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二人の天才

 学園長が提案したのは軍施設に入った所でたまたま出会ったフライヤーとライトニング、そして彼女らの副官が俺の護衛として王都まで送る事だった。

 その学園長は提案した後に電話が来て、俺たちに王都へ行くよう言い残してからそのまま席を外した。後のことは2人の軍人に任せて。



「なんで“七階級”のアタシがこんな事しなきゃいけないのよ」



 用意された軍の大型車の屋根に乗った銀髪赤鎧のライトニングは、面倒くさそうに寝っ転がりぶつくさと文句を垂れる。



「仕方ないでしょう。学園長からの依頼だもの。無闇矢鱈に首を突っ込んだ貴女の節操のなさを恨むことね」



 車に色々と荷物を乗せて行く金髪黒鎧のフライヤーは、そんなライトニングを諌める。荷物として車の中に入って行くのは剣であった。あまりの物々しさにちょっと緊張する。



「ところでさー、ソニア」



 フライヤーの反対側で剣が車の中に入れられて行くのを眺めていたら、上から名前を呼ばれた。見上げるとライトニングの甲冑を纏った足が見える。



「なんですか?」


「アンタ何しに王都に行くの? 家族とかいんの?」


「……ちょっとある人物に用事が」


「その人物とは———」



 不意にフライヤーの声が差し込まれて、そちらを見ると車の窓を挟んで反対側から真剣な表情のフライヤーがこちらを見つめていた。




「———朝倉颯太、と言う事でよろしいでしょうか」


「⁉︎」



 突然出た名前に俺は驚く。

 確かにその通りだが学園長も俺もその事には言及していなかった。朝倉颯太に用事があると言っていないのに、なぜフライヤーは一発でそれを言い当てたのか。

 会ってからずっと俺のことを見ているのも気になる。

 妙な緊迫感に、窓向こうのフライヤーが怪しく見えて来た。



「それって今代の勇者だよねー、そんな相手にアンタが何のようなの?」



 するとその空気感を知ってか知らずかライトニングの呑気な声が聞こえた。見上げるもこちらを見ておらず顔は見えない。



「……ちょっと言いにくい事なので、控えさせてください」


「はあ~? まあいいけど」


「ライトニング上官、荷物運び終わりました」


「おわりました」



 ライトニングの副官の2人の少女。どちらも黒白のツートンカラーの髪色をしていて、顔も似ている。違うのはツノ飾りを付けているか、ツノが生えているか。



「おっけ~、そんじゃ行くかね。ちゃっちゃと終わらせよう」



 俺のそばに降りて来たライトニングは、手を伸ばして来て俺の首根っこを掴んで持ち上げた。



「えっ、ちょ⁉︎」


「アンタは後部座席ね」



 車の後ろの席に放り込まれて、その後すぐにライトニングの副官の1人も投げ込まれて来た。起き上がると隣にツノが生えた女の子が静かに座っている。

 前の座席にライトニングともう1人の副官が乗り込み、一番前には運転席にフライヤー、助手席にフライヤーの副官が乗り込んだ。



「よろしくね」


「あ、はい」



 ツノの生えた副官からにこやかに握手を求められたので、握手した。

 そして出発。

 夕日が沈みそうだ。学園から王都まで一本道。途中で()()()()()()()()()()()()とすれ違った。通り過ぎる一瞬だったのでソニアの体の動体視力では乗っている人物がわからなかった。

 バイクも気になったが、何もすることがなく手持ち無沙汰だったので隣と話すことにした。



「あの、あなたはライトニングさんの副官なんですよね?」


「そうだよ。オシラーゼっていうの、よろしくね」


「あ、はい」



 もう一度握手を求めて来たので握手する。



「ライトニングお姉ちゃんはガサツだけどいい人だから心配しないで」


「余計なのよ」



 前からライトニングの腕が伸びて来てオシラーゼの額をデコピンした。

 全然効いてないように平然として、オシラーゼはもう1人の方を紹介する。



「あっちは私のお姉ちゃん、オシリン」


「どーも」



 ぶっきらぼうに挨拶された。



「それで一番前にいるのがフライヤーと、アキツ」


「アキツ?」


「アキツは海の向こうからやってきた人」



 それだけだとよく分からなかった。オシリンがため息を吐きつつ、説明してくれる。



「アキツ・セイレイ。属国陽舟島(ひぶねじま)から流れ着いたアラクレ上がりの流浪者よ」


「アラクレ?」


「アラクレはアラクレよ」


「アラクレとは暴力を振るって欲を満たす犯罪者たちのことよ」



 アラクレが何なのかこの世界に詳しくない俺はわからなかった。俺が分からなかった事を、運転しているフライヤーがぶっきらぼうに教えてくれた。

 さらに。



「そうだ、あなた“七階級”の意味知ってるかしら」


「いえ」


「はあ⁉︎ 知らないってどう言うこと⁉︎」



 フライヤーから聞かれた“七階級”と言うのが分からなかったから正直に答えたが、ライトニングにツッコまれた。オシリンもオシラーゼもアキツもこちらに視線を向けてくる。

 この世界の常識を知らないため仕方ないのだが、俺は今この世界に住んでいるソニアという女の子の姿をしている。他からすればおかしいと思われる。



(しまった)


「分かった説明するわ」


「え?」



 しかしフライヤーだけは動揺せずクールで、さらには説明までしてくれるようだ。



(まさかフライヤーは俺の正体に気づいている?)


「私たち陸軍には七つの階級があるの。上から銀河(ギャラクシー)星団(クラスター)星雲(ネブラ)星座(サイン)星空(スカイ)夜空(ナイト)、そして曇空(クラウド)。私とライトニングは七階級のクラウド」



 海軍はまた別の呼び方と階級があるけど、と付け加えるフライヤー。

 しかし俺はそれどころではない。なんでフライヤーは俺の正体に気づいたんだ?



「この歳で階級を貰うのは凄いことなのよ。私とライトニングは軍学校で優秀成績を残したからこうして階級を貰ってるの」


「自慢してどーすんの……つーかマジで知らないってどう言う事だよ。フライヤー、アンタはなんか知ってんの? コイツのこと」


「顔を合わせたのは初めてね」


「けどそれ以前に情報を得るタイミングと、アンタが注目するほどの重要性を見出していたってこと。ふぅーん」



 ライトニングからも怪しまれ始めた。彼女が怪しむ視線を向けると副官2人も一緒に俺に意識を集中させる。隣からも前からも穴が開くほど視線が突き刺さる。



(視線が痛い……しかし、なんでフライヤーは俺の事情を知っている風なんだ? 本当に知っているとしたら、どうしてその事を知れた?)



 ……まさか入れ替わりを引き起こした関係者、なのか?

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