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ガドガドってどんな女の子?

 昼休み。俺は日課の走り込みをしていた。

 今日午後の授業は無くなって、生徒たちはみんな委員会や部活動に勤しんでいた。



「ハアッ、ハアッ、ハアッ……けほっ、げほ! ぶ、部活とかあったんだな。この学校」


「もしかして走りながらずっとその事について考えてたの? はい、九週達成のご褒美」


「水じゃん。というか、昨日と変わってないんだよ別に」


「王族からの賜り物よ、大事に受け取りなさい」


「ちょいちょい王族アピールしてくるなお前」



 ニーナに貰った水の入ったボトルを飲みながら、チラッと横を見る。

 平然としたガドガドがいる。彼女は———俺の隣にずっといた。走り込み中もずっと隣を走っていた。

 なのに。



「……あ、ちょうち、ちょうちょ」



 汗一つかかずに呑気な事を言っていた。息切れもしていない。

 やはり上位の人物。俺とは出来が違うみたいだ。



「ねー、ガドガド」


「んー?」



 蝶々を目で追っかけていたが、俺の呼びかけに顔をこちらに向けた。

 そんな彼女に俺は自然と問いかける。



「あなたは、部活に入ってないのかしら?」


「……?」



 世間話のつもりで聞いたのだが、なぜか首を傾げられた。

 なんでそんなキョトンとした顔をするんだ?

 すると隣にいるニーナが助け舟を出してくれた。



「この学校は全員部活に入ることを義務付けられてるのよ」


「………え? 嘘だろ? そんなの知らなかった!」


「本当よ。あなた……ソニアだって入ってるわ。“勇者部”ってとこにね」


「“勇者部”?」


「体を鍛えたり、戦闘技術を磨いたり、勇者について知識を勉強したり……まあ勇者に仲間に選ばれるための部活ね。と言っても部員が多すぎるあまり、自由な活動方針になってるけど。義務付けられてるからとりあえずここの部に入るって生徒が大半だと思うわ」



 そうだったのか、知らなかった。

 ソニアは部活に入ってたのか。けど戦闘面を鍛える部活だから、今まで走り込みとかして鍛えていたのも活動方針に合ってたから周りから特に何も言われなかったわけか。



「そー、なのか。ちなみにニーナは?」


「文学部。本とか読んでるとこ」


「本? 勇者部ではないのか」


「ええ。外国から来たんだから、この王国のことを少しでも調べられるような環境を得ようかと思ってね。本を読んで知識を得るつもりで入った……ものの、入学当初はそんな軽い気持ちだったけど、結果はこの有様。落ちこぼれ」



 こんな結果お父さんや王様に報告できないわよねぇ、と肩をすくめた。



「真っ当に勇者部に入っとくべきだったわ」


「今からでも遅くないんじゃないのか?」


「いいえ。勇者部は人数が多くてフリーダムだから別の部への途中変更は可能だけど、それ以外の部活は難しいのよ」



 難しい?



「出来ないわけじゃないのか」


「先生に便宜を図れば、ね。ただ色んな手続きとかあるし……そもそも勇者部がなくても、この学園は戦闘技術を磨く教育をしているわ。それでも部活と言うものがある理由が———勇者に選ばれなかった時の進路のため、なのよ」


「あ………」



 勇者に選ばれなかった。

 それすなわち、この学園の最終目的である勇者パーティに選ばれることからの、脱落。

 学園の生徒達はみんな、勇者に自分達の未来が決定される。どんな未来も勇者の匙加減。

 そして選ばれなかった者達は……一体どこにいくのか。



「選ばれなかった者にも人生がある。そのための部活よ。例えば私の文化部は選ばれずに卒業すれば学者や研究者になったりする。他に農業部、商業部、工業部なんかもあるけど名前の通りそれぞれの未来へ進むための知識や技術を得られる」


「……みんな、自分の人生のために頑張ってるんだな。勇者に選ばれるために強くなる傍らで、未来を見据えている」


「その通り。だから部活は義務。これは……学園長が無作為に選出した生徒たちへの、お詫びってところかしら」


「———そんなんじゃない!」


「「ッ⁉︎」」



 突然、ガドガドが大きな声を出した。

 ずっと辿々しい口調だったのにハッキリと大きな声で否定した。思わずニーナと一緒に驚いてしまった。

 そしてガドガドを見ると、肩を震わせていた。



「おじちゃんはそんなんじゃない! おじちゃんは、一度決めた事は絶対に後悔なんてしない! 嬉しいことも、悲しいことも、全部ひっくるめて受け入れる強い人なの!」


(受け入れる……)



 許容こそが強さの証。そうレッサーベアーから聞いたっけ。

 確かに学園長は強いと思う。戦いの実力と言う意味ではなく、心が。



「だから、懺悔じゃなくて……愛だよ」


「愛……か」


「………ごめんなさい、私、言い過ぎてしまったわね」



 ニーナが素直に頭を下げて謝った。

 ガドガドの本気さに感化されたのか、本気で学園長がそんな人物だと信じられたからなのかは、わからない。



「……う、ううん。わたし、も、ごめ、ごめん。おっきな、こえ……」



 ガドガドも落ち着いた様子だ。

 横で見ていた俺は、さらに気になった。ガドガドのこと、学園長のこと。

 だから聞く事にした。



「ガドガド、あなたはどんな人なの?」


「わた、わたしは」



 たどたどしくも、ちゃんと答えてくれた。

 一つずつ。

 部活は生物部という、生き物について学んだり、飼育委員と一緒になって動物の世話をするところに所属しているということ。

 歳は14で、実は一つ年下。好きな食べ物は塩胡椒のステーキで、嫌いな食べ物は海藻類。

 育った場所はこの学園から少し山間の方角に行ったところにある孤児院であること。生まれた場所は———答えたくないみたいだった。

 孤児院は、学園長の家族が経営しているということ。

 そして学園長はガドガドにいつもこう言った。



「勇者と一緒に答えを見つければ良い」



 答え?

 勇者ってのは、俺のことだろう。勇者と一緒にいろ、とはこう言うことだったのか。

 ならガドガドが求める答えとは、なんだ?

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