表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/72

喚ばれた剣聖ー19


バボック山の麓でファジーと別れ、今はまた3人でのんびりとした森を歩いていた。

あの山は常に燃えていたので昼も夜も分からなかったが今は丁度お昼時のようだ。



「てことで飯にしよう。」



突然思い立ったかのように立ち止まり指を立てて視線を集める。スイは相変わらずの無表情で振り返り、ミリアは呆れた半目を向けてきた。



「全く、唐突すぎませんか? 大賛成ですけど。」


「じゃあその呆れた眼差しをやめろ、ムカつくから。」


「・・・山を下りてから結構経ったし、お昼にするのは賛成。」



了解を得たので適当にボックスのメニューを開き、スクロールしていくとあることに気づいた。



「・・・び、備蓄がない、、、だと?」


「えぇ!! もう無くなったんですか!? もっと溜めといてくださいよ!」


「誰が一番食ってると思ってんだ!?」



確かに料理を作ったりもしていなかったから無くなるのは当然だけど、思ったより早かったな。


まぁ、振る舞ったり逃避行中に食べ続けてもいたから当然と言えば当然だけど。



「・・・何も無いの?」



スイがそう言って画面覗き込むが、知らない言語の羅列に少し眉をしかめる。

ないかと言われればある、、、異世界で処理した謎の肉達が。

何回か単純な見た目をした魚や、鳥のような肉は食べたことはあるが他は怖くて手を出していない。

それをスイに伝えると彼女は少し考えた後に指を立てた。



「・・・私が作ろうか?」


「え、いいの?」



彼女の手料理を何度か食べた時は確かに美味しかったしミリアよりは遥かに信頼はある。・・・別にミリアの料理食ったことないけど、、、。



「・・・うん、調味料とかも何回か試させてくれたし余程珍しい魔物じゃなければ大丈夫だと思う。」


「まじか、じゃあ少し出してみるぞ。」



適当にスクロールして謎の死骸をタップすると、目の前に二首の黒い馬の死骸が現れる。

倒した時は槍だったので両方の頭に穴が空いていた。


黒々しい見た目と若干の獣臭さが気になる。



「・・・バルコーン? すごい脚力と執念深さが厄介な猛獣。」


「へぇー、そうなんだ。・・・これって美味いの?」


「・・・肉は硬くて少し癖があるけど、ちゃんと処理すれば食べれる。」



さすが長年狩人をしていたらしいので詳しい。

肉はボックスに入れていたので劣化はしていない。

スイはナイフを取り出してテキパキと解体を始めた。手つきは慣れたものでみるみると部位ごとに解体されていき、最初のどうすんだこれ?って、みためから馴染みのある肉ブロックに変わっていった。



「・・・水魔法って便利だな。血を落としながら作業できるのか。」


「・・・うん、細かく発動すれば便利に使える。無詠唱と魔法への慣れがないと難しいけど、誰でもできるようになるよ。」



そうなの?ってミリアをみるとブンブンと首を振られた。どうやら魔法の属性適性と才能に左右されるらしい。それが2つともない俺には無縁の話ということか。


と、そんなどうでもいいことを考えていると解体が終わったらしく、肉のブロックを渡してくる。

それを受け取り、今度はちゃんとわかりやすく名前を明記しながらボックスへとしまった。



「・・・取り敢えず一つだけブロック使うけど何がいい?」


「任せた。」


「味が濃いやつがいいです!」



なんか一度聞いたことのある早死にしそうな要求をするミリアの答えにスイは少し考え頷いた。



「・・・うん、確かに疲れも溜まってきたし、味が濃いやつにしよう。」



そう言ってスイは手持ちのナイフで肉を小分けにし始める。キッチン道具を要求されたので俺はボックスからコンロとフライパンを取り出してついでに調味料セットも置いておく。スイには一度、全て味を確認してもらったから上手く使ってくれると信じよう。


スイは持参した香草らしきものを取り出してなんか香りを出したりしている。正直、料理のことはよくわかってないので何をしているのか全くわからないが、徐々に食欲をそそる匂いがしてきた。


なんかキャンプ飯みたいでワクワクするな。



「・・・できた。」



俺とミリアで机とか椅子を用意していると丁度出来上がったようで、スイがこちらに料理を持ってきてくれた。

料理に使った小皿は適度に水洗いしてくれたみたいでピカピカの状態で返してもらった、ホント便利〜。



「・・・取り敢えず焼いてみた。香り付けもしてあるし臭みは取れてるはず。」



取り敢えず焼いたって割にはフレンチ風の見た目なのは何なんだろ。

臭みがあるとか言ってたけど美味しそうという感想しか抱かない。


3人で席について食事を始める。


硬いと思われた肉にはすんなりとナイフが入り、一口大に切り取って口に運ぶ。豊かな風味と深いコクのようなものを感じさせるソースがとても美味しい、、、。



「・・・いや、こんなソースなかったと思うんだけど?」


「・・・ん、適当に作ってみた。」



そんな簡単にソースって作れるもんなんだと感心しながら食べ続け、あっという間に食べ終えた。

スイの魔法で食器の水洗いも楽であり、高圧洗浄をかけたかのように汚れとにおいも落ちている。



・・・俺、全然役に立ってないな。


ま、道具を出して肉を調達したと考えればいいか、と思い直して隣のミリアを見たが食後のコーヒーをおいしそうに飲んでいる姿から特にそんなこと気にしてなさそう。



「そういえば今回持って帰る燃焼石でたりるのか?」


「・・・ん、全然足りない。でもあとは定期的にミスルル族の人と焔壷族で貿易するから今回は持って帰ったって実績さえ手に入れば充分。」



普通に考えれば村中に行き渡るほどの燃焼石を持ち帰れるわけもないし当たり前か。


・・・ぶっちゃけ俺にはボックスっていう持ち運びに関してはチート級の性能を持つ道具があるけどね。


別に隠してはいないけどわざわざ公言もしてないし知れ渡ってはいないだろう。スイもわざわざ言いふらすような性格じゃなさそうだし。



「持ち帰ったあと私達ってどうするんですか? すぐ旅立ちます?」


「んー、まぁずっといるわけにはいかないしな。長く居座ると動くのが億劫になるし、村に帰って2、3日したら旅立つとするか。」


「・・・。」



俺は魔族領も人間領も知らない土地だし変わりはないけどミリアは人間領に戻りたいだろう。

それに女神の召喚陣について調べる必要もある。魔王なんか倒してられないしな。女神様信仰は人族だけらしいし、行ってみた方が良いのは確定だろう。



「・・・あぁ、道のりを示すって約束だし、帰りと居る間に基礎だけは教えるよ。それ以上は自分で辿り着いてくれ。」



スイから視線を感じたのでそう弁明しておく。

多分いつ教えてくれるんだ?って疑問に感じたのだろう。


本当はもっと教えたほうがいいのだろうが、教え始めるときりが無い。下手したら一生かけてもたどり着けない可能性があるのに常在はできないし仕方ないよね。ま、もともと専門でもないしちょうどいい塩梅だろう。


そう思って提案したのだが、スイは顎に手を当てて何やら考え込んでいた。もともと口少ない彼女ではあるが、相槌も何もなかったのは初めてなので少し淋しい。

しょんぼりすると、顔を上げたスイが慌てて両手を振った。



「・・・ご、ごめん、少し考えごとしてた。うん、教えてもらえると嬉しい。」


「・・・? おう?」



まぁ、約束したしそりゃ教えるが今の間はなんなんだろう?

そのまま、ゆっくりとした後に交代で眠りにつく。

夜は更け、何かに襲撃を受けることなく平穏な睡眠をとることが出来たのだった。





ーーー




ーー早朝。



「・・・ねむ。」



昨晩、今日の朝から指導を行うとスイに伝えたので頑張って朝早くに起きてみた。

まだ日が薄っすらと昇った直後の薄暗い時間帯。

外は冷え込んでおり、昨日から常に灼熱のバボック山にいたので風邪ひきそうだと(ひかないけど)思いながらテントを出る。


そこには既に自分よりも早く起きて剣を素振りしているスイがいた。

元気なものだと少し眺める。


相変わらずの綺麗な流れる様な動きで、一つの舞を見てるような感覚を感じる。

音は静か、荒々しさは無く、継ぎ目は無いが常に相手を捉えるような足配りと視線を意識している。


ある程度様子を観察したら気配をだしながら片手を上げて近づく。スイはこちらに気づいたのか素振りをやめて軽く汗をぬぐっていた。



「おはよ、相変わらず早いな。」


「・・・うん、どうしても気が急いじゃって。」


「体壊しても仕方ないぞ? 慌てて覚えられるものでもないしな。」


「・・・前からの日課だから平気。寧ろ心は凄く落ち着いてる。」



ならいいか。

疲労感も個人差だろうし、本人が平気なら気にすることはないだろう。無理してそうだったらやめればいいし。



「んじゃ、始めるとしますかー。」


「・・・ん、何すればいい?」



無表情ながらに少しやる気のこもった眼差しを向けてくるスイに対して顎に手を当てて考える。

昔に聞いたコツとかを思い出しながらスイに必要な能力を上げてみた。



「・・・必要な流れと剣技の型は似たようなものだし、それをわざわざ変える必要はないな。完璧に真似する必要はないし、そこはオリジナルのほうが馴染むだろ。なら、必要なのは空間把握能力かな。」


「・・・空間把握?」


「あぁ、敵の攻撃を絶対に認識するのと剣の通り道を見つける能力を高めよう。」



先程の素振りを見た感じ彼女は周囲の把握に一番は視力を使っているように感じた。

人間が目で追える速度には限界があるし、視界が奪われることだってある、嗅覚、聴覚、触覚も意識をせずとも使っているだろうがまだ足りない。



「スイ、確かお前水魔法が得意だったよな?」


「・・・うん、ミスルルだから。」


「なら話は早い。」



俺はそう言って指を一本立ててぐるりと軽く指を振る。そのまま目を瞑って数歩後ろに下がったあと、鉄剣を振り抜き背後に舞っていた木の葉を3枚切り裂いた。


スイはその様子に目を見開く。



「・・・後ろの葉っぱを知覚してる?」


「あぁ、ちゃんとわかってたぞ。それに俺は此処に来てから一回も後ろなんか向いてない。」



スイは少し考えたあとに答えに至ったのか、顔を上げた。



「・・・もしかして、魔法?」



察しがよく、満足のいく答えが返ってきて思わず笑みが漏れる。



「大正解。さっき俺が指を軽く回したのは自分を中心に魔力のドームを作ったんだ。」



今度は説明をしながら魔力を認識できるように濁らせる。ドーム状の空間が律兎を中心に形成されていた。



「ここまで込めちゃうと無駄に魔力を使ってるから魔力を薄く、広範囲に作り上げるんだ。ただ、その分集中力を高く保つ必要が出てくる。」


「・・・なるほど、そこに入ってきた異物を魔力の揺らぎで把握するってこと?」


「そ、人等の魔法を扱う生物には自分の魔力を認識できる器官が備わってる。それを広げることで内部を把握するんだ。」



簡単に言ってはみたがやろうとすると難しい。

そもそも魔力を薄く広げてドーム状にするには魔力消費が多く、長く保つにはそれなりの魔力保有量が必要なのだ。・・・ミリアなら余裕そうだけど。


それに高い集中力を維持することが大前提。それを戦闘中に行いながら途切れさせないようにするのは至難の業だ。


まずはコツとして



「・・・だからこそ、一瞬の魔力を展開して把握を繰り返す必要がある、、、。」


「その通り、魔力のドームは知覚する為に使うだけで長時間の展開は必要ない。把握さえできりゃいいからな。・・・まぁでも、取り敢えずは誰にも気付かれないような薄いドームを作って生活が目標になると思うぞ。」



まずは基礎となる魔法の維持だ。

スイの得意魔法は水であり、水魔法はドームの想像がしやすいので相性としてはピッタリだろう。

なので後はこいつの努力次第で化けるはずだ。



「・・・うん、わかった。取り敢えずは剣技を磨きながら魔力を展開できるようにしてみる。」


「そうだな、そこまでできたらまた声をかけてくれ。そしたら次のヒントを教えてやる。」


「・・・わかった。」



スイは手を合わせて自分の魔力に集中しだした。

周りの声が聞こえなさそうなくらい集中しだしたので俺はこの場を後にする。


・・・さてさて、あいつは数ヶ月かかった。スイはどうなるかな。



期待と後にできた楽しみに少し心を躍らせながら朝食の用意を進めるのだった。




ーー




再び豪雨の降る沼地を渡りきり、ようやく結界の張られた村へと帰ってきた。



「おかえり!」


「おう、ただいま。」



遠くから俺たちを視認した見張りがスイナを呼んでいたらしく、帰った瞬間に門で出迎えてくれる。

彼女の太陽のような明るさと笑顔に思わず頬が緩む。


そのまま可愛がるように撫でているとスイナの後ろから、オババとトイスが姿を現した。

なんか最近この2人セットも堂に入ってきたな。



「おかえり、その様子だとうまくいったようさね。」


「ーーっふ、わかってしまうか?」


「わかるもなにもスイが手に持ってじゃないさ。」



そうでした。


すぐ功績がわかるようにスイに燃焼石を持たせてましたね。それなのに無駄に格好つけて恥ずかしい。



「いえ、勿論その自信に満ち、迷いのない足取りからも結果は手に取るように察せていましたよ!」


「おい、この駄犬どっかに捨ててきてくれないか?」


「・・・・・まぁ、私もここまでになるとは思ってなかったさ。」



村を出る前から熱い視線を受けてたのに今では崇拝の域にすら達してるんじゃない?

どうしよう、このまま放置して拝みだしたら、、、ぶん殴って目を覚まさせるか。


若干本気で心配になってきたトイスの目をどう覚まさせようかと考えていると、オババから声をかけられる。



「ま、積もる話もあるだろうし中で話そうじゃないさ。」


「そうだな、そうさせてもらうかな。」



思い思いスイナとおかえりし合っているふたりに声をかけて全員で族長宅へと向かう。

この村での視線は既にピリつくような空気はなく、皆から温かい雰囲気で迎えられたのだった。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



「・・・なるほど、何か異常が起きてる気はしてたがまさかそんなことになっていたとはね。あんたらが向かってくれて助かったさ。」


「はっはっは、是非とも大いに反省してく。まじで死にかけたんだからな?」


「ふむ、それにしてもバボック山を冷気で包む程の剣か、、、そのような業物、見聞きしたことないとは思えないさ。」



不満を返したのに完全スルーされ少しさみしい思いをしていると、オババは思案げに足を組む。仕方ないのでその際に見えたもので許してあげよう。・・・嫌だなぁー、足だよ足。


皆が考え初めて沈黙が訪れる。俺はどうでも良さげに頭の後ろをかいた。



「いくら考えても無駄だと思うぞ。あれはおそらくだが俺がいた場所にあった終末兵器の一つだろうからな、知らないだろうし本来ならあるはずのないものだ。」


「終末兵器?」


「あぁ、確か『蒼宝・レーデアクアライト』っていう秘宝が嵌められた一振りの片手剣だな。その剣の秘められた力は絶大で世界の半分くらいならすぐに壊せるんじゃないか?」



昔に聞いた話を思い出しながら口に出すと皆の顔色が怪訝な顔色に染まっていく。それはそうだろう、ただ山の山頂に刺さっていた剣が世界を壊せるとか言われてもピンとくるわけない。


だが、常に燃えていたバボック山を凍らせていたという事実が否定もできなくさせている。



「・・・すまん、あまりに突拍子がなさすぎて想像ができないのだが、それほどなのさ?」


「まぁなぁ、あれはただ刺さってただけだから山を凍らせて溶岩をせき止めてる程度に収まっていたんだろ。もし、あれが意志を込められて振り下ろされていたならあの山は既に活動してない。」


「山の機能を殺せるって事かい!? そ、そんなのが狂った勇者の手に渡ったなら大問題じゃないさ!」



皆が驚愕し、動揺と恐怖に顔色を染めるが俺は酷く落ち着いていた。俺の意識からすればあれがあいつに渡ったなら何の問題はない



「いや、平気だよ。レーデアクアライトは強き者に力を貸すことはないから。それに取りに来たんじゃ意味なんてない。あれは秘宝に選ばれたものにのみ力を与える代物だからな。」


「・・・力を与えることはないってことかい?」


「んー、元々漏れ出る冷気だけでも山の表面を凍らせるくらいやばい代物ではあるけどあれの真価を見ちまってるからなー。正直その程度なら良いだろって思ってる。」



あまりに呑気な俺に全員なんとも言えない視線を向けてくるが、ぶっちゃけ出来ることなんてないんだよね。

だって、あいつ強かったし俺はレーデアクアライトに選ばれてもいないから仮に奪い取れたとしても生態系を変えないで済む極地に行って剣を突き立てるくらいしかできない。それなら魔法使いのあいつの方が抑え込むのに向いてるだろうし、選ばれたやつが出てくれば勝手に手元から離れるだろう。・・・正直、相手にするほうがめんどい。



「ま、平気だろ、あの状態なら元の力から引き出せたとしても10分の一程度だろうからな。」


「あ、あれでですか?」


「おう、そうだぞ? 前に適合者が戦ってるところを見たけど、熱帯雨林を1週間くらい凍りつかせてそこにいた特有の生物を絶滅、完全に生態系と環境を変えちまったからな。」



あれは本当に大変だった。

仕事柄、現代の表側にバレないように寝ずに見張りと護衛を続け、幻術師と魔術師、聖教会に降魔、降霊、様々な業界の化け物相手の仲介されられたからな。

それなりに実力があって仲を取り持てるのはお前しかいないとか言われたがとんだ貧乏くじを引かされたものだ。


一人うんうんと頷いていると、もうなんて反応を返せばいいのか分からない人達から視線が集まる。

その中でオババは顔に手を添え、何か考えたあとに口を開く。



「・・・なぁあんた、やっぱり異世界からの召喚者じゃないのさ?」



その発言に全員からの視線がこちらに集中した。

異世界の人間なら勇者だし、勇者なら魔族の敵だ。狂った勇者とかいう最悪の例がいる以上、怖いだろうな。


・・・是非とも怖がってくれないかな、特にトイス。


俺は特に動じることもなく目を閉じて頷いた。



「そうだな、異世界の人間ってのなら正解だ。勇者かと聞かれると否定はするけど。」


「・・・・・やっぱりそうかい。そんな危険な秘宝があるならあたいらが聞いたこともないのもおかしいし、あんたみたいな実力者の名を聞いたことないのもおかしいからねぇ。」



あー、確かに言われてみるとそうだな。

そんな危険な代物があれば魔王軍に麾下していた村の族長が知らないわけないだろうし、戦争中の相手である人族の実力者は目をつけられてるはずだ。

それなのに八ツ首を倒せるような人間が無名なのは違和感を感じるか。



「はぁー、なるほど、というか異世界はそんなに危険な物がゴロゴロしてんのかい。とんだ魔境さね。」


「まぁなぁ、実際所有者がいるだけマシだぞ。壊せないくせに勝手に地上を侵食していく物もあるし、突発的に大勢の行方不明者を出す道具だってあるからなー。」



そう考えると魔境と言えば魔境かもしれない。

寧ろこっちのほうが魔大陸とか限定的なぶんだいぶマシなんじゃないか?



「想像がつかなすぎて考える気が起きんね。・・・ふむ、確かに女神の加護も感じられんし勇者じゃないというのも本当だろう。だが、だとしたらあんたはどうやってこっちに来たんさ?」


「え? あーそれは、ミリアに呼ばれたからだな。」



そう言って顔をミリアに向けると指をいじって眠そうにしてるミリアが名前を出されてハッと顔を上げた。

ごめんね、報告だしミリアは知ってる事だから眠いよね。後で変な食料を振る舞ってあげるからね!


ミリアと俺は聞かれたし、隠すこともなかったので最初から説明した。ただ、俺が知らなかった所はミリアはあの街で居候をさせてもらっていたが、匿ってくれた人やお世話になった人がみんな殺され、決死の思いで女神様の洞窟に逃げ込んだらしい。

本来なら聖教会の司教クラスしか入れないのだがもはや司教すら殺されていたため咎められも、止められることもなかったようだ。


そこまで話していくとオババは顔を困惑に歪めていく。



「ま、待つのさ。洞窟に入った?聖教会が管理する召喚の洞窟には幾重にも結界が張られているはずさ。一般人でも教会の参拝者だって入れないさ。」


「え、でも普通に入れましたよ?」


「・・・ ま、まぁ良いさ。だが、そこにあった召喚陣を使ったというのは考えずらい。あれは教会が行う大規模な儀式で女神に呼びかけ、それに応えてもらい魔力を借りて召喚を行うものだったはずさ。・・・それを女神の呼応なくして召喚を行ったのというのさ?」


「・・・そんなに大変じゃなかったですよ?」



俺が召喚されたときケロッとしてましたもんね。

改めて言われると不自然にしか感じない。界渡りなんて一人の人間に行えるわけないし、いくら魔力が多いといっても神格存在が創り出した魔法陣を発動できるわけないはずだ。


よく考えるとコイツが一番意味わかんねぇな。

一人でできる(ミリア限定)だったわけか。


オババは思わず頭を抱え頭痛が痛そうにしている。



「・・・もう意味わからんさ。あんた人間かい? 頼むから違うと言ってくれよ。そのほうが納得できるさ。」


「人間ですね。別に記憶も失ってませんし、母の名前も知ってますよ? 生まれた土地も人間界ですしねー。」


「・・・・・・・・・・・・魔女だったり?」


「しないですよ。研究とかするの嫌いですもん。」



確かに勉強苦手そうだもんね(偏見)


・・・でも、今は孤児か、、、こいつも色々ありそうだな。



オババは諦めたように遠くを半目で見つめだす。

空虚な笑顔を浮かべてて面白い。



「もういいさ、別の話をしようか。」


「始めたのはお前だけどね。」


「質問して逆に謎が増えていくのは初めてさ。」



そこは諦めてください。

多分だけど俺もミリアもわからないから。


異世界から召喚された俺よりも謎が多いとか笑えるな。



「報酬の話なんだが。」


「え、その切り出し怖いんだけど無しとか認めねぇよ?」


「そんなことするかいさ。これをあんたらに渡したいと思っててさ。」



オババはそう言って懐から一枚の紙を取り出す。

初めて見る文字が書かれた契約書のような羅列に眉をしかめる。そのまま目で追うと読めないのに意味が理解できてきた。



「『・・・この者たちの身元を証明する』、、、えっとつまり?」


「ここ魔族領でも一部の街なら通貨の概念があるが、いまだに多くの土地では物々交換と鉱石による取引が主になる。この魔族領であたしらがあんたらに返せるお礼はこれくらいしか思いつかなかったさ。」



紙の端にはミスルル族の紋章なのか剣に水流渦巻く青い刻印がうっすらと魔力を帯びて淡く輝いている。

焔壷族にもらった石と違いこちらはちゃんと紙なんだな、、、あ、そうだ貰ってたわ。



「そういえば焔壷族から貰ったこれと同じ意味か?」


「ん?・・・あぁなんだい、もう貰ってたのか。やれやれ、先を越されてしまうとはねぇ。」



この頼み事が終わったら報酬と村を助けてもらった恩義として渡したいと思っていたらしい。

だったら先に渡しとけばよかったのにね。全く変にもったいぶるからぁ。



「だが、焔壷族(あいつら)には申し訳ないがあたいらの保証は効力が段違いさよ。」



オババは、こちらに前のめりになりながらあくどい笑みを浮かべる。


なんか失礼だなと思いながら俺達は話を聞く。



「ミスルルは長年魔王軍に在籍し、さらには八ツ首を輩出し数多くの魔族とも円満な関係を築いている。それだけにとどまらずレアメタルや作製した高機能魔導具等など功績も著しいとなれば、その効力の大きさは想像できるだろうさ。」


「いや、わかるけどそれこそ問題じゃないか? そんな1大一族が人間の身元を保証するって、、、下手したら叛意を疑われても仕方ないぞ。」



小さく知る者の少ない一族ならいざ知らず、それほど有名な一族なら多くの魔族達が保証のことを理解する。そうなればミスルルは人間を保証したというレッテルが貼られることになるわけだ。彼等にとってそれは逆風にしかならないだろう。



「これはあたいらが返せる最大限の感謝さ。確かに疑いと反感は受けるだろう。でもそんなことはいいのさ、後手に回らなければいくらでも対策などある。・・・それにあんたらが進む先は険しい道のりになるだろうさ。それを助けてもらったくせに黙って見過ごしたくない。」


「それでこれを俺に?」


「・・・まぁ、若干の下心がないとも言えないさね。見ず知らずの焔壷族とミスルルを助けてくれたお前さんは、いずれ大きなことをしでかしてくれそうな気がするのさ。」



・・・それは悪い方面ではなくて?


期待されても困る。

俺達はここ魔族領では異物でしかない。これから生きるのも、人間領に渡るのだって苦労するに決まってる。そんな人間が魔族領で大きなことを成せるなんて思いもしない。



「無駄だと思うぞ。おそらく魔王軍と敵対する。」


「くくく! 願ってもない、いい加減この馬鹿げた戦争に飽き飽きしてたところさ。あんたが魔王軍を倒したら次の魔王でも目指してみるさ。」


「ははっ! それはおもしれぇな、そん時は俺に堕落した生活でもさせてくれ。」


「かかか! そん時は大いに贅沢させてやるさ。」



二人してあくどい笑みと高笑いをあげながら握手する。希望があるかもわからない道のり、信じ、助け合える彼らの期待に応える気はないが相応しくはあろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ