ガンマンズとは
「繰り返しになるが、リーダーの井垣が率いる彼女らガンマンズの目的は、勇者召喚の撤廃だ」
もみあげとくっつくくらい顎髭を蓄え、眼鏡をかけた渋いオジサン小原は、現在の状況を整理して皆と共有する。
「なぜそんな事をするのか。理由と動機は、彼女が111代目であり魔王を倒せば元の世界に帰れると言うルールがあるにも関わらず自分が召喚された時点で100年も続いている現状を不安視し、魔王を倒せない不安と本当に帰れるのかどうかの疑いから来るものだと考察できる。というかそれが答え」
小原は次に、独自の自警団を率いる巻島の方を見た。
「で、彼女らの動向は……」
スポーツ刈りの巻島は腕を組みながら、ダルそうに小原からの視線を受けて答える。
「現状、召喚するための神殿や他の勇者達が襲われている。事態は、俺の私見では大した事ないと思うが、まあ相手は勇者だ。ただワガママな子供がちょっかいかけてきているって感じの規模の被害ではあるが、舐めてかかっていい相手でもない」
「と言っても規模が小さすぎて動向を完璧に追えてるわけじゃないから、次に何するかは定かではないわ」
と、旦那の答えに付け加える巻島夜歌。
「しかし今回、その今までわからなかったガンマンズの動きが明確に分かった」
よく通る声を発したリーダー獅子王英雄。
興味ない颯太と、寝ているでぶっちょの春山桃哉、陰気な影山緋文以外の全員が英雄の方に視線を向ける。
「事の発端はこれだ」
ゴト、と机の上に置かれたのは何かの破片。
「神殿の柱が一本無くなっていた。これはその破片。そして現場には『ザ・ワン 勇者の一人を誘拐する』と日本語で書かれていた。実際日本語かどうかは問題ではないが、ザ・ワンとは……」
「井垣が反乱行為を行った現場には必ずザ・ワンと書かれている」
巻島が英雄の説明に付け加える。
ザ・ワン。それが井垣だ。
すなわちこのメッセージは、井垣が勇者の誰かを誘拐すると言う意味だ。
「誰かって誰にゃの?」
猫みたいに「にゃ」と言ってしまう日立が聞く。
「狙いが誰かはわからない。ただ、ガンマンズの目的は俺たち勇者にとっても他人事ではない。であるなら他の勇者が協力していても不思議ではない。実際114代目勇者の笹村哲郎も、まだ確定ではない疑いの段階だが、ほとんど仲間だと推察している」
「はいはーい。じゃあ仁科さんは? 怪しくないですかー? 井垣の次の代なんだし」
興味なさそうに不貞腐れていた颯太が、仁科を攻撃できると思ってそんな事を言う。
仁科は英雄を見る。英雄は頷いて、しっかりと答える。
「俺は仁科を信じている。それだけはみんな分かって欲しい」
「チッ」
颯太は舌打ちして、また態度悪くそっぽを向く。
そんな颯太に仁科も答える。
「俺も信じて欲しいと思っている。これまで怪しまれてきたが、俺はガンマンズじゃない……が、しかし証拠がないのも事実だな。ならこうしよう」
授業中にもするように、仁科は立ち上がって会議室を歩きながら、論ずる。
「俺は勇者召喚に関して、撤廃すべきではないと考えている。ガンマンズとは真逆だ。それはなぜか、まだ魔王を倒せていないからだ。帰れる保証がまだある以上諦めることはできないし、何より……10年以上もいれば、異世界にも愛着が湧く。この世界のためにも魔王を倒したいって気持ちはあるんだ」
自分で学校を開いている仁科だ。
仁科の言葉に小原と巻島は腕を組んで黙って聞いていて、夜歌と日立はうんうんと頷く。他にも仁科の言葉に感銘を受けていたり、寝ていた桃哉がいつの間にか起きて話を聞いていたりと、仁科を疑う者は減っていった。
「ふむ、しかしそうなってくるとなぜガンマンズは撤廃を望んでいるのだろうな」
話している途中で疑問に思った仁科は、自分の席に戻ってきてその疑問を吐露した。
「考えられるのはなんだと思う、ヒデさん」
「……俺は井垣や、仲間だという哲郎を知っているつもりだ。その上で言わせて貰えば恐らく撤廃の狙いは、これ以上この世界に連れて来られる転移者達を増やしたくないって事だろうな。これ以上帰れずに涙を流す者を増やしたくない、と」
「そんな優しい考えなんすかね?」
英雄を尊敬する春樹が質問を投げかける。
その質問に、皆んな押し黙った。ここにいるみんな元の世界に帰れず、時を過ごしている者達だ。少なからず故郷を思う心はある。
よってガンマンズが英雄の言った通り、これ以上転移してくる被害者を増やさない事を考えてしているのだとしたら……賛同したいと思う自分を自覚する。
「……しかし放ってはおけない。いずれこの国の王族とかに危害が加えられたら、たまったもんじゃない」
斎斗が真面目にそう言う。彼は食い止めたいという気持ちだ。
「それに次に来る勇者が魔王を倒してくれる希望となる可能性も0じゃない。0じゃない限り俺はやる……と、言うわけでこの場にいる全員、ガンマンズではないと言う事でいいか?」
仁科が嫌いになった颯太とずっと無感情の緋文以外の全員が頷いた。
仁科は考えた後にこう結論つけた。
「とりあえず、ザ・ワンのメッセージを信じるのであれば勇者は自分の身を第一に考えた方がいいかも知れない。誘拐という事は連れ去られないよう警戒するべきだ」
「家で大人しくしましょうって感じか? まるで不審者が出た時の学校の対応だな」
「こうするしかない、巻島さん。しかし巻島さん達自警団は外での活動もあるだろう。一層気をつけてほしい」
「分かってる」
「じゃあもう話はおしまい?」
いち早くに颯太が立ち上がる。
「それじゃ、私は帰らせてもらうわ。くっだらない会議にこれ以上いたくないし」
「待て! 颯太!」
帰ろうとする颯太を引き止めたのは、小原だった。
小原の怒号に近い声に颯太は身を震わせて立ち止まり、小原の方を恐る恐る向く。そして小原は指を差してこう聞いた。
「ずっと聞いておきたい質問があった。三国志で好きヤツは誰だ!」
「……? は? なにそれ」
小原からの質問の内容が全くわからなかった颯太は、吐き捨てて、部屋から出ていった。
その様子に小原は、怪しむ目を向けた。
一方で、三国志で好きなヤツは誰だ、という質問は会議室にいる全員が聞いていた。
緋文(なんの話?)
日立(三国志? 卑弥呼が判子貰ったやつだっけ)
夜歌(……あー関羽しか知らないわ)
紅屋(趙雲)
仁科(劉備)
蔵馬(曹操)
巻島(陳宮)
斎斗(孔明)
春樹(劉備)
桃哉(呂布)
英雄(馬超)
自分が聞かれたわけでもないのに心の中で答えてしまっている勇者達なのであった。