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怒りの矛先

「で、怒って全員ぶっとばしたと」



 軍の方に車を置いてきたフライヤーとアキツが現場に来て、ライトニングの起こした惨状を見て、フライヤーは腕を組みため息を吐く。



「なにしてるのよアナタ」


「なにが。“家族”をバカにされたんだ怒っていいだろ」


「彼らはオシラーゼをバカにしたんじゃなく、あなたの格好をバカにしたのでしょう? 彼らの狙いは格好のみ。その先にある、アナタの事情を汲み取るはずもない」


「だったらキレるなってか。冷静になって、なんも怒るなってか。そんなんが軍人としての正しさなら、私は軍を抜ける」


「怒りの幅を縮ませろと言っているのよ。鋭く尖った針は鉄をも砕く。怒りの対象をもっと狭めて、なんなら一つの事にのみ怒りを向けるようにするの」


「違う。怒りは操作できるもんじゃない。怒りは野生のパワーだ、本能のパワーだ。理性が至らない所に力がある」


「違う。怒りのパワーが重要だからこそ使い時を見極める。その使うべき時に最大限のパワーを使えるように、何でもかんでもそのパワーを消費するなと言ってるのよ」


「違う」


「違う」



 フライヤーとライトニング。2人とも自分の意見を持って言い争っている。

 その言い合いに俺と副官3名はどうしようかと顔を合わせる。

 と、そこへ倒れたヤンキー達の元へ駆け寄る一人の少女がいた。



「あ、アンタら⁉︎ ど、どうしたってんだい!」



 駆け寄る少女の姿は全身を覆うほどの特攻服ジャケットを羽織り、胸にはサラシを巻いて、腰のベルトには木刀を携えている。まるで彼らの(ヘッド)のような風貌。

 少女はとんがった目と、これでもかと上がった眉と、岩のように硬い眉間のシワを怒りの表情にしてこちらを睨みつけてくる。



「テメェらなにした! ウチのもんに何したんだ!」



 ブチギレた彼女は腰の木刀を抜いて、向けてくる。

 フライヤーとの口論をやめて、ライトニングはその敵意を真っ向から受け止める。



「私が、そいつら、ぶっ飛ばした」


「なぜだ!」


「コレをバカにしたから」



 ライトニングは自分のツノの頭飾りを指差す。



「それだけの理由で?」


「コレだけの理由で、怒ったんだよ。それが事実だ」


「……下等野郎が……ぶっ殺す!」



 突進してきて、木刀を振り下ろしてきた………と、思う。

 女ヘッドの動きを説明できない。何も見えない。速すぎて何をしたのかさっぱりだった。

 ただライトニングに振り下ろされた木刀と、それを受け止めるフライヤーの止まった姿を見て初めて、女ヘッドが何をしたのかを確かめられた。



(は、早え! 女ヘッドの動きもそうだが、その攻撃を素手で受け止めたフライヤーも、かわそうと体を動かしていたライトニングもみんな反応速度がとてつもない!)



 午前中に行われたB級争奪戦。そこでの戦いがまるで赤子の喧嘩のように思える。

 今、目の前で起きた一瞬の攻防は、俺の度肝を抜くのに十分だった。俺の実力をさらに知らしめるのに十分すぎた。



「何してんだフライヤー」



 フライヤーに庇われた形のライトニングは疑問を投げかける。



「別に。これ以上同僚が不祥事を起こすのを見てられなかっただけよ。私の評判に関わる。まったく軍を辞める気があるならさっさと辞めてほしいわ」


「くっ! 貴様らぁ! 下等同士で馴れ合いかよ!」



 女ヘッドは地面を蹴って大きく飛び上がる。その高さは、テレビで見たことのある体操選手がトランポリンで跳ねる高さを遥かに超えていた。



「な、なんだあの跳躍力⁉︎」


「でぇやあああああ!!」



 叫び声と共にフライヤーに向けて木刀が振り下ろされる。とてつもない高さからの落下速度を加えたパワーで。

 あんなの食らったらヤバいぞ!

 俺はフライヤーを庇おうと一歩踏み出した。だがそれをライトニングの副官のオシリンとオシラーゼに止められた。何もできない。

 そして女ヘッドの隕石の如き攻撃がフライヤーに振り下ろされた、かに見えた。

 だが木刀が当たる瞬間、フライヤーの姿が忽然と消えた。



「え! 消えた⁉︎」


「上」



 オシラーゼの声を聞き、上空を見上げると闇夜の空に鎧の金属光沢が街の光に照らされて輝いていた。

 さっきの女ヘッドが飛び上がった高さより遥かに高い位置にいる。



「たっか!」


「ソニア・ブラックパンツァー!」



 俺の名前を呼びながら落ちてくる。

 なんで俺の名前を?



「あなたはあんまり私を見上げないで! スカートの中を見てるでしょう!」



 フライヤーの下半身はドレススカートだ。確かにジャンプしているフライヤーを見上げればパンツを見てしまう事になる。

 しかし目を逸らす前に、ある確実な答えがわかって目を動かせなかった。



(やっぱりフライヤーは俺が男だと知っている!)



 そして俺が目を逸らすより先に、フライヤーが女ヘッドの上に落ちてきて、彼女の背中に手を置いて押さえつけて地面に取り押さえた。

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