星のカケラ
「で、大神官様の言葉を借りるけど、ライトニング」
「ん?」
約束していたパン屋。こじんまりとして、小麦粉のいい匂いのする店。
そこでのんびりしていた俺たち。
俺はカレーパンが良かったが初めてきたお客さんとして綺麗な黒髪の女性から色々とメニューを見せてもらって、つい選んだのは甘そうな生クリームの入ったパン。しかしかなり美味しい。ソニアの身体は甘いものが好きなのか?
ライトニング姐さんはチョコパン、フライヤーはコッペパン、オシリンオシラーゼは蒸しパンで、アキツはあんぱん。それぞれ別々のパンを食べた。蒸しパン懐かしい。
そんな中で、フライヤーが姐さんに神妙な面持ち尋ねた。
「その手」
フライヤーは姐さんの右手、そして俺の右手を指差した。パンを持ったその手には包帯を巻いている。
「“兄弟”の契りっていうやつ、やったんでしょ?」
「ああ」
姐さんは何でもないように短くハッキリ答えてから、俺の肩を抱き寄せて頬をくっつけて、自信満々に自慢するように。
姐さんの頬は柔らかかった。
「私の新しい自慢の妹だ。いいだろ」
ちょっと照れくさい。
そんなライトニング姐さんに、疑心の眼を向けるフライヤー。
「大神官様も言ってたでしょう。“信用”する相手は慎重に選ぶべきだと……会って一日どころか一晩って時間の間柄なのに、そんな慎重に選んだとは思えない……」
「兄弟は選ぶもんか? 家族ってのは選べるもんか?」
「……いや」
「そうだよな」
「でも、だったらあなたは考えて行ったの?」
「お前が興味を持っていて、オシラーゼが懐いてた。そんで話し辛そうにしてたソニアが、本当に辛そうに見えた」
「……そう。でもそれなら、オシリンの気持ちはどうなるのよ。オシラーゼも」
……そこは俺も気になっていた。
姐さんと兄弟、姉妹になったこと事態は……まあ俺的には、性格似てるって感じてたから別にいい。一緒にいて嫌じゃない。
ただオシリンの方を見れば面白くなさそうに、俺からの視線を無視する。年上だからと言って突然姉ができれば不満も少なからず生まれるだろう。
(もう一つ、俺が元に戻る時どうするかって問題もあるが、それは俺の問題。それよりもオシリンやオシラーゼ達は先にライトニングと兄弟だったのに、急に俺が……)
「これからだ。家族だから私も、ソニアも、オシリンも、オシラーゼもみんな考え続ける。いっぱい考えられる相手が、家族だ」
「勝手にあなたが結んだくせに」
フライヤーはつまらなそうに紅茶を口に含み、ゴクリと喉が鳴るほど分かりやすく飲み込んだ。
「で、ソニア。どうする? あの件」
「まあそこは、私も事情を聞いたから協力するわ」
姐さんが聞いているのは朝倉颯太が、メイドや奴隷に対して酷い事をしているのでは無いのかと言う話。そのために俺はここに来た。
オシリンもそこは協力的になってくれている。
ただ決めつけるのはダメだ。だからこそ調査が必要。何か情報が手に入る方法を見つけたい所だが。
「私ここの地理と人間に疎いので、情報を集めようにもやり方がわからないわ。どうしたらいい? 姐さん」
「今は下手に動けないな。あの神殿の柱が壊されたって一件……小原さんからは上手く犯人を隠されたから」
「隠された?」
「雰囲気から察したけど、すでに犯人がわかった上で私たちには何も情報を与えなかった。まあ私たちが関係ないのもあるでしょうけど」
「誰なの?」
「「ガンマンズ」」
姐さんとフライヤーは同時に答えた。ガンマンズとは何だろう。
フライヤーは少し考えるそぶりを見せてから、俺に説明するように話し始める。この世界の常識だが何も知らない俺に教えてくれるようだ。
「整理しましょう。ガンマンズとは勇者召喚反対勢力の、いわば王国の意向に反対する武装集団レジスタンス」
「テロリスト?」
「テロリストっていうのは一般人相手にも容赦ないもの達のこと、ガンマンズの標的は勇者召喚を推進する者らと勇者一派だけ。まあ半分テロリストってところかしら。とにかく厄介な集団で、中心となっているのは勇者の一人井垣葉月。それに仲間には笹村哲郎がいるとされているわ」
「……なんで勇者召喚を反対するの?」
「帰れるか不安だから。なにせ勇者が帰った試しがないから」
「……そう。それでその人達はなんで神殿の柱を?」
「あの神殿は勇者召喚をする場所だから。まあただ柱を壊しただけのチンケなものではないでしょうけど」
何か狙いがあったはず、とフライヤーは締め括った。
何にせよそのガンマンズってのが動いてるから、今はまともに行動出来ないってわけか。
「なあ、今の説明中考えてたんだが、軍部の方に話を聞いてみないか? どのみち大神官様から話を聞いたと言う報告はするんだし」
「……その前に、私には話してくれないの? ブラックパンツァーが王都に来た目的」
「大っぴらに話せるもんじゃない。後で話す」
姐さんがそう答えてくれた。
パン屋の中で話せる内容じゃないし、何より被害者かも知れないメイドや奴隷の気持ちの問題もある。
「それじゃとりあえず王都の駐屯基地に行くか」
方針は決まった。
綺麗な黒髪の、素敵な女性店員さんにお礼を言ってからパン屋を後にした。