くあくびを漏らして立ち上がる。
ここにいてもいいがせっかく街に来たんだし散策してもいいだろう。面白いものが見つかるかもしれないしな。
そう思って歩き出す。
フラフラと雑踏の中歩くと様々な小物が売っている露店を見つけた。
「いらっしゃい、手に取ってくれても構いませんぜ。」
ちょっと強面な店主が他の商品を磨きながらそう声を掛ける。
十徳ナイフみたいな奴や透明な瓶に液体が詰められているものなど様々。
「これなんだ?」
一つの管から紐が出ている商品を取って店主に聞く。
「それは魔物避けだな。引くと不快な音が出て魔物が遠ざかる。結構音がでかいから街なかでは使用しないでくれよ。」
魔物避けか、気配でわかるから要らないといえばいらないが俺じゃなくて二人に持たせておくのは良いかもしれない。これから別行動をする機会がないとも言えないしな。それに大きさも小さくこのくらいならポケットに入れといても気にならないくらいだ。
他にも興味本位でポーションとやらを買ってみたり叩きつけると濡れる水風船みたいな石を買った。
こういういらなそうなものを買うの好きなんだよな〜、とルンルンになりながら買い物していると、、、
「・・・ここどこ?」
人気のない裏道のような場所に出てしまった。
周りには薄汚れた魔族がふらついており、根無し草の様に座り込んでいる。
完全に入っちゃいけないって言われる場所だ〜w
楽しかった気分も落ち着き、絡まれないように前を向いて歩くとさらに入った路地から怒号が聞こえてくる。
「てめぇ! 逃げられると思ってんのか!」
「ーーっ!」
泣きそうな顔で走る犬っぽいもこもこの獣人が明らかに怖いおっさんに追いかけられている。
俺はそれを遠巻きに見ながら巻き込まれないように道を開けておく。
・・・助けないのかだって? 助けないよ、とてもじゃないが旅につれていけないし面倒は見れない。
少しの罪悪感を感じていると少年の前に謎のローブを着た人物が立ちふさがった。
「そ、そそそそそこまでだ! この悪人め! この正義の味方、森精仮面が相手だ!」
顔に木製の仮面をつけて高らかに宣言するが声はめちゃくちゃ震えていた。
背丈は俺より小さく両手にはナイフを握っているのだが、腰は引けていて今にも逃げ出しそうだ。
・・・てか、しんせいってなんだ? 神聖?
「あぁ? なんだお前? 俺がプラズ商会の人間だと知っててケンカ売ってんのか?」
「ひ、ひぃ! も、もちろんだ!」
相手のドスが聞いた声に仮面をつけた不審者は後ずさる。その不審者の足に少年はしがみついた。
「お、お願いします! 助けてください!」
少年の悲痛な叫びに不審者はそっと手を添えた。
「も、ももも勿論だよ。安心して、、、」
「あぁ!? てめぇ、やろうってんだな! ぶっ殺してやる!」
ーーヒュンッ!
怖いおっさんがブチギレ、背中から腕を生やして拳を握ると、正義の味方を名乗った不審者は凄まじい速度で姿を消した。
「・・・・・・・え?」
「あ?」
路地に残される少年とおっさん。
急に逃げ出した不審者にあっけにとられていた。
「・・・なんだかわからねぇが、諦めな。お前は助からないんだよ。」
「う、うぅ、うわぁぁぁ。」
少年は一度希望が見えた瞬間に再び絶望に落とされる。その悲痛な押し殺した声に俺は静かに少年に近づいた。
「なんだてめぇ、さっきのやつの仲間か?」
「・・・あんなのと一緒にすんな。助けられねぇなら希望を抱かせるんじゃねぇ、吐き気がする。」
少しでも期待をさせたなら責任を持てと、苛立ちを前面に出しながら少年とおっさんの間に立ち塞がる。
「ふ、そうかよ! ならてめぇを殺してやる!」
怒りをむき出しにこちらへと飛び出してくる。
拳から放たれる鋭い一撃を鉄剣で流し、鳩尾に思いっきり柄を差し込んだ。
「ーーが、、、はっ!」
おっさんは白目をむいてその場に崩れ落ちる。
しばらくは動けないだろう、あんたに恨みはないが運が悪かったな。
「え? えっ?」
「・・・来るなら来い、ここにいたいなら好きにしろ。」
俺はそう言って歩き出す。
そして虚空を睨むように隠れている屑に向かって声をかけた。
「・・・二度と正義の味方を名乗るんじゃねぇぞ。」
俺はそう言い放って少年とともにその場を立ち去るのだった。




