最強
五芒星最強の男。彼はCクラスの競技に際して学園長から休校を言い渡されたのを機に、王都の方へとバイクを走らせていた。
新品のバイクに跨り、フルフェイスヘルメットを被っていてもわかる気持ちのいい風を一身に浴びていい気分だった。
「そろそろCクラスの競技も終わる頃か」
夕日が落ち始めている。
ガーリックが出ていればガーリックが優勝してるだろうな、しかしそんな気がさらさら無い事もわかっているから、一体誰が優勝したのかと彼は内心気になっていた。
(もしかしてソニア・ブラックパンツァーが優勝していたりしてな)
そう思った自分を内心笑い飛ばす。ガーリック、オトロゴン、サンタンクと揃っているのだから、ポッと出のソニアが勝てるわけがない。そう心の中の考えを訂正しながらも、何でソニアが勝つと思ったのか自分でも疑問だった。
と、その時、対向車線を通る一台の多人数用大型車が見えた。
(……学園の方からバンが? 誰が乗ってるんだ?)
学園からこんな大型の車が出てくるのは珍しい。通るとしても物流のためのトラックが王都方面に戻るために通る程度だ。
なら誰が乗っているのか。彼の中の予想では軍人の線が有力だった。
そして通り抜け様に窓の外から中を見ると、中には6人乗っていて、そのうち見知った顔が5人いた。
(あの5人、若手の軍人だ。学園の駐屯地に所属してる歳の近い……あともう1人は)
その1人は、ソニアだった。
通り抜け様に確認した【最強】は道路の脇に移って停車する。そして王都に向かって、すでに小さくなっていくバンを見る。
着ていた軍服のポケットから『フラン』を取り出して、ある所に電話する。相手は同学年でCクラスのミカライト。
『あらァ、どうしたの? バイクはもういいのォ?』
「帰りだ。それよりお前ブラックパンツァーがどこ行ったかわかるか?」
『どこ行った? いえ、特に動向を常に監視していたわけじゃないからァ……何かあったのォ?』
「いやいい」
『なによォ、詳しくは話してくれないのォ?』
「帰ったらな」
通話を切る。
そして少し考えてから、学園の方にバイクを向けた。
瞬間学園の方から凄い勢いで走ってくる一人の老人が見えた。学園長だ。
「あ? 学園長?」
「!」
焦った顔の学園長は【最強】の姿を見つけると立ち止まった。そして何も言わずに見つめたかと思うと、学園の方に踵を返した。
「任せる!」
そう言い残して。
【最強】は学園長の焦りがなんなのか分からなかったが、何を任されたのかは理解した。バイクを持ち上げて王都側へと向け、来た道を戻っていく。
「へっ、面白くなって来たじゃねーか! いくぞドラゴンフルーツ!」
波乱の予感をヒシヒシと感じ、愛車ドラゴンフルーツを駆る。