喚ばれた剣聖ー20
報告も終わって、貰うものも貰ったしようやく一段落ついたかな。
オババも満足したのかいい笑顔で椅子に腰掛ける。
「さて、そろそろスイナも暇であろう。戻ってきたんだし村でゆっくりすると良いさ。」
「遊んでいいの!?」
話の途中で眠そうに目をこすっていたスイナが元気に立ち上がる。その様子にみんなほっこりするが、、、
「・・・遊びたいんだけど、流石にまだ怪我が治りきってなくてな。ミリアと遊んでやってくれるか。」
「え、遊ばれる側?」
「そうなの? うん、わかった。ミリアお姉ちゃんに遊んでもらう。」
途中ミリアから疑問が挟まれたが無視してスイナの頭を撫でてあげる。スイナは嬉しそうに笑ったあとにミリアの方へと小走りで近づき、手を取って外へとでていった。途中に聞こえた「え、私も疲れてますよ? 私だって旅から帰ってきたばかりなんですけど!?」という言葉は何故か通じなかったようだ、、、。
「んじゃ、俺は休ませてもらおうかな。」
そう言って伸びをしてからあることに気づく、あれ?そういえばどこで休むんだ?
「俺ってどこに寝泊まりすりゃいいの?」
「ん? あぁ、スイのところにお邪魔させてもらうといいさ。慣れた場所のほうがよく休めるだろう。スイもそれでいいかい?」
オババに聞かれてスイは、変わらずの無表情で頷く。
スイにはまた迷惑をかけてしまうが、確かに少しでも慣れた場所のほうがありがたい。遠慮しないで休ませてもらうとしよう。
「じゃ、休ませてもらうかな。」
「・・・ん、わかった。」
スイと俺も族長宅を後にして外に出る。
外は相変わらずの雨で視界は悪いが心は思ったよりも軽くなっていた。
ーーー
数週間後、、、。
「・・・さすがにそろそろ動くか。」
もはや完全に住み慣れたスイの自宅でソファに座りながら本を読んでいた俺はふと声を出した。
その言葉にミリアは、顔をしかめる。
「えぇ~、もういいじゃないですか、ここに永住しましょうよ。」
「ヒモじゃねぇか。まぁ、それも理想ではあるけどいい加減動かないと旅に出れなくなりそうだ。」
このままスイの美味しい手料理を食べながら剣の指導、スイナと遊んでいる生活も嫌いではないが元の世界に戻る手段だけは手に入れておきたい。
それを理解しているからかミリアはダルそうに机に突っ伏す。
「はぁ~~、せっかくの安住の地が、、、契約もありますし反対はしませんけどー。」
こいつ契約がなかったら絶対手伝ってくれてないよな。まじで口頭契約しといてよかったよ、本当。
「お兄ちゃん、もう出かけちゃうの?」
ミリアの対面に座るスイナが寂しそうにこちらを見る。俺はそれに苦笑いしながら視線を返す。
「流石にずっとお邪魔するわけにもいかないしな。別に永遠のお別れってわけじゃない。また会えるよ。」
「・・・うん、スイナ大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから。」
彼女はそう言って席を立って部屋へと走って戻っていく。横顔から微かに見えた表情は泣きそうだったが俺たちに心配をかけまいと我慢していたのだろう。
「・・・さすがに目の前で言うのは酷だったのでは?」
「直前に伝えるよりはマシだろ。てか憎まれ役をやってくれても良いんだよ?」
「ふっ、私は心優しき聖職者ですよ? 感謝されることだけしたいです。」
「お前って本当にいい性格してるよな。」
心優しき聖職者は契約印で強制連行しないと思うんだけど。まずそんな発想が思いついた時点で心優しくねぇだろ。
こいつだめだと哀れんでいると、玄関からスイが帰ってきた。
「・・・ただいま。あれ、スイナは?」
彼女は手に食料を抱えていたがいつもなら俺たちと一緒にいるスイナがいなくて周囲を見渡している。
一度誘拐されて不安だろうし早めにどうしたのかと、俺たちが旅に出ようと思っていることを伝えた。
「ーーというわけなんだ。明後日にはここから出て西に向かおうと思う。」
「・・・そうなんだ。あてはあるの?」
「うーん、とりあえず何度かオババと世間話したときに聞いた中立都市でも目指そうかな。」
怪我の療養中暇だったので何回かオババのところに話しに行っていたのだが、その時に中立都市という存在を聞いた。
なんでも人間領と魔族領の中間にある街でそこには魔族と人間が共存関係を築けているらしい。
そこなら領渡りも簡単そうだし、いろんな視点の話や噂話が集められそうだと思ったのだ。
ただ、問題があるとすれば森と砂漠を越えなければならない。正直言ってけっこうな遠出になる。どうも最初に召喚された場所が悪かったらしい、端すぎるだろ。
「・・・うん、わかった。ね、それなら少し時間作れたりしない?」
「うん? 別に大丈夫だけど今からか?」
「・・・ううん、明日の朝少し話したい。」
明日の朝?
確か練習に付き合うくらいで特に予定はないはずだ。てか、居候なんで特にこれといった用事立てたことないけどね。
にしてもわざわざ朝とはな。他の人に聞かれたくない話題なのかな。
「わかった、明日な。」
了承するとスイは嬉しそうに笑って部屋に向かう。
そういえばいつも昼間は狩りとか警備で帰って来ないのにどうしたんだろう?
「・・・やれやれ、朝から可愛い女の子とデートなんて隅に置けませんねー。」
「そのおっさんみたいな反応やめろ。」
ムカつくニヤつきをしていたミリアのおでこに小石を弾いて飛ばしてやったが障壁に防がれて鼻で笑われた。
・・・こいつ後で絶対泣かす。
ーーー
次の日の朝。
朝日、、、は相変わらず昇ったかどうかわからない曇天だが、珍しく雨脚は弱かった。
いつもと少し変わった光景を眺めていると、後方から気配がする。ようやく来たかと振り向くと、そこには見知らぬ何かが立っていた。
「・・・誰だあんた。」
思いっきり変質者を見るような目で見てやるとその存在は笑ったような気がした。
よくわからない不確かな表現なのは全身が発光していてよく見えないのだ、それなのに目に痛みや眩しさを感じないのだから不思議。
「はっ、まさか女神様ってか?」
めちゃくちゃそれっぽい存在だなと不敵な笑みを浮かべて予想を返すと不思議な存在は声を出して笑った。
『ーーふふっ、仮にそうだったとしても一切動じてなさそうなのは流石ですね。これと経験の差というものでしょうか。』
まるでこっちのことを知っているかのような反応は不気味だが神格存在なら驚くこともない。他界干渉なんてできても不思議じゃないからな。
「用事があるなら早くしてくれ、これから待ち合わせがあるんでな。しかも可愛い娘と。」
『私の姿を見ては居ないでしょう。とびきりの美少女かもしれないですよ?』
「なら姿見せてくんない? 眩しくはないけどなんとなく気持ち悪い。」
『それはできません、今はまだ貴方に姿を見せることはできないのです。』
・・・今はまだねぇ。
別に知らないやつだしそこまで気になるわけじゃないけどさ。まぁいいや、ところでこいつなんの用だろ。
「んで、マジで何のようだよ。もうすぐ待ち合わせ相手が来ちまうんだが?」
『あぁ、そちらに関しては問題ありませんよ。今時は止まっているはずです。でも貴方のお時間をこれ以上取るわけにも行きませんね。』
時が止まっていると言われて空を見ると確かに雨粒は停滞するかのように存在した。
下手したら本当に神格存在かもしれないと警戒心を一段階跳ね上げる。
『多層次元を渡る貴方に助けて頂きたいお方がいます。』
「あぁ? 助けるだ? 今助けて欲しいのは俺だけど?」
急に出てきて助けを請われても困る。誰でも彼でも助けるような善人なんかじゃないからな。
面倒そうに返すとその存在は含み笑いを漏らした。
『ふふっ、貴方は自分で勝手に助かるでしょう? それだけの力は持っているはずです。』
「おいおい、出来るなら助けなくても良いは酷いだろ。助け合いは相互の協力があって成し得るもんじゃないのか?」
『・・・わかりました、では一つだけ。■■■■』
謎の存在が聞き取れない言語で一つ呟くと指に謎の指輪が現れた。簡素な金属製の縁に真ん中を宝石が通る。謎の鉱石は淡く色を灯しゆるりとした感覚で変化していた。
「なにこれ?」
『今はわからなくても問題ありません。いずれわかりますから。』
取扱説明書のない道具ほど怖いものは無いんだけど、、、そう思い、説明を求める視線を送るが謎の存在は沈黙を貫いたため、話す気はなさそう。
貰えただけ良いかとため息を吐いて相手に続きを促した。
「んで? 誰を助けろって?」
『聖女を助けて頂きたいのです。』
聖女と言われて一瞬だけミリアの顔が浮かんだがそんなわけないかと首を振る。慈愛の心を感じたことがないもんね。
『ふふっ、彼女ではありませんよ。あの方は私が手を出して良い方ではありませんから。』
「おい待て、さらりと爆弾投下すんの止めてくんねぇか。」
この明らかに上位の存在である何かに手は出せないって言われるあいつってなんなんだよ。怖すぎるんだけど。
『聖女は今繋がれています。その鎖を斬れるのは剣聖と呼ばれる貴方だけ、いえ、あなた以外ありえません。』
「・・・んで? そいつはどこにいんの?」
『人間領に行けばわかります。』
詳細は教えてくれないのね。
明らかな厄介事を背負わされたなと頭の後ろを描くと存在の光が弱まっていることに気づく。
「え、まさか帰る気? まだ教えてもらいたいことがいっぱいあるんだが?」
『また会いに来ます。貴方ならいずれ、元の世界に帰れると思いますので何回でも会いに来ますね。』
「おいふざけんなよ? 利用しまくる気じゃねぇか。」
それだけ告げると謎の存在は淡い光と共に消えていく。本当に言いたいことだけ言ってきてやがったな、あいつ。
手に突然現れた指輪を眺めていると遠くからまた別の気配を感じてそちらに視線を送るとそこには最初から待ち合わせしていたスイが向かってきていた。
「・・・お待たせ。遅くなっ、、、何かあった?」
なんか神妙な面持ちで立ち尽くす俺に違和感を感じたのか、どうしたのかと聞いてくる。
今起こったことを語ってもいいが、頭がおかしくなったのか疑われるだけだなと思い直してこのことは胸にしまっておく。
「別に、雨が弱いのは珍しいなって思っただけだよ。」
「・・・ん、確かに。大霖雨期に弱まるのは珍しかも。でも、あり得ないほどじゃない。」
うまくごまかせたようでスイも空を見上げている。
「んで? 話ってなんだ。」
「・・・あ、そうだった。あまりうまい言葉も浮かばないし単刀直入に言うね。」
それは助かる。さっきあった誰かさんは肝心な事を一切喋ってくれなかったからな!
スイは改まってこちらを見る。綺麗な青色の目でまっすぐこちらを見つめてなんか、前で指を握ったり離したりしていた。・・・なんか緊張してる?
「え、なに? 異世界の食料はもうないよ?」
「・・・ミリアじゃないし、そんなこと言わない。」
スイからの印象もそうなってきたのね。笑うんだが、、、。
少し空気が軽くなったのか、スイは一度目を閉じて再び開いた。
「・・・私を、貴方達の旅に連れてって欲しい。」
満を持して開かれた口から覚悟の込められた一言が飛び出す。口を引き結び不安を顔色に浮かべ今にも倒れそうだ。
俺はそれに口に手を当てて沈黙する。
「・・・スイナはどうするんだ? 今はまだ子供だし、置いて行ったら傷つくだろう。でも連れてはいけない、それだけ旅は危険なものになると予想してる。」
先ずはスイナの事。
彼女が気にしてない訳ないが、どういうふうに結論になったのかは聞かなくてはならない。
「・・・ちゃんと話した。スイナもついて行きたいけど足手まといにはなりたくないって、、、だから、後から追いかけたいって言ってた。」
「・・・へ? は? お、追いかける?」
すると、予想外の返答に面を食らってしまう。
誰かに預けたーとか、ひとりぼっちにさせようなら否定したが、一体どういう話になったんだろう。
「・・・オババ様に相談したら戦い方や知恵、生きるために必要なことを師事してくださるみたいで、それで一人旅が許されるほどに成長したら追いかけたいって。」
「お、おう、そうか、、、それなら良いのか、、、な?」
確かに今の力で連れてはいけないけどオババに師事してもらえるならスイナのためにもなるだろう。
オババの魔法はよく魔力が練られていたし、結界術への知見が深そうだ。そこで師事したなら何年後かになるか知らないが力になってくれるかもしれない。
「スイナの事はわかった。・・・でもどうしてついてきたいんだ? 俺たちが目指すのは人間領だ。魔族のお前にとっては窮屈だし危険だろ。」
「・・・知ってみたいって思ったから。私は、貴方達を知った。人も魔族も自分の目で見て考えたいって思った。」
彼女の目はずっと真っ直ぐで俺はその目に弱い。
昔に世話をしていた部下の目と重なりこちらが先に視線を逸らすことになった。
「・・・それにまだまだ剣も教わりたいから。」
「いや、それに関してはもうあんまり教える事ないんだよな。独学で学んでいくしかないよ。」
剣に関してはぶっちゃけあんまり教えることはない。
だってそもそも俺の技じゃないし、俺は極められてないからね。
まぁ、それはいいかと思い俺は視線を横に滑らした。
「・・・んで? ミリア、お前はそれで良いのか?」
建物の陰に問いかけるとそこからひょこっとミリアが顔を出す。スイが歩いてきた段階から気配は感じていたので元々ミリアにはこの話をしているのだろう。
「やれやれ、気配は消したつもりなんですがねー。」
「お前本気か? 一個も消えてなかったし綺麗な髪がチラチラしてて丸見えだったぞ?」
「そんな、綺麗な髪だなんて。」
「そこじゃねぇよ。」
頬に手を添えてくねくねする馬鹿をに少し真面目な顔で見つめる。すると、彼女も姿勢を正して咳払いした。
「・・・コホン。私は賛成ですね、スイのほうが魔物知識ありますしこちらの地理にも詳しいですから。人聞きに聞いたり地図のみでは得られない情報もあると思います。他の魔族と交渉する際にも助かると思いますよ。」
「・・・ん? 誰お前? 変なキノコでも食った?」
「真面目に返したらこれですか!」
ミリアはバボック山での共闘を期に仲良くなっていたみたいなのでそれが一緒に旅がしたいのかと思ったが思ったよりもちゃんとした理由を組み立てて説明してくれる。今のところミリアの意見には否定意見も浮かばないし、寧ろ深く納得した。
ミリアは普通に憤慨しているが相手にするのは面倒なので無視してスイに向き直る。
彼女はこちらの答えを持つように緊張していた。
それに俺は気が抜けるような笑みを返す。
「そうだな、特に断る理由もなさそうだしこちらからもお願いしたい。・・・多分だがこれから先大変な事ばっかりだと思うがよろしく。」
手を差し出して握手を求めるとスイは嬉しそうに微笑んでこちらの手を取った。あっさり決まったがこんなもんだろう。ちゃんと常識がある人が加わったほうがこちらも助かる。
「あ、待ってくださいよ! なんか私だけ除け者みたいじゃないですか!」
うるさくわめきながら握手する俺たちの上にミリアが手を添える。別にそんな大事な意味があるわけじゃないのに大げさとは思うがそこは本人の受け取り方か。
俺とスイは顔を見合わせて軽く苦笑しあう。
祝福の晴天とはいかなかったが、新たな仲間をもたらしてくれたこの雨空も悪くないもんだな。
ーーー
旅立ちの日。
「・・・じゃあスイナ、行ってくるね。」
「うん、お姉ちゃん行ってらっしゃい! 後で必ず追いかけるからね!」
見送りに来てくれたオババとトイスとスイナ。
今はスイナとスイが一時の別れを寂しそうに抱きしめあっている。
いやー、いい光景だね。
「うぅ、ぐずっ! ぐす、ぐすっ! い、いい関係ですよね、し、姉妹って、、、。」
隣を見るとミリアがガン泣きで顔がぐちゃぐちゃになっていた。いや、確かに感動はするけどそこまでじゃねぇよ。今生の別れでもないわけだしな。寧ろお前が泣きすぎてて涙引っ込んだわ。
「ぶびーっ!」
「だから俺の服でかむんじゃねぇよ! 浄化できるからって何してもいいわけじゃねぇからな!?」
「手頃なんだから良いじゃないですか、ケチですね。」
投擲とか遠距離攻撃だと弾かれるのでそっと頭を手を添えて力を込めていった。キリキリと締め付けていくとミリアは悶えながら縮んでいく。
「ぐぁああぁぁ、、、! い、痛い、いたすぎるんでやめてください。バカになったらどうするのですか!?」
「今さらだから平気だろ。」
反論しようにも痛すぎて喋れないミリアは「うぉおおおおぉぉ」と苦悶の声を漏らす。
久し振りに仕返しできて溜飲が下がる思いで笑っていると、別れが終わったのかスイが俺たちの隣に並んだ。
「・・・おまたせ、行こっ、、、、、、、、、、、か。」
戻って来たスイがミリアの頭を見てなんか一瞬固まったので俺も見てみると頭に綺麗なもみじマークがついていた。
普通に面白いけど相手にするとめんどくさそうなんでオババとかの方に顔を向ける。
「じゃ、世話になったな。また遊びに来るよ。」
「あぁ、いつになるかは知らないがいつでも来るといいさ。あたいらは歓迎するよ。」
全員が思い思いの挨拶をしてようやく旅に出るための一歩を踏み出す。
これからはしばらく湿地を歩き、野宿が続く。
まぁ、楽しむとしますか。
がんばっていこー。




