喚ばれた剣聖ー15
「・・・も、もう無理です。」
山を登り始めて3時間。
早速ミリアが音を上げた。
でも気持ちはわかる。
足場は溶岩が固まった後なのか、足場が悪く歩きずらいのだ。少しでも足を取られて転べばちゃんと怪我するだろう。
「休憩するか?」
「・・・うん、無理しても仕方ない。後2時間くらいで着くから一度休んでも昼には村に辿り着く筈。」
振り返ってスイに問いかけると同意の意を示してくれる。彼女は普段の狩りと自主訓練で鍛えているためか体力的にはまだ余裕そう。
だが、限界まで消耗するのは悪手なので早めに休むことにした。
手頃な岩場に3人で腰をかける。
ボックスから水筒を取り出しミリアに投げ渡す。
彼女は無言で受け取り、静かに水を煽った。
・・・結構消耗が激しいな。
確かに高度は徐々に上がってきている。
気圧は下がり、空気は薄くなっているので体力の消耗は激しい。
それに、、、
「・・・寒い。」
俺はそっと腕をさする。
話から耐えられない熱気に当てられると覚悟していたのだが、山は登れば登るほど寒くなっていた。
「・・・。」
スイは無言で口に手を当てて考え込んでいる。
おそらく普段の様子とあまりに違う現状に疑問を感じているのだろう。
俺はそっと地面に落ちてる石を拾い上げる。
ざらっとした肌触りを感じるがそこまで固くないな、匂いは、、、少し油っぽい?
・・・もしこの周辺の石全部が油分含んでるとかゾッとする。そりゃ燃え尽きない山になる訳だ。
「・・・でもこれに火がついてた山が鎮火されてるのも不自然なんだよなー。」
消化なんて簡単にできるものじゃない。
ちょっとした雨程度じゃものともしないだろう、それこそ大霖雨期くらいじゃないとな。
「・・・この寒さ、焔壷族にとって辛いはず、、、。」
「そうなの?」
「・・・うん、彼らは常に火と共にある。火のない現状は彼らにとっては水のない砂漠と同じ。」
うーん、なんなんだろうね?
「ま、こんなところで悩んでも仕方ないし、もう少し休んだら進んでみるしかないだろ。」
「・・・うん。」
「と言う訳だけどミリア、そろそろ行けるか?」
視線を向けると涙目でプルプルと首を振るミリアさん。
でもこれ以上休んでも日が暮れちゃうしなー。
そんな事を思っているとミリアはそっと両手を差し出してくる。
・・・え、また?
「・・・お前、プライ「無理です」はええよ。」
食い気味に言われたので仕方なくミリアを背負い上げる。彼女は無言で背負われすぐに目を閉じた。
「「・・・。」」
無言で見つめ合う俺とスイ。
2人の間になんとも言えない空気が流れる。
「・・・えっと。」
「気にしないでくれ。」
なんで声をかけたらいいのか困惑しながらあたふたしているスイさん。
可愛いっすね。
「・・・だ、大丈夫なの?」
「・・・・・あぁ、大丈夫だから気にしないでくれ。」
背中から聞こえ始めた寝息を聞きながら俺たちは山を再び登り始めたのだった。
ーー
登れば登るほど寒くなっていく岩山。
すると、初めて人工物みたいな石造りの門が見えてきた。
「あれが焔壷族の村?」
「・・・そうだけど、様子がおかしい。・・・見張りもいないし、人の気配がない。」
確かに村の前に来たが、誰もいない。
おかしいなー、ミストレルは大歓迎(笑)だったのに。
「「・・・。」」
しーん。
門の前に2人(と背中で寝てる人1人)で立ち尽くす。
だって勝手に入ったら怒られそうなんだもん。
でも人気がないのにここで立ち尽くしてても意味がないし、、、入るしかないか。
・・・てことで無言侵入、出迎えがないんだし仕方ないよね?
いやー、異世界二つの目の村とかワクワクするね。
心を躍らせながら村を眺める。
うん、、、
「・・・岩しかねぇ。」
かまくらのようにつまれた岩に若干の生活感が感じられる。
入り口が閉まっていたりはしないので軽く覗くと、テーブルや椅子などが置いてあった。
・・・マジかよ、泥の次は石か。どうなってんの俺の異世界生活。
少し上がったテンションは思いっきり下降し、すでに帰りたくなっていた。
「・・・ファジー! ボグザ! 誰かいない!?」
村の真ん中に行ったスイは大きな声で呼びかける。
だが、その問いかけに反して村の住人からは応答がない。・・・寝てる?
「食料調達ですかね?」
「お前じゃないんだから村の全員が腹ペコな訳なくね?」
背中をつねられました、ありがとうございます。
全く、暴力にためらいがないんだから〜。
「・・・何してるの?」
いつの間にか戻ってきていたスイがイチャイチャしてる俺たちに首を傾げる。
「いんや、お前こそどうした? 誰か見つけられたか?」
俺がそう問うと彼女は顔を曇らせた。
その様子を見るに誰も見つけられなかったのかな。
「・・・村に誰もいない。今までこんなことなかった。」
「じゃあ何かあったってことだね。よかったじゃん、嫌われた訳じゃなくて。」
「・・・それはそうだけど別問題で良くはない。」
そうだね。
環境は確かに異常だ、ずっと燃え盛っていたと言う山がすっかり眠り、今では冷気が漂っている。
「・・・・・別に石はそこら辺に落ちてるんだし拾って帰りゃあ良くない?」
「・・・そんなことできない。彼等には恩もあるし、見捨てられない。」
頭の後ろをかきながらミリアに視線を向ける。
ミリアはこちらを見つめて静かに頷く。
「私もこの状況が異常であると理解できます。助けられるなら助けたいです。」
・・・どいつも正義感が強いことで。
俺は静かに山の山頂を見つめる。
漏れ出る冷気は山頂から発せられていた、、、。
いやな感覚だ、環境を無理やり変えられている。
「・・・だ、誰かいるのか?」
遠くから掠れるような声が聞こえる。そちらに視線を向けるとフラフラとした足取りで1人の男性が倒れ込んだ。
「・・・! ファジー!」
その彼に向かってスイが走り出す。
男は半裸で腰に布を一枚巻いているのみ、傍目から見たら不審者だな。
「よし、行ってこいミリア、救助者だぞ。」
「取り敢えず様子を見ましょう。」
冷静に返されて少し笑う。
まぁ、状況がわからないしね。
こんなに遠くにいても仕方ないし、もう少し近づきますか。
・・・あと、お前いつまで背負われてるの? いい加減降りろや。
「・・・ファジー、何があったの? みんなは?」
「う、うん? あぁ、、、スイ、、か、、、。」
男は人型ではあったが、人とは似ても似つかない特徴があった。
浅黒い肌に黒い紋様があり、鋭い犬歯が口から覗く。
何より特徴的なのは頭。
本来髪の毛がある場所には大きな穴が開き、脳がある場所は空洞。
まるで壺のような形状をしていた。
・・・なるほど、だから焔壷族ね。
「・・・わ、わからない、、、この村を急な冷気が包み、、、皆、、、火山下の洞窟に潜った、、、俺はなんとか、、、状況を変えようと、、、、、山の山頂に向かったが、、、力が沸かず、、、。」
「・・・そんな、焔壷族にとって火のない土地は辛いはず、1人で登るなんて無茶。」
へぇー、そうなんだ。
確かに寒いけど、まだこの位置なら耐えられるくらいだと思ったけどこいつらにとっては辛いのかな?
ミリアは2人を眺めている。
「た、大量の燃焼石を持って山を登っていたんだが、、、途中で転んで落としてしまった、、、おかげでもう火をつけることが叶わず、、、さ、寒すぎ!!」
「・・・う、うん、そうなんだ。」
ただの凡ミスじゃねぇか、スイもどう反応を返せばいいか困っている。
「なるほど、つまり私の出番はなさそうですね。」
そう言ってミリアは俺の背中に顔を埋めた。
まぁ、怪我とかじゃないから直す必要とかはないね。にしても、こいつ興味なさすぎじゃない?
「・・・た、頼む、、、や、山の山頂に行って、、、この寒さの原因を、、、突き止めてくれ!」
最後の力を振り絞ってファジーはスイに頼み込んだ、そこを俺がインターセプト。
「悪いけど、知ったことじゃない。むしろ俺たちにとっては山の火がないのは助かるしな、ミスルルにとっても好都合だろう。」
「・・・な、何を!?」
スイが叫びを上げる。
その目には最初にあった時の冷たさと憤りが感じられた。
「・・・あのなぁ、山に火がなければ村の奴らを定期的に送れば石だけはとってこれる。これはこいつらの問題であって俺らは関係ないだろ。」
「・・・見捨てろって言うの?」
「関わるべきじゃないって話。こいつに火をつけた石を渡せばいい話だろ。・・・正直、この事態は関わるべきじゃない。」
そっと手に持った石を眺める。
これは寒さで火がつかないんじゃない、止まってるんだ。
「・・・私は1人でも登る。この村には助けてもらったこともあるから、、、来ないなら好きにして。」
スイはそう言ってこちらに背を向けて山頂に向かってしまった。
その背を俺はため息を吐きながら見つめる。
「冷たいですね。まるでこの山のようです。」
「・・・何も上手くねぇからな?」
ミリアが俺の肩に顎を乗せて呟く、目には若干の呆れがあるが、安堵も見え隠れしていた。
「・・・お前はついてってもいいんだぞ?」
「・・・・・・・んー、仕方ないですね。では私は先に行きます。後から来てくださいねー。」
ミリアはそう言って背中から降りてスイの後に続いた。
まるで俺が必ずついてきてくれる期待を抱いて、、、。
んな訳ねぇぞ? 俺は善人なんかじゃ決してない。
後味は悪いが、先に山を降りさせてもらう。
「・・・ま、待ってくれ、、!!」
踵を返そうとすると、背後から声がかけられる。
俺はそいつに眠たげな半目を向けた。
「・・・悪いが俺にはお前を助ける義理はねぇぞ?」
「お、俺のことはいい! わ、わかってるんだ!・・・この事態はおかしすぎる、、、山の山頂に危険が潜んでいること、、、くらい!」
「ならわかるだろ、ちょっとした義理すらない俺はこの山に興味がない。・・・まぁ、帰りに石くらいはもらって行くけどな。」
流石に罪悪感があるしな、そのくらいはしてやろう。
そう思って歩き出すと、ズキッと右手が痛む。
俺は首を傾げながら、右手の甲を見た。
「・・・あ。」
赤黒い紋章が浮かびズキズキとした痛みが徐々に強くなっていた、、、これは。
俺は背を向けてスイを追いかけたバカを思い浮かべる。
『後から来てくださいねー。』
「・・・あぁ!? そ、そうだった!」
あいつ、俺との契約を利用しやがったな!?
俺の何がわかるんだこいつって馬鹿にしてたけどそういえばそうだったわ!
・・・痛みは今も強くなる一方でこのままじゃまずい。
「・・・くそがぁーー!!」
俺は山に向かって全力で走り出すのだった。
ーー
失望と怒りを胸に覚えながら私は山を登った。
今も冷気は強くなり続け、普段から寒気に強い私達でも凍えるほどになっている。
「・・・大丈夫。登り切れば何かしらの解決策はある、、、はず。」
彼は私達とスイナを助けてくれた。
確かに彼にこの村を助ける義理はない。・・・でもどこか期待していた。
彼ならまた助けてくれるのではないか、、、あの人の様に。
でも思い違いだった、やはり人は人で私達とは相容れない。
若干の悔しさが覗く中、私はようやく山頂へと辿り着く。
するとそこには、異様な光景が広がっていた。
「・・・なに、これ?」
凍りついた火口。
氷の純度が高いのか氷は透けて下の様子がよく見える。
ぐつぐつと煮えたぎる溶岩が決して溶けない氷に覆われていた。
そして、火口の真ん中には一本の剣が刺さっている。
真っ白なレイピア、流れる水の様な装飾がなされ、氷の中で優雅に映える。
「・・・あれが元凶?」
レイピアからは白い冷気が発せられ、強い存在感を放っていた。
「・・・あれを引き抜けば。」
あれが原因で間違えない。
意を決して火口に飛び込む、分厚い氷に着地してゆっくりと剣に向かう。
「・・・さ、寒い。」
冷気が刺さる様だ。
服の表面は凍り、体も冷たく冷えて固まってくる。
あそこまで辿り着けるのだろうか?
「え、さっぶ!!」
遠くから声が聞こえた気がした。
だが、もうすでに体の感覚は少なく、気にする余裕はない。
後、もう少し、もう少しで辿り着く。
そっと剣に手を伸ばす、それを大きな影が覆った。
【グォオロロロロロロロロロロ!!】
「・・・・・な、何?」
寒気で反応が遅れる。
ゆっくりと頭を向けるとそこには真っ白な大蛇の様な生物。
こんな場所に存在するはずのないAクラスの魔物、『フリュトーガ』。
硬い外骨格を持ち、表面に生えた棘は剣の様に鋭い。
正直普段の状態でも相手にはできない強敵だ、今の状態では相手にもならないだろう。
「・・・ごめん、スイナ。」
痛感するのは自分の力のなさ。
村も守れず、剣を抜くことすらできない。ここで死ぬとは一体今まで何をしていたのだろう。
ーージャリリリリリッ!
岩が擦れる様な音と共に口が開かれ、かぶりつかれる。
目を瞑って死を覚悟したが、、、それはふりおちない。
「・・・え?」
「おやおや、『冷明の剣』を回収に来ただけなのに蛇がいるとは。」
そこには知らない人が立っていた。
黒い法衣に丸メガネ、長い金髪で片手に本を持っている。
男は寒さを感じないのか、体は一つも凍っておらず、白い息すら吐いていない。
そして男の前に存在するフリュトーガは謎の黒い鎖に拘束されて動けずにいた。
【グァロロロ!?】
「蛇如きが吠えないでください、耳障りです。」
片手をそっと払う、それだけで蛇の首は両断され氷に落とされた。
衝撃に目を見開く、一撃、あの硬い鱗をものともしなかった。
「さて、目障りはもう一体いますね。」
「・・・え?」
男はそのまま振り向いてこちらに手を向けた。
その手には恐ろしいほどの殺意が感じられ、冷気よりも刺さる冷酷さが芯に届く。
「・・・愚かですね、『冷明』に無策で近づくとは、そのまま放置すればどうせ死にますが、ゴミを視界に留め続けるのは気分が悪い。」
男の手に魔法陣が展開され輝く。
「・・・さようなら。」
「『光剛天鎖』!」
魔法が発動される直前に体を薄く輝く鎖によって引き込まれる。
冷気を発する剣と男との距離が遠のき、そのまま暖かな人肌に包まれた。
「・・・・・ミリ、、ア?」
「だ、大丈夫ですか!? ひどい霜焼け、す、すぐに治、、、ひ、ひぃッ!!」
ーーバキンッ!
遠方から氷の刃が飛来する。
それを一瞬で張り巡らされた障壁が遮った。
「・・・へぇ、光展障壁を無詠唱か。」
男は余裕の態度を崩さず面白そうにしている。
その様子を見てると、私は私を包む両腕が震えてることに気がついた。
「ど、どうしてあなたがここにいるのですか『狂った勇者 フロート・ベンギッシュ』!」
その目には今まで見たことがないほどの恐怖と怒りが宿っていた、




