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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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12/72

喚ばれた剣聖ー12


目の前の人間が纏う空気が一変する。



その光景に思わずギュリカ・ライロットは息を呑んだ。



今まで何度も人間を殺してきた。

その際にこの力を使うことなどなく、発動したことがあるのも一度だけ。


まさか人間相手に発動するなんて思わなかった。


この人間は俺以上の技量を持ち、俺に致命傷を負わせた。

なので奥の手を切ったのだが、まさかこいつにもあるというのか?



「・・・やけにでもなったか?」



そんなわけない、それでも俺は確認するように口に出した。

この表情はよく知ってる。起死回生の一手を持つ者の目だ。



「クハハハハッ! ヤケ? んなもんとっくの昔からなってるっつうの!・・・今は違う、覚悟ができたんだよ。」


「覚悟?」


「あぁ、そうだ。思い出したくもない嫌な過去を思い出す覚悟をな!!」



すると、人間の体から不気味な風が溢れ出す。

まるで魂の芯から冷え切るような不気味な風。


それが人間の足元に集まり、渦とかす。


そして人間は腕を前方に構えた。



「・・・その力は天能か?」


「んな与えられた物と一緒にすんな。これは俺が、、、いや、俺達が至った力だ。」



言葉と共に人間の手に純白の柄が現れる。

そしてそれをゆっくりと引いていくと、徐々に白銀の刀身が姿を現した。



一言で言えば、その剣はとても美しい。



豪華でも地味でもない細かな意匠が刻まれた白銀の剣。

片手剣というよりは少し長く、両手剣ほどではない。


だが、とてつもない存在感を放っていた。



・・・まさか、()()()()()()



俺は思わず後ずさった。

その事実に驚く。



・・・この俺が恐怖しているのか?



その事実にゾクリと背筋が震え、口元に笑みを浮かべた。

本当に久しぶりだ、この感覚。



「・・・魔王軍 幹部 金の首 ギュリカ・ライロット。そう言えば自己紹介してなかったな。」


「・・・何?」



人間の名前などいままで聞いたところですぐに動かなくなったので覚える気はなかったが、今回は自然と耳を傾けてしまう。



「・・・七剣が1人 『剣聖』 八九楽 律兎。お前を斬る、男の名だ。」



律兎はそう不敵に言い放ったのだった。




ーー




この剣を持ち出すのも久しぶりだな。



・・・正直この剣にはいい思い出がないので出したくはなかったが、もうとやかく言ってられない。



「律兎。・・・なるほど、覚えておこう。」


「そりゃよかった。お前はすぐに忘れることになるがな。」



この剣を抜いたからには負けられない。

俺の命だけじゃない。負ければ七剣の名を汚すということだ。そんなことになればあの人に顔向けできなくなる。


そんなの死んでも嫌だ。



「・・・いくぞ。」


「・・・あぁ。」



3本爪の剣が光ったと思えば次の瞬間には俺の喉元に迫る。

なるほど。これがこの剣の能力か、、、。


でも、もう壊されることなんてないけどな。


喉元に迫る刃より速く手元の剣を動かし、受け止める。

鍔迫り合いのようになると、もう片腕の真紅の刃が振るわれた。



そりゃそうくるだろう。予想通りだ。



そのまま弾かれるように真紅の刀身を叩き、地面に当たるように誘導。

地面に当たった瞬間に爆発するが、その時点で俺は遠くに飛び退っていた。


足に力を込めて踏み出し、白銀の剣を振り下ろす!


ギュリカには2本の剣で受け止められるが、決して逸らさせやしない。



「ーーっぐ!?」



ーーギリギリギリッ!


肉の軋む音と共に相手に膝をつかせた。

しかし、こちらも満身創痍なので傷口が開き血が吹き出す。


だが、そんなもの知ったことかと抑え続ける。



「ーーッ! ナイタンス! テンペラー!」



叫びと共に2本の剣が扉に戻り、新たに別の剣がギュリカの手元に引き寄せられる。


漆黒の剣と緑色の水晶剣が次に握られ、握られた瞬間に爆発するような突風が生みだされ、俺は後方に吹き飛ばされた。



「ーーっち! あいつみたいにはいかねぇな!!」



吹っ飛びながらも前を見据える。

相手は漆黒の剣を地面に突き刺した。


真っ黒な影が一気に広がって俺とギュリカを包み込む。



「・・・なんだ、これ?」


「クハハハハッ!! 終わりだ、律兎。 このナイタンスは闇の中を力場で押し潰す! 逃げることなんてできない!」



闇の中心が歪んでいき、引き寄せられるように潰されていく。

ギュリカは気付いたら闇の中におらず、まさしく絶体絶命。


だが、俺は目を瞑り自分の意識に集中した。



「・・・逃げやしねぇよ。」




ーー




ナイタンスを持った剣士は能力の影響を受けることはない。

平然と逃げ出し、周囲の面々を見つめる。



「終わりだ。・・・お前らの希望は潰えた。」



そう宣言すると周りの連中は明らかに絶望に顔色を暗くする。

しかし、人間の女だけは泣きそうでありながらこちらを睨んでいた。



ギュリンッ!



握りつぶされるかのような音と共に闇が消滅する。

あとは後処理だと前を見据えると、目の前にいる女の目が見開かれた。


それはこちらを見ておらず、後ろに向かれている。



それに気づき、視線を追って振り返ると、そこには潰された筈の律兎が何も変わらない状態で立っていた。



「貴様! どうやって!」


「・・・・ふー、危ねぇ。」



律兎は汗を流しながらも、ゆっくりと息を吐いて前を見据える。


ギュリカは腕を跳ね上げるように構えて叫んだ。



「ッチ! ボウル!」



ギュリカに握られた2本の剣は再び扉に戻り、今度は一振りの大剣が握られる。

握りしめられると先端に大きな鉄球が現れ、ギュリカはそれをそのまま振り下ろす。



「潰れろ!」



だが、振り下ろされる鉄球を律兎は避けることもせずに潰された。



「律兎さん!!」



悲痛な叫び声があたりに響く。

勝利を確信し、ギュリカは兜の中でほくそ笑んだ。


そこで予想外の出来事が起こった。



「なんだと?」



潰したと思った剣を元に戻すと、そこには無傷で目を瞑って立つ律兎が変わらない様子でそこにいた。



「・・・どういう事だ?」


「俺が至った剣は『不可侵不可避』。攻撃を受けることもなければ避けることもできない必殺の剣だ。」



・・・剣聖は言った。


『ーー攻撃なんて当たらなければ一つも怖くない。それに剣は遮るものがなければ当てられる。』



剣聖は、白銀の剣を持った青年で。

卓越した剣技と全てを学び取り入れる応用力に優れた天才である。



彼に攻撃は当たることはなく。彼の攻撃からは逃げることはできない。



彼の剣『厄羅』は伝説と呼ばれた白霊龍《厄羅》の骨から作られた剣である。

その剣は折れず、欠けず、切れ味が落ちることはない。


そしてその剣は霊子で構成されていた。


厄羅は霊界の龍である。

霊界と現界を行き来する存在であり、実体のある攻撃は霊界の龍に届くことはない。


霊剣 厄羅 にもその能力が付与されていた。


しかし、霊界に渡るという行為は自殺行為で一度は踏み入ってしまえば戻ることはできない。・・・厄羅以外では。


だが律兎は自分の存在を薄め、霊界と現界の狭間で揺れ動く術を習得した。一歩間違えて完全に踏み込んで仕舞えば2度と戻れない危険な技。



霊界に現界の攻撃が届くことあらず。


現界に霊界の攻撃が届くことあらず。



だからこそ狭間で動く。



律兎は目を見開いて剣を横一閃に振り抜いた。

その軌跡は剣の間合いより遥かに長く伸び続け、ミリアとスイと円柱の柱すら巻き込んで伸びていく。



だが、斬られることはない。



斬る必要のない時、剣は霊界にあり、そして、斬るべきものの時だけ剣は現界へと現れる。


それは鎧すらすり抜け、中の肉体のみを斬り去った。






名を《幻渡り》。



律兎が編み出し、律兎が剣聖となった『至剣』。






ギュリカは膝をついて地面へと崩れ落ち、同時に背後の扉も空間の切れ目へと消えた。

鎧は何も変化していないのでただ倒れたかのように思うが、胴に穴が空いた時とは違い地面には血がゆっくりと広がっていく。

それは完全なる死を意味していた。



それを最後まで確認した後、俺は目を閉じて手を振るいながら霊剣を消す。



「・・・俺の、勝ち、、だ、、、。」



そのまま踏み出そうとすると、俺は血を吐きながら地面に膝をついてしまう。

手を見ると、視界はグラグラ揺れて焦点が合わない。

汗が止まらず、体は冷え切って傷がジクジクと痛んだ。


律兎は身体を支える力もなくなり倒れ込んでしまう。


遠くではミリアがこちらに走り寄ってくるのが見えるが、もう目を開けてることもできずにそのまま目を閉じるのだった。




ーー




・・・・・。

・・・・。

・・・。



だるい。


体が重く、頭はズキズキと痛み吐きそうだ。

でも、これだけ辛いってことはまだ死んではいないのかな?


正直このまま寝ていたかったが今がどんな状況なのか気になった。

俺は痛む体に耐えながら重い瞼を開ける。



「・・・あーー、知らない天井だ。」



うん、マジで知らないよ。

病院の天井は何回も見たことあるから見知った天井だけど、ここは綺麗に磨かれた石の天井だからね。

白っちゃ白だから既視感がないわけでもないけど落ち着かないな(病院で落ち着いたことないけど)。


なんとか上体を起こして隣に視線を向けると隣で口を半開きにしながら座ってるミリアがいた。


何そのアホ面、笑う。



「り、律兎さん。大丈夫なんですか?」


「大丈夫に見えるなら寝た方がいいよ。」



ざっと自分の状態を確認したけど包帯でぐるぐる巻きだからね?

これで大丈夫なんて言うのは強がりだから。



「・・・良かった〜〜。」



ミリアは俺が平然と返事を返したことに安心してそのままベットの端に突っ伏した。

その安心しきった様子に俺は目をパチクリさせる。



「感情移入しすぎじゃない? 俺が死ねば契約も無くなるんだし自由だよ?」


「・・・・・今の発言結構ショックですよ? 確かに時間は短いかも知れませんが情くらい湧きます。それにその理論で言ったらスイナちゃんの方が短いですしね。」



あー、確かに。

でも人に心配してもらえるなんて久しぶりだな。剣聖になってからは強かったのはどちらかと言うと俺の方だし単独任務が多かったからね。


結構嬉しいもんだな。



「ほんとーに心配したんですよ。律兎さんに治癒魔法使ったのに効果がなくて焦りました。・・・なんですかあれ?」


「あー、そう言う体質なんだよ。」



すっかり忘れてた。


俺は厄羅の呪いがかかっている。


厄羅にはどんな加護や呪いも効かず、魔法も効果がない。

そしてそれは不可思議な力だけでなく、単純な風邪や毒とかも聞くことはないのだ。


要は普通の人間だね。



「・・・そうなのですね。初めての経験でしたのですごい怖かったです。」



・・・そっか。この世界では魔法による治療が主になっているのかも知れない。だとすれば魔法が効かないと治療ができず、対処の仕方がわからない可能性も高いのか。


なら、俺はこの世界で怪我するリスクは結構高いな。

割と現世より警戒して動いた方がよさそうだ。



「悪い、心配かけた。・・・看病してくれてたのか?」


「はい、医療の知識があるのは私だけでしたから。ミストレルでも治療は主に魔法が主体らしく、簡単な止血や応急処置しか出来ないらしいので。。」



マジか。

てか、魔法って相当優秀だな。



「魔法って病気とかも治せるのか?」


「治せます。でも難病であればあるほど高難度の魔法が要求されるので、病気などは大都市の教会でないと治せないことも多いですね。」



そう言うことか。

ミリアがスイナに使った外傷を治すくらいならそこまで難しくないらしい。ただし内部の治療や病気は専門知識なども必要で使えるものが少ないのか。



「・・・教会しか治せないかーー。大分権力ありそうだな。」


「まぁ、国の中枢に踏み込めるくらいですからね。」



この世界の教会ってまともなのかな?

漫画とかだとよく司祭様が悪者だったりするけど、、、。


今は魔族領にいるから関係ないけどね。



「それよりも今ってどんな状況か分かる? ってかどんくらい寝てた?」



俺が聞くと、ミリアは顎に指を当てて、考え始める。



「んー、ざっと5時間くらいですか?」


「あれ? あんまり時間経ってないんだな。」



てっきり1日、2日くらい経過してるもんだと思ってた。

どーりで傷の痛みが全く引いてないわけだ。


そんなことを考えているとミリアは立ち上がって入り口に向かった。



「では私は皆さんを呼んできますね。そうすれば状況もわかりますよ。・・・皆さん心配されていましたので。」



そう言って微笑みながら出ていく。

何その笑顔。


誰もいなくなってしまったのでぬぼーっと外を眺めていると廊下側からドタドタと何かが近づいてくる気配がした。



・・・うん、1人しか心当たりないね。



ガラッ



「お兄ちゃん!!」


「おはよー、スイ、、、ッナ!!??」



普通に迎えようとしたら思いっきり抱きつかれる。

ぬぼーっとしていたため俺は対応が遅れ、しっかりと首をホールド。

突然抱きつかれた衝撃で全身の傷が痛みに痛んで目から涙が出てきた。



「・・・よかっだ、! お兄ちゃん、、、死んじゃったかと、、、!」


「お、おう。生きてるから頼む退いてくれ。じゃなきゃ傷が開いて死ぬ。」



必死に気絶しないように耐えていると、空いてる扉からぞくぞく見知った顔が入ってくる。


オババにスイ、ミリアと、、、トイスだっけ?


そしてこの現状を見たスイが慌ててスイナを引き剥がしてくれた。

でもその際の衝撃も辛い、、、もっと優しくしてくれ。



「・・・すごい生命力。目覚めると思わなかった。」


「いや、あきらめんの早くね? もう少し希望を持とうよ。」


「そう言われるほど傷が酷かったってことさ。」



オババはため息を吐きながら近くの椅子に腰掛けた。



・・・まじ?


いやー、そんなにギリギリだとは思ってなかったなー。

少し攻撃受けすぎたか。



「・・・・・まさか、魔王軍幹部を倒すとはさ。強いだろうとは最初から思っていたけど、予想以上だったってことかい。あたいらは随分とギリギリの橋を渡っていたみたいさね。」


「別にそっちから何かしてこない限りは何もしないよ。暴君じゃないし。」



現に今も何もしてないでしょ?

できないが正しいんだけどね。



「正直迷ってるよ。もう魔王軍麾下には戻れないだろうからさ。お前さんを差し出せばなんとかなるやも知れないけどね。」


「・・・へぇー、やってみる?」



意地の悪い顔でそう言われたのでこちらも意地の悪い笑みでそう返す。

うん、ぶっちゃけ無理だけどね。だって全身痛いし体も重い。勝てる気が一ミリもしないよw



「カカッ! 冗談さね、村の英雄に対してそんなことはしないさ。まぁ魔王軍はどうにかするさ。当てはある。」



え、どうにかできるの? なら最初からやってくれよ頼むから。



・・・ん? てか英雄ってなに?



俺は周りを見渡す。

スイはいつもと変わらず無表情、ミリアには顔を背けられ、スイナは超いい笑顔だ。後トイスの野郎はなんだあの顔、まるで有名人にあったみたいな顔してんな。



「何、英雄って?」


「あたい達では勝てない敵に対して傷だらけになりながら戦い、そして勝ちを手にして村を守った。それを英雄と言わずなん言うのさ。」



俺は錆びた人形のようにミリアの方を向く。

彼女は気まずそうににこりと笑う。



「かっこいいですね!!」


「いやいや! 誰が英雄だ! 俺は勇者でも英雄でもない!」



そんな肩書きいらねぇから。

俺は細々と、、、いや無理か、だって魔王軍幹部倒してるんだもん。


あれ? 俺ってこれで魔王軍と完全に敵対した? これから魔族領を旅して行くって言うのに絶望的じゃない?



「そんなことありませんよ!! 私めも上から八九楽殿の勇姿を見させていただきましたが、まさに歴戦の英雄と言った様相でした!!」



おう、誰だこの熱い青髪野郎。

こんな奴しらねぇぞ。


トイスは拳を握りながら力説している。

俺はそれに極めて冷めた視線を送ってやった。



「貴方様はまさしく、ミストレルの英雄です!!」


「やめろ! 誰だテメェ!? おいスイ! 俺に嫌悪の視線を向けてたトイスはどこ行った!? 是非とも呼び戻してくれ頼む!」


「・・・大丈夫、私も驚いてるから。」


「・・・あまり物事に興味を示さないトイスがここまで熱くなってるのは初めて見たさね。」



いや、いらないからそんな新情報。興味もなけりゃあ関心もないよ。

ただただめんどくさいだけだから。



「ま、全員が全員こんなふうに見方が変わったと言うわけじゃあないが、一部の住人の考えが変わったのは本当さね。」


「・・・そんな簡単に変わるものか? 価値観や考えなんて変えたくないもんだろ。」


「それだけ衝撃があったってことさ。あんたがどう感じてるかは知らないが、八ツ首はあたい達にとって力の象徴なんさよ。」



確かに強かったね。

こっちにきてから初めてヒリヒリしたな。

まさか厄羅を抜くことになるとは思わなかったもん。


自然と自分の手の平を見つめる。

今は何も握られてはいないが、決して拭えない感覚。

持ちやすく、軽く、そしてとても冷たい。


ーーズキッ!


頭が痛む。


傷での痛みではなく、刻まれた決して治らない傷。



「・・・律兎さん?」


「ん?」


「いえ、なんだか辛そうでしたから。」



あまり表情に出したつもりはなかったのだがミリアには見抜かれてしまった。よく見てるもんだな。


俺は思考を切り替えるために頭を振った。



「・・・それで? 今はどんな状況なんだ?」



切り替えるように状況を一番知っているだろうオババに問いかける。

オババは椅子に座り直し、足を組む。



・・・くそ、寝転んどけば良かった。


そっと体勢を変えればバレないかな?



「・・・・・律兎さん?」



ミリアさんからさっきの心配する声音と違って超冷たい。

やべぇ、ギュリカよりこええ。



「結構村を壊しちゃったしみんな出ててけって言ってない?」



冷たい半目で見られたので気付いてないように無視した。

嫌だなー、傷が痛むから寝ようとしただけなのにー。



「村は確かに壊れたが被害はそこまで大きくない。修復にはそこまで時間はかからないだろうさ。勝手に魔王軍と連絡を取っていた狩人は狩人の役目を解き、しばらくはキツめの仕事をさせることにしたよ。・・・それで許してくれるかい?」


「別に構わないけど、流石に今回は借りなしってわけにはいかないな。約束を破ったのはそっちだから。」


「もちろんさ、何を求める?」



オババは目を瞑って俺の返答を待つ。


んー、やべぇ何も考えてなかったな。



「豪華なご飯でいいや。」


「・・・・・どっかの誰かさんも同じこと言ってたさね。」



そう言ってオババは呆れたため息を吐きながらミリアを見た。

見られたミリアはそっと視線を逸らす。


相変わらず食い気がすごいですね。

ま、今回は俺も人のことは言えないけどさ。



「まったくあんたらは、、、もっとがめつく生きないとやっていけないんじゃないのさ?」


「何言ってんの。食事は三代欲求の一つだからな、俺ら2人がここまで望んだなら相当豪華な食事を用意してくれないと釣りあわねぇぞ?」



ニヤリと笑みを深くしながらそう言った。

俺のそんな意地の悪い笑みにオババはため息を吐きながらも笑みで返した。



「わかったさ、せいぜい立派なご馳走を用意してやろうじゃないさ。今夜は宴会さね。夜までゆっくり休むといいさ。」



やった。

正直もうギリギリなんだよね。


でも後一個だけスッキリさせたい。これがわからないと不安で休めないからな。



「ちなみにギュリカは? 死体をどうにかしないと次に魔王軍が訪問してきたときまずいことになるんじゃないか?」



そう周りを見ながら聞くと全員が顔を曇らせて黙り込んだ。

俺はそれを見て嫌な予感が頭をよぎる。

確かに俺はあの後すぐさま気絶してしまった。腹に穴が空いていても生きていた魔族だ。切断くらいじゃ死んでなかったのかもしれない。


固唾を飲んで次の言葉を待っているとオババが口を開く。



「・・・・・消えた。あたいらも死んだと思っていたがしばらくたつと奴の体は光に包まれ、後には折れた剣のみが残ったのさ。」


「まじか、、、あんなに頑張ったのに。」



あの死闘が何の意味もなかったと知り、思わず後ろの枕に力を抜いて深く背中を預ける。



「無意味だったわけじゃないさ。あの剣には見覚えがある。確か『写し身の剣』といって一度だけ所有者の命を代替わりしてくれる剣さ。」


「え、何それずるじゃん。じゃあ、あいつ初めから保険かけてやがったのかよ。」



まったく、美学ってもんがないね。

こんなことなら最初に背中を貫いてやれば良かったよ。うん。



「ただあの剣は相当希少だった筈さ、二本と見つかるとは思えん。命を減らせたと考えれば無駄なんかじゃないさ。」


「ポジティブな感想をありがとうよ。」



確かにそうとも考えれるけどさーー。

あの一度で終わらせられてれば2度と戦うことはなかったわけで、今度は手の内も知られてより不利な戦いになることは間違いない。



・・・一回殺された相手を許してくれたりしないよね。



俺は遠い顔をしながら窓の差を眺めるのだった。







ーー???ーー






「クックックッ!」



蝋燭の光のみで照らされた薄暗い廊下を漆黒の鎧が笑いながら歩く。

両脇にはまばらではあるがメイド服に身を包んだ様ざまな魔族がおり、こちらに頭を下げる。



ギュリカ・ライロットはとても上機嫌であった。



ここ最近はつまらない隠密行動で天能を使うどころか剣を抜くことさえなかった。

戦場へと向かいただ指揮を取るだけ。

それがただただ退屈で苦痛だった。


だがある日、ただただつまらない日々に違和感が訪れる。


初めは初代勇者が召喚された祠を壊すように派遣した兵が帰ってこなかったことから始まる。

次に後追いで兵を送ったが、それらも全て返り討ちにされた。

久しぶりに予定通りいかず、心が奮い立つが、指揮官という肩書きが邪魔をする。


追うこともできずに任務を全うし、魔王城への帰路へと着いていたところ。ミスルル族の住人から魔王軍へと連絡が入った。



『人が村にいる』、、、と。



そこでギュリカは考えた。

確か、追っ手を殺された方向と森を抜けた先を考えればミストレルがある。そこに人間の生き残りがたどり着く可能性は高いだろう、と。


ちょうどいい、ミストレルは八ツ首を排出した村でもある。もし上手くやれれば村ごと取り上げられそうだな。歯向かうなら適当に女子供を殺してやればいいだろう。


そう考えたギュリカはすぐさま村へと向かい、そこで好敵手と相対した。



「・・・あそこまで血が湧き立ったのは久しぶりだ。本来ならあそこで死ぬべきではあったが、大分前に回収したものが要らぬことをした。」



殺し合いは相手を殺すまで続く。

本来命は一つ、それを身一つで渡り合うから面白いというのに、、、。



「ふむ。だが、もう一度死合えるとなると僥倖か。そう考えると楽しみができたと考えても良いな。」



そう呟いて廊下で押し殺した笑みを浮かべながら1人歩く。

すると、廊下の影から声をかけられた。



「随分と楽しそうだな。面白い話なら私にも聞かせてくれ。」


「・・・それは命令か? 命令なら話そう。だが、違うなら断ろう。恥をばら撒く気はないのでな。」


「ふふっ、鼻歌混じりで歩いていたくせによく言うものだ。」



その者の背丈は決して高くなく、ギュリカの胸元までしかなかった。

しかし、そんなことは些細であるかのような恐ろしい威圧感を放っている。それに耐えられるのは強き心の持ち主のみであろう。


姿は影に包まれ、決して判別できない『魔王』は真っ直ぐにギュリカを見つめる。その口に笑みを浮かべながら。



「まさか私が選出した八ツ首が人間に遅れをとるとはね。見込み違いだったかな?」


「クックックッ。力不足で追放してもいいぞ。そしたら気兼ねなく律兎を殺しに行ける。」


「・・・・・ふむ、律兎、、、ね。聞いたことのない名だ。君がそこまで気に入ってる人間には興味があるな。」



ーージャキンッ!



魔王が発言した瞬間に、ギュリカはすでに剣を抜いて首元に近づけていた。後少しでも横にずらせば首は切り落とされるだろう。



「あの男は俺の獲物だ。邪魔立てするなら貴様を殺す。」



魔王は首元にある剣を一瞥し、興味がなさそうに息を吐いた。



「うーん、君では相手にならないだろう。」


「考えはあるのでな。」



お互いに視線をぶつけ合い、しばらくの間、廊下を凄まじい威圧感が押し潰した。周りにいたメイドたちは何人かが気絶し、何人かはすでにこの場から立ち去っている。


そして、魔王は左手を挙げて、、、



「やめようか。ならその男の相手は君に任せるよ。二度と負けないようにな。」



めんどくさくなったと言わんばかりにため息を吐いて頭を振るった。



「・・・無論だ、次は俺が殺す。」


「是非とも頼むよ。こちらはこちらで大変だからね。」



それだけ言い残して魔王は影となって闇に消えていく。

後にはギュリカのみが残った。

彼は無言で剣をしまい、そのまま暗い廊下を歩き出す。


顔に浮かべた笑みは、より深くなっていた。


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