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いざ更衣室

「それじゃ、また明日」


「おう」



 昼休みまで食堂でサボり、その後の授業には出て、そして放課後にニーナと別れの言葉を交わしてから、俺は一人訓練場となるグラウンドの方へ向かった。これから日課の筋トレが始まる。



(しかし童話にも元に戻る方法はなかったな)



 ニーナに聞いた入れ替わり童話の結末は、元に戻らずに入れ替わった二人は互いの生活をそのまま送ることを決意したとのこと。入れ替わった原因も、元に戻す方法も童話には出てこない。



「もしや俺も同じように戻らないなんて……いやいや! 悲観するな! そうならないために、こうして体を鍛えてるんだろ!」



 戦闘面での優秀成績を取るためには、やはり体を鍛えるしかなかった。落ちこぼれのソニアは、同じ落ちこぼれ組だったニーナ談によると、“深力(コア)”も弱くて体の作りも悪く、とても話にならないレベルだったと言う。

 元の世界ではそれなりに喧嘩もしていた俺もこの体のことはすぐにわかった。やはりソニアの体は他者から見ても分かる通り、かなり弱いことがわかる。すぐにでも骨が折れそうなくらい細くて筋肉がない。

 コアについてはまだ分からないことだらけなので、まずはこの世界の人間では無い俺でもわかる筋トレをしよう。そう言う事で筋トレは日課だ。



「と、言っても問題は身体の弱さだけじゃなくて……」



 グラウンドに出る前に制服から運動着に着替える必要がある。

 そのために俺にとって重大な問題が二つある。



「これが体操着……」



 体操着袋から取り出したのはこれから着る服。

 問題一つ目は運動着がとてもエロいこと。上はノースリーブで肩の出たタンクトップで、胸が大きい影響からかヘソとお腹も出てしまう。さらに下はブルマみたいな、パンツみたいな、股間だけを覆う三角形のスポーツパンツ。足が付け根から全部露出してしまう。それを着るのがすごく恥ずかしい。さらには下着もスポーツ用のものに着替える必要があるため、なるべく裸を見ないようにするのに一苦労だ。



「そして、女子更衣室……」



 女子更衣室の前に立つ。扉の向こうから女の子の話し声が聞こえる。すぐ隣の部屋は男子更衣室だ。男子がそちらに入っていくのを見て羨ましいと思ってしまう。

 問題二つ目は女子更衣室に入らないといけない事。別の場所で着替えることも考えて実行したのだが、そうすると先生から怒られる。ここ以外で着替えるのは禁止されているのだ。

 理由は……なんか、『勇者』以外の異性に肌を見せるなとかなんとか。だったらこんなエロい体操着にしないでくれと言いたいが、この体操着も『勇者』のためなんだとか。



「何もかも勇者のためか……くそぉ」



 どういう意図があるんだか、まったく。

 とにかく俺は意を決して顔を下に向けながら更衣室に入る。顔を下に向けていたので床しか見えず、女の子の姿は見なくて済んだ。

 ただ入ってきた俺に向かう女子からの視線や、下を向いたままの俺を気にして話し合う声が聞こえた。あと、慣れない女の子の匂いがする。するのは当然なんだけど。

 なんとか自分のロッカーまで辿り着く。女子更衣室は結構広くて、学生一人に一つロッカーが設けられている。隣のロッカーはルームメイトのロザリアだ。



「見ないように、見ないように……」



 他人の体も、自分の体も見ないようにして着替えていく。

 まずば制服のジャケット。胸の下で留めているボタンを外して、両腕を伸ばして脱いでいく。すると自然と胸を反らす形になり胸が張る。ただでさえ大きな胸を抑え込んでいたブラウスのボタンからプチプチと嫌な音がした。



「ふー……ふー……」



 落ち着け。

 次は無事なのか心配なブラウスだ。一番上のボタンは外していたのでその下、胸の上の第二ボタンから外していく。第三、第四と外していくと胸に腕が乗る。親指側の手の側面がむにゅーと胸に押し込まれて、沈む。



「うくっ! はあー、はあー」



 心臓が飛び出そうなくらい鼓動が一瞬で早く、強く脈動した。すぐさま息を吐き出して呼吸を整えようとするが、さっきからずっと息遣いが荒いままだ。上下する胸にさらに手が押し込まれる。

 ブラウスの一番下のボタンを外せば後は———ブラウスを脱ぐ時に胸を反らせた時、ぎゅううっと締め付けられるような感覚を伝えてきたブラジャーを外す番だ。



「ぐ、くっ。見ないよう、見ないよう……俺は硬派、俺は硬派、俺は硬派……」



 ブラに包まれた己の乳房と、谷間を見ないように目を逸らす。もちろん他の場所を見ればそこには他の女の子がいるので、目を瞑る。

 ブラを外すのにまだ慣れていない俺は背中に手を回してホックを外すのにも一苦労するが……しかし同時に、思わぬ試練が待ち構えていた。

 その試練とは更衣室から聞こえる女子同士の会話だ。



「わー! アンタ、おっぱい大きいわねぇ~!」


「ちょ、やめてよー! 私はそんなに大きく無いって!」


「いやいやデカいわよ。分けて欲しいくらいだわ」


「そんなこと……きゃあっ!」


「ほれほれ~、もみもみ~」


(ッ! ぐっ! そ、想像しちまった!)



 声だけ聞いて、僅かに聞こえる衣擦れの音も相まって、頭の中ですぐ近くで行われているであろう女の子同士の絡み合いを想像してしまった。まさか目を瞑ってることにこんな落とし穴があったとは!



(ま、まずい! てか胸なら俺の方がデカいんじゃないか……ってそこじゃ無い! 何考えてんだ俺は! バカやろう!)



 とにかく着替えるんだ!そう言い聞かせて、ブラを脱ぎ捨てる。外気が俺の上半身に当たり、肌で冷たい空気を感じ取って、感覚的に今の自分の体の形を教えてくる。胸が大きく、腹も細く、くびれた女の体が今の俺———



「待て待て待て! いいからもう! そういうのは!」


「ねぇ!」


「はいいい!」



 自分に言い聞かせていたところで、後ろから突然声をかけられた。ちょっと大きめな声に驚く。

 ちょうどスポーツブラに腕を通し終えて、後は胸の位置を調節しているところだったので、乳房に当てていた手を驚いた拍子に押し込んで、その柔らかさを掌で感じ取ってしまう。



「~~~ッ!」


「ねぇ、大丈夫?」


「あっ、はい! 大丈夫ですっ!」


「だ、大丈夫……? 最近、よく来るよね」


「え? あ……」



 振り向けばそこには、運動着を着た今の俺と同じ銀髪の女の子が立っていた。

 彼女の名前はレッサーベアー・ブロッサム。Bクラスの生徒だ。

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