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【1】王都騎士学校 前編

 結局、小原はなぜ騎士学校に行くのか説明せず私を目的地まで連れてきた。別に太ってるからと言って、疲れるのが早いというわけではない。

 勇者居住区と同じ王都の中にある騎士学校に行くくらい問題はなかった。



(ただ説明はして欲しかったわねぇ)


「おい、入るぞ。今代の勇者サマ」


「はいはい」



 なぜ今更私が勇者である事を強調して来たのかわからないけど、勇者と呼ばれるのは心地いいからそのまま受け入れた。

 正門を開け()()て渋々中に入る。

 すると入ってきた私たちを出迎える二人の生徒がいた。



「どうぞ、よくお越しいただきました。小原様、朝倉様」



 うやうやしく礼儀正しいお辞儀で出迎えたのは、金髪のイケメンだった。

 なんか不思議とイヤーな雰囲気を感じたが、お辞儀の姿勢から上げた顔を見てもう全部許した。

 カッコ良すぎるでしょ。勇者学園にも山ほどイケメンはいたけど、それと匹敵するくらいの綺麗な顔立ちをしていた。

 強い意思を感じる目は、ちょっと忌々しく感じたけど……でも私は今や勇者。その強い目を受け止めてキチンと評価してあげましょう。



「うむうむ、苦しゅうないわよ。そんな堅苦しくいないで、もっとリラックスしなさいな」


「ふふっ。申し訳ありません、当代の勇者様からそう言って頂けるのは嬉しい限りですが、これもこの学校の校風というものです。勇者様に王族や貴族達、王都を守るためには礼儀を忘れてはいけませんから」



 くすり、と口に手を当てて笑う仕草もどこか可愛らしい。嫌味なんて微塵もないから嫌な気分にならない。

 いやー、イケメンはどれだけ見ても良いわね。眼福眼福。



「ご苦労。で、お前が今日の案内役って事でいいんだよな」



 隣のメガネジジイがそう聞いた。

 案内役?もしかしてこの学校を見て回るつもりかしら。

 何のために?



「はい、今日はよろしくお願いします。俺の名前はラブカと言います。以後よしなに」


「ラブカ? それって夜歌さんの……」


「ええ。102代目勇者様の持つ剣の名前と同じです」


「へぇ、そうなのか。って、あれ。苗字の方は」


「それは———」



 ラブカと名乗ったイケメンは、こちらに目を向けた。

 えっ?もしかしてキタ?キテる?こんな早くにイケメンとフラグが立ったの?マジ?RTAもびっくりな攻略速度ね。

 浮き足立ってしまいそうになったが、しかしラブカ君はすぐに目を離してしまった。なによもー、期待させちゃって。



「すみません、苗字の方は秘密にさせてください。それよりもこちらのもう一人の案内役を紹介します」


「……おう。そうか。まあ後で勝手に調べとくわ、変な気を使わせて悪かったな」


「いいえとんでもない。それで……」


「テイパー・メイソンです! よろしくお願いします!」



 鎧を着た背の低い女の子が、緊張でガチガチな体を動かして背筋を伸ばしそう名乗った。

 ツリ目気味の目は常に泳いでいて、開いた口からはギザギザな歯が見えた。

 ふーん、まあどうでもいいか。



「教師の代わりにお前ら生徒が案内してくれるという話だったが、頼んでいいか?」


「はい。自分達の代の事は、自分達がよくわかっているので」


(代?)



 気になってラブカ君に視線を送ってしまっていたらしい。彼は優しく微笑んで答えた。



「パーティ候補ではないですが、俺もあなたの代の人間ですよ。朝倉様」


△▼△▼△▼△▼


「全てのものに白と黒があると私は思う! であるから、初めに白黒つける事は自身の意思決定において重要な判断材料となり、何が敵で何が味方が、あるいは何を倒すべきかを決めること。それこそが騎士という戦闘分野にて社会と向き合ってゆく我々にとって重要な理屈であり、真なる権利だと思うわけであります!」



 ラブカ君の案内によって殺風景な騎士学校の中を歩いて、まず最初に出会ったのは熱苦しい黒髪の少年だった。

 朝練中の騎士候補達が集まっているグラウンドの隣で、私たちは出会った。

 彼の名前はキャメル・キャメロン。



(略してキャメキャメって呼んでやるわ。煩いわねぇ)



 顔を合わせた途端に演説を広いし始めた。とにかく熱くて、苦しくて、煩いやつだった。まあもう名前なんて覚えなくていいか、どうしてもうこの先会うことはないだろうし。

 そしてその煩い奴の隣には、これまた真逆な人物がいた。



「………」



 打って変わって寡黙な少年。こちらも黒髪。無愛想で厳つい顔をしている。

 名前をスティーヴン・ライノセラスと言うらしい。知らないけど。



「ふむ。なかなか骨のありそうな奴らだな。この二人がラブカのおすすめか?」


「ええ。二人とも実力はありますよ」



 小原には2人とも好評価だったらしい。

 ラブカ君も、なんだって私とコイツらを引き合わせたのかしら。



「……なるほどな。わかった。合格だ2人とも」


「……………」


「ふっ、そっちの寡黙なのはただ頷くだけか。まあそれもいいだろう。それで……キャメルよ、合否において白黒つけた方がいいか? 合格は白か? 黒か?」


「ふふふ、言うまでもないでしょう! もちろん白だ!」


「その心は?」


「私の輝かしい未来! すなわち白い光である!」


「花丸だ。へっ、けっこー好きだぞ、お前のそのそういうのは。さて次だラブカ」


「はい。了解しました」



 あれよあれよと話が済んで、小原は足早に次の目的地に行こうとしている。

 私は話についていけなかった。



「合格ってなによ」


「ん? んー、まあそれは最後のお楽しみって奴だ」



 小原は教えてくれなかった。なんなのよコイツ。

 ムカつくけど今ここで手を出したところで負けるのは目に見えている。小原は王都の勇者グループのなかでも1、2を争う実力者。敵うはずもない。

 “アイツ”みたいに殴りかかるなんてもっての他。



「ん?」



 ラブカ君が別の場所に案内する途中、校舎に入る前に小原が何かを見つけた。それは明るい茶髪の女子だった。腰には剣を携えている。

 私目線からして、まあ可愛いんじゃない?知らないけど。



「なあ、アイツは? それとも別の学年か?」



 茶髪のスラッとした体型の女の子をジッと見つめた後、小原はラブカ君にそう聞いた。



「ああ、彼女ですか。彼女は今回の件を一応伝えはしたんですけどね」



 ラブカ君は苦い顔をする。



「興味ない、と突っぱねられてしまって」


「そーなのか? 見た感じなかなかのもんだと思ったんだが」


「確かに実力はありますよ。でも、興味ないと一度言えばテコでも動かないので」


「名前は?」


「フィオナ・カラブローネです」


「“スズメバチ”? ふーん、蜂。ね」



 メガネの奥の目が細まる。小原は顎に手を当てて思案顔になったかと思うと、突然手を挙げて茶髪の女子に声をかけた。



「おーい、そこの少女! 俺は勇者なんだが」



 なんだその声の掛け方。

 勇者であることの特権をフルに活用して、無理やり反応させようとしている。話しかけて無視させないためだ。

 このオッサン最低ね。勇者だからって何でもしていいわけじゃないのよ?



「……なんですか、小原様」



 フィオナ、と紹介された少女は渋々と振り返った。

 服装は軽そうなオレンジ色のタンクトップと白色の短パンで、汗をかいている事から朝練終わりらしい。汗が滲んでスポーツブラが透けて見えている。

 というか小原には反応して、私には目をくれない。一瞬だけ視線を向けたがすぐに離された。

 カンジわるー。



「いやなに、今回の件。お前も話は聞いてるだろ? なんで参加しないのかなと」


「……別にいいじゃないですか。強制ではないのでしょう?」


「もちろんそうだ。でも、見た感じお前もなかなかの実力者だろうと思ってな」


「お褒めに預かり光栄です。ですが、私は考えを変えるつもりはありませんから」



 今回の件、と言うのがなんなのかサッパリわからないけど、向こうはどうやら頑として断るらしい。

 融通の効かない感じは、なんかCクラスの歴代最高の秀才ともてはやされていたガーリック君を思い出す。

 アイツも見た目だけは爽やかイケメンだったけどね。



「そうか……まあ仕方ないな。今回の件は実は、実力に自信のある者を選出する意味合いもあったのだが———自信ないんじゃなぁ」


「は?」



 なんか急にカマかけ始めた。何してんのこのオッサン。

 それにまんまと引っかかったフィオナは、鋭い目を勇者に向けた。うわ、終わったわねあの女。



(意地っ張りなのか負けず嫌いなのか知らないけど、自分の人生無駄にするような奴は全員弱者よ)



 賢者と呼ばれる人間は生き残って成果を残し、歴史に名を残したから賢者なのよ。

 冒険者のような命をかけるバカとはかけ離れている。

 頭のいい奴ほど命を大事にするのよ。



「聞き捨てなりませんね」



 ジッ、と見つめ合っていた小原とフィオナ。

 小原は黙ってフィオナの出方を伺っていた。

 それにフィオナが声を上げる。



「私が、自分の剣に自信がないと?」


「ふっ。悪口に聞こえたなら謝る、すまない。だが事実、腕に自信のある奴を募集していたつもりだ」


「………どうしても私を参加させたいのですか?」


「どうしてもお前が参加したくないなら、それを尊重はするさ。お前の人生だ、勝手にすりゃいい。けどなー、勿体無いと思ってな」


「…………………」



 フィオナは静かにキレていた。

 だからやめろって。勇者に対してなんでそこまで睨み効かせられるのよ。頭沸いてるの?

 それに対して小原は背を向けた。



「ま、お前がそのつもりならもうとやかく言わねーさ。じゃあな。未来の王都の護り人よ、職場で会ったら飯でも奢るわ」


「………………」



 小原は歩き出し、フィオナはその背中を黙って見送った。

 そして小原が私たちの元に戻って来て、それを見たフィオナが意識を外した———次の瞬間。

 シュッ、と小原が突然振り返って、その手から銀色の何かがフィオナに向かって飛んで行った。



(な、なにあれ)



 まだこの体とコアの扱いに慣れていないからわからなかった。

 銀色の光は真っ直ぐにフィオナに飛んでいく。



「———ッ!」



 私が視認できなかったのに、フィオナは意識を外していたにも関わらず飛んできたそれに反応した。

 そしてこれまた目にも止まらぬ速さで腰の剣に手を伸ばした。そこまでは見えた。


 カラン、カラン。


 気づけばフィオナの足元には、ナイフが落ちていた。

 切先を頂点としてそこから縦に真っ二つに切り裂かれたナイフだ。



(お、小原が投げたのはナイフで、それをフィオナって奴は瞬時に反応して腰の剣を抜いて、切り裂いた)



 すでに剣は鞘に収められている。

 わずか1秒にも満たない速度の世界。その中での小さな攻防。

 それだけでフィオナの実力は計り知れた。



「……なんのつもりですか?」


「値踏み。ほんと、勿体無いな、ってな」



 小原のそのセリフにフィオナは、キュッ、と口を結んで不機嫌な顔になった。



「じゃあ行くか。もう予定の候補生達は集まってんだろ? 案内してくれ、ラブカ」


「ええ」



 ラブカ君は快く小原を案内するために進み始める。

 私はポカンとしていたが、テイパーとか言う女子に丁寧語で急かされて、慌てて足を動かして追いかける。



(なんなのよ、ホントにさぁ!)



 私がわからないことすんじゃねーよ!!

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