【4】魔法学校 中編
次の目的地に向かう途中、校舎の廊下の向こう側に見知った姿を見つけた。
(やはりと言うべきかやはりいた!)
慌ててすぐそばの曲がり角の影に隠れる。
「……何してんだ?」
歩いていると突然隠れた私に、小原が不審がる。
「あら? あちらから来られるのは……ナパ様ではありませんか」
ソピアーが気づいた。
私が隠れた理由、それは向こうからナパがやって来るのが見えたからだ。
偉大な魔術師ナパ。私と、“アイツ”の入れ替わりを知っている数少ない人物。
(会いたくなかったんだけど……)
「ナパのアニィか。ただ、だとしてもコイツはなんで隠れたんだ?」
「どうしてでしょう」
二人からの煩わしい視線をかわして完全に身を隠す。
そしてナパの足音が大きく聞こえ始めた。
「おや? 小原様。珍しいところで出会いますね」
「ああ、悪いなアニィ。俺が来る事を、先にアンタには話しておくべきだった」
ナパは私に気づかず、小原と話し始めた。
小原は事の詳細を伝えた。
「世代を確かめる? 朝倉颯太の………ですか?」
思うところがある雰囲気だった。
まあ十中八九、事情を知っているが故のこの反応なんだろうけど。
「ただ、危険ではないですか? それに、ハントナー殿には伝えているのでしょうか」
「アイツには伝えた。伝えた上で、軍学校の参加を求めてきた」
ハントナーと言う人物が誰かは知らない。
ただ、軍学校って言うのは中央基地ガイアにある、軍人達の学校。あそこも参加するのか。
「なるほど。経緯は読めました。しかしやはり、危険ではないですか? 実践訓練をするのは子供達でしょう」
「わかっている。だからこそ、参加の選定を行っている」
参加の選定……。
今、騎士学校に行ったり魔法学校に来ている事を指している。
ただ、そう言えばこれまで小原が『不合格』を言い渡した事はなかった気がする。
選定と言いつつ適当なだけなんじゃないの?
「やはり心配になってしまいます」
「ふっ。慎重なアンタだ。今、安全にするための算段を頭の中で構築しはじめただろうが……やめてもらおう。今回の件はアンタには関係ないからな。アンタはアンタの勤めを果たすべきだ」
「そうですか。ならその勤めの範囲内でなら何でも物申して良いと?」
「言えるもんなら言ってみろ」
「……ガンマンズの件」
小原は眉をひそめて、一瞬ソピアーの方を一瞥した。
「ふん。そこの気丈な才女からも言われたばかりだ。ナパのアニィには勘弁して欲しいな」
「ではこの学校の学生を決してぞんざいに扱わない事を誓う。その釘だけ……打ちつけておきましょうか」
「おう。貰っとく」
△▼△▼△▼△▼
それからいくつかの話を終えて、ナパが去って行った所で物陰から出る。
「で? お前はなんで隠れた? ナパのアニィに対して、何かやましい所があるのか?」
「いやいや! ただ知らない人が来たから隠れただけだから気にしないで」
「面識あるのは知っている。学園にも共に行っていただろうに、言い訳するならもっと頭を使え」
くっ……コイツ。
小原はそれ以上聞いてこず、歩き出した。
ぶつぶつ文句を垂れながら後ろを着いて行く。
ソピアーが次に連れて来たのは図書室だった。真新しい外装に、中は広々としている。そして目が眩むほどの本の数。
学園の図書室も本が山ほどあったけど、この学校もとんでもない量だ。
「えーと、あ、いたいた」
ソピアーは初め図書室を見回して探してから、探し人を見つけた。
視線の先にはプラチナブロンドの明るい金髪をした、ポニーテールの男子がいた。背が高くて足が長く、スラッとした印象。
「あちらにいる明るい金髪の、長身の男子がそうです。名前はイマジン・バットコーション」
「雰囲気はあるな」
イマジンと紹介された男子は、本棚の隣で立って本を読んでいたが、私たちが近づくとそれに気づいて本を閉じて本棚にしまった。
そして鋭い目をこちらに向ける。
「ソピアー、なんの用だ」
「今朝話したでしょう? 実践訓練の件。あなた、参加しない?」
「嫌だ」
勇者の前だと言うのに態度が悪く、つまらなそうに誘いを断った。
なんて奴。
「小原様、小原様」
「ん?」
するとそばでソピアーが小原に耳打ちしていた。
すぐ近くにいるので話が聞こえる。
「口裏を合わせてください。彼の実力は本物です。世代を確かめると言うのなら、彼が行かないと意味がないかと……」
「……ふーん。わかった」
何秒もかけない内に話を終わらせて、ソピアーは顔をイマジンの方に戻す。
イマジンは当然、目の前でヒソヒソ話をされて怪しんでいた。
「なんだ?」
「いいえ、実は今回の件……“五芒星”が参加するの。そのことをあなたに伝えていいかどうかをお尋ねしたのですわ。ふふふっ」
「“五芒星”……」
またその名称か。
ソピアーは楽しそうに笑い、イマジンは意識を持った風に見えた。
「その中の一人、【金色の魔女】……」
「っ!! まさか! アイツも来るのか⁉︎」
今度は目に見えて動揺した。
【金色の魔女】って、アイツか。同級生で、相手はエリートで目立つから知っている。
パァッと目に付く華やかな金髪で……背が低いくせに乳だけは大きいやつ。って、いやいや!私の方が背も高かったし!胸も私の方が!
———って、いいや。もうそんな見栄を張らなくったって、私は勇者。この世界のどんな奴よりも素晴らしい価値のある体を持っている。今更虚勢を張る必要なんてない。
私も心が乱れたが、イマジンの方は私よりもっと酷い。落ち着けた私と違って動揺が続く。
「金色の、魔女……“古今最強”の魔法使いと名高い……」
「どお? 興味が出たかしら」
「…………」
「そお。チャンスをむざむざ逃すわけだ」
挑発的なその言葉にイマジンの体が震える。
ソピアーは小原の腕に自分の両腕を絡ませて、帰ろうとする素振りを見せる。
「さあ行きましょう小原様。これで、初の不合格者がでましたわね」
「そうだな。さっさと次に行くか」
口裏を合わせろと言われた小原も、イマジンに背を向ける。
それに待ったをかける叫び声が図書室に響いた。
「待て! ……俺も行く!」
「だそうですけど、小原様」
「ん。不合格者はまだ出ないみたいだな」