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喚ばれた剣聖ー2



振り抜いた際に刀身についてしまった血を払いながら残心。

3体のワニ男共が立ち上がることがない事を確認すると俺は息をついた。



「・・・終わったぞ。」



遠くの台座に隠れていた少女に声をかける。

少女は恐る恐る顔を出し、周囲を見渡した後に目を見開いた。



「・・・す、すごい。倒したのですか?」


「見ての通りだろ。倒せてなかったら俺はとっくに食われてるよ。」



本当だよ、これ呼ばれたのが一般人だったらここで食い殺されてたんじゃない?

まぁ、ちゃんとした勇者様なら乗り越えられる試練ってやつなのかな? 知らんけど。


少女は台座の裏から恐る恐る出てくる。その時真横にあった血を見て「っひ!」て短い悲鳴をあげてた。


そんな彼女はこちらまできた後、人のことをまじまじと見つめてくる。



「やっぱり勇者様なのですか?」


「違えだろ、勇者パワーみたいなものでも感じたかよ。単純に向こうの世界にいた時からこの程度はできる。」


「・・・確かに勇者様の証である女神様の加護などは感じられませんけど。」



へーそんなのあるんだ。

そんな不思議パワーと一緒にされたくはないけどね。それなりに過酷な道を歩んできたつもりだし、何度も死にかけてる。


・・・さてと、相手がどのくらいの立ち位置の強さかは分からいけど、分析はできた。外にいる全員が同じ強さだと助かるが、、、ま、それは楽観視しすぎか。


でも引きこもってたって仕方がない。



「外行くか。」



俺がそう呟くと少女は途端に体を震わせた。



「あ、あの、一度は倒せたのですしここに隠れるというのは。」



少女がそっと提案する。

確かに見つかりはしたが全員殺したから目撃情報はないだろう。しばらくは誰も来ないとは思うが、それは一時的な話だ。



「もしかしたら敵が帰ってこないワニ男を探しに来る可能性もある。そんな時にこんな狭い室内じゃあやりづらいし、ここには逃げ場も隠れる場所もないぞ? ならまずは一度外に出たほうがいい。」



返す言葉もないのか少女は黙る。

だが、その瞳は不安と恐怖で揺れていた。



「・・・お前が俺を呼んだのは街を救いたいからだろ、なら少しだけ我慢しろ。」



俺の言葉に少女は驚く。



「助けて、くれるのですか?」


「このままここに居ても殺されるだけだからな。それと期待するな。・・・もう手遅れの可能性が高い。」



先ほど侵入してきたワニ男達も街の人間は大半殺したって言ってたし、何より外から聞こえていた悲鳴が今は聞こえなくなっている。


それだけで最悪の光景は目に浮かぶ。



「・・・っ!」



少女は顔を歪める。

それは怒りなのか悲しみなのか、さっき出会ったばかりの俺では判別の仕様がない。



俺は前を見据え、先に出口へと向かった。

少女も置いていかれないように小走りで俺に追いつき、俺の少し後ろをついてくる。


(そうだ、流石にまだわからないことも多いし今のうちに聞いときたいこと聞こう。)



「なぁ、えーと、、、」


「ミリアです。孤児院の出なので姓はありません。」



俺がなんて呼ぼうか考えていると先に答えてくれた。


助かる。


なるほど孤児院かー、まぁ深堀りはしないでおこう。

他人に探られたりはしたくないだろうしね。



「そうか、よろしくミリア。俺は八九楽 律兎。・・・こっちではリツト・ヤクラの方が近いか? ま、八九楽って呼ばれるのは嫌いだから律兎って呼んでくれ。」


「わかりました。よろしくお願いします律兎さん。」



てか今更なんだけど言葉は普通に伝わるんだな。

さっきの魔法陣に言語翻訳でも組み込まれていたのだろうか、専門家じゃないからわからんね。



「そんじゃあミリア。まず初めに聞きたいんだけどこの洞窟は街に近いの?」


「街の東側にある崖の上に位置しているので、近いと言えば近いです。けど来るのは難しいですね。」



ほんほんなるほどね、君は一体どうやってここまできたのかなー。

必死になって逃げ場を探していたら偶然洞窟を見つけたって感じか?



「出た瞬間に襲われるってことはなさそうだな。」


「・・・でも、さっきの結界を破った際の衝撃を考えるとリザードマン達とは別の兵士がいる気がします。」



・・・さっきのってリザードマンっていうんだ。


すごいな、the王道な名前が出ると少しテンションが上がる。



「リザードマンはたしか高い身体能力と頑強性、水中行動に特化した種族の筈なので結界を壊せるほどの攻撃をできるとは思えません。なので別の兵が魔法を使って打ち砕いた可能性があると思います。」



・・・魔法ね。


俺が元々いた世界にも魔法、って言うか魔術を使う魔術師は存在していた。


何回か戦った事はあるが全員人智を超えた力の持ち主で勝てたのは奇跡に近かった。

そんな力を使う連中がチラホラ居るとか正気じゃない。



「・・・俺ここで死ぬ気がする。」


「うぅ、やっぱり生き残れないですよね。」



あ、ダメだ、ネガティブとネガティブが揃ってるので一度暗い方に思考を巡らせるとズルズル行くな。


俺は気を取り直すように一度頭を振った。



・・・落ち着け、ここの外にいる奴らがあのレベルとは限らない。



「・・・ところでミリアは魔法って、、、。」


「すみません無理です使う事はできますけど戦う事はできないです白魔道士は万能職なんて言われてるのに私なんて治癒と防御しかできないゴミクズなんですもう本当になんのために魔法が使えるのかわからないレベルですみません。」



地雷を踏んだらしくすごい早口で捲し立てられた。


まぁさっきの様子から戦わせようとは思ってなかったけど何が出来るのかは把握しておきたい。どんな状況になるかわからない以上使える手は使わないとね。


でも治癒と防御ができれば十分だろ。



「・・・なるようになるか(ボソッ)」



あまり考えても仕方がない。

こちらは今あるものだけで乗り越える必要があるんだ。不安に駆られ動けなくなって仕舞えばそれこそ詰みだろう。


洞窟内が徐々に明るくなっていくと光の差し込む出口が見えてくる。

嫌な予感をひしひしと感じながらも俺達は外へと踏み出す。



そこは異世界の神秘的な風景、、、と言ったことは一切ない、地獄絵図だった。



真っ赤に燃える街並み、散見される惨殺死体は炎に巻かれ炭と化す。

その街中を異形の者たちが高笑いを上げながら闊歩していた。


出てきた場所が崖上なため酷い有様の街中がよく見える。

隣に立っていたミリアは口元を押さえ、後退りした後に座り込んでしまった。



・・・俺は今さっき洞窟で目覚めただけでこの街に思い入れがあったりしない。だが、ミリアはどのくらいの期間かは分からないがこの街で過ごしたのだろう。知り合いや思い入れの場所が燃えていく様は絶望を味合わせるにふさわしい。



(吐き気がするな。)



流石にこの状況は不快感が湧く。

剣を握っている右手に自然と力が入った。


すると、そんな俺たちの心情を無視して前方から声がかけられた。



「・・・ふむ、出てくるのがトカゲではなく人間とはな。」



燃え盛る街並みを背にした真っ白な肌の男性。

真っ黒に塗りつぶされた四つの目と四つの腕、法衣に身を包み、こちらを胡乱に見つめる。



「吾がせっかくお膳立てしてやったと言うのに、人間如きに討たれるか、、、情けない。」



男は悲しんだり憤ったりせずにただただ呆れたように呟く。

呟いたのち、男は揺るりと立ち上がり片腕をこちらへと向けてきた。


俺はそれを手で制す。



「待ってくれ、少し話したい。」



そう提案すると、男は動きを止めた。

その鋭い四つの目がこちらを見つめる。



「・・・何だ。」



と言っても交渉しようにもこちらから与えられるカードはないので単純に命乞いになるんだけどね。



「・・・なぁ、たった2人くらい見逃してくれないか?」



俺が一縷の望みをかけて提案すると、男はため息を吐く。



「愚かな、なぜ吾が貴様のいうことを聞かなくてはならない。」



ですよねー。

もう散々殺したなら飽きてるかなって思ったんだけど、、、。



「・・・それに貴様は所詮トカゲではあるが吾の同胞を手にかけた。その貴様を逃す事は魔王様の顔に泥を塗るようなものだ。」



あー、一応気にしてるのね。


・・・さて、こいつは風貌からして戦士タイプじゃない。武器を隠し持っている感じもしないし、接近戦が強そうでもない。


て事はさっきミリアが言ってた通り魔法使いってやつかな。


俺が冷や汗を流しながら剣を脇に構えると男は鼻で笑い魔法陣を形成する。

1秒足らずで出来上がった魔法陣に燃え盛る炎が集まり火の玉が完成した。そしてそれを俺に向けて構え、放つ。



その迫り来る火の玉に俺は、、、狼狽した。



「・・・ああ? このくらいか。」



俺は冷静に剣を振り抜き、火の玉を両断する。

その両断された火の玉の向こうで男が目を見開いているのがわかった。


切り裂かれた火の玉はそのまま後方へと飛んでいき洞窟へとぶつかって爆発する。



「・・・貴様、今何をした。」


「何って切り裂いただけだよ。・・・うん、だいたいわかった。なるほどなー、これが魔法か。」



自分の手応えを確認しながら相手を見据え、剣の切先を向ける。

男はその様子に激昂して四つの手全てに火球を生成した。



「舐めるなよ! 人間が!!」



放たれた火球を俺は一つ一つ切り裂いていく。

避けてもいいがこの程度なら避ける必要もない。



「・・・ちゃんと目に見えるし、切っても剣が燃えたりしない。熱の温度は低いし、スピードもない。・・・正直ぬるいなぁ。」



俺はポツリとそんな感想を漏らした。

向こうの世界ではただの火の玉を飛ばすような前時代的な使い方をしてくる奴はいなかった。


だってそれなら銃を打った方が殺傷能力があるからね。


代わりに見えない無色透明の炎を飛ばしてきたり、盾や剣で防ぐと無機物に燃え移り延々と広がってゆく炎を使ったり、中には触れただけで皮膚が焼けただれる術式を混ぜてるやつもいたな、あれは本当にやばかった。


そんな馬鹿げた使い方をしてくるような奴らに比べたらただの火の玉を飛ばしてくるなんて児戯に等しい。


平然と切り捨てながら前へと進み俺は男へと肉薄する。

すると男は法衣を脱ぎ去り全身に炎を纏わせた。



「調子に乗るな! 燃え尽き、、、ッ!」



相手が力をためて最後の魔法を放つ前に首に向かって一閃。

飛ばされた首は高く舞い上がって崖下へと落ちていった。


ついでに残った体も邪魔だったので蹴り落としておく。


これでスッキリ。



「・・・よし、逃げるか。」


「え。」



流石に爆発音を響かせ、敵の死体を蹴り落としたんだ。

実際下ではざわめきが聞こえてくるので素早くこの場から離れる必要がある。


俺は動けなくなっていたミリアを抱え上げてそのまま森の中を疾駆する事にした。




ーー




燃え上がる街並みによって昼間以上の明るさになっていたため気付かなかったが時刻は今、夜らしい。

真っ暗になった森は精神的にもよろしくないが、今の状況ではとやかく言えない。できるだけ早めに距離をとる必要がある。



「ーーーっ!」



抱えられたミリアは木々が生い茂る森の中をグングンと進む律兎にがっしりと捕まっている。両手には力がこもって落とされないように必死。


俺は暗闇の中でも少しの光さえあれば夜目が効くのでこの位の暗さなら行動に支障はない。むしろ目が慣れてきたくらいだ。


そのまましばらく走り抜けていると開けた湖のほとりに出る。

湖の辺りは休憩するのに適してはいるがそれは他の野生動物も同じなので少し奥まったところに陣取り、ミリアを降ろした。



「はぁ、はぁ、はぁ、、、。」


「大丈夫?」


「は、はい大丈夫です。ただもう少し先に言ってもらえると助かりました。」



いやー、悪いね。

思ったより敵の行動が早かったし、影を見られたのか追っ手もあった。

それを巻くのに神経使ってて抱えてる人のことを忘れてたよ。


ミリアは息を整え、体を休めようと岩を背に座り込む。

その顔には疲労とは別の暗さが見てとれる。



・・・向こうは俺の顔色なんか見えないだろうけどね(真っ暗で)



闇は人の精神状態を狂わせる。俺はコートの内ポケットから小さな黒い立方体を取り出した。



「頼むから使えてくれよ。『オープン』」



そう呟くと立方体の一面から空中に文字列が投影された。

そこには歯ブラシ×3、鎮痛剤×12、包帯×10と表示されている。


ちゃんと起動した事に感激しながら俺は文字列をスクロールしていく。


俺はその中にあった、ガスランプをタップした。


すると、立方体近くに小型のガスランプが現れたので俺は灯りをつける。


暖かなオレンジ色の光が周りを包み込む様に照らし出す。



「ふぃー、良かった。この世界でも使えるんだな。流石に夜中から火おこしは難易度高いから助かった。」


「それなんですか?」


「俺のいた世界で旅人に重宝されてた『簡易ストレージボックス』って道具だな。

なんか固有の空間に物を収納する機能があってその中では時間も止まってるから劣化もしないんだって。」



なんてたって俺が持っているのは簡易ストレージの中でも最高品質と謳われる『ブラックボックス』だからな!

ストレージにはランクが存在し、上からブラック、ホワイト、レッド、ブルーの四等級。

その中でもブラックは容量最大、尚且つ時間停止付きというぶっ壊れ性能を持っている(めちゃくちゃ高いけどね。)

ちなみにブラック以下は時間停止機能は付いていないよ。


それに動力も永久機関で魔力を延々とグルグル回しているらしく、なくなる事はないので動力が切れることもない。



「・・・冒険者が使ってる冒険者カバンに似てますね。空間拡張の刻印が施されていて見た目よりもだいぶ多く入ると昔自慢されました。」



ふーん、こっちにも似たようなのはあるのか。

そう言えばこのストレージにも魔術師の刻印が施されてた気がする。


ま、そんな細かいことはいっか。

ボックスから新たにキャンプ椅子を二つと簡易テーブルを取り出す。

ガスランプをスタンドに立てかけてポットにお湯を沸かして置く。


よし、とりあえずこんなものか(逃亡中)



「どうぞー、ほら座って座って。」


「え、はい。」



何もない空間からポンポンキャンプ用品を出して並べられていく様を呆然と眺めていたミリアを椅子に座らせ、俺はインスタントのコーヒーを用意してお湯が沸くのを待つ。



「・・・すごく落ち着きますね。」


「キャンプチェアってこう沈み込むのがいいよな。なんか包まれてる感じがして落ち着くんだよ。」



椅子に体重を預けて力を抜く。

別に体力的には一切疲れてないけど、急に召喚されて未知の敵と対峙をしていたため精神的な疲労は高かった。


ミリアも疲れているのか顔色は悪い。

あまり無理な行軍はできないな、逃亡中に体調を崩すと危険だし。



・・・顔色が悪いのは別の理由もあるだろうけどね。



俺があまり物が入っていないボックスを眺めているとミリアがポツリと言葉を漏らした。



「・・・街の人達は、もう、、、。」



そこで言葉が切れる。

その先を言うのを躊躇っているのだろう。


正直少し期待を持たせるようなことを言ってしまったので申し訳なさがあるがちゃんと伝える。



「死んだだろうな。仮に生きてる人が残っていたとしても見つかるのは時間の問題だろ。」


「・・・そう、ですよね。」



フェリスは目を瞑って俯く。

あの燃え盛る街で生きてる人を探し当てるのは困難だ。

まぁ、魔王軍とやらがどう攻め込んできたか分からないから生き残りがゼロとは言わないけど、あの惨状を見てしまえば限りなく少ないことは予想できた。



「・・・一応言っとくが、戻ったって無駄だからな。敵が洞窟の中と外にいた奴らぐらいの強さだったとしても数が違いすぎる。こっちの人数は2人に対して向こうはざっと見ても100以上はいたぞ? そんな中、人を助けながら逃げ出すなんて無理だ。・・・死体が二つ増えるだけだよ。」



俺が元いた世界の戦争では魔術などを用いる戦いになるので重要なのは兵の質と機転になる。どれだけ大量の兵がいてもたった1人に戦況を覆らせられることも多くなったからだ。


でもだからと言って数の脅威がなくなったわけではない。

むしろ強い兵1人に対して数で対抗するのも有効な戦術だ。



「・・・。」


「後悔するなとも、悲しむなとも言わないけど、引きずられはするなよ。先に逝った奴らだってお前にきてほしくはないだろうから。」



何も知らない奴が適当言うなって思われるかもしれんが実際知らないからね。励ましたりなんてできるわけない。


お湯が沸いたので火を消し熱々のお湯をインスタントのコーヒーに淹れる。本当はもう少し凝った方が美味しいけど今はそんな状況でもないしな。


豊かな香りが漂ってきたので口に含むとほどよい酸味と苦味が美味しい。

俺、一推しのブランドコーヒーでこれだけは買いだめしてある。

あ、ブランドっていってもスーパーにたくさん売られてるようなやつだよ?


ずっと暗い空気だったしこう美味しいものを飲むと心からリラックスできる。


俺が1人ほっこりしてるとミリアは目の前に出された真っ黒の液体に恐る恐る口をつけた。



「・・・あ、美味しいですね。」



・・・え、マジ? こう言うのってテンプレだと苦い、不味いって吐き出されるかと思ったんだけど。



「少し苦味が強いですけど口に広がる後味が美味しいです。」



結構イケる口なんですね。

今度はダークローストとか出してみよ。


さて、落ち着いたらとりあえず飯かな。

ただ残念ながら異世界に召喚されるとは思っていなかったので食料品の備蓄がほとんどない。


でも今から食材を採りにいくのもだるいからなけなしの食料をボックスから取り出すことにした。



メニューは、、、


・ピザLサイズ(食べかけ)

・ポテチ(食べかけ)

・コーラ1.5ℓ(飲みかけ)



・・・うん、完全にお腹いっぱいで食べれなくなったやつだね。


ま、ボックスに時間停止機能が付いてたからまだ暖かいし、美味しく食べれるべ。



「どうぞー。」


「すごい良い匂いがする! た、食べて良いのですか?」


「そりゃもちろん。」



俺がボックスから取り出した食材を見てミリアは途端に元気になった。


さっきまでの深刻そうな顔はどこ言ったの?



まぁでも確かにこの匂いは空腹に効くよね。特にお腹の空いてる今は誘惑がすごい。

ピザは食べかけだけど4分の3は残ってるし、2人なら満足できるだろ。


あぁー、異世界飯とか食ってみたかったなー。

俺ってばまだ召喚されてから洞窟と焼けてる街しか見てないよ、ここは森だし、、、。


ミリアは食べ方がわからないのかこちらを見つめていたので俺が素手でピザを一欠持ち上げて食べてみせる。


・・・うん、めっちゃ美味いけど食べ慣れた味がする。


なんで俺こんな森の中でピザ食ってんだろ。


と言う風に食に飽和した感想を抱いていると、ミリアがきれいな所作でピザを持ち上げ一口食べる。さっきコーヒー飲んでる時も思ったけど所作がいちいち綺麗なんだよなこいつ。


そんな彼女はピザを一口食べると固まり、徐々に目が輝き出して身悶えし始めた。



「〜〜〜ッ!」



なんか足バタバタさせとる。

そんなに美味かったんか?



「これすっごく美味しいですね!!」



すっごい明るい笑顔。

さっきまでの深刻そうな顔はどうした?

不幸のどん底みたいな表情してたのに今じゃ幸せの絶頂だよ、振り幅すげぇなおい。



「チーズが臭くないのはもちろん、何よりこの味の濃いソース。トマトに香草、ふむふむ高価な香辛料もふんだんに使われてますね。」



なんか味を分析し始めたのでコップにコーラを注いで渡してあげる。

ミリアはお礼を言った後飲もうとしたが、動きを止めた。



「どした?」


「・・・これさっきの飲み物と違いますよね? 何か甘い匂いがします。」



あぁ、黒いからさっきのコーヒーと同じかと思ってたのか。

どうりで自然に口に運ぼうとしたわけだ。

確かにコーヒーとコーラじゃ全然匂いが違うよね。



「飲んでみな、甘くて美味いから。」


「・・・なんかプクプクしてますけど、、、毒とか入ってません?」


「お前は俺をなんだと思ってんだ。毒盛る理由なんかないだろ。」



失礼な、毒を盛るくらいだったら見捨てて逃げてるわ。

ミリアはチョビっと口にコーラを含む。その瞬間彼女は目を見開いてコーラから口を離した。



「なんかピリピリします。・・・でも、甘くて美味しいですね。」



一度離したけど再び口をつけてちびちび飲み始める。

少し顔を顰めてるから苦手なのかな?

でも初めて飲むならそんなものか。



「結構甘いですね。・・・これ貴重な砂糖たくさん使ってるんじゃないですか?」



・・・まぁ、500mlに約60グラムくらい使われてるらしいからね。



「濃い味が甘い飲み物で流されてゆく、、、悪いことしてる気分がします。」



確かに摂取カロリーはえぐい。

でも比例して美味しくなるんだから仕方ない。


俺はポテチを摘みながらしみじみそんなことを思ってると視線を感じたのでポテチも差し出す。



「な、何も言ってないですよ? そんな卑しくないです。」


「まぁまぁ良いから良いから。」



別に何も言ってないんだから食べなよ。

新しい物があって気になっちゃう好奇心とか大切だと俺は思うよ。



「これも手で食べるのですか?」


「そうだね。気になるなら箸もあるけど、、、いや、使えないか。うん、手で食べるのがマナーだから気にしないで。」



この世界に箸なんてあるか知らないけど異世界に箸があるなんて俺が読んだ小説には出てこなかったし。


ま、箸って聞いて首傾げてたし知らないだろ。普及してないだけかもしれないけど。


結局また悶絶した後、2人で全ての食べ物を交互に食べて飲んであっという間に平らげた。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



お腹が膨れ、眠気が込み上げてきたのかミリアが隠しながらあくびを漏らした。・・・のでテントとマット、寝袋をボックスから取り出し中へと放り込んでおく。


またいちいち驚いていたけど疲れてたのか思ったより早く眠りに着いた。

俺はもちろん見張りがあるので起きている。

ミリアも見張るって言ってたけど俺が「いや、俺が安心して眠れないから良いや。」って伝えたら「守る事だけは自信ありますよ!?」て言われたけどまぁ疲れてるだろうし寝かせといた(物理じゃないよ?)


俺は3日くらい寝なくても平気だしね。



「ふぁ〜。・・・さてと。」



俺は椅子に立てかけていた蛇行した剣を手に持ち、周囲に神経を巡らせる。



擦れる木々の葉の音に紛れ、獣の息遣いに遠くの方で武器を持った連中の気配を感じる。



・・・追ってくるか、しつこいな。



森に逃げ込んだ時点で諦めてくれないかなと思っていたのだが索敵に長けた兵でもいるのかこちらに向かってくる気配を感じる。

出来るだけ飛び上がったりして足跡を消したつもりだったんだけどな。



(でも簡単で良い、追ってくるなら殺すだけだ。)



冷たい目で暗闇を見つめ、敵や獣の位置を感覚で把握した後に森再び潜る。



・・・今度は狩る側として。



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