【2】王都騎士学校 後編
ラブカ君が次に案内してくれたのは、無骨な学校にある唯一のオアシス。中庭のオープンテラス。食堂と繋がったこのテラスには、テーブル席が並んでおりその中の一角に目的の人物達はいた。
まあ私は目的知らないけど。
「小原様、朝倉様。ご足労感謝いたします。ではこちらが、俺が紹介する今回の件での参加候補者の2人です」
テラスの四人掛けテーブル。そこに二人の少女が向かい合わせで腰掛けていた。
ラブカに紹介されて二人は深々と会釈をする。
「初めまして、勇者様。小原様に朝倉様。わたくしは騎士学校の一年、シュヴァル・マルティネスと言います」
キビキビと喋ったのは、クリーム色の暖かみを感じる髪色をした少女。
「………カペル、クロウネス……です」
ゆっくりと喋ったのは、黒っぽい灰色の髪をした少女。
「今回の件。君らが参加してくれるということらしいが、間違い無いんだな?」
小原が一歩進んで尋ねた。
するとハキハキ喋るシュヴァルって子が答える。
「はい。私と、この子はそれぞれ目的があって参加したいのです」
「ほお? 目的とは一体なんだ?」
「それは———」
シュヴァルは、間を置くと、答えた。
「今回の件……“五芒星”が参加すると聞いたので」
「なッ⁉︎ なんですって⁉︎」
思わず大きな声で驚いてしまった。
周りからの視線を感じるが、動揺しすぎてそれどころではない。
ずっと謎のまま、目的もわからずこんな所までついて来てしまったが、今のセリフでハッキリとわかった。
(ただ事じゃない! あの五芒星が出張ってくるなら、私の想像よりも大きな事態が起きようとしている! 小原……一体何を企んでいるの⁉︎)
私は心底からテンパっていた。
あの世代の学年なら誰もがその強さと、怖さを知っている。
“五芒星”。いつからか最強の5人を総称してそう呼ばれるようになった。
(最強ってのは私らの世代の中だけの騒ぎじゃない。あの5人は、1人1人が別格の存在。あわや———勇者にだって匹敵するんじゃないかしら)
とにかくマジでやばい連中なのだ。
それが動くとなると、事態は私の想像を遥かに超えるもので間違いない。
小原はしばらくこちらを見ていたが、話を進めるために顔を戻す。
「そうだな。確かに“五芒星”が参加する。そもそもそのための企画だ。知っているよな……つい先日に起きたこの街での事件を」
「っ!」
小原は2人に言ったつもりだろうが、反応せざるを得ない。
忘れるわけがない。だってその時誘拐されかけた張本人なんだから。
“王都襲撃”、それに同時期に起こっていたらしい“学園襲撃”。そのどれもがガンマンズの仕業であり……そして、そのどちらも解決したのは———
「“五芒星”の三人。王都襲撃の主格を真っ向勝負で倒したジュピター・スノーホーク。学園襲撃では上級生の実力者を倒せて見せたガンマンズのメンバーを、簡単に倒した二人、シルビア・ドーベルマークとリキュア・グレープハープ」
小原が淡々と述べる。
正直いい気分はしない。あの、エリート中のエリート達が活躍して嬉しい気持ちよりも妬ましさの方が圧倒的に勝る。
しかし話を聞くほどに、“五芒星”はやはりヤバい集団だとわかる。
「私たちは……そのうちの二人、シルビアとリキュアに用があります。できれば会いたいと」
シュヴァルがそう語り、カペルが黙って頷く。
もはや話が入って来ないが、この二人は五芒星のシルビアとリキュアに会うために参加するようだ。
「あの、小原様。私たちのこの動機は、不純ですか」
「……いいや、目的があった方がより力を入れやすいだろう。構わない。君らの参加を許可しよう」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに頭を下げるシュヴァルとカペル。
そんな二人を横目にして、小原を睨む。
「どう言う事? 五芒星の奴らが関わってるなんて聞いてない!」
「ま、そろそろ話しといてもいいか」
早く話せよ!
もったいぶるな!
「五芒星の三人は、今回の一件で目覚ましい成果を上げた。この王国の誰もが無視できないほどのな。よって彼らの実力と、126代目という世代を測るために行われる実践訓練。その準備を我々は行っている」
「世代を試す……つまり、この王都騎士団の126代目も試すから人を集めてるってわけ?」
「実際には126代目ではなくて、騎士団にとっては丁度100代目だがな」
王都騎士団とは、100年前に古都が爆発して無くなり、そこから王都に還都してから出来た組織だ。だから今年でちょうど100代目となる節目だ。
「ま、当初は勇者学園の子供達だけで行うつもりだったんだが、他の戦闘系を重視して教えている学校からも参加の打診があってな」
「……そうなの」
随分と、乗り気になれない事だったわね。
こうして連れ回されているのは小原がいるからってだけで、本当なら今頃部屋でゴロゴロポテチ食いながらテレビを見ていたい。
そしてその実践訓練と言うのにも興味がない。同時に参加しろと言われてもしたくない。
(何が悲しくて五芒星のような成功者達と一緒に何かしないといけないのよ)
「……で、だ。颯太への説明はこのくらいにして、ラブカ。そしてテイパー」
小原はラブカ君と、テイパーってギザ歯の女に顔を向けた。二人はピシッと背筋を伸ばして姿勢を正す。
「はっ! 小原様、我々にご用件でしょうか」
「お前ら二人も参加するって聞いた」
ラブカ君も?
すると、彼はジッとこちらに視線を送っていた。
あれ?もしかしてやっぱりキテる?キテるのかこれ?
しかしテンションが上がりかけた私とは違い、ラブカ君は真剣だった。
「はい。テイパーは俺について来てくれるという事で、俺らも参加させてください」
「それは構わない。ただ、なぜ参加するのか理由だけ聞いてもいいか」
「さっきシュヴァルとカペルが言ったのと同じ理由です。会う……とは少し違いますがね」
え?
まさか、五芒星目的?
そう思ったが、ラブカ君はこう言った。
「俺の目的は———ギブソン・ゼットロックですよ」