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B級のギブソン

———ギブソン・ゼットロック視点。


 食堂で起こった騒ぎはリキュアちゃんが収めてくれていた。その後Bクラスの教室に向かう途中、勝負を挑んできたCクラスの奴ら3人を拳で黙らせ、無事何事もなく教室につき授業を受けている。

 授業中、先生の話を聞きながら心の中ではまた一つの事を考えていた。それは俺の目的であった。



(俺が目指すのは……勇者を越えた勇者になること!!)



 126代目勇者の仲間候補である俺たちの世代をまとめてそのまま、126代目勇者パーティ候補と呼ぶ。だが俺は勇者の仲間に選ばれるつもりはない。

 なぜなら勇者が選ぶのは『色の無い仲間』、言い換えれば『個性の薄い者』であるからだ。これは前の前の代の勇者から俺に当てた忠告だった。



(勇者に選ばれるためには個性が勇者のソレを食っちまわないようにするべきだと、あの勇者は教えてくれた! 個性ってのはテメーの人生哲学と心の持ちようの話じゃねーか!)



 個性をなくせとは、それらを削れという話だ!



(んなもん納得できっかよ! 子供の頃から死んだら自分はどうなるんだろうと考えてきた! 死生観ってやつ。そして行き着いた答えは、死んで自分が消えることが怖いんだ!)



 それなのに自分を生きてる間に消せだって?冗談じゃない!俺はギブソン・ゼットロック!



(俺は! ギブソン・ゼットロックなんだ! 勇者を越える勇者になる!)



 けれどそこで疑問が生まれる。

 勇者ってなんだろう?


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「まーたそれか? ギブソーン」


「しょうがねぇだろ、俺の目標がそれなんだから。けど勇者ってなんだろなって」



 授業が一通り終わり昼休み、飯を食う前に座学で凝り固まった体をほぐすため、運動着を着てグラウンドに来ていた。

 隣には同じBクラスの友達、ライドウ・ヤナギ。属国『陽舟島(ひぶねじま)』から来た秀才。黒髪を風が撫でる。メガネをくいっと上げるとライドウはため息をついた。



「勇者は俺らも目指してるっての」


「それは勇者に選ばれるための目指しだろ? でも俺は自分を殺したくねぇ! だから勇者に選ばれたくない!」


「じゃあ学園から出て行くか?」


「この学園は強くなる方法が山ほどある! だからしばらくはここにいる!」


「勝手なやつだ。でも、この学園で勇者がなんなのか聞くのはやめといた方がいいと思うぞ。ここは勇者が絶対だ」


「なら……なんでここの奴らは勇者の仲間を目指すんだ?」


「それこそ聞くのをやめた方がいいな、バカと思われるぞ、当然の理由があるからな。魔族との戦いを終わらせるために勇者の力が必要で、そのサポートをするのは()()だからだ。自分も家族も名声があがる、裕福になれる」



 確かに勇者パーティとして選ばれた後、勇者が旅を終えると、パーティだった者たちにはそれなりの地位や名誉を与えられている。

 ある者は王都騎士の団長に。

 ある者はとある組織の副団長に。

 ある者は軍の総帥の懐刀に任じられたり。

 ある者は商都で富豪になったり。

 勇者の仲間になったその先の未来は、みんな明るい。



「けど、勇者の栄光に縋るようなこと……やっぱそこに自分の意志はないじゃんか」


「だから勝手な事を言うな。みんながみんなお前じゃ無いんだ。そういう名声を欲しがって上を目指してるやつだって当然いる」


「そうなのか?」


「そういうもんだよ。いい加減、大人になれよ」



 最後のライドウの一言はギブソンの中に色濃く残った。



(本当、勇者ってなんなんだろうな……けど俺も勇者が絶対なものだから越えるべきだと考えたんだし、周りと同じ考えがあるはずなんだが……ん?)



 その時、ギブソンは訓練場となっているグラウンドの端っこに珍しい顔があるのを見つける。



「なあライドウ」


「なんだ」


「あそこにいる銀髪の、おっぱいデカい奴って前までいなかったよな」


「え? あー、アイツか。デケーよな。つってもアイツ、ちょっと前からいたぞ」


「前から?」


「ああ、お前が見つけられてなかっただけだ。俺はおっぱいセンサーがすぐさまアイツを見つけたからな」


「ふーん。いつからいるんだ?」


「さあ? 初め見つけた時は、ほんと最近だぞ? けどこないだの勇者召喚見学しに行った時より前にはいなかった気がするな。俺のおっぱいセンサーが見つけていなかったしな」


「お前のセンサーが腐ってるって可能性は?」


「んなわけねーだろ、神に誓うわ」


「んなもん誓われても神困るだろ」



 話題にしていた銀髪の巨乳女子は、一瞬こちらを見た。そしてギブソンを見つめていたかと思えば、すぐに彼女の元に同じ銀髪の女子が来て、いくつか話してその場から去っていった。ギブソンを見ていた理由はわからない。



「なあ今、アイツ俺のこと見てたよな? もしかして惚れられたか?」


「知らねー。お前が助けた女の子の誰かじゃないのか」


「そんな頻繁に女の子助けてないわ」


「でも勇者召喚の見学しに行った時、王都で暴漢達に襲われてた五芒星のリキュアも、お前助けたんだろ?」


「いやあれはリキュアちゃんの誰も傷つけたく無いって優しい性格が災いしただけで、俺がいなくても……」



 なんなく倒していた、と答えようとして押し止まる。五芒星と呼ばれるリキュアちゃんなら簡単に倒せただろうが、あそこで戦わない選択をしたのはリキュアちゃんの決めた事。その揺るがない決意は“自分”と呼べる物ではないのか。

 答えようとした事は自分の目標を違わせる間違った答えだと思い直し、やり直す。



「そうだな。あのままだったらリキュアちゃんは大怪我を負っていたかも知れないから、軍や騎士団の助けが間に合わなくなるよりも先に、俺が助けに入れて良かったよ」


「ふん、お人好し」



 そのあと訓練を始めた頃には、自分の目標を見つめ直したから意識が逸れたからだろうか、いつのまにか、銀髪巨乳の名も知らない女子生徒の事は忘れていた。


———ギブソン・ゼットロック視点終了。

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