探せ!ミカライト!
さて、放課後になる前に一人会っておきたい人物がいる。
ガドガドの好きな食べ物や育った場所なんかは色んなことは大体わかった。わからないのは、彼女の事情。
ガドガドは話したがらない。だから別口に頼み込むことにした。
ガドガドを知っていそうな雰囲気を醸し出していた人物が二人。フライヤーとミカライトだ。
(フライヤーさんは後で部屋に帰ったら話を聞かせてもらえる。だから……)
ミカライトに会いに行こう。
「で、今は午後の授業がなくなってほとんど放課後って雰囲気だけど、ニーナはミカライトがどこにいるかアテはある?」
「みんなと一緒で部活動に勤しんでいるんじゃないの?」
「ミカライトの部活は?」
「……知らない。私あんまり他人に興味ないから」
だろうな、とは思ったけど。
「そういえば学級委員とかはないのか? クラスの代表みたいなやつ」
「あるわよ。ただ昇格したり降格したりする関係上、結構変わりやすいけど」
「Cクラスの学級委員ならミカライトの部活がわかるんじゃないか?」
「そっか」
「うん」
「で、Cクラスの学級委員ってだれ?」
「それもわからないか」
まあこれも予想はしてたけど。
でもまああとは簡単だ。Cクラスの誰かをその辺で捕まえて聞けばいいだけだ。
勇者部、という部活の方針で体を鍛えるためにグラウンドが開放されている。なので走り込みをしていたグラウンドには生徒たちがたくさん集まっている。
中等部の生徒もいるから、かなり多い。
「……見つかるか?」
「こんな大勢から探さなくても、勇者部以外の活動をしている部活から手始めに誰か探しに行けばいいじゃない」
「なるほど。文学部ってとこなら所属してるニーナも案内できるか?」
「うん、まかせて。文学部の活動場所は図書室よ」
「……ところで、お前は部活動に出なくていいのか?」
「……………」
「なんで黙ったの」
「……そう言えば行くの忘れてた」
「まあ、別に俺はカンケーないから良いけどさ」
そう言うわけでひとまず俺たちはグラウンドから離れて図書室に行くことにした。
校舎の中にある教室で、今の俺はブルマの体操服姿なわけだが……。
「……いったん着替えた方がいいか?」
「手伝うわよ」
「えーと、じゃあ頼む」
更衣室に向かって自分のロッカーの前に立つ。
そして服の裾を掴んで一気に頭から脱ぐ。
ぶりん、と胸が激しく揺れて暴れてしまう。
「う……」
「そんな雑に脱いだらそうなるわよ。ほら、汗を拭くからこっち向いて」
「お、おう」
ニーナに注意されながら着替えていく。
タオルを持った小さな手で身体中を拭かれる。首元とかは自分でやると言ったが、ニーナは首を振って『私が全部やる』と聞かなかった。
なんか……恥ずかしいんだけどな。
「ぷに、ぷにぷに……ふわ、ふわふわ……」
「……ガドガドさんは何してる?」
「もにゅ、もにゅにゅも」
「あふんっ! ちょ、ドサクサに紛れて揉むなよぉ!」
「ずるいわよ、私だって揉みしだきたいの我慢してるのに」
「お前も変に乗るなよ!」
タオルで拭かれている俺の隙をついたガドガドに胸を揉まれるというアクシデントがあったものの、なんとか全身拭いてもらった。
そして制服に着替えていく。ブルマからスカートに。
「さて、行くか!」
「おー」
「お、おおー」
△▼△▼△▼△▼
そこからホイホイとことが進んだ。
まず図書室に向かって、文学部でCクラスの人間を探した。
図書室はまるで一つの神殿のような広さと、膨大な数の本と本棚が並んでいた。圧巻の光景。
図書室に俺たちが入って来て、中で本を読んだり談笑していた文学部の生徒たちがこちらに顔を向けた。その中に入り口近くのテーブルで本を読んでいる見知った顔を見つけた。
「あ! ボディア!」
「ソニア? どうしたの? 何か図書館に用事?」
ボディアがいた。彼女も文学部の一人らしい。
これは渡りに船だ。彼女がいるなら話が早い。
「あの、この部活の中で一年Cクラスの人っている?」
勇者部が一番人数が多くて大規模だと言っても、中等部を合わせた全校生徒の中からこの部活に入っている者達がいるんだ。
大きな図書室の中でもかなりの人数がいた。一人一人確かめるのは時間がかかる。
だから俺はボディアに聞くことにした。
「Cクラス? それなら私の向かいに座ってるのが……」
ボディアが顔を向けて示したのは、向かいに座る金髪のポニーテールの少女だった。
つい最近B級争奪戦があったばかりだ。有る程度クラスメイトの顔の名前は覚えている。
だから名前をすぐに思い出すことができた。
「チーカ。確か貴族の娘……だったよね」
「そうだけど」
金髪の少女、チーカはずっとキョトンとしている。その視線は俺の後ろにいるガドガドに向く。
「教室で授業中も気になってたけど、もしかしてこれからずっとそこのガドガドがアナタに引っ付いて回るのかしら」
「ごめん。授業の邪魔だったかな」
「別に、気になっただけで邪魔とは思ってないけど。それで私に用があるの?」
「うん。実は、Cクラスの学級委員が誰か教えて欲しいの」
「は?」
何言ってんだコイツ、な感じで短く返事を返された。
そりゃそうだ、自分のクラス委員がわからないなんて滅多にない。
と、そこでニーナが前に出た。
「ごめんなさい、私達ド忘れしちゃって。特に私は、その、他人に興味ないから」
「あー……まあ、納得するけど。ガーリックやデッドと並んで他人に興味ない感じだものね、あなたは」
ニーナの言葉を聞いてチーカは納得してくれた。
「わかったわ。けど、誰でもわかると思うけど?」
「え?」
「学級委員はクラスの中で男女二人。そのうちの女子で、私たちCクラスの中で、学級委員と言えば……って子がいるでしょ?」
Cクラスの学級委員と言えば……?
パッ、と人物を思い浮かべて、そして納得した。
「あ、ラウラウか」
確かに曲者揃いのCクラスメンバーの中で、あのクラスをまとめられるのは彼女しかしいない気がする。
チーカも頷いて正解だと言ってくれた。
やっぱそうなのか。ラウラウは優しいし、気が効くし、それでいてちゃんとした自分自身の意志を持っている強い女の子だ。
彼女なら学級委員で納得。さっそく彼女を探しに行こう。
「ありがとう! チーカ! ボディアも!」
「なんでこんな事聞いてきたのかわからないけど、ま、そのお礼は受け入れとくわ」
「ええ、またね」
二人に礼を言って図書室を後にする。
そこでハッと気づいた。
「あ、ラウラウも今部活動してるなら、彼女がどこの部活か聞いとくべきだったな」
「それ、それなら、へ、へいき」
後悔しかけた所で、ガドガドが小さな手を挙げた。
「ら、らうらうは、わたしと、おな、おなじぶか、つ」
△▼△▼△▼△▼
生物学は校舎内に部室がある。
ただ今は活動時間中なので、外の飼育小屋にいると言う。中庭にポツンとある赤い屋根のうさぎ小屋に向かって見ると、運良くラウラウがそこにいた。
「ん? ソニアに、ニーナ。それとガドガド? 私に何か用事でもあるの?」
俺らの姿を見てすぐにラウラウは察してくれた。
うさぎ小屋の中にいるうさぎが気になりつつも、俺はミカライトがどこの部活に所属しているかを尋ねた。
「ミカライト? 彼女なら、多分学校にいないわよ」
しかし帰ってきた答えは意外なものだった。
「え? でも部活は……」
「ミカライトも私と同じ生物部よ」
「そうなの?」
チラッとガドガドの方を見る。
ガドガドはこっちに尻を向けて、小屋にへばりつき、中にいるうさぎを眺めていた。
「ガドガドは、ラウラウには同じ部活だって言ってたけど、ミカライトは全くの無反応だったけど」
「んー、まあガドガドも軍人は苦手でしょうからね。顔を合わせていたかも知れないけど、ガドガドの方からミカライトの顔を記憶から消していた可能性があるわ」
「え? どういう事?」
「それは………いいえ、これはこんな場所で話せるものではないわね」
うさぎ小屋の周りには生物部の部員達がいる。
それを気にしてラウラウは口を閉ざした。
「もしかしてラウラウも、事情を知ってるの?」
「ある程度はね。ただ深いところまでは詳しく知らないから、あまり安易に口に出したくはないわ。というか……あなたはガドガドの過去を知りたいわけ?」
「うん」
「………ふーん、何のためか聞いても答えてくれない感じかしら」
「いや………うーん」
そう尋ねられて、そういえば言えない話題だったと考え直す。
ガドガドと、彼女を世話した学園長の目的は『勇者』だ。そして俺が『勇者』本人であり、彼女らの求める人物だから事情を知りたい。
しかしそんな事言えるわけもなかった。
「ごめん。助けてもらったのに悪いけど、これは私とガドガドの問題だと思うから」
「……そ。ま、それならこれ以上問い詰めはしないわ。ただし!」
ビシッ、と指を突きつけられる。
「どうしようもなくなった時は必ず誰かに頼る事! 一人二人の力で出来ることなんて限られてる。誰かに頼る事を恥じることなんてないんだから」
「ラウラウ……。うん、わかった。ありがとう」
「“甘える”と、“頼る”を履き違えないように。ま、それがわかればいいわ。後で結果がどうなったか教えなさいよ」
「うん。絶対に伝える」
ほんと、いい友達を持ったよ、俺は。
「………」
ゲシッ、と横からニーナが腰辺りを手のひらで押すようにど突いてきた。
「ちょっ⁉︎ なに⁉︎ なんで蹴った⁉︎」
「別に……」
ぷいっ、とそっぽを向いた彼女の言外には『私も友達だってこと忘れないで』と聞こえた。
「ふーん。ま、いいけどね。それでミカライトの事だけど、彼女ならバイクに乗ってどこかに行っているはずよ」
「バイク?」
「ええ、そうよ。最近買ったみたい。あの飄々としたいつもの感じと違って、ウッキウキで駐車場の方へスキップして行ったわ。ほんと子供みたいだったわ」
「へー、バイク持ってたのね。遊びに出かけたのなら仕方ないけど———どーしよっか」
ニーナと顔を見合わせて、相談する。まだぷくーと小さく頬を膨らませていたニーナだったが、ちゃんと答えてくれた。
「……あなたは、あそこに行くんでしょ? いつ帰ってくるのかわからないなら、予定を考慮しながら行動しないといけないわ」
「そうだな」
放課後、俺はスクボトルさんが待っている学園長の私有地へ行って鍛えてもらう。ちなみにホーネットさんは軍事基地の方へ帰っているため、いるのはスクボトルさん一人だ。
「あそこってどこ?」
「ちょっとね」
「なんかこの後用事があるの? ならガドガドは預かっておこうか?」
ラウラウの提案。
確かに、ガドガドを勝手に学園長の私有地に連れてって良いものだろうか。
ガドガドは学園長が面倒を見ていて関係も深いと言っても、断りもなく入らせるのはダメだろう。
というかそれよりも必要なことがある。
「ごめんラウラウ、一旦待ってもらってもいい?」
「いいけど」
「ありがとう。じゃあ、ニーナ。あなたはガドガドと一緒にミカライトを待っててもらえない?」
「構わないけど、一人で大丈夫?」
「へーきよ。それより、代わりにミカライトからガドガドについて聞いてもらえないかな。それから後で私の部屋に来て。そこでフライヤーさんからも説明してくれるから」
「ん。わかった」
簡単に頷いてくれた。
結構色々言ってしまったけど、ここまでサラッと承諾されるのは……。
ま、いっか。ニーナがいいって言ってるんだから。
「ごめんねラウラウ。それで……」
「私もニーナ達と待ってるわ」
「え? いやそこまでしてもらうのは悪いって言うか」
「いいのよ。私だって気になり出してるから。それにニーナとガドガドだけじゃ、ミカライトから話を聞き出せるか不安じゃない?」
「む………」
むすっ、とした顔で黙り込むニーナ。なんかラウラウにライバル意識を燃やしているように見える。
ただ彼女の言っていることが間違っていると、怒る事はしなかった。ニーナ自身も納得できたのだろう。
「わかった。何から何までありがとう、ラウラウ」
「いいから、アンタはさっさとその用事ってのを済ませてきなさい」
「うん」
言葉に甘えて、俺は今からスクボトルさんの所に向かう事にした。早めに行って、早めに済ませれば御の字。
そうじゃなくても早めに帰れるよう交渉できる時間が欲しい。
だから今から行く事にした。俺はずーっと柵越しにうさぎと戯れていたガドガドに近づく。
「ガドガド、しばらく俺はいなくなるから。ニーナやラウラウと一緒にいてくれるか?」
「……? う、うん。わか、わかった」
どうしてなのか理解していないみたいだったが、頷いてくれた。
よかった。じゃあこれで、俺はあの私有地に行くとしよう。