喚ばれた剣聖−21
「ミリアー! 寝るな!寝たら死ぬぞ!!」
「・・・ミリアって毒で死ぬの?」
「え、死にませんけどもう少し心配してくれてもよくないですか?」
ミストレルを出て2週間。
湿地を抜けて森が濃くなって行くと熱帯林のような様相を帯びてきた。
暑い森を草をかき分けて歩いていると上から降ってきた鮮やかな蛇にミリアが咬まれて転がる。
普通に心配だったが、聖職者は女神の加護で毒や病気にかかることはないらしい。
倒れたのはびっくりしすぎてみたいやね。まぁ確かに突然腕にヘビが落ちてきたらビビるわな。
「・・・ミリア、もう一回言うけどその白いローブ脱ご。何回も枝に引っかかってるし明るすぎて毒虫とかも飛びついて来てるから。」
「うぅ、虫は嫌ぁ、でもアイデンティティがぁぁ、、、。」
「んなもん吐いて捨てろ。」
アイデンティティとか言ってるけど常識なら森の虫は毒や病気を運ぶし、寄生虫だっているんだから下手したら死ぬよ?魔法があるからの余裕だとは思うけど。
「にしても異世界の虫はでっけぇなぁ。見つけやすくていいけど。」
何の影響かは知らないけど毒虫やヘビも中々の大きさを誇っている。でも森の脅威は気付きづらいステルス攻撃だと思っているのでそこは対処しやすかった。
「てかなんで噛まれたの? 障壁は?」
「・・・なんか、手で草をかき分けるのが嫌で障壁を動かしていたらムラができてて。」
「効率優先して安全軽視するなよ。確かに汚れるけど浄化あるだろ。」
「こういうのは気分の問題なんですよ。」
「よし、行こうかスイ。バカの相手をしてても時間の無駄だから。」
「・・・う、うん。」
そこら辺の魔法論は知らないけど明らかに自業自得だったんでほっとく事にして森を歩く。池を越え、大木を渡り、崖を迂回する。
地図はもらっていたがやはり環境というのは時間で大きく変わっている。そうなると別の道や細かい迂回路などが頭に入っているスイがいてくれてすごい助かっていた。
「おー、川沿いは涼しいな。少し休むか?」
「・・・うん、まだ先は長いし。」
「やった! 休憩休憩ー♪」
いつものキャンプセットを用意して水を汲む。
浄水をミリアに任せて水筒にしまいコーヒーを淹れて少しの休息を取る。
「もう少ししたら街があるんだっけ?」
「・・・うん、あともう少しすれば交易都市『パルパンク』に着く。そこで地亀荷車を拾えば距離を稼げるかな。」
今俺たちは交易都市を目指していた。
魔族領にも交易というものはあるらしく、頻繁に行商が通い、街となった都市があるみたい。
そこには様々な種族が入り乱れており、旅に出た魔族が最初に立ち寄る街として有名なんだと。
「もう少しですか、、、。よし、リツトさん走りましょう。」
「おっけー、お前下な。」
「はっはっは、死ねと?」
人を馬代わりにしようとしてるやつに優しくするわけないだろ。
「てか、この中で一番機動力ないのお前だからな?」
「待ってくださいよ、リツトさんが速すぎると思います。」
「別にスイも速いよな。」
「・・・まぁ、飛べるから。」
2人でそう言ってミリアを見ると彼女は笑みをヒクヒクさせながら目を泳がせている。
「お、置いていかないでください! ちょっとした冗談だったんですよ!・・・ほら、浄化できますから!」
「・・・置いていかないよ。ミリアは一緒にいて楽しいから。」
「す、スイ〜〜!」
ミリアは、涙を流しながらスイに抱きつく。スイは微笑みながらよしよししているが、どっちが聖職者か分かったもんじゃないな。
「ちなみに俺は置いてくから。」
「人でなし! どこに人の心を捨ててきたんですか!」
「お前がな。」
とりあえず相手にするのが疲れたので椅子に深く座り直していると川下のほうから気配を感じた。
スイとミリアはまだ気づいてないが徐々に登ってきているのを感じる。
「誰か来てるな。」
つぶやきに反応してスイとミリアも警戒するがわからないみたい。
「・・・来るとしても魔族だと思う。二人とも、変装の用意は平気?」
「おう。」
「はい。」
律兎は懐から山羊のような角を取り出して頭に付ける。スチャっと音がして魔法によって固定された。
これはミストレルで療養中に作成してもらった変装用の道具で黒髪の俺は黒髪魔族ゴート族の角をもらい、ミリアは、自分の前で小さな水晶玉を割る。
・・・すると
「おぉー、どうです? 変わりました?」
紫色の煙に包まれたかと思うとそこから髪に猫耳が生えたミリアが出てくる。
獣人は混血がすでに多いらしく毛の色も多種多様で判別は獣の要素があるかどうからしい。・・・萌えでも狙ってんのかな?
「・・・相変わらずだね。」
「え、変わってません!?」
「変わってるよ、たぶん別の意味だから気にすんな。」
そんな会話をしていると気配の主たちは姿を現した。
「おっ? 兄貴、こんな山奥に他の魔族ですぜ。」
「・・・珍しいな、山方向から来るとなるとミスルルか。」
上半身が屈強な体躯をした下半身馬のケンタウロスが2体がこちらを見て驚いた様子で声を上げた。
ミリアは念の為フードを被り俺は証明のために角を見せるように仁王立ちする。
すると、スイが一歩前に出る。
「・・・こんにちは。そう、ミストレルから来た。」
「ほう! ミストレルといえばミスルル族の総本山ではないか。ここにいるということはこれからパルパンクに?」
「・・・うん、道は合ってる?」
「あぁ、このまま真っ直ぐ川を下れば街が見えてくるはずだ。」
一体の壮年ケンタウロスが川の下を指差しながら道を教えてくれる。彼等はこれから素材を取りに向かうところらしくまだ上流を目指すそうだ。
すると、もう一体の若いケンタウロスがジロジロと俺に視線を送ってきた。
「・・・なんかついてるか?」
「あ、いや、ゴート族とは珍しいなーと。しかも他種族と一緒にいるとは、、、。」
事前にこういう反応をされるだろうと説明されていたそのまんまの反応をされて俺はやれやれを肩を竦める様な態度を示す。
「俺にも事情があるんだよ。」
「・・・あー、まぁそっすよね。今の時代どこにどの種族がいても不思議じゃないかー。」
ケンタウロスはウンウンと頷きながら一人納得している。もっと深掘りされるかと思っていたので拍子抜けだな。
「あ、そうそう、お兄さん方はパルパンクに行くんすよね? 気をつけてくださいよ、あそこには色んな種族が集まってるんでいざこざが多いっす。特に珍しい兄さんみたいな種族は絡まれやすいっすから。」
「・・・まじかよ。」
絡まれないように魔族に変装したのに結局絡まれるんなら意味ないじゃないか。
そんなことなら俺もミリアと同じ獣人系にすればよかった。獣人は出稼ぎでいろんな地域にいるらしいしね。
「では我々はこれで、よき旅路を。・・・おい、イテバ! そろそろ行くぞ!」
「うっす! それじゃあ兄さん方、また!」
ケンタウロス達はそう言って手を挙げながら去っていった。なんか、初めましてながらも気安い奴らだったな。
「もっと絡まれると思ったんだけどな。」
「・・・彼等は素直で真っ直ぐな種族だから。相手のいい噂を聞いたら親切だし、悪い噂を聞いたら露骨に態度悪くなる。」
「つまり、単純で騙されやすいって事か。」
「・・・・・うん、まぁ、ミリアの白ローブ見て何も反応しなかった時点で、、、。」
「普通に俺達怪しさ満点だよな。てか、俺達初対面だしいい噂もなくね?」
「・・・私から挨拶したから。」
単純すぎねぇ!?
彼らが去っていた方向になんとも言えない感情を抱きながら見つめ、ま、まぁいいかと思い直して休憩を終わらせる。
「にしても変装ってバレなかったし、これならパルパンクでも大丈夫そうだ。」
「ですね。私もフード被らなくて平気そうじゃないですか?」
「「面倒事起きるからだめ。」」
「・・・・・2人してひどい。」
しょんぼりしてしまったミリアを連れて川を下り、しばらくすると開けた景色が現れる。
平地のあとに巨大な溝とも呼べる峡谷の間にたくさんの資材とごちゃ混ぜに作られたような印象を受ける巨大な街が作られていた。街に入る橋には門が作られているが、端の方ではまだまだ工事が行われているようでこれからもどんどんと大きくなりそうな様子が窺える。
「すげえな、本当に寄せ集めって感じだ。」
「・・・実際そう。元々ここにはなにもなかった。最初は行商人が橋の近くに住み着いたのが始まり。」
そこから村ができて街ができて、ここまで広がったって感じか。
そんなことを考えていると俺は思わず口がニヤけてしまうのを感じる。
・・・初めて行く場所はやっぱりワクワクするな。
何があるかはわからない。
それでも、新たな出会いと冒険に少年心を隠せないのだった。
ーーー
一番近くの入り口である巨大な木造の門に到着。
圧巻でありながら重厚な存在感で見るものを威圧する外観は来る旅人に対して畏怖を感じさせた。
門の前には多くの様々な種族が列を作って並んでいる。バルコーンの馬車になんかよくわからないトカゲとか亀とかに荷車を引かせている連中も多くいた。
その中に並ぶ腰に剣と小さなカバンのみの三人組、、、怪しいったらないね。
ちなみにミリアの白ローブは剥ぎ取って上から地味なローブを被せときました。
「これ何時間くらいかかるかな。」
「・・・ざっと、5時間?」
「日が暮れちゃうよー。」
ついたタイミングが遅かったとは言え、これから5時間は長すぎる。
多種多様な種族が来訪するので検問が厳しいのかもしれない。行商の街なら納得だけどせめて二列とかにしてくれ。
ため息をつきながら空を眺めると青い景色が広がり、綺麗だなと感じる。異世界も空の色は同じなんだなと感想を抱いていると、空に黒い点が見えて目を凝らす。
その影はどんどんと広がっていき、気づくと列の10人前くらいに魔族と荷車押しつぶしながら降り立った。
ーーズガァアン!!
【ギュオオオオオオオ!!】
「・・・でっけぇ丸い鳥。」
「そんな感想抱いている場合ですか!? 明らかに異常事態ですよ!」
行商達はみんな慌てふためき逃亡する者や食われる者、護衛に命令して戦わせる者など様々だ。
街の検問していた兵士達も怒号が飛び交い阿鼻叫喚。
・・・なんか、騒ぎがでかすぎて逆に落ち着いてきた。
怪物を観察すると丸い体躯に硬そうな羽毛、猛禽類のような瞳に巨大な翼と嘴を持っていた。
「あの大きさでどうやって飛んでんだろ?」
「・・・キューバードは飛ばない。羽で思いっきり地面を叩いてその反動で飛び上がって落ちてくるだけ。」
砲弾かよ。
それがたまたま目の前に落ちてくるとか運がいいんだか悪いんだか。
そうやって観察に徹しているとキューバードと目が合う。いつの間にか周りの人達は距離を取り始めており、俺達だけが残るような感じになっていた。
ミリアはめっちゃ後ろにいるけどね、何その逃げ足。
【ギュアアアアア!】
転がるように落とされる嘴を引き抜いた剣で横に弾く。
バギィンッ!
鈍い音を響かせ鳥はよろめきながらこちらを睨んだ。
「・・・どうやってあの威力に勝てるの?」
「んー、力の入れ方かな?」
実際はほんのちょっとの魔力をぶつかる瞬間に放って衝撃と一緒に剣速をのせて振り抜いただけなんだけどね。
単純であっても威力は大きい。
でっかくて丸い鳥と睨み合うような形で対峙する。
剣の腹を肩に当てながら無気力な視線を送りながらほんの僅かに殺気を込めた。
巨大な鳥は少し後ずさったあとに巨大な羽を地面に叩きつけて飛び(跳び?)去って行く。
ーーズズウゥゥン
いや地震かよ。
ただ跳び上がるだけで一々こんなに揺れてちゃ地面が穴だらけになるわ。
「やっぱ魔物って怖いなー。」
「怖いのは貴様だ。」
威圧的な声音が後ろからかけられ振り向くと額に角が生え、肌が若干緑がかった男性が立っていた。
彼は鎧を着ており、大きな大剣を片手に持って構える。その後ろには同じ鎧を着た様々な種族が同じく警戒していた。
・・・明らかに不審がられてますね。
彼らを通り越して後ろを見るとスイとミリアがいつの間にか観衆に紛れてこちらを眺めている。
スイさん、、、あなたさっきまで俺の後ろにいましたよね?
「よかったな、貴様は先に街に入れそうだぞ。一緒に来てもらおう。」
「・・・はい。」
抵抗しても仕方ないので大人しくお縄につきました。
本当俺ってツイてませんね(泣)




