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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー10


ーーミストレルーー



・・・はぁ。どうしてこんな面倒ごとばっか起こるさね。



朝日が昇り、徐々に明るく染まっていく山々を眺めながら『オルババ・ロス・ミスルル』はため息をつく。


この村は裕福でも、生活水準が高いとも決して言えなかったが、平和な村として細々と長らえてきていたつもりであった。


だが、近頃小さな子供が相次ぎ行方不明となる事件が発生していた。

そのため村の狩人達を使い捜索を行わせていたのだが、成果を結ぶことはできず、ついにはあたいが狩猟番に任命した、狩人部隊隊長の妹まで誘拐されてしまう。


狩猟番の妹には姉がつきっきりであった。


彼女は今この村に在籍している狩人の中では一番の剣の使い手であり、多くの魔物を狩っている。



そんな彼女まで出し抜かれるとは、、、。



ことの重大さは認識していたが、これは予想以上に異常事態であると再認識することとなった。


それでもあたいは動くことができない。


族長となって今や42年。昔はしょっちゅう村から脱走していた頃が懐かしい。

今はしがらみもできてしまい、易々と村から出ることなどできなくなってしまった。本当ならあたいも直接出向いて探索に行きたい。


しかし、それを族長という立場が邪魔をする。


確かにあたいが動けば結界は弱まり、雨の影響を受けてしまう。

結界を維持できるのは先代の力を譲り受けた族長だけなのだ、代わりはいない。

それに狩人達に任せるのも仕事のうちだと言われ、納得してしまったのも事実だ。今はそれを後悔してるがね。


本当に意味がわからない。村を守るべき族長が、村の子供がいなくなっているというのに動けない。

一体なんのための族長なのかと自問自答したほどだ。


そんな中、狩猟番の妹であるスイナが村へ帰ってきたという情報が入った。暗い知らせばかりの中、唯一の嬉しい知らせに口が綻んだが、まだ他の子供達は見つかっていない、、、。


あたいはとりあえず話を聞かなくてはと思い直し、村の門へと向かった。


すると、門の前はうるさく、男どもの怒声が響く。


何事かと思い、一度門の前をそっと覗くとそこには2人の人間が立っていた。


あたいはそれに頭を抱える。

こんな時に人が来るとは、厄介な誤解を受けるに決まっている。


どうやら彼らがスイナを助けてくれたらしい。

だが村の住人達は彼こそが誘拐犯だと決めつけ、攻撃をしてしまう。



・・・相手の不気味さに気づくことはなく。



族長は相手の『波』を見ることができる。


波は千差万別で誰1人として同じものはない、、、しかし、似ていることは多々あるのだが、それは家族間のみだ。


そして、男の波はいままで見たことがないほど静かであった。


とても冷たく、見るだけで震えそうな程、不気味に凪いだ波。


決して村の者達と話している間も荒れたりはせず、剣を向けられてもぴくりとしない。

つまり彼にとっては剣を向けられる程度、心が騒ぐ必要がないということだ。


そんな中はじまる、軽い攻防。


男は完全に動きを読み切っており、攻撃は一切当たらない。

攻防は一瞬で片が付き、こちらは負けることとなった。



ため息をつく。



これから彼と戦うことになるだろう。

こちらから手を出してしまい、彼には反撃しない理由はない。


勝てるかどうかはわからない。彼は内側に何か隠し持っている。


そんな男と戦えばどんな被害が出るのか予想つかない。

だが、村を守るために全力を出すと決意していたのだ、傍観はしていられないだろう。


しかし、そこで状況は変わった。


狩猟番と妹が間に入り、男の態度は驚くくらい平静になる。


威圧的な殺気は鳴りをひそめ、一切感じ取ることができない。

その気配の消し具合にも恐れを抱くが、穏便に交渉をするには今しかないとあたいも間に入った。



・・・そこで、もう1人の異質さに気づいてしまう。



見た目は清楚で美しい女性。

しかし、その魔力量は人智を超えている。


魔力は年月で大きくなっていく、、、。


個人差は確かにある。

だが、それでもやはり魔力が増えていくのは時間であり、それは不変の事実であったはずだ。

なのに、寿命が80年程度しかない人間の娘の魔力量があたいを大きく上回っていたのだ。



・・・彼女は何者だ? もしかしたら魔女の類かもしれない。



魔女はとても危険で狡猾な連中だ。

敵対なんて絶対したくない。

あたいはここが正念場であると、気を引き締めて交渉に臨んだのだった。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



話してみれば2人とも実に普通の人であった。


少女は少女らしく、青年は落ち着いているが妙なところで慌てる人間らしさも併せ持ち、決してこちらに恩の押し売りをすることはない。


こちらから攻撃を振るい、正直問い詰められかと思ったのだが、彼はそのことに一切興味を見せることもなかった。

厄介な駆け引きもなく、拍子抜けしたものだ。


むしろ、厄介なのはこちらの村人達のほう。


大人を集め、話し合うのだが追い出せの一点張り。


冗談はやめてくれ、言いたいことはわかるがあんな化け物に敵対なんて絶対したくない。


確かに人族とは確執がない事はない。

でもわざわざ虎の尾を踏みたくない、別に彼らがいる間はこちらも自然に接して村から出る時が来たら魔王側に報告すればいいんだ。

ここには守るものが多すぎる。


何とか必死に言葉を考え、何とか納得を得ることはできた。



・・・その時はそう、思っていたのだ。




ーー




次の日、男 律兎 は狩人達についていったようだ。


まさか、スイがついて行かせるとはね、昨夜何かあったのだろうか?

男はどちらかというとスイナを気にしてるように感じたのでしばらくの滞在ではスイナと付きっきりなのではないかと予想していたが、当てが外れた、、、。


全く予想通りにいかないなと自嘲気味に笑っていたら、側近の護衛から予想外の報せが入った。



ーーバンッ!



平時ではあり得ない勢いで開け放たれる扉。

長年護衛を務め、経験に裏付けられた落ち着きを持つ護衛のこの慌てようは初めてみた。



「オババ様!!」


「何かあったさ?」



こちらは極めて冷静に返す。

情報を冷静に解析し、正常な判断を返すために、慌てるわけにはいかない。


しかし、彼から受けた報せは決して落ち着いて聞けるものではなかった。



「ま、魔王軍です! 『金の首 ギュリカ・ライロット』が村へと近づいています!」


「ーーっな! ど、どういう事さ!」



思わず机に両手をついて立ち上がった。

どういう事だ。こちらから連絡を飛ばすことさえなければこの村は辺境だし気付かれることはない。


まだあの2人がミストレルに来て2日目。


それに魔王軍は1週間前ほどに一度訪れていた。

再び訪れるには頻度が早すぎる。


冷や汗が頬を伝う、、、。


つまり、村の住人である誰かが連絡をしたという訳だ。

だが、魔王軍との連絡手段はあたいしかもっていないはず、それなのにどうやって、、、!



しかもよりによってギュリカ・ライロット。

魔王軍 大幹部である『八ツ首』の1人。


忠義に厚く、不義理を許さず、容赦がない。


もしこちらの村に人間を匿ったなどと容疑を向けられれば潰される可能性もあるというのに!



「・・・今はどこまで来てるのさ?」


「・・・・あと、5分ほどで到着すると思われます。」



時間がない、隠したりする事は不可能。



・・・仕方ない、まずは迎えることにするさ。



傍に置いてあった、水球を似せて作られた青色の水晶を先端につけた長めの杖を手に取る。


嫌な予感を感じながら、今は必死に走ることとするのだった。




ーー




「・・・これは、どういうことさね。」



急いで門へと向かうと、そこには予想外の光景が目に入る。

朝に狩りへと向かった狩人達が門の前に集結していたのだ。

だが狩猟番であるスイとスイの班員であるトイス、それについてったリツトが見当たらなかった。


・・・これだけで状況はだいたいわかったさね。



「・・・・・別に何もありませんよ。これから魔王軍の方がいらっしゃるのですよね? でしたら出迎えをと、、、。」


「それはあたいのやることさね! どうして狩人であるお前達がここいるって聞いてるのさ!」



時間がない、いらない問答をしている場合じゃない。



「オババ様、何を慌てているのですか? やましいことなどないでしょう。逃亡者である人間を見かけたから報告した、ただそれだけじゃないですか。」


「そういう簡単な話ではない! あのもの達は不気味さ、巻き込まれるやもしれんさ!」


「ははっ、大袈裟な、所詮人間なんて相手になりませんよ。」



そう言って肩をすくめる目の前のバカを睨みつける。

男はビクッと震え、露骨に顔を背ける。

衰えたとはいえ昔はやんちゃしていたもんさ、圧くらいはかけられる。



「いいことさね、あたい達は決して、、、」


「決して、・・・何だ? 続きには気をつけて発言したほうがいいぞ、オルババ・ロス・ミスルル。」



最悪のタイミングで横合いからこの村の者ではない声がかけられた。

漆黒の鎧に身を包み、腰に2本の長剣を差した大男。


低い声、立っているだけで周りに威圧感を与える風貌に冷や汗が流れる。



「ま、まさか、金の首であるライロット様がいらっしゃるとは、、、。」



これほど大物が来るのは予想外だったのか狩人の全員が動揺していた。

それはそうだ、常に戦場にいるか、もしくは魔王城にいる存在だ。

たとえ敵がいたとしても出向くようなお方じゃない。



・・・これは青年との約束は守れそうにないね。



「お久しぶりですな、ライロット様。」


「あぁ、久しぶりだ、オルババ。」



ギュリカは漆黒の兜をかぶっているため、素顔は見えない。

そのため顔色を読む事はできず、何を考えているか予測する事はできなかった。



「・・・オルババ、貴様に問う。人を匿っているというのは本当か。」



ーーゾッ!



たった一言と共に村全体を酷く重い殺気が覆う。

態度は現れた時と一緒。ただただ纏う空気が一変していた。



「・・・匿ってはいないさね。あたい達は決して魔王様を裏切ったりなど考えてはいないさ。」


「口では何とでも言える。信用が欲しければ今すぐ行動を起こしてみせろ。・・・人間をここに連れて来い。」



まずい、今男の方は狩りについて行っているためここには居ない。

しかし女の方はまだ村にいるはずだ、だが今はスイナがいる。

懐いているスイナがいる状況で彼女を差し出せば話が拗れる可能性が出てくるから避けたい。



「・・・今は難しいさね。」


「ふん、それで信用しろというのは無理な話だ。別に構わんのだぞ? この小さな村を取り上げるくらい容易い事だ。」



やはり厳しいか。


・・・これは戦闘になるかもしれん。


問題は組み合わせ、、、。


もしあたい達がこのまま2人を隠せばミスルルとギュリカが戦闘となり、あたい達が2人を差し出せば2人とギュリカが戦闘になるだろう。


その場合、被害が予想できない。


ギュリカが負けるとは思えないが、あの青年と少女は未知数だ。

だからこそ遠くに行ってから報告しようとしていたのに、全然予定通りに進まない。



「今は泥山にいるはずさ。」


「ふむ、自分で迎えに行けということか? 遠くの兵を呼び戻す術すらないとは、随分平和脳だな。」



・・・本当に随分好き勝手言ってくれるさね。



「・・・そうさね。今後は考えとくとするさ。ですがライロット様、彼らはあたいの兵ではないさね。」



彼らは村の盾であり矛だ、そしてその彼らを守る盾はあたいだ。

村を守るのはあたいの役目さ。



「つまらない考え方だ。守られるだけの者に価値はない。」


「あたいは守るためにここにいるのさ。守れなければいる意味なんてない。」



ギュリカとあたいの間に静寂が訪れた。

凄まじい圧がぶつかり合い、周りの空気が震える。


すると、意を決して1人の若者が飛び出した。



「お、お待ちください、ライロット様! 今村には人間がいます! そいつを連れてくることで許してくれませんか!?」


「ーーな!? この大馬鹿!!」


「・・・・・ふむ、なるほどな。」



予想外の乱入に汗が流れる。

ギュリカは腕組みを解き、圧を弱めた。

多くの住人がそれに安堵したようだが、あたいとしてはこれは悪手でしかない。



「つまり、貴様ら全員で人間を庇っていたということか、、、。」


「ーーな!?」


「どうせもう隠すことができないと思い、観念したという事だろう。無駄だ、俺は軍に対する叛意は許さない。」


「ち、違います、俺らは、、、そ、そうだ! 村長に従っただけなんです! 本来であれば人を村に入れるなど!!」



若者はこちらになすりつける様に言い放った。それに他の者達も同調していた。

勘違いとは言わない。だが、無駄である。ギュリカはそんな事どうでもいいのだから。



「村長の意見は村の総意だ。裏切りには処罰がいる。」


「待つさ、そうであれば責任を負うのはあたいさ。村の者達は関係ない。」


「王への裏切りをただの村長1人で賄えるとでも? この村は没収だ。」



ギュリカの発言は皆に動揺を走らせた。



・・・やっぱり目的はそこかい。



魔王様の土地である魔大陸にある街や村には徴兵制度が存在している。

昔からミスルル族も兵として若者を送っていた。

そして、ミスルル族の剣士は戦場で多くの功績を残し、優秀な種族と名を挙げていたのだ。


しかし、それが仇となり、いつからか多くの住人を兵として徴兵される様になってしまう。


族長はそれに反発し、戦場に送ることになってしまう若者を増やさない様に説得を続けてきた。

そのため、ミスルルの族長は魔王軍の上層に煙たがられ、事あるごとに責任をなすりつけ、罰として多くの兵を送る様に仕向けられていたのだ。


つまりギュリカは村を取り上げ、全員を兵としようと思っているのだろう。


そんな事は許したくない、しかし、ギュリカに勝つ事は難しい。



どうしようかと必死に頭を巡らせる。


力なきことがどれだけ悔しいことやら。



「残念だな、いくら認めたくなくても意味はない。・・・人間などとクズに怯えるからこういう事になるのだ。貴様も人間どもが行ってきた蛮行を知っているはずだ。なのに、あのクズどもを、、、」



話は聞いてもらえないだろう。いざ、実力行使に走ろうかと魔力を練る。

ギュリカも気づき、腰の剣に手を添えた。


だがその瞬間、大きな声が響き渡った。



「ミリアお姉ちゃんはクズなんかじゃない!!」



よりによって今一番聴きたくなかった声が響く。

声の発した方向から人垣がわれ、その向こうにスイナが拳を握りしめて叫んでいた。


まずい、今ギュリカの気に障ってしまえば終わる!



「・・・ふん、人間に絆されたか。あいつらは平然と嘘をつき我らに取り入り、いずれ裏切る。子供といえど人間擁護は、、、」


「嘘なんかついてない! お兄ちゃんとミリアお姉ちゃんはずっと助けてくれたもん! スイナを連れ去った貴方と違う!」


「スイナ! やめるさ! もうこれ以上は、、、。 は、連れ去った?」



スイナを止めようと声を張り上げようとすると、予想外の発言が飛び込む。

あたいや村人達は揃ってギュリカに視線を送る。

視線を向けられたギュリカは顎に手を当てて首を傾げていた。



「・・・ふむ? なんの話だ。」


「スイナ聞いたもん! 貴方の声と、袋を被せる時に見えた黒い鎧が!」



スイナは必死に言葉を紡ぐ。

ギュリカの圧は強く、足を震わせながらも必死に食いついていた。


そして、そこまで聞いて動揺していたあたいも我に返る。



「どういうことさね!? ギュリカ・ライロット! 貴様が村の住人を攫っていたのかさ!?」



そう叫んで杖を構える。

ギュリカはそれを見ても肩をすくめるだけだった。



「・・・はぁ。愚かな。今頃か、、、そうだな、連れ去っていたのは俺だ。」


「・・・なぜ!!」


「簡単な話だ。余計な知恵をつける前に戦場を経験させるためだ。戦いを知り、そのために力をつけさせる。」


「ふざけるな! 今人間との戦争が何年続いてると思っておるのさ!? 今もなお戦争が終わらないという事は戦いが泥沼化しているからであろう!? そのような死地に未熟な子供連れてゆくというのさ!?」


「そうだ、我々には戦力が必要なのだ。貴様らは強力な戦力となる。そうなれば戦争は終わるだろう。」



村の住人達は混乱が頭をしめ、まともに動けていない。

何を信じ、どう行動すればいいのかわからないのだろう。

だが、あたいの覚悟は決まった。先に裏切ったのはそっちだ、もう止める気はない!


魔力を練り上げ、ギュリカの足元に魔法陣を展開。

そこから水流で出来上がった槍が複数現れ、ギュリカを串刺しにする、、、筈だった。


ギュリカは槍が出現した時にはすでにその場におらず、気配を探るとギュリカはスイナの前方へ移動していた。


そして、腰の剣を引き抜く。


あたいはそちらに向かって手を伸ばす。



「やめるさ!!」


「間に合わなかったな、老婆。無力は罪だ。・・・贖え。」



振り下ろされる豪剣。

とても魔法はまにあわない。


全員が最悪の光景を想像し、顔を青くした。



・・・スイになんといえば良いのさ。



ーーギャギィンッ!!!



だが響いたのは、硬質な金属と金属がぶつかったような響音であった。


目を見開くと、スイナとギュリカの剣の間を透明な壁が展開され、火花を散らす光景が目の前に広がっていた。



「・・・ふむ?」


「ちょ、ちょーっとまってください! まだ心の準備一つも出来てないので! 出来れば帰ってくれると嬉しいです!!」



必死な途切れ途切れの叫びと共に住居の陰から少女が顔を覗かせた。

すごく震えてるしガクガクしてる。


それでも少女は必死にスイナを守ってくれたのだろう。



「・・・・・ふむ。」



ギュリカはもう一度剣を振り下ろした。

先ほどと違い腕を引き絞り、力を込めて振り下ろす。



「ちょっ!!」



少女は今度は壁から飛び出して、両手を正面に構えた。

すると、透明な壁に魔法陣が展開され強度が上がる。


そこに振り下ろされた凶刃が障壁にぶつかる。


轟音と衝撃が周囲に広がっていく。

障壁にはヒビがはいり、光が眩く散っていった。



「まさか、二度も防がれるとは、、、。」


「ハァハァハァッ! は、初めて壊されたんですけど、、、!」



壊された瞬間に力が抜けたように少女が膝をつく。

冷や汗が頬をたれ、明らかに消耗していた。



「・・・っつ!」



少女は必死に走り込んでスイナを抱える。

そのまま逃げようと振り向いて走り出すが、足を取られて転んでしまった。



「情けない。見込みがありそうなのに逃げることしかしないのか?」


「ーーッツ! 逃げる事は生きる事ですー! バーカバーカ! そんな事も知らないで死ぬために進み続けるなんてバカのやる事なんですよ!!」



まるで子供のように叫び散らしながらスイナを抱え、ギュリカに啖呵を切る。



「なれば矛盾しているな。何故出てきた? 隠れて逃げれば死ぬ事はなかったというのに。」


「約束ですから、律兎さんとの。私は何度も逃げてます。だからこそ、託してもらえた期待からは逃げたくありません!」



そんな彼女の発言にあたいは目を見開く。

あたいは何をしているのだろう。一度した約束も守れず、村すら今は守れそうにない。

必死にどうにか逃げ道を探して立ち向かうことをしなかった。


村の住人の行方すら見つけられず、、、。


彼女は約束を守るために前へと進んだ。そこが死地であるというのに。

その約束はたった1人、魔族であるミスルル族のスイナを守るためだと言うのに。


情けない。


属してきた魔王軍から村を奪われかけ、避難していた人間にしかスイナを守れていない。

一体どちらが味方だろう、どちらに進めばいいのだろう。



いや、進む先は決めた。なら!!



ギュリカはもう一度剣を振り上げ振り下ろす。


だが、今回はこちらも間に合った。もう迷ってなどいないから。



「食い散らかせ!『水天・群狼劇』!」



魔力の唸りと共に、周囲の水場、雨水から造られた狼が一斉にギュリカに襲いかかる。

ギュリカはそれを一瞥し、足を軸に回るように剣を振り回す。


たったそれだけで周囲の狼は吹き飛ぶ。



「巻き上がれ、『水牢渦』!」



今のは陽動。


相手の足元に展開していた魔法陣を発動。

現れた渦巻く柱となってギュリカを持ち上げた。



「死ね『水槍激』」



周囲に展開される一本の水槍。

先端をギュリカに捉え、射出。



ズバァアアアン!



ぶつかり合った水が弾け飛び、周囲に雨となって降り注ぐ。


流石に殺せてはいないだろうな。

後ろに吹っ飛びはしたが、唸るような波は一切弱まっていない。



「お、オババ様。」


「・・・村を害するならたとえ魔王軍といえどもあたいたちの敵さ。」



やっと決めた覚悟を口に出す。

村の住人達は皆不安そうではあった。だが、今回の幹部の発言に不信感を抱いたのもあって非難は口に出さない。

そして、皆複雑そうではあったが、少女に寄り添うものもいた。



「オババ様!」



半泣きで走り寄ってくるスイナを受け止める。



「悪かったさ、今度はちゃんと助けられたさね?」


「うん!」



そっと彼女の背中を慰めるように摩る。

この暖かく小さな少女を守れた事にこちらも心が温かくなった。


すると、村の住人に肩を貸してもらいながら少女がこちらへと運ばれてくる。



「・・・お前さんも助かったさ、これで助けられたのは2回目さね。」


「いえいえどーいたしまして、是非とも高級なご飯を献上してください。」



律兎と違い遠慮なく褒美を願い出てきた彼女に思わず吹き出す。

まったく、、、とっつきやすいったらありゃしないね。



ーードガンッ!



ギュリカが飛ばされた方角から爆発音と共に猛烈な勢いでこちらへと飛び出してくる影。


すぐに皆の前に飛び出しもう一度杖を構える。



「しつこいさね! 『水蒸、、、!」


「遅い。」



途中でもう一度踏み込み、勢いを上げて一気に距離を詰められた。

それに反応する事もできず、無様に蹴り飛ばされる。



「ーーカハッ!」



血を吐きながら地面を転がり、なんとか体勢を整えようと必死に顔を上げる。


しかし、



「オババ様!」



その時には既に剣がこちらの眼前まで迫っていた。

終わりを悟り、目を瞑る。


こんなところで他の者に任せることになるとは、本当に碌でもない族長さ。



「ーー律兎さん!! いつまで見てるのですか!? 早く助けてください!」



遠くからそんな叫びが耳に入る。

何を言っているのか、あの男は狩りに出ているはずだ。まだ帰る時間では決してないだろうに。



・・・しかし、決して待ち受ける痛みが訪れる事はなかった。



うっすらと目を開く。

目の前にはたなびくコートがあった。



「いやー、正直ミリアだけ連れて逃げようかなーって思ってたんだよ? だからこれは貸しな。」



ギュリカの剣は音もなく地面に突き刺さり、それに沿うように置かれた訓練用の鉄剣。

彼はあたいの眼前に降り立ち、不敵な笑みを深くする。



「・・・さて、いい加減しつこいな魔王軍。敵なら殺す、覚悟しろよ。」






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