学園長の提案
———これは【最強】がソニアの乗った車を目撃するよりも前の話。
「東の方角。学園からほど近く縦長の建物があるのが見えるかの」
部屋で王都に行く事を学園長に伝えると、彼は妙案を思いついたようで俺を寮から外に連れ出した。そして東の方角を指差す。見れば確かに外壁が七宝柄の建物が見えた。
「あれは?」
「勇者学園の安全を守るため設立された駐屯施設じゃ。中には軍人がおって、彼らに協力してもらおう」
「え? でもオレは勇者蹴りで評判が悪いって……」
「学園長からの依頼、という形なら彼らも文句は言えまい。さあ行こう」
学園の敷地から出て、駐屯地である建物の中へと案内された。
中は閑散としていて無機質。そこらを軍服を着た人たちがいる。厳しい雰囲気がして身が引き締まる。
そして学園長は入り口から入ってすぐの受付の方で、係の人に話をつけた。
「なんて言ったんですか?」
「王都に行きたい学生がいるから、護衛を頼みたいと」
「それで来てくれるんでしょうか」
「心配せずとも良い」
少しして2人の軍人が現れた。軍服を着た恰幅のいい男性2人だった。
「あの、ご依頼との事でしたが」
「うむ、この子を王都まで護衛してもらおうと思ったのじゃが……いや、男2人は何かとまずいかもな。誰か女性はいないかの」
「えーと、とりあえずなぜ行くのかの詳細を……」
男性2人は事情説明を求めた。
「待って」
すると彼らの質問を遮るように、凛とした女の子の声が聞こえた。大きな声ではなかったがしっかりと耳に届いた。
声のした方を見ると上半身に黒い西洋鎧を着て、下半身は足が隠れるほど長くて外に広がるドレススカート纏った、金髪ショートヘアーの女の子が歩いて来ていた。歳や格好からは想像つきにくいが、凛々しい表情はまさに軍人と言った感じの子だった。
(ん? 見つめられてる?)
彼女は歩いてくる間ずっと俺を見つめていた。
金髪黒鎧の女の子の後ろには縦長の青色の服と長ズボンを着た長身の女の子もいて、引き連れていた。
応対してくれていた男性2人は彼女を見て驚いた表情をする。
「ドラゴンフライ殿! どうして」
「ここは我々に任せて……」
「いいえその子は私が面倒を見るわ」
ドラゴンフライと呼ばれた彼女は、俺の方をジッと見つめている。全然目を離さない。
そんな彼女に大人の男性2人はタジタジだった。歳は離れていそうなのに、こんなに動揺していると言う事は彼女は階級が上の人なのか。
「確かフライヤー・ドラゴンフライ君だったね、君は」
学園長は彼女と面識があるのか、名前を言う。フライヤーと言う名前なのか。
「この子、ソニア・ブラックパンツァーと言うんだが彼女がどうしても王都に行きたいという事なのでね。どう言う子かは分かっているだろう?」
「ええ、わかってます……勇者蹴りですよね」
「ああ、無闇に勇者が沢山いる場所に連れていくのは不味くて、だからこうしてあなた方に依頼した形じゃ」
「そうですか」
フライヤーはずっと俺を見ている。俺に何かあるのか?
と、不意に初めて視線が外された。フライヤーは振り返ってある一点を見る。俺も視線を追いかけてフライヤーの後ろを見てみると、そこには赤い鬼がいた。
(赤い鬼? いや鎧が全身赤で、頭の甲冑にツノ飾りがあったから鬼だと錯覚した)
実際は銀髪をした、フライヤーと同い歳くらいの女の子だった。フライヤーが黒鎧で金髪なら、あっちは赤鎧で銀髪といった対比が見てとれた。
「よおー! 何してんだ?」
新しく現れた子は快活にフライヤーに話しかけていた。離れていたがしっかりと声が通る。
声をかけられたフライヤーは依然としてクールだ。
「別に、あなたには関係ありません」
「軍に来た依頼なら関係あるだろー、なあ、なんの頼みなんだ? 学園長の爺さん」
「ライトニング、失礼ですよ」
「うっさいなぁ」
ライトニングと呼ばれた銀髪赤鎧の女の子は、フライヤーからの指摘に面倒くさそうにため息をついた。
「お、そうじゃ」
ライトニングの後ろから黒と白のツートンカラーをした髪の女の子が2人やって来ているのが見えた所で、学園長がまた何かを思いついたようだ。
俺と、フライヤーと、ライトニングは学園長の方を向く。
「フライヤー・ドラゴンフライ君と、ライトニング・ファイアフライ君。君らにブラックパンツァー君の護衛を任せよう」