表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/102

古代の勇者

「オシリン、一発俺をぶん殴ってくれ」


「な、なんで?」



 駐屯基地から出てすぐ、みんなあの場にいた全員がいなくなった後に、オシリンに右頬を差し出した。



「冷静じゃなかった……理想ばっか口走ってた。センセーの教えは理想ばかり求めるな、そして理屈ばかり求めるな。理屈を考える頭になってなかった……」


「……それは、ダメなことなの?」


「え?」


「さっきの()()()()、カッコいいと思った。喧嘩をするって言ってたのは、正直怖いと思ったけど、でも勇者相手に物怖じせずに言えて、そして争うって手段を取れる決断力は凄いと思った」


「褒められるようなことは……」


「褒めてない、感想」


「ふっ、そっか、ありがたく貰っとく……エクレアとショコラ。あの二人のことが気がかりだ」


「それも大丈夫だと思う。小原灯旗はこの国の軍部から信頼されてる存在。その信頼は勇者の名前だけじゃなくて、本当の中身のある信頼を築いてる。だから信じていいと思う」


「まあ、正直性格的には遠からず近からずって感じの人に見えたな」


「ところで」


「ん?」


「それがソニア姉の素? ちょっぴり凶暴そうな物言いの、アラクレの男みたいな口調」


「…………ち、違うわよ」


「取り繕うんだ、妹に」


「……い、妹いたことないから扱い方わかんないよー」


「今いるじゃん。今、ここにいる、私に対してどう接したいかだよ。まあ私も偉そうなこと言えた人間じゃないけど」


「……まあ可愛い妹が、よく話してくれるようになった記念に取り繕うのはやめにするか」


「そーいう絡み方はやめてほしいなー、私頭悪いから」



 ぷくーと頬を膨らませたオシリンに二の腕をペチペチ叩かれる。

 少しは仲良くなれたと言う実感がある。

 と、そういえばライトニング姐はどうしたんだろう。オシラーゼが合流してるはずだが。



「ん、ちょっと待ってソニア姉」



 と、そこで声色が真面目で低い声に変わったオシリンが俺を足止めさせた。そして鼻を鳴らす。何か匂いを嗅いでいるようだ。

 足を止めた場所は、神殿の真下。階段の下だ。

 オシリンは突然上を向いた。



「血の匂い! それも神殿から!」


「え?」



 神殿から血の匂い。

 神殿にはフライヤーと副官アキツ、そして近くには姐さんとオシラーゼがいるはず。

 オシリンに続いて階段上を見上げた瞬間、ゴロゴロと階段から()()()()が転がり落ちて来た。



「え……」



 それは貴族が着るような装飾が立派なジャケットを羽織っていた。服も貴族っぽい。

 恰幅がよく、でっぷりとした腹の出た図体のでかい体の男。

 そして夜中の暗闇でも分かるくらい身体中傷だらけで、血まみれだった。階段から落ちた傷だけじゃなく、切られたような跡が残っている。



「な、なんだコレ! いや! まずは病院に! すぐ近くに陸軍の駐屯基地あるし医療班とかいるか?」


「……………」


「ん? オシリン?」



 急いで怪我人を助けないと。そう逸る気持ちになる俺に対して、オシリンは傷だらけの男を見て血の気が引いたように顔を真っ青にしていた。

 男が目を開け、そして俺を見る。



「目が開いた! よかった、死んだわけじゃな」


「なんで……」


「オシリン?」


「なんで貴方がここに……な、なんで」



 オシリンは傷だらけの男を知っているのか驚愕の表情のまま、俺の腕を掴んで引き、一歩一歩後ろに下がって離れようとする。



「お、おいなんなんだよ! なんで怪我人から離すようなこと」


「やばい! 何かやばい! 逃げようソニア姉ッ!」


「お前、勇者か」



 俺を見据える倒れた男が、重々しい声でそう言った。不思議とその言葉が耳に残った。

 男は血を流しながらも立ち上がった。そしてコアによって剣を出現させると、俺に向けて来た。



「勇者なら死ね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ