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勇者の娘と古代の勇者

 着信ナシ。

 貴族や王族のために用意された寮の二階にある個室。そこで枕元の充電器コードを弄りながら、つまらなそうにメールボックスや通話履歴を眺める。



「……ほんと、どこ言ったのかしら」



 一昨日のB級争奪戦が終わった後に、友人を探してもどこにもいなかった。彼女に用意されたという新しい部屋や、前までの部屋であるロザリアのいる部屋にも訪ねたが、どこにもいない。フランの方に何か連絡が来ているのかと思えばそんなこともない。



「どうしても会いたいとか、そー言うーんじゃないけどさ」



 一人で言い訳する。

 問題なのは彼女がいないと、途端にヒマになる。昨日は夜中の20時あたりにはもう、学園長から早めに寮の部屋に戻っていなさいとお達しが来たため、さらにヒマだった。

 ガンマンズっていう反勇者召喚レジスタンスが学園に攻めてきて、確かに爆発音とか聞こえてきたけど、大したことにはなっていなかった。



「五芒星のリキュアとシルビアが活躍したって聞いたけど」



 少し考えてから、ニーナはネコミミの付いたフード付きパーカーを着て部屋から出た。



(別に何か役に立ちたいとかそう言うんじゃないから)



 ただ自分がソニアの知らない事を知ってて、帰ってきた時に教えたら驚く顔がみれるだろう。そんな期待で動いているだけ。そう自分に言い訳する。

 はやる気持ちのまま、小さな歩幅を忙しなく動かして寮の屋上に行く。



「確か寮の屋上でシルビアが……あれ?」



 屋上について扉の前に立つと話し声が聞こえてきた。

 ゆっくりと音が鳴らないように扉を開けて様子を見てみると、二人の制服を着た女子が話しているところだった。

 二人のうちの一人は見知った顔だった。紫色の髪をして、胸がソニアと同格の大きさを持つ人物。



(ラウラウ? それともう一人は……誰だっけ)



 白と黒の中間、灰色の髪をした長髪の女の子。金色の瞳に整った美人な顔立ちをしている。

 しかしニーナは自分と関わらない人物には興味がないため、同級生でも覚えていない顔の方が多い。

 小さく聞こえる話し声を聞きながら、ニーナはフランで検索して、126代目勇者パーティ候補の中から灰色髪の彼女の正体と名前を探す。

 Cクラスの面々はこの前の争奪戦の折に調べたから違う。だから他のクラスだ。



「……どう思う? ラウラウ」



 話し声が聞こえる。

 もう一人が何か、ラウラウに聞いているようだ。



「どうって……まあ、勇者は大事なんじゃない?」


(勇者の話?)



 真面目な話かもしれない。

 どういう内容を話しているかは途中から来たためわからないが。



「でも以前、あなたは勇者が一番ではないと言った。そうよね」


「そりゃそうでしょ。私は私が強くなるためが一番」



 ラウラウらしい答え。

 ソニアと戦っている時も強さに執着があったように思えたし、レッサーベアー相手にライバル視をして挑んだ時の気迫からしても、そう答えてもおかしくない。

 ただ勇者が一番ではないと言うのはこの国、この世界では異質かも。



「ただ……ちょっと揺らいできてる。本当にこのままでいいのかなって……ううん、違う。私はまだまだ変われるのよ」


「やっぱりB級争奪戦の時から何か変わった」


「そ、そうかな。でも強くなれるって考えるとこんなにワクワクするんだってのは味わってる。ずっと」


「いい傾向みたいね、羨ましいわ」


「ま、私の武器壊れちゃったし、また古都に行って作ってもらわなきゃいけないんだけどね」



 くすくすと笑い合う二人。

 けれどそれもほんの少しの間で、すぐに灰色の髪をした方が目を伏せて屋上から下を見下ろす。



「……私はまだ目指し続けるしかできない」


「それでもいいと思うけど」


「何がいいかまだわからない。何でもいいと思えるほど私は強くない」


「……ま! 何でもいいって思うのは思考放棄と紙一重の考え方だろうし慎重に悩みながら考えるのは何にせよいいことよ」


「わかってる。わかってるけど、それらを吹き飛ばすほどに………」



 ギュッと柵の手すりを握り、絞り出すように言う。



「勝てないと思ってしまう悩みの方が大きい」


「……すごいよね、ガンマンズの連中を三人も倒しちゃうなんて。あの爆発を起こした奴と、正面玄関前で二人」


「そんな成果はどうでもいい!」



 両手で手すりを握り、両足を広げ、顔を伏せて身体を震わせながら、気持ちを吐露する。



「私は、そんな成果なんて関係なく、何度も挑んで強さを知っている……“勇者の娘”に勝てるビジョンが浮かばない」


「……ロミロミ」



 そこまで聞いてニーナは彼女の正体を知る。前にソニアが濡れた時、服を貸してくれたラウラウと同室の女の子。



(ロミロミ・アーティファクト“ハウス”)



 エンシャントヒーローズの末裔だっけ、とニーナは思い出しながらフランで検索した情報と照らし合わせ確認する。

 その間にもロミロミとラウラウの話は続く。



「昨日、あのダイスさんがガンマンズの王都襲撃に加担したと聞いたの」


「え?」


「何が目的なのか、私にはわかる。あの人は考えが深く純粋な人……だからこそ、すごく単純な理由でもそれが真理だと思い込むと、原動力になってしまうような人」


「……まあ私も噂は聞いたことあるけど」


「私と同じエンシャントヒーローズのダイスさんは行動したんだ。でも私は、何ができた?」


「シルビアに勝つこと、そしてA級に上がることがロミロミのやるべき事だと?」


「ええ、そう思ってる」


「ロミロミ……えっと」



 ラウラウは何か伝えようとして、しかし言葉に詰まる、

 ロミロミはそれを不思議に思い、ラウラウの方に振り向いた。

 少し静寂な時間と、湖から吹く風が流れて、ラウラウは笑って誤魔化した。



「あ、あはは! 何か言おうとして忘れちゃった! な、何でもないから、ごめんね」


「………」


「まーでも、強さを求めてるのは私と同じだよ。私もレッサーベアー・ブロッサムに挑んで負けた。あまりの力差に一度は絶望したわ。それでもね」



 ラウラウは両腰に手を当てて、胸を張り、空を見上げた。



「子供だっただけって気づいた。自分の信じてるものが絶対だと思い込んでただけ、それに気づいたから私はまだまだ強くなれると信じてる」


「……私も子供?」


「んー、どうだろ。服はすごい大人びてるかなーって思う時はあるけど」


「はっきりと子供だとは言わないんだ」


「思った事ない事は言わないわよ。ただ大人も知らない私が無責任に大人だと言うつもりもないわ」


「ふっ、えへへ……ありがと。なんか照れ臭いな、こう言う話は」


「あはは!」



 青春してるなぁ、とニーナは感想を抱く。

 と、そこで耳にある音が届いてきて、まずい状況な事に気づく。急いで扉を開けて外に出て、二人に声をかける。



「ねぇ!」


「ん? あれ、ボルティナ?」



 ニーナに気づいた二人が振り向く。

 そんな彼女らに告げる。



「スカート押さえて!」


「「え?」」



 風の音を聞いて急いで伝えたが遅かった。

 二人が驚いた声を上げるのと、突風が彼女らのスカートを巻き上げるのは同時だった。

 ラウラウのストライプ柄の水色パンツと、ロミロミのリボンが沢山ついた紫色パンツが露わになった。



「「きゃあああ!!」」


「この場所油断しちゃダメなのよ」

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