名前とは愛着の第一歩
学園に戻ってきた。空はすっかりオレンジ色で、夕方になっている。
南門から学園に入り、校舎前の道路に目を向ければ4人の少女が話しているところだった。
ニーナ、ラウラウ、ガドガド、それと体にピッチリ張り付くライダースーツを着たミカライト。
ミカライトの後ろにはピンク色の車体に、丸っこいフォルムのバイク……例えるならジョルノっぽい感じのバイクが停まっている。あれがミカライトのバイクか。
「あ、帰ってきた」
ニーナが俺を見つけた。それにラウラウとミカライトも反応してこちらを振り返った。
ガドガドは、ゆっくりとこちらに目を向ける。どこか怯えている表情に見えた。ラウラウの予想通り軍人には苦い思い出があるのだろう、ミカライトに怯えているんだ。
「あらァ、どうしてそっち側から帰って来たのかしらァ? それにその姿……体操着じゃないのに、動きやすそうな格好で……」
「ごめんミカライト。先に、ガドガドの話をしてもいい?」
「今ラウラウから説明聞いたけどォ、朝教室で引っ付かれてた時はまだ、ガドガドの事何も知らなかったのねェ」
俺は歩いて彼女らの元まで近づいた。
ミカライトはピンクのバイクを撫でる。
「ニワトコちゃん、ごめんねェ〜? ちょっとお話する用事ができちゃった」
「それ、ニワトコって言う車種なの?」
「ん〜ん。愛車に付けた名前」
しなやかな腕で、愛おしそうにバイクを撫でるミカライト。その表情はまるで母のようだった。
「ねェ、名前をつける時ってどんな時だと思うかしら」
「名前……それって、親が子供に付けるのと一緒?」
「名前はね、これから一緒にいる相手だと思った時にはすでに、自然と付けているものなのよォ。だからこの子は私の愛車、ニワトコちゃんなの」
「……それは、ガドガドも同じか?」
ビクッとミカライトの体が震えた。バイクに顔を向けているため表情は隠れて見えない。
『ほぇ』と気の抜けたような声がガドガドの方から聞こえた。
ポカンと理解できていない顔をしている彼女の方に近づいて、優しく肩に手を置く。
「ごめん、ガドガド。あなたの過去を、さっき聞いてきた」
「え……?」
「けどミカライトからも話を聞きたいから、私の部屋に行こう。大丈夫、ルームメイトの許可は貰ってるから」
不安そうにするガドガドに微笑む。
そしてミカライトの方に向きかえる。
「あなたも来てくれるわよね」
「……私をイジメる気かしらァ?」
「そんなことはしない。ただ、ミカライトの視点から見たガドガドって女の子のことを教えて欲しい。私は———」
一拍、呼吸を置いてから。
「彼女の涙を止めたい」