ひっつく上位者
周りの目が痛い。
一旦はガドガドが引っ付いて回るのを受け入れて、Cクラスの教室まで来た。そこまではまあ何も問題はなかった。
ただ問題は教室に入ってからだった。
「どーしてBクラスのガドガドがソニアと一緒に来たの?」
「私見たけど食堂でも一緒だったわ」
「なに? 降格したってわけでもないんでしょ?」
「そうね。ただ、最近のソニアってBクラスの女子とよく一緒にいるから」
「それは私も知ってるわ。ロザリアは元同室でわかるけど、レッサーベアーとかロミロミとか関係性わかんないわよね」
「最近来た“天才”の軍人ライトニングとフライヤーともだいぶ仲良いみたいだし」
「「何かあるのかしら……?」」
近くでパスティラとカミラが話しているのが聞こえた。彼女らは俺の横にガドガドがいるのが気になっている。
彼女ら以外も当然気になっている。
そりゃそうだ。
ここは実力主義の世界。C級の面々にとって、ガドガドのようなB級は無視できない存在。
憧れ、妬み、などなど色んな感情が渦巻いている。
「あらァ?」
ガドガドを連れてきたのは失敗だっただろうか。
そう思い始めた時だった。
教室に入ってきて、カミラの方へ向かう途中のミカライトが、俺の席の隣を横切る時に興味深そうな声を上げた。
その目はガドガドに向いている。
「あらあらァ、こんな所でアナタと会うなんてねェ」
食堂の時のフライヤーと似た対応の仕方だった。
ミカライトもガドガドの事を知っているようだった。
カミラがそれに反応する。
「あなたは何か知ってるの?」
「何ってェ?」
「なんでB級のガドガドがソニアのそばにいるのかって事。さっきから教室のみんなはその事が気になってるのよ」
「ふゥん……?」
今度は俺の方に視線が向く。ジロジロと頭の先から座っている足の方まで見られた。
じっくり見たかと思うと、ふっ、とミカライトはふんわりと笑った。
「さァねェ? 思い当たる節はないわねェ……ただァ」
「ただ?」
カミラが聞き返したのを、ミカライトはこう答えた。
「ソニアはどうやらライトニングの義理の妹って事らしいからァ、その事が関係してるのかもねェ?」
ザワッ!!
教室の喧騒が激しくなる。
慌てて立ち上がって、ミカライトに顔を寄せる。
「ちょっ、ちょっと! どこでそれを……ていうかこんな所で言わなくたって!」
「あらァ? もしかしてシークレットだったァ?」
「そうじゃなくて、その、恥ずかしいというか……」
「ふゥん? そうじゃないって言うのは、どー言う意味ィ?」
「へ?」
「だからァ、秘密にしてなかったってことでしょ? なら言うタイミングがあれば言ってたわけよねェ? それはどうして?」
「なんでって、姐さんと姉妹な事は事実だから」
「…………へェ、そう。なるほどねェ」
深みのある笑みを浮かべてから、ミカライトは俺に背を向けてカミラの方に行った。そして背中越しに手を振った。
「まァ、ごめんねェ」
それだけ言って俺から離れて行った。
彼女がいなくなってから、すぐにライダークが横から机を叩きながら俺の前に来た。ズイッと顔を近づけてくる。
「どーいうことだ⁉︎ なんでお前がライトニング・ファイアフライと兄弟になってんだ⁉︎」
「えーと、なるもんはなるって言うか」
「アイツの噂は俺でも知ってるぞ! 軍学校で天才飛び級即軍事基地就任のバケモンだ! それと義理の兄弟になったって事だよな⁉︎」
「ま、まあ、そう」
「……はー、まあそれがどうにかなるわけでもないけどよ。お前ってなんだかんだ上に行くポテンシャルだけはあるんだよな。運とか」
腕を組んで、品定めするように見られる。
「いや姐さんが何かして私が上に行くわけじゃない」
「あん?」
「私が歯を食いしばらなきゃ意味ないでしょ?」
「……ふん。真っ直ぐな目で言いやがる。ま、それが言えりゃ上出来だな。あっはっは!」
「上出来?」
「俺のライバルとして」
犬歯をチラつかせ、自身の胸を拳で叩きながらそう言い切った。
“ライバル”。
その言葉はストンの胸の中に落ちた。納得できたんだ。
ライダークが俺のライバル。そう言われれば納得してしまった。
「ところでコイツなに?」
スッ、と雰囲気が切り替わってライダークは親指をガドガドに向けた。
座っている俺の隣で何も言わずにずっと立っていた。
そこで、こちらの会話を伺っていたラウラウもやって来て、会話に入る。
「私も気になってたわ。教室に入ったらみんなザワついてるんだもの」
「ごめんなさい。私も詳しいことはわからないの。でもそのわかんない事をわかるための、コレ、って言うか?」
「はぁん? つまりどー言うこと?」
「様子見」
そう答えたところで、教室にニーナが入ってくるのが見えた。こちらを見つけて、そして首を傾げている。
思い出せば今朝はニーナと朝飯食べなかったな。ガドガドの件があって、フライヤーと一緒に食堂に行ったからな。
ゆっくりとニーナが近づいてくる。
「……相変わらずあなたの周りは賑やかね。それに、いつも景色が変わってる」
ニーナはガドガドを見ている。
気になるのは仕方ないだろうな。
「ニーナには後で詳しく話すから」
「そ」
「おいおい、俺は?」
「仕方ないわね。この二人は私たちの知らないものがあるし、それに男の嫉妬は売れないわよ、ライダーク」
「売れないってなんだ」
ライダークとラウラウには悪いと思ったけど、やっぱりニーナにだけは話してもいいと思った。
ただしハッキリと俺が勇者だとは言わないように、慎重に事情を話すことにした。
ホームルームが始まって一時間目の授業を終えてから、休み時間にニーナと情報を共有した。
「……びー、びーくら、くらすと、あんま、かわらないね。じゅ、じゅぎょう」
ずーっとガドガドは俺の横にいた。
授業中もずっとだ。担任のイシュ先生は何も動じてなくてクールだったが、一時間目の担当だったハイヒルダ先生とかちょっと困り顔だった。事情をかいつまんで説明すると許してくれたが。
ガドガドは、別に無感情と言うわけではない。今も授業の感想を溢した。だから意志薄弱という子じゃなくて、しっかりとした意思を持って俺のそばに来たという事。
(いよいよ、このガドガドがどうして俺のそばに来たのかその理由と……そして学園長がどう絡んでいるのかが気になって来たな)