喚ばれた剣聖ー22
「・・・なるほど、確かにこれはミスルル族の保証書。つまりあなたはミスルル族の兵士であると。」
「あ、はい。」
全然違うけど否定したらこの時間が長引きそうなんでもうそれでいいです。
詰所に連行されて既に30分。
どこから来たのだとか何をしたのかとか、あの魔物は俺が連れてきたんじゃないのかとか「何言ってんだ?」って思うような質問の嵐を受け、めんどくさくなったのでミスルルの保証書を速攻見せましたよ、えぇ。
早速役に立ってくれて嬉しいやら情けないやら。
「・・・ゴート族の剣士とは珍しい。彼等は幻覚が得意で剣技など見たことがないというのに、流石はミスルルといったところか。」
どうやら俺はミスルル族に剣を師事してもらったゴート族の青年って認識されたようだ。
ミスルル族は剣の一族として有名らしく、本家のミストレルで剣の師事をしてもらえる人は滅多にいないらしい。
・・・まぁ、ミストレルで他の種族は見なかったから剣を教えてるのはたぶん他の村だと思うけど。
「えぇ、先生にはよくお世話になりました。今も列に並んでるかもしれませんので速攻連れてきてくれませんか? ちょっと仲間のあり方というのを説明しようと思ってるんで。」
てかあいつ、ファジーのことは見捨てなかったくせに俺のことは速攻で見捨てやがったな?
まぁ、あんな目立つ場所で暴れた俺も悪いけど襲われたんだから仕方ないだろ。
自分の中でそんな問答をしていると詰め所の扉がノックされる。
俺を詰めてた兵士は扉を開けて一度外に出たあとすぐに戻って来る。その後ろにはスイとミリアがついてきていた。
2人は椅子を出してもらい、俺を挟むように腰掛ける。
「・・・ミスルルの保証書を持っている人と会わせてほしいって言われてね。知り合いかい?」
「知りませんね。」
「ややこしくしないでくださいよ。ちゃんと弁明しに来たのですから。」
一度は見捨てたよね?見捨てたよね!?
「・・・・・てめぇら、俺を見捨てたのによく顔を出せたな?」
「全員が疑いをかけられたら弁明がしづらいじゃないですか。あえてですよ、あえて。」
「よっしゃ、頭出せ。」
「アイアンクローだけは勘弁してください!」
2人で言い合っているとスイが一度ため息をついてから、兵士の方を向く。
「・・・そもそも、あんなに無理やり連行されたのは納得できない。彼は少なくとも街に危害を及ぼすどころか被害を減らした筈、なのに取り調べはおかしい。」
「い、いや、それは確かにそうですが、シューバードはBランクの魔物。それを一撃で撃退できるなんて裏が無いと納得が難しく、、、。」
「・・・そう、なら高ランクは皆裏があるってこと?」
「・・・いえ、そうですね。すみません、確かに悪い見方をしてしまいました。近頃は往来も多くて不審な者が街中で新たに違法な商いや事件を起こしているのです。・・・言い訳ですけど、ご理解を願いします。」
無表情で淡々と相手を詰めていくスイさんはすごい頼りになるな。どっかの頭を握りつぶされている誰かさんとは大違いだ(ギリギリ)。
「・・・治安、悪いの?」
「・・・・・あまり外部の方に伝えるのは憚れますが、、、そうですね、表面上はあまり変わりありません。ですが、元々行商の街ということもあり、深く潜ってしまった商会もあります。それが近々、オークションをやるとか。」
「・・・なるほど、それ目的で金持ちや商品を持ち込む連中が集まりだしてると。」
「実際に先ほどの騒ぎで侵入された形跡もありました。シューバードの着地は滅多にあることではありませんし視線誘導かと。」
うんうん、なんで無関係の俺たちにそんな裏事情を話したのかな? さっさと解放してくれればいいのにおかしいな〜。
なんかチラチラこっち見てくるし、どこか上目遣いなのはなんなんだよ。
俺はため息を漏らしながらガン無視を決め込む。問答無用に連れてこられた挙げ句に尋問された俺に協力する義理はないだろ。
そっと、スイに近寄って他に聞こえないように耳打ちする。
「なぁ、ミスルル族の兵士って世間からどういう印象受けてんの?」
「・・・剣と水魔法に特化した一族で、外では傭兵業をよくやってる。護衛や魔物退治が多いかな。」
「・・・・・それ関連で俺たちも傭兵の類いだと思われてる?」
「・・・たぶん?」
そこでふと考えると俺たちってお金とかないけど街に入れるものだろうか?
口に出したらなんか分が悪そう出し言わないけどそこら辺のことは気になる。
「なぁ、そろそろ俺達行っていいか?」
「あ、はい、お引き止めしてすみません。本来なら通行料を頂くのですが、迷惑をおかけしてしまったのでこのまま通ってください。」
あっぶねー!
やっぱ通行料とか必要じゃねぇか!
てか、魔族領は通貨ないとか言ってなかった? 普通に使うじゃん。
「・・・よかった。あまり持ち合わせがなかったから助かる。」
「はは、そうなのですね。まぁ、魔族領で通貨を使える場所など限られてますから持ってないことがほとんどです。通貨でなくても鉱石で払うことも可能ですし、宿なども泊まれますよ。」
・・・本当にスイさん、先ほどは見捨てやがってとか思ってすみません。私のほうが遥かにゴミでした。
もう頭が上がらない気がする。スイが仲間にならなかったら俺達さらに大変な思いしてそうだったね。
淡々としているが交渉上手なスイさんに助けられながらようやく俺たちは詰所を後にした。
外は夕方、これから宿探しは間に合うのかな〜。
ーーー
「申し訳ございません、こちらは鳥型魔物専用になります。」「・・・こちらは獣型」「・・・こちらは」、、、。
多くの魔族が行き交う通りの真ん中で俺達3人は立ち尽くす。
「全然空いてねぇじゃねぇかー!!」
「・・・人型はすべて満室、多いとは思ってたけどこれほどとは。」
「別に鳥型でもなんでもいいんじゃないですか?」
後ろについて来てるお方は事の重大さが一つも分かっていないらしい。
「・・・鳥型とか、獣型は排泄の方法も休息の取り方も違うから、、、。棒の上で寝られないし。」
「律兎さん! まだまだこれからです! 頑張って探しましょう!」
「探してるわ、もう何件目だと思ってんだよ。」
今断られたので5件目。
あの行列から混雑具合は予想できていたが、宿が見つからないほどとは思わなかった。限定的な灼熱宿とか極寒宿は空いてるけど生き残れるかな?
そんな最終手段を考え始めていると、後ろから声をかけられた。
「お宿をお探しですか?」
「ん?」
3人が振り返るとそこには見知らぬ女性。背中から触手が生えているが見た目は人型に近い。
彼女は笑顔でこちらを見つめる。
「良ければ私のお宿にお泊りになりますか? 部屋は空いております。」
「え、まじで? よし、じゃあ、、、」
「・・・待って。」
人型に近いし即断しようと思ったらスイから待ったがかけられる。彼女は涙をにじませ、フルフルと首を振っていた。
「・・・テンタコー族は寝ない。・・・わ、私まだ壊されたく、ない、、、よ?」
「何されるんだよ!? もう怖えよ、この街!」
一番ヤバそうな存在から距離を取るべく2人を抱えて大通りから離れていく、裏路地に入って人気がなくなると息を整える。
「・・・ん? ここどこ?」
「・・・多分、下層かな? さっき飛び降りてたから。」
「ほんとに怖かったんですけど、あとテンタコー族ってなんです?」
確かにここは陽の光が届きづらく暗い様相をしている。
周りも治安が悪いと言うか、くたびれてたり力なく倒れているものが散見された。
「そっか、崖に密集して作られた街だもんな。したにも街はあるか。」
「・・・うん、治安は少し良くないけど見回りはされてるはず。だから、そこまで危険ではない。」
確かに遠巻きに見ると鎧を着た兵士がパトロールしていた。この日陰は悪の温床になりそうだが、なくすのが難しいってところか?
「・・・! そっか、ここなら空いてる。」
「え、宿か? でも明らかに警備が行き届いてないぞ?」
「・・・布団は貴方のボックス頼りになるけど何とかなる。後は野宿と同じ様に交代で見張りすれば休めるはず。」
スイからの説明を受けてなるほどと思った。
兵士は街に金持ちが多いって言っていた。金持ちはこんな日陰には来ないだろうし、俺たちはそれなりに実力もある。それなら安宿でも十分休めるはずだ。
「ナイスアイディアだ。さっそく宿を探そう。」
「・・・うん。」
「はい!」
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「3人で30ミルだ、鉱物取引はなし」
「・・・はい。」
30ミルがいくらかは知らないがスイがお金を渡し、俺たちはようやく宿を見つける。
宿は確かにボロボロだが、穴が空いているということもなかったので寝泊まりするにはちょうどいいだろう。
ようやく取れる休息にそれぞれがベットに腰掛けて息を漏らした。
「やっと休める。」
「行き当たりばったりってこんなに疲れるのですね。」
ミリアも疲れたように伸びをしていた。
確かに歩き疲れたし、気疲れがすごい。
ベットに寝転がりながらぼーっと天井を眺める。
「・・・で、明日は何するんだっけ?」
「・・・とりあえずは移動手段の確保。荷車は要らないし、一番は地竜が借りれれば速く次の街に行ける。」
「次の街か、確か地図だと結構な遠出だったよな。」
「・・・うん、少なくとも数十日はかかるかな。地竜が借りれれば短縮できるけど人気が高いしお金も高い。・・・少しでもお金を稼ぎたいところ。」
金稼ぎか、、、。
思い浮かぶのは兵士の言っていた傭兵稼業。
だが、下手にいま受けたら裏オークションとやらに関わることになってしまうかもしれない。それだとしばらくは動けくなる可能性がある。・・・別に急いでいるわけではないが、缶詰は勘弁したい。
・・・もっと手っ取り早く稼げる方法はないかな?
「そんなうまい話ないかー。」
「・・・そうでもない、ここは行商の街だから。」
諦めているとスイに考えがあるようだ。
体を起こして何かあったかと考える。異世界の物品はあるがこの街で売ると浮くだろう。でも確かにお金にはなる。
でもどれを売るとか難しいな。まぁ、入手経路なんて何とでもごまかせるか?
そう思っているとミリアが何かに気づいたかのように手を叩く。
「・・・あぁ、確か律兎さんは魔物の死骸を大量にボックスに入れてましたね。高ランクの魔物も多いでしょうし良い値がつきそうです。」
「あ、そっち?」
「・・・異世界の物品は悪目立ちすると思う。売るなら素材のほうが良い。」
確かに盲点だったわ。
異世界で手に入れたものを異世界で売る。そんな当たり前のことを忘れてたなんてまだまだ元の世界の感覚が抜けてないな。
「よし、じゃあ明日はその予定で動くか。んじゃ、とりあえず2人は休んでくれ。初めの見張りは俺がするから。」
「ありがとうございます。」
「・・・ありがとう。」
少し申し訳なさそうなスイと違い、ミリアは速攻で布団に潜り込む。・・・なんか、呆れと言うか一周回って凄いという感想が浮かんできた。
・・・てか自然と一緒の部屋じゃ、、、いや、考えないようにしよう。




